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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第五章 無能貴族編
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第六十話 大幅削減




 アルド王国領土から少し外に出た平地には、仮説キャンプが設営されていて、多くの軍人がそこに寝泊りしていた。


 先日までは王都にいたピカロも、いつアルド王国が戦地になるかわからないため、最前線の地に赴く。


 かつてこの地に建てられていた古城を、アルド王国軍の本陣とし、ピカロやシェルム、指揮官補佐のシルベル・アンミッチ少佐などはその城内に滞在していた。


 ──夜明けと同時、シェルムはピカロを起こしに部屋を見に行ったが、ベッドの上には誰もいなかったので、シルベル少佐の部屋へと向かう。


 扉を開けると案の定、熟睡するシルベル少佐の寝顔を見ながら自慰行為にふけるピカロがいた。



「またやってんのか」

「静かにしろシェルム。『ぶっかけ寝起きドッキリ』の最中だ」

「なろうのガイドライン超えちゃうからダメだ」



 ちんぽ丸出しのピカロを部屋から引きずり出し、説教。



「今のところ奇跡的にバレてないけど、お前がシルベル少佐に手を出そうとしたの、これで5回目だぞ」

「手は出してねぇ。子種をですね、へへ。出そうとして……」

「……部下に性的暴力、とか一発アウトだからな。総指揮官の権利を剥奪されたらこの物語の意味がなくなるだろうが」

「いやでも、戦場に女がいるってことは、そういうことでしょう?」

「ちげーよ。シルベル少佐は指揮官補佐だ。慰安婦じゃねぇ」

「同じようなもんだろ」

「お前まじで読者に嫌われるぞ」

「じゃあ楽しいか? お前らの人生は。女性には尊厳があるって取り繕って、実際はエロいことしか考えてないのにそれを隠して、楽しいか?」

「女性を100%性的な目で見てるのはお前だけだ」

「女はセックスするために生まれてきたんだ」

「警察を呼んでくれ誰か」

「存在意義を考えてみろ。わざわざ性別が別れている理由を考えてみろって言ってるんだ」



 なぜ、男女に分かれたのか。なぜ、身体の構造が違うのか。


 その理由を聞かれた時に、“セックスをするため”以外の理由を思いつくだろうか?


 神は、“何を想定して”、男と女を分けたのか──そこにセックス以外の答えなどない。



「シルベル少佐だって覚悟の上で軍に入隊したはずだ」

「軍はそういう場所じゃねぇよ」

「“そういう場所”じゃないのが問題なんだ! なぜあらゆる物事からセックスを遠ざける! なぜ日常にセックスが溢れる、セックスが身近な世界にならない!?」

「お前だって、人前でセックスするの嫌だろ」

「うるせー!」

「なんだこいつ」

「私はな、認めていないぞ。女の方が性欲が弱いという事実を。その時点で狂ってるんだこの世界は!」

「……いや、女性にも性欲はあるけどな」

「じゃあ金を払ってでもセックスをしたいと考える女はどれだけ存在する!?」

「まぁ……男よりは少ないとは思う」

「セックスすることを前提として、神は人間を男女に分けた! それなのにセックスに対する欲望が男女で異なるのは、間違っている! 等しく、お互いを求めるべきだ!」

「でも仮に女性の性欲も男並みになったとして、それでお前みたいな金髪チビデブが選ばれるかはまた別の話だぞ。自分がモテないこと、自分に性的な需要がないことを、女性側の意欲の問題にするのはおかしいだろ」

