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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第五章 無能貴族編
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第六十六話 魔界到着




「コメディータイム!」

「そんな時間ないです」

「おいシェルム!」

「なんだよ」

「ようやく、第0話、プロローグまで帰ってきたわけだけれども」

「ようやくだな」

「なんか、微妙に雰囲気が違うというか、口調とか、違和感凄くない?」

「そりゃ半年以上前に書いた文章だからな」

「さすがに修正したんだけど、ヴァーン・ブロッサムの口調とか全然違かったわ」

「第0話なんてどうでもいいんだよピカロ。それよりさ、僕たちの努力が水の泡と化した重大なミスがあるんだけど」

「あ? ミス? うるせぇなぁ。素人の書いてる小説にミスは付きモンだろうが」

「僕らが苦労して集めた『黄金殻おうごんかくの鎧』と、『月龍麟げつりゅうりんの盾』が、魔族との大戦に使われてないんだけど……」

「……いや、まさかぁ」

「本当に使われてない。聖剣アルドレイドは、ジンラ大帝国のガイ王子に使われて、真魔王ディー討伐に役立ってるというのに」

「ていうかアレは? テイラス共和国から盗んできた『世界樹の杖』は?」

「あれはね、スノウ・アネイビス学園長が、国王城を防御魔法で囲い続けるのに使ってる」

「あ、そうなんだ」

「でも黄金殻の鎧なんて、僕ら10年かけて手に入れた伝説級アイテムなのに……誰も使ってない……」

「だったら、アルド王国のノア王子に着せればよかっただろ」

「そのノア王子を、魔王化したお前がペシャンコにするわけだから、そうすると黄金殻の鎧、弱くね? って思われちゃう」

「黄金殻の鎧が弱いんじゃなくて、私が強いんだぁー!」

「月龍麟の盾も同じで、負けが確定してるキャラには持たせたくないじゃん」

「じゃあ、ヴァーンに持たせろよ! あいつアーバルデンを追い返してただろ!」

「あのシーンも、人間の到達点が最上級魔族と渡り合った、という演出だから、伝説級アイテムには頼りたくないんだよ」

「じゃあ最初から私かシェルムが装備してりゃあいいだろ!」

「金ピカの鎧とデッケェ盾を持った総指揮官とか意味不明だろうが!」

「うるせぇ黙れ! 私たちの努力を返せ作者!」

「そうだそうだ! 上手いこと物語に絡めることができなかったのは作者の実力不足だろうが!」

『黙れ死ねカスども!』

「作者こっわ」

『黄金殻の鎧は、10年かけて手に入れたのに使わないんかーい! っていうギャグなんだよ!』

「……じゃあ月龍麟の盾は?」

『…………うるせぇ! こっちだってなぁ、色々と悩んでるんだよ! この作品のジャンルはハイファンタジーじゃなくてコメディーの方が良いのかなぁとか。どうして各話のタイトルを漢字4文字縛りにしちゃったのかなぁとか。6000字で隔日投稿より、3000字で毎日投稿の方が良いのかなぁとか!』

「それとこれとは関係ないだろ」

『コメディータイム終了!』

「あ、逃げたぞ!」



 止まっていた時は動き出す。




────✳︎────✳︎────




 国王城の地下から続く長い一本道を歩く。


 先頭はヴァーン・ブロッサムとノチノチ・ウラギル。ヴァーンが掴んでいる縄の先には、罪人の手枷。


 魔法を封じる特別な手錠を掛けられたピカロとシェルムが、先頭の2人の後ろをついて行く形だ。


 そのさらに後ろには、ピカロとシェルムがちゃんと魔界送りにされたかどうかを確認するための、国王城の役人。



「……ノッチ、わざわざ処刑の場所にまで来なくてもよかったんだぞ?」



 ヴァーンが、並び歩くノッチにそう言うと、ノッチは冷たい視線を向ける。



「団長は、この2人の大罪人が今からでも逃亡を図った時、それを防ぐことができる自信がありますか?」

「魔法を封じているからな。俺なら止められる」

「自分ならできる……そう思って『魔皇帝』アーバルデンと対峙して、結局は逃げられてしまったではないですか」

「……そうだな」

「もちろん、アーバルデンを待ち伏せしていたのに皆殺しにされた私たちの弱さが悪かったんですけど──」

「そんなことはない!」



 つい語気を強めてしまい、ヴァーンは咳払いで誤魔化す。


 ノッチが悲観的になっているのも、目の前で仲間の団員たちがアーバルデンに殺される光景を目の当たりにしてしまったせいだと考えたヴァーンは、その心の傷に触れぬよう、優しく訂正した。



