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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第五章 無能貴族編
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第五十九話 非道戦術




「だから言ったじゃないですか! 怒られますよって!」

「独断先行を咎められただけってことは、作戦自体は認められたと考えていいんだよな?」

「運が良かっただけだって言われてたじゃないですかぁ……」



 国王城の廊下を早足で歩く2人──アルド王国軍総指揮ピカロ・ミストハルトと、指揮官補佐のシルベル・アンミッチ少佐である。


 たった今、昨日のピカロの作戦行動についてお叱りを受けたところだ。


 何について怒られたかといえば、それはネーヴェ王国に援軍を送ったことである。


 結果だけを言えば、大量の魔族が人間界に流れてきた昨日、攻め込まれたのはネーヴェ王国だけだった。それを見越してピカロは、恩を売るために援軍を派遣──結果としてネーヴェ王国東部の農村への被害を最大限抑えることができた。


 しかし勿論これは結果論で、援軍などを拠出してアルド王国の戦力が低下している時に、アルド王国が魔族に攻め込まれていたら、余計に被害を拡大させていたかもしれなかった──少なくとも『魔皇帝』アーバルデンからの情報提供を経ていない多くの人々にとっては、そちらの可能性の方が高く思えただろう。


 なにせ、大抵の人間は、“魔界の全ての軍勢が襲いかかってきた”のだと勘違いしているのだから。


 実際は5000人程度の小規模軍……無論少数精鋭の実力派集団なので油断すべきでないが、人類滅亡の危機とまでは言えない。


 そして大戦が始まって2日目の今日、今度は南のジンラ大帝国が魔族の侵攻を受けている──昨日と同じく、ジンラ大帝国のみが、である。


 ということは勿論、ピカロは今日もまたジンラ大帝国にも援軍を送るつもりだったので、その旨を国に伝えたところ、そもそもの昨日の独断先行についてお叱りを受けてしまった。


 ただ、今日の援軍の許可はもらえた──9割以上の戦力をアルド王国に残す、という条件付きだが。


 まぁ何をもって9割だとか1割だとかを判断するかといえば、結局は軍人の人数の割合だろうから、個人で強い兵士を1人援軍に混ぜておけば、その兵士が例えアルド王国軍で最も頼りになる男だとしても、バレることはないだろう。


 ──いやいや、今回の援軍は500人くらいしか派遣してませんよ? ……シェルムが含まれてますけどね、ということだ。


 少なくとも王国の上層部は、シェルムのことを、ピカロの知恵袋くらいにしか思っていない。援軍に混ぜても、貴重な戦力を放出したとは思わないだろう。



「では、改めてネーヴェ王国からの報告と、現状の確認をしますね」



 歩きながら、シルベル少佐は大量に抱えた資料を捲りつつ、情報をまとめる。



「まず魔族の集団は、自らを『真魔王軍』だと名乗っていたそうです。これにより今日から敵対魔族集団を真魔王軍と呼称します」



 この真魔王軍がまさか、現魔王デスファリアの政策に反対した一部の反乱分子だとは誰も想像していないので、今現在の世界の認識としては、「魔王が新たに即位して真魔王を名乗っているのだろう」くらいのものである。


 魔界に関しては不透明な部分が多く……というかほとんど何も知らない以上、当然の帰結とも言えるが。



「そして多数の上級魔族が確認されたそうです。複数同時の上級魔族の出現と、ネーヴェ王国のみが攻め込まれたことを合わせて推測するに、昨日の侵攻は“真魔王軍の最大戦力で一気にネーヴェ王国を壊滅させようとした”のだと思えます」



 前話との繰り返しになるが、実際にはそのほとんどは強いだけの中級魔族だったし、おそらくは人類側の戦闘力を窺うための試験的な侵攻だった可能性の方が高い。


 そうなると、昨日の攻防について“ネーヴェ王国が真魔王軍の最大戦力を打ち破った”などという推測はあまりにも楽観的過ぎる。


 しかし、“上級魔族並みに強い中級魔族も存在する”という恐ろしい真実を受け入れるよりは、全て上級魔族だったのだと信じる方が精神的に楽なのも理解できる。


 絶望的な予測は、思っても口には出せない。士気の低下は被害の拡大に繋がりかねないのだ。



「そして昨晩から現在に至るまで、ジンラ大帝国の領土に真魔王軍が現れた模様です。不可解なことに昨日と同じく、他国での真魔王軍の目撃報告はありません。やはり昨日、最大戦力をネーヴェ王国に返り討ちにされたことが大きく影響していると考えられます」

