表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第四章 冒険者編
48/87

第四十七話 過去編(一)

『5/16に行った、物語の設定変更のお知らせ』


 『人間界と魔界が戦争を起こす理由』について、序盤の説明を大幅に変更しました。2020年5/16以前に第二話、第三話、第十一話、第二十四話を読み終えている読者様に向けたお知らせです。


【改稿前】

魔界側の政治的事情で、人間界へと逃げてくる魔王反対派の魔族団体との大戦で、ピカロは無能貴族になる


【改稿後】

『世界の書』という古代の遺物(アーティファクト)にて“予言された”大戦で、無能貴族になる


 この変更に伴い、今後は“予言された戦争”への言及が登場することになりますことを、ここに謝罪し、反省の意を示すため作者はオナ禁します。





 時は、ピカロが生まれた日から、約800年前。


 舞台は、遠い未来に、アルド王国と呼ばれることになる土地。


 昼下がりの市場を、男が走り回っていた。しきりに後方を確認しては、人の往来を器用にすり抜けて、市場の外へ。


 その男の腕の中には、大量の林檎リンゴがあった。



「待てぇーッ! 盗っ人だ! 誰か捕まえてくれ!」



 遥か後方から、果物屋の店主の叫び声。しかし男の足は速く、人々は林檎を持って走る男の姿など見てもいないような様子だ。


 男はニヤリと笑い、加速。瞬く間に消え去った。



「ふぅ。まったく、この俺様が捕まるわけないだろう」



 人里から少し離れた、山の中。素人建築のボロ小屋に帰ってきた男は、潰れてしまってもう柔らかくない藁の手作りベッドに横たわる。


 林檎を齧りながら、つまらなさそうな顔で呟いた。



「何か面白いこと起きないかなぁ」

「──ここらで有名な盗っ人の処刑、なんてどうです?」



 ボロ小屋の外から、低い声でそう言われて、男はすぐさま立ち上がる。直後、頑張って木材で作った歪な扉が裂けるように破壊され、陽光をバックに、巨漢が現れた。


 ボロ小屋の屋根に頭が引っかかって、頭を下げないと入ってこれないほどの巨躯。影が差して見えにくいが、その顔や身体中には、歴戦の猛者を思わせる傷跡が無数に刻まれている。


 腰を抜かしながらも林檎を食べ続ける男。見下ろす巨漢の背後から、もう1人が姿を現した。



「いやはや、下賤な盗っ人らしい、とても見窄らしい家に住んでいるんですね」

「誰だぁ、お前」

「私はリッキー商会の者です。この大きいのは、護衛の戦士ですね」

「今話題の大人気商会様が、こんなボロ小屋に何のようですか」

「心当たりがないとは言わせませんよ……どうやら小屋の周りには無かったので、どこかに隠しているようですけれど、我がリッキー商会の商品、盗みましたよね?」



 身なりは良いが、小さくてひょろっとした痩せぎすの男は、怒りのこもった声音で続けた。



「“アレ”はウチの新商品でして……倉庫にあった試作品だったとしても、とんでもない価格で売れるほどの価値があったのです」

「“アレ”って何だよ。もしかしてこれのことか?」



 林檎を咀嚼しながら、男は壁際のほうきを指差す。



「こりゃ確かにまぁ、掃除の時には便利だったが……」

「そんな棒切れなわけがないでしょう! おい、ぶっ壊してやれ!」



 痩せぎすの男に命令され、巨漢がノロリと動き出し、そしてその巨大な腕を箒に向けて振り下ろした。

 箒が粉々になったのは言うまでもなく、さらには箒が立て掛けてあった壁も崩れてしまった。


 玄関も壁もない、随分と風通しの良い家になってしまったようだ。



「“魔導台車”のことですよ。魔力を溜め込んだ貴重な魔石を埋め込むことで動く、馬いらずの馬車」

「はーん。しらねぇけど、馬に引かせた方が早いんじゃないのか? 魔石なんて、一般人には手に入らない代物だ」

「だから金持ち向けの大切な商品だったんですよ……あなたはどうせ、試作品に埋め込まれた魔石目当てで盗んだんでしょうが」

「証拠がない」

「証拠なら作ればいい。あなたを殺した後にね──さぁ、この男を殺せ!」



 痩せぎすの男が叫ぶと、巨漢が拳を振り下ろした。


 有名な商会に雇われた護衛のくせに、武器の一つも持たない馬鹿野郎だと侮っていたが、実際は武器を持つよりもずっと素手の方が強力なだけのようで、林檎片手に回避した男がさっきまでいた藁のベッドは、床ごと粉砕された。