「……アンサイアの作戦は、あの切迫した状況において最善のものだった。そしてノッチ、お前を含め、王国立騎士団は俺が選び抜いた少数精鋭の、心の底から信頼できる強い仲間たちだったんだ。ただ、アーバルデンが俺たち人間の枠を超えていたという、それだけの話なんだよ」



 まさかこのノッチが、副団長アンサイア・リーゲルトや、駆けつけた仲間たちを全員暗殺した裏切り者だとは知らないヴァーンは、気遣うように語りかけた。


 ノッチは少し俯いて、口を閉ざす。


 一部始終を見ていた後ろの2人は、笑いを堪えていた。



(普段の一人称は“あたし様”なのに、王国立騎士団では敬語だし一人称が“私”になってるんだな)

(まぁ、騎士団の信頼を勝ち取る演技としては、上等だろ)

(……っていうかシェルム。この会話、どうやってしてるんだ?)

(テレパシーに決まってるだろ)

(はい止め止め。ダメですそんなの)



 ノッチことノチノチ・ウラギルは、どうやら天界に行きたい(本人曰く“帰りたい”)らしく、しかし人間界から天界へ直接行く方法がないため、魔界を経由する計画を立てていた。


 そこにちょうど、同じく魔界を目指すピカロとシェルムに出会い、今回の『無能貴族作戦』に参加することに。


 ノッチの作戦は、王の矛であり盾である王国立騎士団に入り、そこで頭角をあらわして信頼を勝ち取り、最終的に魔界送りの刑の際、大罪人を監視する役割を担う、という流れ。


 代々、国王のためだけに活動してきた王国立騎士団の信頼は凄まじく、魔界送りのような重大な国事の際には必ず騎士団員が立ち会う。


 ただ、少数精鋭とは言え10人以上いる団員が、全員で立ち会うわけにもいかないので、基本的には団長であるヴァーンのみという形になる──しかし、団員が1人を残し皆殺しされたとなれば話は別だ。


 ヴァーンと、もう1人くらい付き添いがいても構わないだろうが、そのもう1人は誰が選ばれるかわからない。ゆえにノッチは確実性を求めて仲間たちを殺した。


 さらに言えば、騎士団壊滅の原因を作り出した……という濡れ衣を着せられているピカロとシェルムに、団員の生き残りが恨みを持っていて、2人の大罪人が処刑されるところを見届けたいと主張するというシナリオは、そこまで突飛ではない。


