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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第一章 導入部分的なやつ
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第四話 故郷脱出

 とりあえず、ストーリー序盤の流れが決定したところで、ピカロは今日が自分の誕生日であること、そのため父親がそろそろ家に帰ってくることをシェルムに告げる。

 最高の晩餐を用意している、と言っていたメイドのアンシーの笑顔も思い出し、早く家に帰りたい気持ちがふつふつと湧いてくる。


 だが。どうあれ、日が暮れた後のこの場所──魔物の住む森から抜け出すには、ピカロ1人の力では如何ともしがたい。単なる小太り少年には、下級の魔獣すら撃退できないのだから。

 しかしながら、今隣にいるのは、自称超重要キャラの美青年。根拠はないが彼についていけばどうにかなるという安心感がピカロにはあった。


 魔物の住む森からの帰り道。1メートル先すら目視できない暗闇を並んで歩く2人。多少はある魔獣への恐怖に耐えきれず、ピカロがシェルムに話しかける。



「そういや、この物語の題名タイトルって、決まってるのか?」

「いいや。迷ってるんだよな、まだ。ラノベっぽいタイトルにしたいとは思ってるんだけど……」

「最近の“なろう小説”は、タイトルだけで物語の内容がわかる方が人気でるからな、そんな感じでどうだ?」

「……でも、ひねりまくったオシャレなタイトルにも憧れるんだよな」

「所詮は無料小説投稿サイトに散らばる駄作の一つなんだし、テキトーにラノベっぽいタイトルなら何でもいいか」



 ピカロは、たるんだ顎に手を当てて考える。どんな作品にしろ、タイトルは最も重要だと言っても過言ではないと考えているシェルムも、真剣な眼差しで足元を見据えつつ唸る。

 沈黙に耐えかねたピカロが再び口を開いた。



「ラノベと言えば、独特のルビだよな! そんな読み方しないだろ〜っていうパターン、やろうぜ」

「キャラ設定として、あつらえたような四字熟語……ではないが、漢字四文字があるからな。──無能貴族。これの読み方を独特にするのか」

「おうよ。そうだな、『最弱無敗のの無能貴族バハムート』とかどうよ」

「却下。もうあるだろそれ」

「『無能貴族キャバルリィ』」

「はい却下。パクリ乙」

「『無能貴族インデックス』」

「却下。レールガンもナシだからな」

「『無能貴族ナオトインティライミ』」

「ダサいにも程があるだろお前」



 その後も、お互いに案を出し合ったが、双方の琴線に触れるタイトル案はなく、とりあえずは仮のタイトルということで、『無能貴族(仮)』というもっともサブい、どうしようもないタイトルに落ち着いた。


 そうこうしているうちに、特に魔獣に遭遇することもなく、無事に森を抜けた2人。月が顔を出し始めてしまっていることに気がついたピカロは、流石にこれほど帰りが遅いと父もアンシーも心配するだろう、と足早に家へ向かう。


 やたら豪奢な家の灯りが見えてきたところで、シェルムが突然足を止めた。驚き、振り返り、つんのめってすっ転んだピカロは、ダンゴムシくらいの遅さで立ち上がる。何もなかったかのような顔をしながらシェルムへ問いかける。



「ど、どどどどうしたシェルム」

「想像のちょうど2倍、膝から血が出たからって動揺し過ぎだ。……あーっと、あのさ。お前のお父さんに見つかるとちょっと厄介なことになりかねないんだよ、僕」

「……? な、なんだもしやお前、魔族だったりするのか? 魔王の生まれ変わりとか?」

「いや、実はまだ詳しいキャラ設定を決めてないんだよ、作者が。とりあえず重要キャラってことにしてるけど」

「ガバガバじゃねぇか。ハロウィンでナースのコスプレしてる女かよ」

「んで、10年前に魔王を討ち取った大英雄ニクス・ミストハルトには、序盤は会わせない方が後々の展開を作りやすいんじゃなかろうかってことで、僕はお前の家には普通に入れない」

「色々と可哀想だな……まぁ、じゃあここで一旦お別れするか。てかシェルム、お前家とかあるのか?」

「家はないけど、まぁとりあえず窓からお前の部屋に侵入しとく。隠してくれ」

「……まぁいっか」



 そうして、家から少し離れた道の上、2人は別れた。遠回りでピカロの家の裏に向かうシェルムの背中を見送ってから、ピカロも家へと足を向ける。

 玄関では、アンシーが今にも消えてしまいそうなロウソクを片手に、ガタガタと震えていた。冬場というわけでもないが、ピカロの故郷の夜は冷える。そんな中、外で待たせてしまっていたという罪悪感が、ピカロを急がせた。



「……遅かったですね、ピカロ様」

「悪かったよ。ごめん。冷えただろう? これでも着てくれ」

「あ、ピカロ様の上着とか羽織りたくないです。豚のクソの臭いがしそうです」

「めちゃくちゃ怒ってますやんアンシーさぁん」



 せっかくの料理が冷めてしまう、と足早に家の中へ。食堂から漂う香りに鼻腔を刺激され、思わず唾を飲む。小太り少年ピカロの本領発揮だ。鳴り止まぬ腹をさすりながら、せわしなく席に着く。

