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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第四章 冒険者編
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第四十二話 誕生秘話


「いけいけいけぇーッ! です!」



 曇天を切り裂く雷の刃。蜘蛛の巣状に広がった雷魔法が、空中に浮くものを無差別に消し飛ばしていく──無差別も何も、空中にはアーバルデンの分身しかいないのだが。


 “雷剛らいごう”テテ・ロールアイン。


 体内魔力保有率6割を超える魔力お化けの彼女は、今年27歳になるにも関わらず、相変わらずの幼い容姿のままである──魔法幼女の名は伊達ではない。


 全身100%魔力で構成される魔族が、人間よりも寿命が長いように、魔力構成率の高いテテもまた加齢の影響が少ないようだ。


 人体に影響を及ぼすほどの魔力によって生み出されるテテの魔法は、少なくともアルド王国では5本指に入るほどの威力・規模であり、破壊力という一面で比べるならアルド王国最強かもしれない。


 対魔族の効率的かつ効果的な魔法運用ならば、アルド王国最高の魔術師スノウ・アネイビス学園長が他の追随を許さないが、魔族とか関係なく全てを破壊するだけならテテのほうが得意だろう。


 有り余る破壊力ゆえに、テテの魔法はむしろ実戦向きではなく、仲間さえ巻き添えにしかねない危うさを多分に孕んでいる。


 馬鹿の一つ覚えで、ひたすらに高威力の雷魔法ばかり修行してきた結果、ちょうど良い出力の加減を身に付けることが叶わなかった彼女にとって、今日の空はうってつけである──空に向けて放つのなら、仲間や周囲を気にせずに済む。


 そんな調子で猛威を振るうテテが王都の空を雷鳴と共に飛び回ることで、随分と分身の数は減ったように見えた──とはいえ、今も雨雲の上から無数の分身が降りてくる。テテの雷魔法がどんなに強力でも、王都の空はあまりに広い。



「──で、状況はどうなってる?」



 赤い鉢巻はちまきをたなびかせ、剣を構えるセクトが、背中合わせの同級生ファンブ・リーゲルトに問うた。



「お察しの通り被害は甚大。町中がパニックだ……でも国王城含め、重要な施設にはちゃんと強い人がいるから大丈夫だろうけど、だからこそむしろ一般人の居住区や商業地区では俺らみたいなそこそこの実力者が踏ん張ってる感じかな」

「アーバルデンの狙いはやはり国王か?」

「さぁな。とはいえ国王様を護衛しているのは、かの大英雄ニクス・ミストハルトと、ヴァーン・ブロッサム率いる王国立騎士団──国王が最も安全だと言える」

「ニクス様1人でも十分だと思うが……」

「万が一を考えてるんだろ。それに、大きな声ではいえないが……国王はワガママらしいし」

「1人でも多くの国民の命を助けることよりも、確実に自分の命を守ることを優先してるってわけか」



 背中を預け合う2人に、数体の分身が襲い掛かる。1対1なら負ける気のしない2人にとって、数の有利を取られている現状は苦しいものではあるが、互いをカバーし合いつつ戦えばどうにか凌げそうだった。


 特に、数体を一撃で葬るファンブの攻撃を確実に喰らわすために、セクトが正確に倒すべき敵を斬っていくという体制が出来上がると、効率がグンと上がった。


 “山脈砕き”ファンブ・リーゲルト。


 父であるアンサイア・リーゲルトは、王国立騎士団の副団長であり、“山砕き”と呼ばれた豪傑だ。その血を色濃く受け継いだファンブは、父と同じく、100キロを超える超重量の鉄剣を振り回して戦う。


 父の指導の賜物か、あるいはファンブの生まれ持った才能か──父の予想通り、ファンブは父を超えた破壊の権化へと成長した。


 山脈を丸ごと崩してしまうと噂の必殺技しかり、ファンブの剣は威力にこだわり過ぎて、攻撃の前後にスキが多い。1対1ならばまだしも、今回のような複数の敵を相手取る時には後手に回りがちだ。