「……そうだといいな」



 まるでピカロとシェルムだけが正しい情報を知っていて、知識不足ゆえに誤った現状把握を繰り返す世界中の人々を見下しているように思われるといけないのでバランスをとると、ピカロたちもまた、本来は敵である魔族からの情報提供を鵜呑みにしているという点において、むしろ周りの人間よりも愚かである。


 何が正解かなんて、誰も知らないのだ。



「しかしピカロさん。ジンラ大帝国といえば、他国も警戒するほどの軍事力の高さを誇る大国ですが……援軍なんて必要なのでしょうか?」

「さぁ……意外と苦戦してるかもな」




────✳︎────✳︎────




「おら、ちゃんと壁になれ。偉大なるジンラ大帝国を守ろうぜまったくよぉ」



 ジンラ大帝国東部、広大な砂漠地帯では、今まさに真魔王軍との戦闘が始まっていた。


 奴隷の背に座り、別の奴隷が差す日傘の下で、優雅に寛ぐのは、ジンラ大帝国第一王子ガイジングス・リアレ・ジンラードその人である。


 ガイ王子の視線の先には、灼熱の太陽を浴びて息も絶え絶えの男たち。見るからに凶悪な魔族を相手に、貧相な装備で相対していた。


 獄炎の砂丘に、1人、また1人と血塗れの男が倒れ伏し、飲み込まれるように埋まっていく。



「よーし、『滅魔砲』装填完了。おらおら早く離れろー、巻き込まれるぞー。はははっ」



 30メートル後方、揺らぐ蜃気楼と吹き荒れる砂塵に隠れるように、砂丘内部に設置された対魔族用魔導兵器『滅魔砲』が、その砲口に魔力を集中させる。


 その砂丘の裏側には、何らかの理由で疲れ果てた大量の奴隷たちが倒れていた。


 ガイ王子の合図で逃げ惑う男たち。急に孤立した魔族が、少し離れた場所で豪遊するガイ王子を睨みつける。



「……大人の人間に戦わせて、子供の人間がそれを眺めてる──おいおい、将来有望なガキンチョがいたもんだな」

「悪の大先輩からお褒めの言葉を頂いたところ恐縮ですが──死んでくれ、下等種族」



 ガイ王子が手を軽く振った──刹那、魔力粒子が空中で激しく衝突する音と共に、『滅魔砲』が唸り声をあげた。


 圧倒的質量の魔力反応に、魔族も咄嗟に振り返り、回避を試みるが、時すでに遅し。


 激熱を孕んだ紅緋べにひの光線が、砂地まるごと魔族を消し飛ばしてみせた。



「まさしく“太陽の柱”だな……最高」



 キンキンに冷えた水を口に含みながら、楽しげに笑う。その無邪気な笑顔だけを切り取れば、年相応の少年なのだが……。


 そんなガイ王子に、帝国軍の男が走り寄り、跪く。下を向いたまま戦況報告を始めた。



「北部に現れた上級魔族3体、先ほど無事に討伐できた模様です。しかしまた西部に上級魔族が1体出現。そして北部には大量の魔獣による追撃があったようなのですが、なぜか突如現れたアルド王国の援軍により撃退されました」

