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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第一章 導入部分的なやつ
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第五話 黒女尻穴

 ピカロの誕生日の翌日。雲一つない晴天を吹き抜けるやや冷たい風が、ベッドで眠るピカロの寝顔を撫でる。寝室の窓を開けたまま寝てしまっていたらしく、デブの天然肉厚脂肪コートを着ていても肌寒い。ガッツリ一重ひとえの目をうっすらと開ける。むくんだ顔も普段と大して変わらないのがデブの利点だ。

 軽く伸びをしてから立ち上がり、部屋を見回す。


 昨夜ピカロが寝たのは、父親ニクス・ミストハルトの寝室だ。シェルムをどこで寝させるかでアンシーと口論になり、結果、シェルムはピカロの部屋で寝た。

 シェルムをどうにか自分の部屋で寝させたかったらしいアンシーに負けず、健全な朝を迎えることができたのは、ピカロの功績といえよう。


 父親の寝室は、生活感がまるでない。というのも、大英雄は忙しいのだ。それは魔族に対する人類側の貴重な戦力という意味でもあるし、今の一時的な平和の象徴でもあるニクスはアルド王国中を飛び回ることが多い。

 ゆえに、昨日ピカロの誕生日にもかかわらず、ニクスが家に帰らなかったことにピカロとアンシーは大して驚くこともなかった。寂しさを感じなかったという意味では、無論ないけれど。



「さてと……。それにしても、アンシーに起こされず、私一人で起きたのは久しぶりだな」



 情けないセリフである。

 ピカロは階段を降り一階の洗面所へ。顔を洗い、軽く歯を磨いた。食堂へ向かうと、そこにはいつもアンシーが用意してくれているような極上の朝食は無く、耳鳴りがするほどの静かな光景。

 アンシーが寝坊だなんて珍しいな、と呟きつつ、体重的な問題により重たい足取りで階段を上がる。アホみたくゼェゼェ言いながら、アンシーの部屋の前へ。



「『ノックしたところで入らせません。変態は死ね』……この貼り紙はいつまで貼ってあるんだ」



 過去に一度、アンシーのお着替え中を狙って部屋に突入した結果、眉間に肘を撃ち込まれ、倒れたら即座にテキサスクローバーホールドをかけられて三途の川ダイビング体験をしたことがあるピカロを戒める貼り紙である。

 なのでピカロは部屋には入らず、扉に耳を当てて部屋の中の様子を伺う。


 音はしない。なぜか部屋にはいないようだ。ピカロは眉をしかめ、首を傾げた。もう薄々気がついてはいるが、受け入れがたい現実を前に、脳が追いつかない。憐れな豚野郎は泣きそうな顔で自分の部屋へ歩を進める。


 シェルムが寝ているとはいえ、自分の部屋なので、ノックなどするはずもなく、ピカロは扉を開けた。



「…………何をしている」

「……んぅ、ふぁあ。あ、おはようピカロ。しかし美青年の寝室にノックもなしに入るだなんて貴族の息子とは思えないデリカシーのなさだな。クソが」

「口悪いな朝から。……てかそんなこと聞いてない。何をしているのかと聞いてんだ」



 ピカロのベッドには、寝起きとは思えない輝きを放つ紫紺の美青年シェルムと、彼に抱きつくようにベッドに横たわるアンシーの姿。

 なぜか元気になる下半身に怒りを覚えつつ、中腰でピカロは声を荒げた。



「私の初恋の相手に何をしたのかと聞いているんだ」

「……何をしたって言ったら怒らない?」

「ちんぽでビンタした、くらいなら許す」

「寛容にも程がある」



 無論冗談だが、男性経験も無いくせにいきなり初対面のイケメンのベッドに潜り込んだアンシーの寝姿を見て尚更のこと怒りが湧いてきたピカロは中指を立てつつシェルムに言い捨てる。