 現にノッチは、ピカロとシェルムの処刑を確実なものにしたい、ということでヴァーンと共にここにいるのだから。


 そしてもちろん本当の目的は、2人に便乗してノッチも魔界に行くことだ。



「かつて魔界送りの刑に処された人間は、数えるほどしかいない」



 薄暗い道に、ヴァーンの声が反響する。



「無差別殺人犯、国家反逆者……そんなどうしようもない奴らを、人間界から追い出してきたんだ。そして君たちも、その悪しき歴史に名を刻むことになる」



 やがて立ち止まると、行き止まり──古びた扉が現れた。


 解錠魔法の音が木霊し、扉が軋みながら隙間を生み出す。その隙間から、少しだけ光が溢れ出ていて──



「そんな君たちが最後に拝む景色は、皮肉にも……人間界で最も美しい景色だ」



 ヴァーンが扉を開くと、暗い道に雪崩れ込むように漏れ出てきた光の粒が、全員を包み込んだ。


 そこは、水の中だった。


 透き通った水の中に、透明な道。そしてその先には。



「──『世界樹』」



 光を放ち、聳え立つのは人智を超えた神の大樹。


 人間に魔力を与え、進化を促した革命の木。


 無数に伸びる根が、水の中に張り巡らされ、それぞれが眩い光彩を孕んでいた。



「世界樹は無限に湧き出る水に浸かっている。それは川となり俺たち人間の生活を支えてくれる」



 世界樹を中心として、囲うように建国された4大国。いずれの国にも海はなく、世界樹の根元から流れ出る恵の川を生活用水として利用してきた。


 かつて、魔族が出現する前の人間界では、広い海に隣接した国々もあっただろうが……やがて魔族たちから逃げるように集まった人間たちは、世界樹に縋りつく他なかったのだ。


 そんな人々に水と魔力を与え、命を育ててきた人類の親。



「一体いつから存在するのか、何のためにあるのか……神秘のヴェールに隠された真実には、誰の手も届いていない」



 水の中で交差する木の根の間を縫うように進む。透明な管のような道を歩いた。


 やがて世界樹の根元に辿り着くと、そこには大きな球体が浮かんでいて、薄紫の粒子が渦巻くそれを指差してヴァーンが振り向いた。



「これが、魔界への入り口だ」



 世界各地で発見されている“魔界から人間界への入り口”と同じように、邪悪な負の魔力を感じさせる球体。


 見つめているだけで吸い込まれてしまいそうな漆黒が、本能的な不安を煽る。



「なぜ魔界と人間界を繋ぐゲートが、世界樹の根元に存在するのか……この場所はどういう原理で存在しているのか。俺たち人間には何もわからない」



 雄大な大樹を見上げ、ヴァーンは眩しそうに目を細めた。



「ただ、代々王族に語り継がれている伝承によれば、これは──“願い”だと言われているらしい」



 願い──誰の、何に対する、どんな願いなのか。


 矮小な人間たちには、想像することもできない。



「……さて、そろそろ時間だ。ピカロ君、シェルム君、覚悟はいいか?」

「ああ」

「はい」



 まだ少し、ヴァーンの中にも葛藤はある。


 アルド王国全体の失態を、この2人にだけ背負わせる愚かさ……ヴァーンの中の良心と正義感に傷がつく。


 しかし、地下牢でピカロが魔界送りを受け入れていると語ったのを聞いているヴァーンとしては、本人の意思を尊重するしかない。


 さらに言えば、ピカロとシェルムが魔界送りにされたのかを監視、確認する国王城の役人もいる。今更どうにもできないのだ。


 だからむしろ、覚悟を決めるのはヴァーンの方であり、それはヴァーン自身が一番わかっていた。



「さぁ、終わらせよう」



 球体に近づくことを促され、2人はゆっくりと前へ進む。


 一歩踏み出したピカロが、おもむろに振り返った。



「ヴァーン。色々と世話になった。よく父さんも、家ではヴァーンの話をしてたし、父さんの人生においても大切な人でいてくれて、ありがとう」

「……俺も、ニクス様に救われてよかったと思っている」

「ふふ、それなら父さんも喜ぶはずだ」



 深呼吸の後、ピカロは覚悟を決めたように、球体に手を伸ばす。



「よし。行ってく──」

「どーん」

「ちょ、おいシェルムお前、こらぁッ!」



 後ろにいたシェルムに体当たりされ、ピカロは頭から球体に突っ込んでいった。


 すると、ピカロの身体はまるで液体のように輪郭を無くし、凄まじい勢いで球体の中心へと吸い込まれていく。


 ヴァーンが寄越す驚愕の視線を受け止め、愉快そうに笑うシェルム。



「じゃ、僕も行ってきまーす」