 地面にヒビが入るほどの衝撃。今にも崩れそうになるボロ小屋。



「や、やばい逃げ場がない」

「あなたの腐りきった人生もここまでです」



 いやらしく笑う痩せぎす。逃げ場がないのは事実なので、本当にここまでかもしれない。


 絶体絶命のピンチに、顔が青ざめる男。震える手から林檎を落として、呟いた。



「お、俺様はこんなところで死ぬのか……まだ、まだ何も──」

「死ね!」



 不可避の拳が振り下ろされる、刹那。


 屋根を吹き飛ばしながら、何かが落下してきて、巨漢の頭に激突した。


 脳天にとてつもない衝撃を受けたためか、巨漢は一瞬で気を失い、倒れ伏してしまう。その背中には、鎧を身に纏った金髪の男が、覆い被さるように気絶している。


 一体何が起きたのか分からず、混乱する痩せぎす。


 先に動いたのは林檎の男で、すぐさま駆け出し、目の前で倒れる金髪の男の腰から、剣を抜き取ろうとした。



「いや重い……っ! 何だこれ!?」



 しかし剣が重すぎて、鞘から抜くことさえできない。その無様な姿を見て、痩せぎすが軽く笑うと、男はそちらを睨んだ。



「……てか、お前だけなら、俺様でも勝てる」

「ひ、ひぃ!」



 指をポキポキと鳴らして近づく男。痩せぎすは、護衛の巨漢を見たが、起き上がる気配はない。

 形勢逆転となるや否や、痩せぎすはみっともなく走り去っていった。


 林檎の男は追いかけない。今はそれどころではないからだ。



「いやぁしかし。この騎士の装備は凄いな! 重すぎるけど、ギラギラに輝く剣! 薄紫の盾! 見たことのない素材の鎧! どれも高く売れそうだ!」



 盗っ人の血が騒ぐようで、男はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。


 ところでこの騎士は生きているのかと、男は顔を覗き込む。どうやら呼吸はしているので、生きてはいるようだった。


 日に照らされた水面のような、黄金の頭髪は男でも見惚れるほどサラサラで、その顔立ちもまた彫刻のような美しさ。


 さぞ女にモテるんだろうな、と舌打ちすると、騎士は気絶したまま小さく呟いた。



「オルファリア……」




────✳︎────✳︎────




 ニクスが目覚めたのはその1時間後。鼻腔をくすぐる良い香りに撫でられ、本能的に目を覚ました。

 ゆっくり目を開けると、沈みかけの夕陽が赤みを残した空。紫と黒の夜が、じわじわと近づいている。


 全身がダルい上に、節々が痛い。致命傷は負っていないようだったが、少なくともしばらくは満足に動けなさそうだ。



「……ん? よぉ、起きたのか」



 頭上から声をかけられた。痛む首を動かして、声のする方向を見ると、そこには短く整えられた茶髪の、若い男がいた。


 動きやすさ重視といった風の身なりで、おそらく身分が高いわけではなさそうなのだが、不思議と大物の雰囲気を纏っている。



「だ、誰だ……君は」

「まずは自分から名乗るべきでは?」

「……あぁそうだな。俺はニクス……ニクス・ミストハルトだ」

「そうかニクス。お前は俺様の命の恩人だ」

「……?」

「あー、気絶してたから覚えていないと思うんだけど。俺様が絶体絶命のピンチの時に、タイミング良くお前が空から落ちてきて、ラッキーな俺様は助かっちゃったってわけだ」

「空から……そうか。やはりここは人間界……」

「人間界って……当たり前だろ。まだ朦朧としてんのか? とりあえずこの林檎でも食え。元気でるぞ」

「ありがとう……」



 病人というか怪我人というか、どう見てもコンディションの悪いニクスに、切られてもいない林檎を1つ投げる男。


 キャッチしようとしたが、腕が痛くて上がらず、林檎はニクスの腹の上に着地した。



「お前を寝かせているのはこんな寒空の下だが……今は暖かい鍋を作ってるから、安心してくれ。ちゃんと看病するつもりだよ……ちょっと諸事情で家を失くしてしまってね。今夜は野宿だ」

