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第八十話 天界脱出






 無事に『神王の指輪』を奪い取り、目的を達成した3人は神王のを後にした。


 ふと振り返り、ピカロが尋ねる。



「あれ、イデアさん、どうする?」

「ほっとけ。所詮はモブキャラだ」

「ひど! え、序盤から登場して、あんなに活躍したヒロイン候補だぞ。もうちょっと掘り下げても……」

「イデアさんが救われるルートはない。ヘルナイズは死んだし」

「はぁ、結局セックスもできないし、何のためのキャラだったんだイデアさんって」

「まぁ、ラスボス的な立ち位置だな」

「何でラスボスを倒したのが私じゃなくてノッチなんだ!」

「神王国を取り戻すって目的でここまで来たノッチに活躍の場を与えないと可哀想だろ」

「……まぁいいけどね。しかしイデアさん、非処女になってたな」

「どうしてわかるんだ?」

「ん、匂い」

「こっわ」

「ヘルナイズの野郎、アーバルデンの弟ってことは800歳を超えてるわけだろ? それなのにイデアさんとセックスするとか……」

「ロリコンだな」

「いやロリコンじゃないけど、羨ましい」

「ロリコンだろ。実際、イデアさんの見た目は15歳の時のままだし」

「いや、容姿は関係ないだろ。そもそもな、子供っぽい見た目の女に欲情することの何が悪いんだ」

「いや、そりゃもう、未成年を性的な目で見てるわけだし」

「いやあのな、なぜ大人が未成年に手を出しちゃいけないか──それは、未成年の判断能力が十分じゃないからだ。若いから、悪い大人と性行為に及ぶことのリスクを理解していない。自分の将来に、暗雲が立ち込める危険性をわかってないんだよ」

「まぁ、だからこそ、未成年は犯罪を犯しても『少年法』という特別な法律で守られてるもんな」

「つまり、未成年とセックスしてはいけない理由は、その未成年には判断力が足りていないからであって、決して幼い見た目をしているからではないんだ」

「まぁ、うーん」

「じゃあ、小学生みたいな成人女性に欲情してはいけないのか? 子供体型の女性は、いつまでも守られるべきだと思うか?」

「いや、成人してたら、セックスしてもいいはず」

「そうだろ。つまり見た目は関係ない。私たちは、“成長過程の身体”に興奮しているだけで、“判断能力に乏しい未成年”に興奮してるわけじゃない! 女児型のラブドールを買うのも、ロリキャラでシコるのも、その幼い“見た目”を重視してるんだ!」

「……確かに、子供体型に興奮することを社会が禁じたら、子供体型の女性たちが可哀想だもんな。見た目に興奮するだけなら、許されてもいいかもしれない」

「これって女には伝わらないよな。私はロリの容姿に欲情してるだけで、未成年であることには欲情していない」

「誰にも伝わらねぇよ」

「だからまぁ、ヘルナイズも悪くない。幼い見た目がタイプだったんだろ」

「クールぶってたのが悪い」

「それはそう」



 結局、イデアについては放置することにした。


 本当の意味で、ヘルナイズを愛していたイデアにとって、ヘルナイズが死んだ今、生きる意味など見出せないだろう。


 絶望の底にいるイデアを、そこまで追い詰めた側のピカロが救おうだなんて、虫が良すぎる。


 2人は振り返らない──結局、モブキャラには興味がないらしい。


 ──瓦礫の山をかき分けて進む中、逃げるように、やたら急ぎ足のノッチに、ピカロが話しかけた。



「さて、ノッチ。ずーっと黙ってるけど、遂に私たちは結婚したんだよな」

「そ、そうね。セレモニーなんてどうかしら? 新たな神王の誕生を祝うパーティーをしましょ?」

「いやいや、セックスしようよ」

「まずはめちゃくちゃにしてしまった天界を、元の姿に戻さなきゃ! 革命派は死んで、今日から本当の神王国がまた始まるのだと、国民に知らせなきゃ!」

「そんなの、セックスしながらでもできるじゃん」

「いやできないでしょ」

「パコパコはめながら、街中を歩き回ればいい。私たちが新たな天界のリーダーですよって言いながら」

「また革命を起こされるわよそんなの」



 もうセックスしか頭にないピカロから距離を取るノッチ。シェルムを中心にグルグル回る2人。


 ピカロの髪を引っ張ったシェルムが問う。



「んで、結局ピカロはどうすんの? もうノッチで童貞卒業するの? 今すぐ人間界に降りてサキュバスと再会するの?」

「ノッチのケツの穴に頭を入れて、ふぅー! って空気を吐けば、ノッチが風船みたいに膨らむじゃん? ぷかぷか浮かぶ風船ノッチをちんぽで突き刺してパァン!」

「もう会話が成立してない」

「そ、そうよ! サキュバス! あんた、サキュバスと再会するために、無能貴族になったり、魔王を倒したり、天界に来たりしたんでしょ? だったら急いで人間界に降りないと!」