 そこで違和感に気がつき、湯気の登る紅茶を運んできたアンシーへ振り向いた。



「あれ? 父さんは? 日が暮れるまでには帰ってくるんじゃなかったのか」

「それが、先程領主様から手紙が届きまして……。どうやら国王陛下から直々にお呼ばれしてしまったみたいで」

「一人息子の誕生日より国王陛下を優先したのか!」

「まぁ、するでしょうねそりゃあ」

「それもそうか。残念だが、まぁいい。後日また祝ってもらおう」

「誕生日のプレゼントも、また今度会った時に渡す、と書いてありましたが、何を貰うんです?」

「剣だよ。父さんが魔王を倒した際に使っていた、あの剣だ」

「そんな凄いもの貰うんですか!?」

「父さんは、道具に愛着を持つタイプではないらしい」



 その後も喋りながらの晩餐。多少行儀は悪いが、今この家にはそれを叱る親はいない。ちなみにピカロの母親は物心つく前に亡くなっている。理由などは父から話されていないが、ピカロは特に気にしていないようだ。父が話したいと思う時が来れば、その時は、と。


 帰ってこれなくなった父の分まで含め完食し、大満足のピカロは冷めかけた紅茶をすする。

 お手洗いに行ったアンシーが、両手を背に隠しながら帰ってきた。



「……プレゼントだな!?」

「ちょっと、そういうこと先に言わないでくださいよ!」

「少し年上のメイドから誕生日プレゼントを貰えるとか私もうこれ主人公だろ。何が伝説の勇者だよクソが。てめぇは可愛いメイドと仲良いのかってんだい!」

「誰に言ってるのか知りませんけど……。とりあえず! 流石に領主様からの剣のプレゼントと比べたら見劣りしちゃいますけど……プレゼントあげます」



 いつも余裕そうな立ち居振る舞いで、ピカロを小馬鹿にしたような笑顔のアンシーも、今ばかりは照れと緊張でぎこちない様子だ。可愛いにも程があるなぁと思いつつ、ピカロは胸を張る。



「いやはや、プレゼントは気持ちの問題だからな。なんだって嬉しいよ。ありがとう」

「……あの、これ、どうぞ。手作りなんですけど」



 そばかすが可愛らしい頬を染めつつ、縁の大きな眼鏡をクイっとして照れ隠し。手渡されたのは、赤い蝶ネクタイだった。



「ありがとう……蝶ネクタイ? もちろん嬉しいけど、なんか意味とか込められてるのか?」

「デブって蝶ネクタイ付けてるイメージがあったので」

「おい」

「似合うと思ってましたし! 悪意もあるけど、手作りで何か渡すなら蝶ネクタイなんか良さそうだなぁって前々から!」

「まぁ、デブたるもの、貴族の息子たるもの、蝶ネクタイの一つも持ってないとなるとキャラが弱いからな……。シンプルに嬉しいよ、ありがとう本当に」

「いえいえ、どういたしまして」

「寒い中、待たせてしまったこともあるし、夕食を作ってくれたこと、プレゼントのことも考えて、今回は私からもアンシーにプレゼントがあります」

「え、えぇ? ピカロ様の誕生日ですよ?」

「いいんだよ、アンシーが飛びっきり喜ぶもん用意したから」



 なんだかんだ嬉しそうなアンシーを席に座らせて、目を瞑るよう言った。えっちなイタズラはやめて下さいねと釘を刺されたのでイラついたが、とりあえずは日頃の感謝などもあるし、今日はアンシーを喜ばせてあげようということで、ピカロは笑みを浮かべつつ準備をする。


 食器類を片付けてから、アンシーのもとへ。ワクワクを隠しきれていない可愛いメイドがニヤニヤしている。

 父が帰ってこないと知った時に思いついていた妙案を実行する。



「シェルムー! おーい! 下りてきてくれ!」



 今頃はピカロの部屋に窓から侵入し、息を潜めているであろう美青年を呼ぶ。聞き覚えのない名前に、アンシーが小さく首を傾げた。

 少しして、シェルムが階段を降りてきた。ニクス・ミストハルトがいないかどうかをまだ疑っているようだ。キョロキョロしている。

 急げ急げとジェスチャーで伝えるピカロ。

 目を閉じて椅子に座るメイド服の少女を見たシェルムは、大体のことを把握したようで、ゆっくりとピカロとアンシーの近くへ。



「アンシー、目を開けていいぞ」

「…………ッ! ギャァー!! イケメンッ!」

「ふふふ、初めまして。アンシーっていうんだ。美しい君にお似合いのステキな名前だね」

「これが私からのプレゼント、美青年だ!」

「最高じゃないですか!? ……でも誰!? なんで家の中に!?」

「ピカロの親友……相棒みたいな。僕の名はシェルム・リューグナー。好きな食べ物は可愛いメイドさん、ってね」

「きゃー! サイコー!」



 これまで仲良くしてきたアンシーの、見たことのない乙女の表情を見て、やはり世界は顔が全てかという絶望感と、アンシーが喜んでくれて嬉しいという達成感で変な顔をしているピカロが2人を眺めていた。



「それで、アンシー。君に伝えておかないといけないことがあるんだ。僕に、ピカロを貸してくれないかい?」

「ワタクシはピカロ様の保護者ではないので決めかねますが……領主様には伝えないのですか?」

「父さんには私から手紙を出しておくよ。これから旅に出るってね」

「いやいや旅にはでないよ、ピカロ。気が早いな」

「第1話で謎の美青年と出会ったら次は2人で旅するのが普通だろうが! ここはファンタジー世界だぞ!」

「知らないよそんなの。少なくともこれからのピカロの人生設計は組み立て済みなんだ。僕の計画通り動いてもらうよ」

「え、ピカロ様、こんな美青年の奴隷をやっていらっしゃるのですか? 羨ましい」

「ちげーわ! 相棒だわ、対等な関係!」

「はーい。発表します。ピカロ、よく聞け」



 勝手にピカロの未来設計を考えていたらしいシェルムが、得意げに口を開く。謎の美青年は、物語の背中を押す。歯車が、動き始めるのだ。



「まずは、僕とピカロで、魔法学園へ入学する! サクッと伝説でも残しに行こう!」


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