 そんなファンブの全力を引き出すために、セクトは今ファンブの補佐に回っている。ファンブが鉄剣を振り回せば周囲の分身は粗方倒せるため、倒し損ねた分身や、ファンブが振りかぶっているときに襲い来る分身などを集中的にセクトが斬り伏せていく。



「俺たちの体力も無限じゃない……カノン元帥が言うところの“アーバルデン本体”を早く倒さないと」

「カノン元帥が今、本体を追ってるのか?」

「いや、この数の分身がいると、さすがに本体を探すのは難しいって言ってた」

「じゃあ誰かに任せるしかないな……」

「まぁ幸か不幸か、俺らの世代にはそういう美味しいところを全部持っていきやがる2人組がいるからな──」




────✳︎────✳︎────




「私の父親は大英雄ニクス・ミストハルトただ1人だ! お前なんぞ知らんわボケ!」



 ピカロが剣を抜き土を蹴る。合わせてシェルムも走り出し、左右に分かれてアーバルデンへ攻撃を始めた。


 アーバルデンは構えもせず立っているだけだ──案の定、2人の剣をまともに喰らうが……その刃はアーバルデンの黒々とした皮膚を斬ることができない。まるで鋼鉄を剣で叩いたかのような感覚で、ピカロの腕の方が痺れるほどだ。


 何食わぬ顔でアーバルデンは口を開く。



「まぁ義理の父ですよ──君の母親は私の妻でもある」



 ピカロの母親が、先代魔王の兄の妻。にわかには信じがたいアーバルデンの言葉に耳も貸さず、ピカロは追撃を試みるも、ハエでも叩くかのように軽くあしらわれ吹き飛ばされた。立ち並ぶ木々に衝突し意識を刈り取られそうになるピカロ。