「……ま、まさか。今は性欲が強くない多くの女性たちが、ある日突然、ムラムラしたとしても……」

「上位層のイケメンや金持ちに群がるだろうな──結局、お前ら底辺男子は童貞のままだ」

「滅ぼすべきだ、何もかも」

「顔こっわ」

「っていうか、今ここでシルベル少佐をブチ犯しても、その後殺して、戦死したことにすればいいじゃん」

「まずい方向に話が進んできた」

「あれ、どうして私は躊躇っていたんだろう。完全犯罪は目の前なのに……」

「倫理観パーンチ!」



 モラルで殴るシェルム。


 涎を垂らしながら見上げるピカロの、ドス黒い視線に思わず後ずさる。



「……例えば、法律がないとして。例えば何をしても捕まらないとして、それでも悪いことをしない人間がいると思うか?」

「性善説とか、そういう話か? そんなもん人によるだろ」

「私は、法律が無かったら、町中の女を犯して回るし、人だって殺す。その結果、誰かに殺されたとしても文句は言わない」

「……ひぇえ」

「これを言うと、何故か周りの人間は、私を潜在的犯罪者だとみなす……しかしどうだシェルム? 目の前に100万円が落ちてて、拾っても捕まらないのなら、お前だってそれをポケットに突っ込むだろう?」

「いや、明確に誰かに迷惑をかける犯罪と、そうでない犯罪を比べるのは違うだろ。レイプや殺人と、窃盗を同じ土俵で語るなよ」

「じゃあ、学校や職場にいる、心底嫌いなやつを殺しても、捕まらないと知った時、それでもお前は立ち上がらないのか?」

「僕は人として、誰かが悲しむことはすべきでないと思う。それは法律による規律があるか否かにかかわらず」

「……そうやって格好つけるお前らが、私は大嫌いなんだ」



 逮捕されるから、犯罪をしないのか。人を悲しませたくないから、犯罪をしないのか。


 国や時代によって法律は変わる──“何をしてはいけないか”は相対的なものだ。


 あなたは、法律がなくても、清く正しく生きる自信が、ありますか?



「こんな話をしてる場合じゃないんだよピカロ」

「たまにはいいだろ」

「ネーヴェ王国、ジンラ大帝国と続いて、次はテイラス共和国が真魔王軍に攻め込まれてる──それについて描写しないと」



 一日一国ずつ侵攻する真魔王軍。


 魔界から人間界へと繋がる入り口が全て閉ざされ、その直前に人間界へと逃げ出してきた真魔王軍の狙いは、敵戦力の把握だ。


 要するに、まずはそれぞれの国と少しだけ戦ってみて、どの国にどの魔族を送り出すべきかを考えている。


 もっと局所的な言い方をするのなら、真魔王ディーはどの国の誰と戦うべきかを、判断するための偵察だ。


 そのために真魔王軍は、魔族を小出しにして各国に攻め入り、真魔王軍側にどれだけの被害が出たのかを確認し、生還した魔族からもどんな戦士がいたのか情報を集める。


 そして適切な戦力の配分を計算してから、本格的に4大国を攻め落とす作戦へと移行するのだ。


 攻め入る順番としては、主人公ピカロが属するアルド王国は最終日に回すべきだという物語の引力(作者の意向)によって、ネーヴェ王国、ジンラ大帝国、テイラス共和国、アルド王国の順番になった。



「いやあのさ、シェルム。テイラス共和国での戦闘シーンについてなんだけどさ、作者的には必要ないんじゃないかと考えてるらしいぞ」

「必要だろ。伝説の勇者候補であるレイ王子がいるんだぞ」

「だからこそ、なんだ。レイ王子って活躍しすぎてるじゃん」



 テイラス共和国の、レイリアス・ゼン・レジェロイヒ。


 王政が廃止されたため、正確には王子ではないのだが、王族の末裔として、便宜上レイ王子と呼ばれている。



「まず、私がザンドルド・ディズゴルドに扮して『世界樹の杖』を盗みに行った時に、レイ王子は初登場してるだろ?」

黄金殻おうごんかくの鎧を身に纏ったのに、お前ボコボコにされてたな」

「そして、『聖剣アルドレイド』の使用権をめぐる聖剣の儀でも、レイ王子はかなり目立ってた」

「ジンラ大帝国のガイ王子とタイマン張ったり、奴隷の女性を解放したりしてたな」

「それに比べてネーヴェ王国のウサ王子と、ジンラ大帝国のガイ王子の出番が少なかったから、わざわざ1話ずつ使って彼らの活躍を描いたわけなのよ」

「あ、そうなの」

「それに、今回までテイラス共和国の戦い方について話してたら、3話連続で主人公である私がほとんど登場しなくなってしまう!」

「ニクス・ミストハルトの過去編の方が長かっただろ」

「父さんを悪く言うな!」

「言ってねぇよ」

「とにかく、文字数と話数を稼ぐという意味では、テイラス共和国について詳しく掘り下げても良いんだけど、もうさっさとストーリーを進めた方がいいんじゃないかということだ!」