「そ、そんな状況なのに貴重な食料まで貰うのは……」

「大丈夫、その林檎も、この鍋も、中の食材も、全部盗んできた物だから」

「盗んだ……だと?」

「おうよ。俺様はここいらじゃ有名な盗っ人でね。誰もが俺様を警戒しているが……結局俺様から金品を盗まれる。俺様が凄いからな」

「盗みなんて……誇って良いことじゃあない。誰かが悲しんだのなら、この林檎はいらない」



 起き上がることさえできない重体ではあるが、ニクスは毅然として言い放った。


 すると男は、鍋から離れ、ニクスの方へ歩いてくる。ニクスの腹の上に乗った林檎を鷲掴み、それをニクスの口に無理やり押し込んだ。



「もがっ、何を!?」

「食え。林檎に失礼だ」

「んん〜!?」

「盗みが悪いかなんてのは、大多数の価値観であって俺様には関係ない。何が正しいかなんて時代や土地で変わる。少なくともお前は、俺様が盗みをしたことを悪だと思うみたいだが……食べ物に罪はない!」



 無茶苦茶な理論でねじ伏せてくる男。これでも看病してくれているつもりなのだろう。


 とうとう食欲や疲れに負け、ニクスはしぶしぶ口の中の林檎を咀嚼する。天界だろうが人間界だろうが、盗みは罪だ……だが確かに、この林檎に罪はないのかもしれない。


 ゴクンと飲み込み、ニクスは問うた。



「君は何者なんだ……一体」

「あ、そういや名乗ってなかったな」



 男は立ち上がった。鍋を温める焚火のあかりに照らされて、勝気な笑みを浮かべる。満点の夜空の下、自信満々に両手を広げて言った。



「俺様は世界最高の盗賊になる男──ザンドルド・ディズゴルドだ」




────✳︎────✳︎────




 翌朝、ニクスは天界人特有の回復力の高さで、全身の傷を癒し終えていた。



「……人間界では、天界の力が弱まるという言い伝えは本当だったのか。空から落ちた程度なら数時間で癒えていたはずなのに」

「おい、ボソボソ言ってないで手伝ってくれ!」



 ニクスがすでにピンピンしていることには、今朝のザンドルドも驚いていたが、現実への適応能力というか、受け入れる能力が高いらしく、既にそんなこと気にせず何かの作業に没頭していた。