 シェルムと共に一旦距離を取る。このままだと勝ち目が見えてこない。



「君は自分の母親について、何か知っていますか?」

「……何も」



 どうせ勝てないなら逃げるタイミングでも探そうかと考えたピカロは、適当に質問に応じる。もしもピカロとの対話が目的ならば、殺されることはないかもしれない。



「やはりそうですか。あの子なら、自分の正体を息子に知られたくないでしょうし」

「母は私が物心つく前に死んだ」

「……いや、確かあの子が死んだのは君が5歳の時だったはずですが」

「そ、そんなはずがない! 5歳の時の記憶は曖昧だが残ってる──母親に会ったことなんてない」

「まぁ会えませんよね。戦争中でしたから──」



 ピカロが5歳の時、ちょうど魔族と人間の大規模な戦争が終結した。きっかけは、父であるニクスが先代魔王を倒したからである。


 それにより当時の魔王軍はアーバルデンに率いられ魔界へと帰って行った。



「というか、その戦争で殺されましたから」

「……そんな話、父はしなかった」

「まぁしないでしょうね。“自分が妻を殺した話”なんて」

「……は?」

「もう気づいているでしょうけど──」



 アーバルデンは悪魔のような笑みを浮かべた。



「君の母親はオルファリア・シンス・ザルガケイデン──先代魔王であり、私の妹です」



 先代魔王オルファリア。歴代唯一の女性魔王である。



「私の方が圧倒的に強かったんですが……魔王なんて面倒くさくて嫌だったので妹にやらせたんですよ。そしたら殺されちゃいました。君の実の父親に」

「誰が……そんな話を信じる」

「事実ですから。信じるも何も。……いやぁしかし妻を自分の手で殺した時のあの男の顔、忘れられません。最高でした」

「ふざけるなッ!」



 アーバルデンの話が事実かはともかく、明らかにピカロの両親を侮辱するアーバルデンを許してはおけなかったピカロが、身体強化魔法を重ねがけし、跳ね上がった。


 蹴られた地面が捲れ上がり、木は倒れ土が舞う。山の中腹の薄闇を切り裂いて突貫──木々を斬り倒しながら振るった剣が、アーバルデンの首を捉えた。



「……お、意外と強いですね」



 岩だろうが鉄だろうが真っ二つにしていたであろうピカロの一撃は、アーバルデンの皮膚を薄く斬るに留まった。


 実際、アーバルデンは微動だにせず、ピカロは胸を蹴って離れる──実力差がありすぎて話にならない。



「……お前は、妹であり、妻でもあるオルファリアを私の父に殺されたのを恨んでいるのか。だから王都をめちゃくちゃに──」

「そんなわけないですよ。私は今日、君に会いにきたんですから。ピカロ・ミストハルト」

「……私に? 懸賞金目当てか」

「はははっ、いやだから義理の父親だからですよ。まぁきっかけはその懸賞金ですけれど」



 ピカロとシェルムの同級生であるイデア・フィルマーを魔界へと攫った最上級魔族──仮面の男が、2人への嫌がらせとして魔界で多額の懸賞金を2人に掛けた。


 その結果、2人のもとには定期的に懸賞金目当ての魔族が訪れ、返り討ちにされるのが2人にとっての恒例である。



「最近、人間界に行って帰ってこない魔族が増えてまして、何事かと思い調べてみたらなんと私の義理の息子が狙われていたので驚きましたよ。あの“クソガキ”が身分にモノを言わせたアホみたいな金額の懸賞金を掛けたせいで、沢山の魔族がそれに釣られていたんですね」

「全員返り討ちにしてやったさ」

「まぁ金に困っているような魔族なんてたかが知れてますしね。とはいえ私は君について名前しか知らなかったので、これは会いに行くチャンスだと思ったんですよ」

「私は……お前なんか知らない。目的はなんだ……なぜ王都を襲う!?」

「君と話すついでにアルド王国を滅ぼしてしまおうかなと思っただけです。君がやめてくれと言うならやめます。息子の頼みですからね」

「じゃあ今すぐやめて帰れよ魔界に!」

「……それはあまりに味気ないですし──それに、私以外に、オルファリアについて教えてくれる存在はいませんよ? 父親であるニクスはもちろん、事情を知るスノウ・アネイビスも君には母親について語ることはないでしょう。それがオルファリアの願いでしたから」

「……」



 正直、ピカロは母親について気になってはいた。


 自分が魔王の息子だったという事実だけを切り取れば、主人公になりたがっていたピカロにとっては朗報なのだけれど……その母親オルファリアを殺したのがピカロが最も尊敬するニクスであることは受け入れがたい。


 嘘だと思いたいが……まさか先代魔王の兄ともなる最上級魔族が、わざわざピカロに嘘をつくためだけに人間界に来たりするだろうか?


 魔王であることを隠した母親。母親は死んだと言い続けた父親。


 別に隠されたことを不満に思いはしないし、騙されたとも思わない──しかし、だからといって真実を知らなくても良いわけではないのだ。


 ピカロに限らず、死んだ母親について知りたがるのは、子供としてはむしろ当然の反応。とはいえ嫌な予感もする……ピカロを愛するニクスがそれでも口を開かなかった真実を、ニクスとオルファリアを侮辱したこのアーバルデンは話そうとしているのだから。


 ──ピカロは剣を下ろし、斜め後ろに立つシェルムを見る。


 シェルムは別段、口を挟む気はないらしく、ピカロの判断を待っているようだった。



「……母について、教えろアーバルデン」

「ええ勿論。その為に来ましたから──」




────✳︎────✳︎────




「なぜピカロ君の母親であるオルファリアが、夫のニクスに殺されたのかを語るには、そもそもニクス・ミストハルトという男について話さなければなりません。


 なぜならば、オルファリアとニクスの出会いは、君が生まれる遥か大昔──およそ800年前のことだからです。


 オルファリアは最上級魔族……というか魔王なので、勿論寿命は人間とは比較できないほど長いですが、ニクスもまた、普通の人間ではありませんでした。


 まぁあの強さの人間がいるはずもないということは、よく考えればわかることなんですけれどね。


 ニクス・ミストハルトは──天界人です。


 魔界、人間界、天界。私はそこに優劣は付けませんが、とにかくニクスは天界で生まれ育った天界人。それも、天界では有名な一族の末裔だったらしいんですけれど、それについては詳しくありません。たしか、“ミストハルトの戦士”とか呼ばれる一族……。