「最愛の相棒よ、早く魔法学園とやらに向かおうぜ」

「言動と行動が一致してないな……」



 もう何もかもどうでもよくなってきたピカロは、適当に朝食を作って腹を満たす。シェルムの分は作らなかった。

 王国立魔法学園は、アルド王国の王都にあるので、貴族らしい格好に着替えつつ、シェルムを急かす。

 シェルムには父親ニクスのスーツを貸した。人に貸すにしては値の張る上物だが、どうせ戦ってばかりの父親が着ることもないだろうというピカロの判断である。

 やたらスーツの似合う美青年をぶん殴ろうとして避けられたピカロに、声がかかる。



「す、すみません! 寝坊してしまって! 朝食を今から準備しますね! 本当にすみません!」

「いいや、アンシー。ピカロはもう自分で作って食べたから。僕はお腹空いてないし、いいよ。ゆっくりしてて」

「朝からシェルム様カッコいい……じゃなくて、ピカロ様! 着替えてますけどもう出発してしまうんですか!?」

「…………」

「めっちゃ無視しますねピカロ様」

「ほらピカロ、王都へ行ったらしばらくは会えないんだから挨拶くらいしとけよ」

「…………」

「あ、あれですよ? ワタクシ何もしてませんからね!?」

「…………」

「そりゃ夜中にシェルム様の寝顔を拝もうと寝室に忍び込んだのは確かですけれど、その後は──」

「早く行こう、シェルム」



 自分はサキュバスと再会してチョメチョメするためにこれから生きていくというのに、それを棚に上げて怒りを露わにする理不尽なピカロは、スタスタと歩き出した。

 走って追いかけてきたアンシーがピカロの腕を引く。



「豚野郎が何を想像してるか知りませんけど、とりあえずこれだけは持って行ってください」



 アンシーは、昨夜ピカロにプレゼントした、赤い蝶ネクタイを手渡そうとする。無反応のピカロに呆れつつ、アンシーは背伸びをしてピカロの首に手を回し、蝶ネクタイをつけてあげた。

 一層、無能貴族感が増したピカロは、すぐに歩き出してしまう。

 まぁどうせ数日したら手紙でも寄越すだろうと見透かしているアンシーは、特に引き止めることもなく「いってらっしゃいませ、ピカロ様」と微笑む。



「それじゃあ、またねアンシー。再び僕たちがあった時は、情熱的な夜を期待してるよ」

「きゃ! 下ネタも上品に聞こえるイケメン補正! ……ピカロ様をどうかよろしくお願いしますね。いつも強がってますけど、一人じゃ何にもできないので」

「大丈夫、任せておいて。僕らがこの世界をひっくり返してくるから」

「ちょっと意味はわかりませんけど、いってらっしゃいませ」



 遠ざかっていく二人の背中にアンシーは手を振る。これからこの広い屋敷で、なぜかメイドであるアンシーのみで一人暮らしをする羽目になったのだが、今はそのことも忘れて、ただ二人の安全と活躍を願っていた。



「……というか何でワタクシは、見ず知らずのイケメンにピカロ様を預けて、家を出させているんでしょう……?」



 作者の力があれば、こんなこと造作もないのである。


 王都は歩いていける距離ではないので、途中で馬車にでも乗ろうかと考えていたピカロに、後から追いついたシェルムが声をかける。



「そういえば、長距離移動の魔法があるから、それで行こう」

「なんでもありだな」

「序盤がグダるとストーリーが進まないからね、今だけ使えるってことで」

「もうどうにでもなれ」



 シェルムが第5話限定で使用したよくわからない魔法での移動中、未だに機嫌の悪いピカロの肩に手を置き、シェルムが問いかけた。



「それにしたって、アンシーを無視するのは流石に酷かったんじゃないか? もう当分あの子登場しないだろうに」

「魔法学園編突入だからな」

「今までのお礼とか、色々と言うべきことあっただろ」



 不意に、シェルムに向き直ったピカロ。遠い目をしながら、呟いた。



「いや、私さ。非処女と話しちゃいけないんですよね」

「なんで敬語?」

「宗教上の理由で、非処女とは会話禁止なんですよ」

「ピカロ、宗教的な団体に入ってたっけ?」

「はい。『黒ギャルのケツの穴舐めたい教』に所属してます」

「掃き溜めじゃねぇか」

「掃き溜めじゃねぇです。エリート集団です」

「……てか黒ギャルって処女じゃないだろ」

「いやあのですね。これはメディアも報道規制されてますし、政府も何とか他国から隠し通そうとしている国家機密なので、あまり大きな声では言えないんですけれどもね。黒ギャルって──処女なんですよ」