「まぁ、テンポは大事だな」

「ちんぽ?」

「絶対言うと思った」

「その“絶対言うと思った”って言う人よくいるけど、嘘だろ」

「話題を逸らすな……っていうかピカロ。こういう、ストーリーと関係ないセリフばっかりの回の方が、物語のテンポを悪くしてるんじゃないか?」

「いやでも真面目にストーリーだけ進めても、読んでもらえないだろう。多分だけど、ハイファンタジーじゃなくてコメディーとして読まれてると思うんだよなぁ」

「だったら最初から日常系の小説にしろよ。無能貴族になってサキュバスとセックスするとかいう物語の設定なんて作るのが悪い」

「うるせぇ。とりあえず、レイ王子はもう十分活躍したから、テイラス共和国についてはお腹いっぱいだろってことで、アルド王国の戦争の話を書くぞ!」

「……なんかごめんなレイ王子」



 モブキャラのクセに、やたらと目立ち過ぎたレイ王子への罰として、テイラス共和国での戦闘シーンは大幅にカットされた。


 結論だけを言うなら、人命第一のレイ王子は、住民を国の奥へ奥へと避難させ、“国に引きこもる形”で戦った。


 他国のように、広い領土の“外側”に満遍なく兵士を配備して、どこから魔族が攻めてきたのかを監視させる戦術だと、“兵士が殺された後”に、その場所にレイ王子が向かう、という形になってしまう。


 攻め込まれている側である以上、後手に回ってしまうのは仕方ないのだが、兵士たちを索敵のために使い潰すのをレイ王子は嫌がった。


 辺境の町や村は、どれだけ壊されたとしても後から作り直せる。


 しかし人の命は元には戻らないのだ。


 そこでレイ王子は国の内地へ内地へと人を集め、小さく固まることで、必然的に“戦場を小さくした”。


 広い場所で戦うから、敵の位置が掴めないし、レイ王子などの戦略級戦士が時間をかけて飛び回る羽目になるのだ。


 最初から小さく、狭い場所で待ち伏せして対応した方が効率的である──しかし他国のように、国土の全てを守るということはできなくなる。


 他国は、“国の外”で戦っているのだ。国の領土に魔族を侵入させないために、外側で奮戦している。


 対してレイ王子は、国内にまでおびき寄せてから、確実に倒すという方法を採っているため、必然的に国内の村や町が戦場になりやすい。


 1人でも多くの人を助けるには、何かを犠牲にしなければならない──他国はそこで軍人を犠牲にし、レイ王子は領土を犠牲にしたのだ。


 無論、どちらが正しいということでもない。


 ──そうして大戦開始3日目、レイ王子はほとんど死者を出すことなく、真魔王軍の猛攻に耐え切ったのだった。





────✳︎────✳︎────




 ピカロが、他国に援軍を送っていた理由は、いざという時に助けてもらうためではない。


 アルド王国軍の体力を消耗させるためだ。


 無論、それはアルド王国の大敗のための作戦の一つで、気休め程度のものではある。別段、援軍として戦った程度では、兵士たちは疲弊しなかったかもしれないが、ピカロは作戦の成功率を1%でもあげるためならば、努力は惜しまない。