「……いいや、もはや前提が変わっているのだよ」



 カッコいいポーズで目を閉じるピカロ。


 とりあえず話を聞くことにした2人は、次の言葉を待った。



「例えば電車の中。あるいは、教室の中。見渡すと、沢山の女性が同じ空間にいる時ってあるだろう?」

「うん」

「そしたらさ、スゥーっと、女の身体が透けてきて、ヴァギナだけがクッキリと浮かび上がるでしょう?」

「そんなことないです」

「でその、浮かび上がったヴァギナの群れを見てるとさ、これを全部ベェロベロに舐め回していいじゃーん? て、思うでしょう?」

「思いません」

「でもそれって、犯罪なのよ」

「犯罪です」

「これってすごく悲しい。私の周りには、こんなにも沢山の女がいて、手の届く距離にヴァギナがあるのに、触るのも舐めるのもダメ」

「当たり前です」

「世界人口のおよそ半分が女性──つまり、この世界には35億人くらいの女性がいる。35億のヴァギナがある。それなのに、童貞は沢山いる。おかしいと思わないか?」

「おかしくはないだろ」

「街中を歩いていて、ふと思う。こんなに街には女性が溢れているのに、誰一人として、私とセックスしてくれないのって意味がわからない」

「何でお前とセックスしなきゃいけないんだよ」

「つまり、どれだけ沢山の女性がいても、童貞はいつまでも童貞。セックスできない男は、できない環境にいる男……チャンスは巡ってこない」

「何を言いたいんだ?」

「今の私は違うということだ。前提が、違う。私はもう、セックスができない環境にはいない。ノッチと結婚したからだ。肉便器を手に入れたからだ」

「結婚するとは言ったけど、そんな扱いを受けるとは言ってないわ」

「えー、“言いました”」

「言ってないわよ!」

「もう既に私は、いつでもセックスができるという、選ばれし人間なんだ。選ばれし環境にいるんだ。そんな私が、今更サキュバスに固執するわけがないだろう」



 開き直るピカロ。


 困ったノッチの視線を受けて、シェルムは仕方なく説得することに。



「下手だなぁ、ピカロ君。下手っぴさ」

「班長!?」

「お前は、セックスを愛して、セックスのためだけに生きた男だろ! 童貞卒業できれば、誰だっていいだなんて、そんなの美しくない!」

「な、なんだと」

「初めてのセックスにこだわらないで、一体どこにこだわりを見せるというんだ!」

「せっかくのチャンスなんだ! せっかく、いつでもノッチとセックスできるのに!」

「しかし同時に、いつでもサキュバスとセックスできる環境でもある! 人間界に降りれば!」

「……で、でも」

「どちらを選ぶ!? ノッチと、サキュバス!」

「ノッチ!」

「きゃあ触らないで!」

「サキュバスを選ばんかいボケ!」



 錯綜する暴力。ビンタの嵐。


 どうしても話を聞かないピカロにはもう、色仕掛けしかない。


 ノッチは上着の胸元をパタパタあおぎながら、上目遣いでピカロにすり寄る。



「あのね、ピカロ──いえ、あなた」

「あ、な、た!?」

「あたし様……あなたと、そういうことしてもいいんだけど……でも、これからの天界を、女王として治めなきゃいけなくて」

「そ、そんなのセックスしてからでもできる!」

「できないわ。だって──」



 ピカロの頬を撫で、耳元で囁く。



「あなたに夢中になってしまったら、もう一日中、繋がっていないと満足できなくなっちゃうもの」

「一日中!?」



 膝が震えるピカロ。痛いほどの勃起に苦しむように、片膝をついた。


 その頭をふんわりと包み込むノッチの胸。生まれて初めての感覚に、目がチカチカし始める。



「だから、もう少しだけ待って? それまでは、何をしてもいいから……サキュバスと何をしても、誰と何をしても。最後にはあたし様と、永遠に」

「え、永遠に……」

「繋がっていましょう?」

「びゅるるる」



 撃沈。一年中、毎日、朝から晩までノッチとやりまくる想像をしたら立ち上がることさえできなくなった。


 気怠げなノッチが、シェルムに向き直る。



「さぁ、人間界に降りましょう」

「……あれ、天界の秩序を元に戻すために、神王国復興を手がけるんじゃないの?」

「もう、いつでも天界に帰って来れるし、人間界に寄り道するくらいの時間はあるわよ」

「……まぁいいけど」



 ノッチの目的は、神王国を取り返すこと。


 そのためにピカロたちと行動を共にして、ここまでやってきた。そしてその結果、革命派を皆殺しにし、『神王の指輪』も手に入れた。


 それなのに、まだピカロとシェルムについて来るつもりらしい。


 嫁だから? 時間的に余裕があるから?