「アルド王国のクズ共は無視しろ、恩を売りたいだけだ。んで、『滅魔砲』はあと何回撃てる?」

「『滅魔砲』を使えるだけの人的余裕があるのは、西部の部隊と、南部の待機部隊のみです。東部ここの『滅魔砲』は使えないという前提ですが」

「こっちのはあと一発くらい……いや、あの様子じゃ無理か?」



 首だけを傾けて、『滅魔砲』が設置された砂丘の裏を見遣ると、先ほど倒れてしまった大量の奴隷たちが、未だに立ち上がらずにいるのが見て取れた。


 心底軽蔑した目で彼らを見ていたガイ王子は、やがて視線を外し、グラスを机に置いて立ち上がる。



「西部の上級魔族は俺様が殺してくる。俺様も暇だし、ちょっとくらい運動してくるわ」

「ガイ王子自ら、ですか!?」

「何だよ、まるで俺様は最初から戦う気がなかったみたいな言い方だな」

「い、いえまさか御身を危険に晒してまで戦場に立ってくださるとは……」

「お、いいねぇ。お世辞が上手いじゃんお前。よし、有能そうだからここは任せるわ」

「私がですか……!?」

「うん。大量に冷えた水は持ってきてるからさ、“死刑囚”共と奴隷のクソ共に水ぶっ掛けて、あと一発『滅魔砲』撃てるように回復させといて。『滅魔砲』があれば俺様がいなくても大丈夫でしょ」

「……承知しました」

「奴隷に優しくしようとか考えるなよ、今も内地で怯えている高貴な帝国民と、犬畜生以下の奴隷、どっちの命を優先するかは言うまでもないが……まぁ、“俺様のやり方”で頼むわ」


 手段の善悪を考慮せず、戦果だけで語るのならば、この大戦におけるガイ王子の戦い方は素晴らしいものだった。


 まず、大量の魔力を消費するが、ほぼ確実に魔族を屠ることのできる魔導兵器の導入。ガイ王子が“太陽の柱”だと形容したように、その魔力光線の威力は目を見張るものがある。


 ただ運用における問題点は2つ──そもそも発射のための魔力供給が困難であること、そして魔力の装填が完了するまで、魔族の足を止めて時間を稼ぐ必要があること。


 この点をガイ王子がどうやって解決したのかというと、まず魔力供給は全て奴隷によって行った。正規の帝国軍人を消費することなく、帝国法で人権を否定された奴隷たちを用いて、彼らの魔力を集めて使用した。


 そして魔族の足止め・時間稼ぎには、死刑囚を利用した。


 命令に従わない者は見せしめとして彼らの前で殺して見せ、軽装備で魔族に突っ込むという無謀な命令にも無理やり従わせる。


 例えばネーヴェ王国は、ウサルバルド・シャンテ・ネヴェリオン第二王子やユキヒ・アネイビスなどの単体戦力を、上級魔族が現れるたびに移動させ、それぞれ対応していた。


 多くの軍人は、大量発生した魔獣への対応など、比較的安全な戦いに身を投じ、結果として効率は悪かったものの、人的被害を最小限に抑えることに成功したのだ。


 対してガイ王子は、帝国軍人ではない、死刑囚と奴隷を酷使することによって、ジンラ大帝国各地にガイ王子自ら飛び回らずとも、さらに帝国軍人を直接戦わせずとも、魔族の殲滅を可能にてみせた。


 無論、非人道的な行いであり、軍人の被害は無くとも多くの人の命が失われたことに変わりはないが、ガイ王子にとって犯罪者と奴隷は帝国民ではない。


 人の形をした駒である。


 そんな悪童ガイ王子をさらに評価するのならば、ガイ王子の魔族に対する認識もまた、非道な作戦成功に寄与するものだった。


 曰く──今回の上級魔族は大して強くない。


 真魔王軍の中級魔族たちを、上級魔族だと勘違いしている点は世界中の人々と同じだが、しかしガイ王子は敵を過大評価することなく、実際の実力のみを考慮して戦略を考えた。


 上級魔族は圧倒的な脅威だから、国の最高戦力で対応しなければ──そう考えてアタフタしていたネーヴェ王国とは違い、ガイ王子は上級魔族に対しても過剰に警戒することはなく、大人数で対峙すればどうにでもなると考えたのだ。