 何度でも言う──負けたいのだ、ピカロは。


 アルド王国を敗戦へと導いた戦争犯罪人として──無能貴族として、魔界送りの刑に処されるためだけに、ここまで頑張ってきたのだ。


 ではそのために次に行うべきことは何か。



「南東部に飛ばしていた魔導ドローンが、魔族の姿を捉えました! 俯瞰魔法(モニター)での確認お願いします!」

「早朝から攻め込んでくるとか、真魔王軍も性格が悪いな……」

「上級魔族が1体と、多数の魔獣のようです。ピカロさん、誰を向わせますか?」

「シルベル少佐、君ならどうする」

「わ、私なら……上級魔族に対応できるだけの戦略級戦士1人と、一個小隊を配置します」

「ふーむ。多少時間はかかるが、魔獣の残党も処理できるし、効率的ではあるな」

「で、では今すぐに──」

「いや、『魔女隊』に出撃命令だ」

「な、なぜですか!? 彼女らは我が軍の切り札……最初の一手で出すつもりですか!?」

「“圧勝”じゃなきゃ意味ないんだ。出し惜しみはしない」



 アルド王国軍直下遊撃部隊『魔女隊』──『雷剛らいごう』テテ・ロールアイン率いる、アルド王国最強の魔術師集団である。


 箒に跨り空を駆けるその高い機動性と、テテを筆頭とした圧倒的制圧力。


 シルベル少佐の言う通り、まさしくアルド王国の切り札だ。



「シルベル少佐……今日の目標を教えておこうか」

「目標……」

「──兵力温存なし、全身全霊でもって、真魔王軍を蹴散らすことだ」

「な、なぜそこまで……明日以降も大戦は続きます、ペース配分も大切ではありませんか?」

「我々アルド王国軍は、真魔王軍よりも遥かに強大であると改めて自負すべきだ──今日一日で、全軍の士気を上げるぞ」




────✳︎────✳︎────




 ──アルド王国南東部。


 木々を押し倒して進軍する魔族と魔獣たちを見下ろすのは、30歳を超えたにもかかわらず見た目はロリっ子のままであるテテ・ロールアイン。


 その小さな身体から溢れ出る異常な魔力に気付いた魔族が、足を止めて空を見上げる。



「おいおい、戦場で小娘が出迎えてくれるだなんて、とんだサプライズだな」



 テテは挑発には応じず、遥か前方の地平線に目を移す──どうやら、さらなる魔獣の大群が押し寄せてきているようだ。


 少し後方に待機していた『魔女隊』の隊員たちに振り返る。



「皆さんは、向こうにいる魔獣たちを一掃してきて下さいです。私は上級魔族をぶっ殺しますです」

「承知しました。行くぞお前たち」



 空を駆ける魔女たちの背を見送り、テテは再び魔族を見下ろす。



「さて、実戦で試すのは初めてですけど……」



 ゆっくりと降下しながら、テテは目を閉じる。全身を駆け巡る魔力に意識を集中させた。紫電(ほとばし)る自分の内側に、視線を向ける。


 ──テテ・ロールアインの魔力量は、『伝説の勇者』たちと同格である。


 体内魔力占有率が6割を超える、半魔力人間。カッコいいからという理由で雷魔法だけを極めた結果、『雷のヤベー奴』として有名になってしまったが、実際には『聖剣アルドレイド』を抜けるだけの魔力を持つ。


 そんなテテの雷魔法の境地──それは、“雷になること”だった。



「魔力変換──『雷核らいかく』」



 身体を構成する6割が魔力なら、それを全て雷魔法に変換した場合、どうなるだろうか。


 人体を直接、魔力そのものに変換する魔法など、誰も試したことがなかった。自分が自分でなくなる感覚に、人は耐えられないのだ。


 しかしそこまで頭が回らないテテは、いつしか雷魔法の、その先へ──



「……お前、人間か……?」

「いいえ──雷です」



 ()しもの魔族も、目の前にいる人間……らしきものが、人智を超えた何かだと察する。


 辛うじて人型を保つテテ。流動する電流が刺々しい輪郭を作り出す。


 白金に輝く雷人間が、突き刺さるように地面に舞い降りた、刹那。


 轟く雷鳴を置き去りに、人型の雷が空間を貫いた──文字通りの光速。


 魔族はそれに反応する間もなく、雷流に呑まれ粉々に消し飛んだ。地を這い迸る電流の竜巻に巻き込まれ、大量の魔獣たちも灰と化す。


 昼前の晴れ渡る空さえも照らすような激熱の光波。木々を焼き、土を散らし、焼け野原に最後に立つのは、限界を超えた人間の姿のみ。


 全身からバチバチと音を立てながら、テテはゆっくり立ち上がる。



「ピカロ・ミストハルトからの命令通り──真魔王軍、殲滅しますです」




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