 いずれにせよ不可解ではあるが、別段ノッチがついて来てもデメリットはないため、一緒に人間界に降りることにした。




────✳︎────✳︎────





「ようやくだ、ようやく終わる。僕たちの旅も」

「しかしシェルムよ、“降りる”ってどうするんだ? 人間界へのゲートを魔法で開くのか?」

「さぁ? ノッチ、君はどうやって人間界に来たの?」

「普通に、飛び降りたわよ」



 ノッチの案内で2人が連れてこられたのは、戦闘により崩れた神王城の一角。


 かろうじて部屋としての体裁を保っている空間。その厳重な扉を開けると──



「うわ! え!?」

「……まじか」

「天界は、実際に、人間界の“真上”に位置してるわ。 だから、穴から飛び降りるだけ」



 部屋の中央、3人の眼前には、雲海を見下ろす大穴。


 吹き荒ぶ冷たい風が、背筋を撫でて煽る──底知れぬ恐怖を。



「天界にはいくつも穴があって……もちろん、神王城にもある。誰でも入れるわけじゃないけどね」

「と、飛び降りるって、パラシュートとかは?」

「パラ……なにそれ?」

「生身?」

「当たり前でしょ。魔法で着地すればいいだけよ」



 ちなみに、800年前には、ニクス・ミストハルトが天界から飛び降りて、魔法を使わずに着地を試みたこともあったが、その時にはたまたま着地点に家があり、屋根と人を下敷きにすることで一命を取り留めた。


 それはひとえにニクスの頑丈さを物語るエピソードではあるが、普通の天界人なら、風魔法でも重力制御魔法でも使ってうまく着地するだろう。



「さ、行きましょう」

「え、おいノッチ! おい!」

「……僕らも行くぞ」

「まじかよ! これはさすがに怖い!」

「いちにの、さん!」



 躊躇なく飛び降りたノッチに続き、シェルムも飛び降りる。腕を引かれ体勢を崩したピカロも、あえなく落下した。


 ──冷気が肌を裂く。


 生身でのスカイダイビング──暴れもがくピカロ。しかし加速は収まらず、やがて自然落下の最高速度に。



「ふははは! あの、テリーマンの靴紐が切れた後に空から降ってくる悪魔超人の気分だ!」

「伝わらないだろそれ」

「あのー、あれな。キン肉マンを高く胴上げし過ぎて、宇宙にある超人ホイホイのボタン押しちゃってなぁ」

「落下してるのが怖いからってキン肉マンのネタで誤魔化すな」



 やがて、光り輝く神秘の大木『世界樹』が遠くに見えてきて、そちらへ向かって落ちていく。


 風魔法での方向転換。少しずつ見えてきた懐かしい地形に、人間界に帰ってこれたことを実感していると……。



「ん? あれ、ちょっと待って」

「どうしたシェルム! 着地か? 着地なのか!?」

「いやまだ──っていうか、様子がおかしくない?」



 現実のスカイダイビングなら、とっくにパラシュートを開いているであろう高度から見下ろすアルド王国には、懐かしさとかけ離れた違和感があった。


 王都に直接降りようとした3人だったが、着地の体勢に入る頃にははっきりと気付く。



「王都が、ボロボロじゃんか」



 見るも無残な廃墟と化した王都。建物は崩れ、石畳の道は捲れ上がっていた。


 大規模な戦闘の跡にも見えるし、何か大きな自然災害に襲われたようにも見える。


 そしてなによりも気になるのが。



「だ、誰もいない……」



 熱いほどの喧騒は、見る影もなく、消失していた。


 少なくとも上空からは誰一人として確認できない。


 とりあえず広場に着地する3人。逆方向の風魔法での減速──砂埃が舞う。


 パラパラと落ちる砂の音まで聞こえる静寂。日夜騒がしかった街の姿が、幻となって目に浮かぶが、すぐに消える。


 今にも崩壊しそうな建物の中からも、人の気配はしない。


 思い出の地は、荒れ果てていた。



「アルド王国が──壊滅してる」



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