 その結果が、死刑囚と奴隷の大量導入による魔導兵器運用であり、ガイ王子含めジンラ大帝国を代表する屈強な戦士たちを温存することができた。


 ついでに普通の帝国軍人たちもほとんどが魔獣への対応や、避難誘導などの比較的安全な任務だけだったので、人数的にも、魔力的にも消費せずに済んだ。


 要は、優先順位の問題である。


 ガイ王子の中には、使い捨てて良い命と、守るべき命という2つがあったという、ただそれだけの話──。



「ありゃまぁ、帝国が誇る西部の山岳地帯がボッコボコじゃんかよ」

「……誰だ、小僧」



 ジンラ大帝国西部。上級魔族出現の報と同時に、西部を見張っていた帝国軍部隊には撤退を命じ、入れ替わりでやってきたガイ王子を、魔族が見下ろす。


 ローブを羽織った骸骨が、暗黒の眼窩でガイ王子を睨みつけ、ニヤリと笑った。



「子供が戦場にいるとは思えないが……まぁ人間を奴隷として使い捨てるこの国にとっては、子供でさえも貴重な戦力ということか」

「あぁ? 何言ってんだ。奴隷を使い捨てるよう命じてるのはこの俺様だぜ?」

「……ほう。子供に軍を任せるのか、この国は」

「実力主義なんでね」



 刹那、ガイ王子の足元で魔力反応──そこら一帯を巻き込む大爆発がガイ王子を襲った。


 木霊する破砕音。カタカタと音を立てながら、骸骨男は愉快そうに笑う。



「なるほど、本当にただの子供じゃないらしい──よく避けたな」



 背後に迫る赤髪の悪童に、振り返ることなくそう言った骸骨男。


 ガイ王子は魔力を纏った手刀を振り抜く。ローブごと骸骨男の身体を両断した。



「いやはや、私ほどじゃないが、中々に骨のありそうな子供だ」

「骸骨野郎に言われても嬉しくねぇな」



 距離を取るガイ王子。骸骨男は骨が砕かれたものの、そのまま宙に浮いている──骨だけで生きているようなやつが、切断したくらいで死ぬわけもない。



「私は真魔王軍幹部の1人、アレル・ダイマゴン……この国を滅しにきた気さくな骸骨だ」

「俺様はガイジングス・リアレ・ジンラード──『伝説の勇者』だ。よろしくな」

「ははっ、見るからに悪人面あくにんづらの君が、人々の救世主か。実際、非道な手段で多くの命を救っているとはいえ……皮肉なものだ」

「“皮肉”も何も、お前にゃ皮も肉もねぇだろうが、糞骸骨」



 ガイ王子は、背負っていた剣のつかに手を掛ける。ゆっくりと構え、その剣先を骸骨男に向けた。


 その刀身は、何かの布でグルグル巻きにされている。


 訝しげに首を傾げた骸骨男の前で、その布を剥がしていく。



「……何か、嫌な予感がするなぁ、その剣」

「──聖剣、だからな」



 貪欲な刀身が常に魔力を吸い込み続ける化け物神器──聖剣アルドレイドが、その姿を現し陽光を反射する。


 魔法と共に編み込まれた『封印の布』に隠されていた刀身が露わになり、持ち主であるガイ王子の魔力を急速に飲み込んでいく。


 神に選ばれし運命の御子は、全身を駆け巡る全能感に陶酔した。



「その剣は厄介そうだ──先に終わらせよう」



 聖剣を警戒した骸骨男が、両手をかざして宙に浮く。


 巨大な魔法陣が何層も重なり、交差し、輝きを放つ──なるほど、真魔王軍幹部の名は伊達ではないらしい。


 およそ人の世には有り余る魔力の結晶が、1人の少年を照らす。



「剣ごと木っ端微塵にしてみせよう」

「やってみろ」



 赤紫に地面を照らす魔法陣が、球体となって収束する。森が、山が、揺れる。


 生きた災害、上級魔族の本領発揮──莫大な魔力が無理やり一点に凝縮され、そして。



「散れ、人間」



 発光──音すら置き去りの大爆発。


 球体に拡がる“死”が、迫る。


 ガイ王子は大爆発の中心目掛け、聖剣アルドレイドを振り下ろした。



「──死ねオラァッッ!」



 極大魔力同士の衝突は、木々を根こそぎ吹き飛ばし、雲を掻き消した。


 地震を引き起こすほどの衝撃──舞い上がる土塊つちくれの向こう側には、遥か遠くまで“平らになった山岳地帯”だけが残されていて……。



「……これはさすがにやり過ぎた」



 これが、ガイ王子、人生初の反省である。




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