 そんなニクスがなぜ人間界にいるのか──彼は天界の法律に触れてしまい、人間界に落とされてしまったのです。

 何をしたのか──それがまさに、オルファリアと出会ったこと。当時の天界では、魔族との交流・接触は法律で禁止されていたらしいのですが、ニクスとオルファリアは頻繁に逢引をしていたそうで……。


 どんな風に2人が意思の疎通を図っていたのかや、どうやって会っていたのかは私は知り得ませんけれど、さすがに魔王が天界にいて誰にも見つからないっていうのは無理だったみたいですね。


 オルファリアは別に、天界へ侵攻しに行ったわけではありませんでしたから、攻撃の意思はないことを示して、魔界へと帰っていきました。


 まぁ、天界人が束になってもオルファリアに勝てたかどうかは怪しいですけれど。それこそ“ミストハルトの戦士”でもなければ魔王を止めることはできないでしょう。……その頼みの綱であるミストハルト本人が魔王と繋がっていたというのだから、当時の天界はまさしく危機ですね。


 そんなわけで、2人の恋は法律によって引き裂かれてしまいました。


 天界にいたころは、オルファリアと何度も逢引していたニクスでしたが、人間界に落とされてからは、オルファリアとの接触はできなかったようです。人間界では、天界人は十分な力を発揮できないことが理由だと私は推測しています。


 そこからニクスに何があったのかは私は知りません──無論、私は魔界にいましたからね。当時のオルファリアは痛々しいものでしたよ。恋人を失い、絶望にのたうち回る妹を、私は見守ることしかできませんでした。


 ──それから700年以上経ったある日。いつものように人間を殺しに人間界へと赴いていた魔王軍の一部が、全滅したとの報告がありました。


 そんな強い人間はいなかったはずだと私たちは困惑し、人間界に何が起こったのかを確かめることにしました。


 その結果わかったのは、人間界に突如現れた1人の男が、魔王軍を蹴散らしたという事実。


 その化け物こそ、ニクス・ミストハルトでした。


 それを知ったオルファリアは魔王自ら魔王軍の先頭に立ち人間界へ攻め込みました。目的は勿論、ニクスとの再会。しかし人間界からすれば魔王が現れたわけですから、全面戦争を覚悟しますよね。


 そうしてそれから何年もの間、人間と魔族の激しい戦争が続きました──それなのに一方で、オルファリアはニクスのもとに通う毎日。こんなのを戦争と呼んでいいのかはともかく、互いの軍の最高戦力である2人は、剣を握らず、手を握っていたわけです。


 やがて、2人の間に子供ができました──それが、ピカロ君です。


 お互いに、ピカロの存在を隠しました。なぜなら、人間界において魔王の子供など認められるはずもなければ、魔界において人間の子供などエサでしかないから。


 そうして、2人だけの秘密にしていたつもりだったんでしょうが……オルファリアの兄である私だけが、このことに気づきました。


 オルファリアの身長、体重などは毎日チェックしてましたし、変化に気づくのは当然です。


 ……は? 変態? 兄は妹について全てを知る権利があるのですよ。決してストーカーなんかではありません。


 まぁ、そんな経緯で、妹が子供を産んだと知り──私は怒りました。私のオルファリアを、私だけのオルファリアを汚したニクスを、私は許しませんでした。


 だから、まぁ──」



 アーバルデンは、顔を紅潮させて言った。



「私はオルファリアをレイプして、子供を作りました──それがピカロ君の義兄弟であり、“現魔王”デスファリア・シンス・ザルガケイデンなのです」



⚠︎読まなくていいです⚠︎


 この度、Twitterにて『無能貴族(仮)』の宣伝アカウントを作りました!

 理由としては、『なろう作家 底辺』で検索したところ、ブックマーク数が50〜60くらいの作者が底辺扱いされており、半年以上やっててブクマ2の自分が可哀想になったからです……笑ってんじゃねぇぞ。


 この小説は現在、ブクマをしてくれているその2人のためだけに書いていますが、それが増えたらモチベーションが上がるなぁということで宣伝することにしました。


 万が一、読者が増えて下さったとしても、この下品な作風を変えるつもりはないので、よろしければこれからも応援していただければなと思います。


 これからシコって寝るであろう皆様、お腹を冷やさぬよう、シャツインして、おやすみなさい。

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