「そんなわけがないだろ」

「いやまぁ貴方みたいな下界のね、下々の人間はね、まだそんなこと言ってますけれどもね。教祖様の教えを聞けば真実に気がつきますよ。……まぁ確かに私もこの団体に所属するまでは、下界の堕落した人間生活を送っていたわけで。その頃は確かに私も黒ギャルは非処女だと、ビッチだと考えてましたよ。愚かでしたからね。自然本性しぜんほんせいに基づく哲学を通して世界を感受していなかった人間時代は、そう考えていました。ただまぁ教祖様の声で目が覚めましたけどもね。はい」

「セリフなっが」

「処女の対義語は非処女ではなく、黒ギャルだと思ってましたよ私も。ビッチが何周も回りに回って、最後にたどり着くヤリマンの終着点が黒ギャルだと思っていました。しかしね、違うんです。教祖様は仰いました。黒ギャルは──処女であると」

「……てか教祖様って誰だよ。『黒ギャルのケツの穴舐めたい教』なんて集まりのトップなんぞロクでもねぇだろどうせ」

「えーとですね、あの。教祖様はですね、あれです。AIKA様です」

「え、AIKA様? あのAV女優の?」

「えっと、まぁはい。そうですね。あのAIKA様です」

「……教祖が処女じゃねぇじゃん」

「いやまぁこれは国家機密なのであまり大きな声では言えないんですけれどもね、実はですね。AV女優って──処女なんですよ」

「ぶっ壊れてらぁコイツ」

「AIKA様は仰いました。非処女と話すと穢れが移る! 空気感染とかそんな感じ! と。だからアンシーとは二度と口を聞きません」

「いや僕アンシーと何もしてないよ」

「嘘つくなドタマかち割るぞ」

「ピカロをびっくりさせようとして、魔法でアンシーを眠らせただけだよ」

「今から魔法を学びに魔法学園に行く奴が既に魔法使うなよ……。しかしまぁ、そういうことなら、手紙の一つくらい後で送ってやってもいいかな」



 と、そんな会話をしていたら。地の文の書き方を忘れたかのようなセリフの応酬の末に、ようやく二人は王都へ到着した。正確には王都の近くの森の中である。いきなり街中に空間転移なんてしたら世界観(笑)が音を立てて崩れてしまう。

 王都は、王国民はもちろんのこと、他国の商人や観光客も大勢いて、それはそれは賑やかな様子だった。

 色鮮やかな装飾の街並み。敷き詰められたタイルの地面もカラフルで、むしろ目が疲れるくらいである。照りつける太陽の下、大きな広場で音楽家たちが演奏を披露しつつ、小銭を稼いでいた。

 王都の中心にそびえ立つアルド王国城を囲う色彩豊かな城下町に似合う、明るい雰囲気と空気が満ちている。


 肩で風を切りながら堂々と歩く二人。シェルムの案内で魔法学園へ向かう。

 ふと、ピカロが気がついた。



「あれ、第4話から何も進んでなくね? 魔法学園へ行こう! って言って、次の一話かけてやっと到着?」

「ビビるほどストーリーがグダってるな」

「……第5話の意味あった?」

「今回は『黒ギャルのケツの穴舐めたい教』の会話をしたかっただけの回だからな」

「衝撃の事実!」

「一応、第5話のタイトルは『読まなくていいです』にしておこうかなとも考えた」

「読者の皆さんすみませんでした。おら、シェルムも謝れ」

「絶対に許せ」

「どんな態度だよ」

「次回はちゃんと進むし、なぜ魔法学園へ行くのかの説明とかもしますので、ご安心下さい」

「また明日〜」


この5話まで書いたのですが、シコったら頭の中のプロットが吹っ飛んだので続き書けないです


というのは冗談で、ここまでの話は半年前くらいに書いて忘れていたのを思い出したから投稿したのです。

そんなわけで6話はもうちょい待ってください。

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