 ニクスが近づくと、そこには木で出来た馬車のようなものが鎮座している。



「これは馬車か?」

「いいや、魔力で動く魔導台車って物らしい。でも魔力を貯蔵した魔石は高く売れるから、燃料としては使いたくない。そんなわけで馬車にしてやろうと思ってるんだ」

「馬なんていないじゃないか」

「盗んでくるに決まってるだろ」

「……そこまで徹底していると、もはや注意する気も失せるな」

「荷台そのものは、そこらの馬車よりも豪華だからさ……馬車を盗むより、馬だけ盗んで、この荷台を引かせようと思う。そしたらこの馬車が、今日から俺様の家だ!」

「ば、馬車に住むのか?」

「おうよ。世界中を旅する家だ。ロマンあるだろ?」

「ま、まぁ悪くはないが……」



 確かに馬車というには、かなり大きい。貴族の馬車でもこんなに豪華ではないだろう。


 しかし家というには流石に狭い。男が寝そべるだけで相当圧迫されてしまう。



「ちなみにお前の家でもあるぞ、ニクス」

「……え?」

「ここがどこかもわかってないんだろ? お前を故郷に届けてやるから、それまではここがお前の家だ」



 自慢げに言うザンドルド。盗っ人だというのにニクスの鎧や剣などには手をつけていないようだし、なんだかんだで根は優しいやつなのかもしれない。



「……俺の故郷には、おそらく馬車じゃ帰れないな」

「あー、海に浮かぶ孤島とか? だったら船を盗めばいいし、大した問題じゃないよ」

「……いや、その。信じてもらえるかわからないけど……俺は天界人なんだ」



 なんとなく、ザンドルドには素直に言った方がいい気がした。


 突然空から落ちてきた理由も、回復力が異常なのも、天界人であることを隠して説明できるとは思えなかったし、何よりこの男なら、受け入れてくれるのではないかと思ったのだ。


 しかし。



「いやそんなわけないだろ。天界人ってつまりアレだろ? 神様だろ?」

「いや、天界というのは確かに存在するんだ。想像上の神とは違う」

「……俺様はそんなに信心深くないからなぁ」



 ニクスが宗教的な思い込みをしていると思われてしまった。まぁ確かに、いきなり天界人だと言われて、はいそうですかと答える人間はいないだろう。


 ならば目に物を見せてやろうと、ニクスはザンドルドの隣に立つ。



「この馬車──じゃなくて魔導台車は、魔力で動くんだよな?」

「あぁ。でも魔石は抜き取ったから、もう動かないぞ」

「俺が天界人であると証明してやる」



 拳ほどの大きさの石が埋め込まれていたであろう窪みに手をかざす。


 やはり人間界なので、ニクスの力はほとんど発揮できなさそうだが、魔力を出すくらいなら楽勝だ。


 涼しげな朝の空気を吸い込んで、淡く光る粒子が掌に集まると、それはやがて魔力の奔流となって魔導台車の魔力回路へと流し込まれていく。


 突如、魔導台車はガウンガウンと音を立てて震えはじめた。まるで命が宿ったかのように、生命力溢れる駆動音が、2人の腹の底に響いた。



「うお! 魔力を流したのか!? 魔力なんか、ごく一部の貴族しか保有してないのに……!」



 正確には、魔力を有していた類稀なる人間が、崇拝の末に貴族へと成り上がるのだ。


 この時代はまだ、世界の中心である世界樹から魔力が供給されているとは知られていないので、たまたま世界樹に近い場所で生まれ育った人たちが、まるで突然魔力に目覚めたかのような扱いを受けていた。


 その者たちが、魔力を込めた魔石は、さまざまなエネルギー源としての使い道があり、想像を絶する高値で取引されていることからも、当時の魔力の価値の高さがうかがえる。



「ニクスお前、貴族だったのか!?」

「いや……違うけど」

「じゃあ何で魔力が!?」

「だから俺は天界人だって言ってるだろ」

「いやそれは嘘だろうけど……まぁ魔力をもってる奴が全員、貴族になりたいわけじゃないだろうしな。お前にも事情があるんだろ」



 魔力を保有した人間にはかなり驚いたようだったザンドルドだが、彼の常識ではどう頑張っても天界人の存在を認められないらしい。


 無理もないので、ニクスは深く説明することをやめた。



「何にせよこれで、魔石も馬も使わずにこの魔導台車に乗れるな!」

「どこかに移動するつもりだったのか?」

「俺様の家がなくなったって話をしただろ? それがよ、この魔導台車を盗んだことがバレたことが原因だったんだ。だからまた追手が来てもおかしくない」

「素直に持ち主に返せば、そんな追われる身として生活する必要はないのに」

「今更返したって、殺されるだけだ。世界はそんなに優しくねぇよ」

「盗んだ側が偉そうに……」



 ──こうして、後に世界最高の盗賊集団の頂点に立ち、伝説となるザンドルド・ディズゴルドと、人類史に残る大英雄ニクス・ミストハルトが出会い、そして共に旅に出ることになった。


 数奇な結び付きで邂逅した2人の日々が、順風満帆にスタートするかと思われたが──この数日後、世界中を襲う“生きた大災害”によって、2人の運命が大きく捻じ曲がることになる……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