 シェルムの両手が球体に触れると、ピカロと同様に、シェルムも一瞬で吸い込まれていった。


 最後の最後までふざけた2人組に翻弄されつつ、あの2人らしいなと苦笑いするヴァーン。後ろにいた国王城の役人は、開いた口が塞がらないようだ。


 少しの静寂の後、ヴァーンはきびすを返し、来た道を戻り始める。


 そして、何故か立ち止まっているノッチに気がついた。



「……どうした、ノッチ」

「人間ごときに媚び諂う日々は、辛く苦しいものだったけれど……」



 肩の荷が下りたかのように、清々しい表情で破顔した。



「まぁ少しだけ、楽しかったわ、団長」

「ノッチ……?」

「さようなら」



 ノッチは振り返り、球体に触れた。


 咄嗟に手を伸ばすヴァーンの目の前で、ノッチもまた、球体の中へと吸い込まれて消えた。




────✳︎────✳︎────




 捻じ曲がる時空の流れに、引き摺り回されたような感覚が1分ほど続き、ようやくピカロはゲートの出口から飛び出した。


 すぐ目の前が地面で、ピカロは顔から着地。


 ピクピク震えながら立ち上がろうとした刹那、真上からシェルムが落ちてきて潰された。



「痛いな!」

「ふぅ……やたらブヨブヨのクッションがあって助かった」

「クッションじゃねぇ! ピカロ・ミストハルト様だ!」



 見渡すと、そこは広々とした部屋の中だった。


 しかし装飾品も家具も何もなく、ただゲートの出口だけがある空間。


 本当にここが魔界なのかと、色々な考察を巡らせる前に、ピカロの頭上に電球マークが現れた。



「思いついたぞ!」

「何を?」

「この出口からノッチが出てくるってことは、出口の真下で待ち受けてれば、ラッキースケベできるじゃん!」

「ラッキーっていうか意図的なスケベだけどな」

「ノッチが顔から出てくればキスできる。お尻から出てくれば、顔面騎乗だ!」

「じゃあちんぽ出して待ち受けてれば、挿入できるんじゃね?」

「一時期エロ広告でやってた、2階から落ちてきた女の子にちんぽが入っちゃうエロ漫画みたいな展開に!?」



 急いでベルトを外すピカロ。


 小説家になろうのガイドラインを配慮し、直接的な描写は控えるが、とりあえず親指みたいなしょぼいのがボロンと飛び出した。


 その直後、ノッチが出口から降ってきて──



「挿入チャンス!」

「オラぁ!」



 なんと、ノッチはナイフを片手に飛び出してきて、落下の勢いそのままにピカロのちんぽを切断した。


 見事な着地を決めるノッチ。拍手するシェルム。そして噴水のように血を吹き出しながら叫ぶピカロ。



「ぎぃやぁぁああぁッ!?」

「あら、キャッチされたりしたら嫌だから、顔面を切り裂いてやろうと思ってたんだけど……ナイフ持っててよかったわ」

「ぁぁぁあああぁあッ……あ、あぅ」

「あ、死んだ」

「死んだわね」



 ──無能貴族(仮)、完結。



「待てぇい! おいシェルム! ちょ、治癒魔法で治してくれ! 本当に死んじゃう!」

「お前みたいな性犯罪者予備軍は、去勢されてた方が世の為だ」

「今はふざけてる場合じゃねぇんだよ! まじでやばい。意識が遠のいてきた」

「何が悲しくて30過ぎのオッサンのちんぽを魔法で作り出さなきゃならないんだ」

「ほんと気色悪いわね、あんたたち」

「早くしろッッ!」



 治癒魔法の温かな光がピカロのちんぽ切断面を包み込む。


 数秒後、淡い光が霧散すると、そこにはお馴染みの短小包茎ちんぽが──




「なんで極太アフリカちんぽにしねぇんだよ!」

「いや治癒魔法だから。元の姿に戻しただけだ」

「もっと、腕みてぇな馬鹿デカイちんぽにしてくれよぉ!」

「腕みてぇなちんぽがぶら下がってたら普通に嫌だろ」

「3本足みたいになりたかったよぉ!」

「いや3本足にはなれないだろ。どんなにちんぽがデカくても」

「……うぅ、ノッチ、こんなちっちゃいちんぽだけど、いい?」

「何であたし様に聞くのよ!?」

「いやだって今からノッチとセックスするし」

「しないわよ」

「えーっと──“します”」

「しないってば!」

「もう勃ってきちゃったぁ……」

「はい終わり終わり。ピカロ死ね。ごめんねノッチ。読者の方々もすみませんでした」

「見て、この腰振り。見て、見て?」

「というわけでね、次からは魔界編スタートです。よろしくお願いします!」

「見て?」




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