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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第四章 冒険者編
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第四十話 危険思想




「祝! 第四十話!」

「キリが悪い。せめて五十話で祝えよ」

「黙れシェルム! お前なんか川端康成かわばたやすなりみたいな髪型にしてやる!」

「や、やめろぅ! 川端康成みたいな髪型だけはやめろぅ!」

「いやーしかし、なんとなーく書き始めた小説がもう四十話まできたってのは我ながら驚くな……まぁ私は作者じゃないんだけれど」

「なんとなく、に尽きるよな。こんな作品書きたいなぁってのは頭の中にボヤァとあったけど、実際に文字起こししてさらにネットに上げるなんて考えてなかった」

「その結果、先日でついに合計2000PV(閲覧数)を超えたからな。ありがとうやでほんまに」

「そういや、こういうストーリーと関係ない話するのも久しぶりか?」

「私たちのセリフの応酬で始まるのは久しぶりだな。最初の方はストーリー全然進まずに、テキトーに話してるだけの作品だったけど、まぁまぁ進んできた。現に私たちはもう26歳だし」

「結局、ストーリーを進めた方がいいのか、テキトーなギャグでグダグダしてた方がいいのか……何すれば人気がでるかなんてわかんないよな」

「登場キャラは増やすべきだろ。例えば今流行りの男のとか」

「何だそれ」

「知らないのかシェルム。女の子の見た目をした男の子だよ。ハイブリッドだな」

「あぁ……ビートルズのポールマッカートニーみたいな?」

「あれはお婆ちゃんみたいな見た目のお爺ちゃんね。やめてねそういうの」

「おふざけはともかく、ピカロ。今回から新章開幕だぞ。冒険者編スタートだ」

「冒険者やる必要あるか? 私は無能貴族になりたいんだぞ?」

「SS級冒険者という肩書は、正直言ってアルド王国軍大将ってのより凄いから……そういう意味では僕らの株を上げるチャンスにはなる。あなる」

「あなる?」

「は?」

「え、いや今あなるって」

「言ってねぇよ死ねバカ」

「何だこいつマジで。メガネ割れちまえ」

「そもそもメガネ掛けてねぇよ」



 話しながら歩く2人──向かう先は、冒険者ギルドだ。


 魔界にて懸賞金を掛けられているため、国外追放されかけていたピカロとシェルムは、アルド王国軍元帥カノン・リオネイラを含む一部擁護派によって一時的に国外追放を免れた。


 盛大な無茶振りである特別任務を、見事に遂行してみせた功績を評価している擁護派と、それでもなおアルド王国内に魔族を誘き寄せてしまう危険性を危惧する追放派──そんな軍部の話し合いに参加できないピカロとシェルムが出来ることは、ただ自らの価値を示すこと。


 喫緊の目標としては、追放派を黙らせるために成り上がること。長期的な目標としては、迫る魔族との決戦にて、ピカロが作戦総指揮を任されるための下準備といったところか。


 アルド王国の戦力のトップになるにはライバルが多い。


 伝説の勇者、大英雄ニクス・ミストハルト、魔法学園長スノウ・アネイビス、王国軍元帥カノン・リオネイラ、王国立騎士団団長ヴァーン・ブロッサム……ピカロが知っている中でもこの5人は強敵だ。現時点ではピカロよりも信用されているだろうから、このうちの1人が総指揮を任される可能性は極めて高いだろう。


 もっと言えば、まだ隠れたダークホースもいるかもしれない。それこそピカロとシェルムの同級生は粒揃いだった──魔法学園を退学してから11年、国外にいた2人は同級生たちとの接触はほぼ無かったが、噂によると桁外れの化け物に成長したやつもチラホラいるとか。


 とにかく、周りに追いつくにはひたすらに功績を積み上げる他ない。


 次の目標は、冒険者のランクとして最上級の、SS級冒険者になることだ。


 ──今や話題沸騰中の2人は、ギルドに向かう途中も何度も声をかけられ、気分上々な様子でギルドの扉を開けた。


 昼間から騒がしい冒険者ギルド。入り口に立つ2人を見て一瞬静まり返ると、冒険者たちは目を見開いて喜んだ。



「うお、本物のピカロ・ミストハルトだ!」

「シェルム様よ!」

「ちょ、サインください! サイン!」

「俺も俺も!」



 想像していたより反応が良く、見栄っ張りで自尊心の塊なピカロは大いに喜んだ。シェルムは当然だろうというような顔をしている。


 そこそこで切り上げ、道を開けてもらい、受付嬢に話しかける──その間も背後で冒険者たちが注目していた。



「あー、冒険者になりたいんだが」

「ちょっとここだと他の冒険者たちが騒がしくて色々と滞るので、上の階の部屋にてご説明いたしますね」

「ふふ、VIP対応だな」



 ギャラリーと化した冒険者たちが仕事もせずワラワラと集まり始めたので、受付嬢は上の階へと2人を導き、部屋の中へ。


 窓から陽光が差し込む広い部屋には、大きなソファーが2つ、机を挟んで対面する形で置かれていた。



「普段、身分の高い方や軍部の役人などが訪れた際にはギルド長が自ら対応するんですけど今日は席を外していて……ここは滅多に使われていない応接室なんですけど──ってそんなことどうでもいいんです! あ、あの私もサイン貰っていいですか?」

「おうよ、構わんとも」

「……ピカロ、お前サインなんて作ってたのか」

「大きいちんぽと小さいちんぽが戦ってる絵を書いてる」

「ファンが減るぞ」



 あくまで仕事として対応してます感のあった受付嬢も、誰も見ていない応接室に入った途端、目をキラキラさせてサインを求めてくる──随分と人気になったものだ。


 無論、アルド王国内だけの人気だろうが。



「あ、ありがとうございます……。では早速、冒険者について簡単に説明しますね」



 ──受付嬢の説明を要約すると、以下の通りである。


 冒険者となるにはこの冒険者ギルドで登録をする必要がある。登録した冒険者はその時点でE級冒険者として扱われる。


 冒険者ランクはE、D、C、B、A、S、SSの順で上がっていく。


 ギルドから発注、依頼されるクエストを請け負い、見事達成すれば報酬を得て、それを積み重ねて冒険者ランクを上げればより報酬の良いクエストを受けられる。無論、その分危険は伴うけれど。


 とまぁ、よくある冒険者設定だ。



「お2人には失礼かもしれませんが、実力があるからといっていきなりS級冒険者などになれるわけではありません。あくまでクエストを積み重ねないと昇級はしませんので、ご注意ください」

「なるほど……一応SS級を目指してるんだけど、現実的に何年くらいかかりそう?」

「そうですね……こればかりは個人差がありますし、運も絡んでくるので何とも言えないんですけれど、ただ目安としてお教えすると、今現在アルド王国には、SS級冒険者は2人しかいません。全国に、2人だけです」

「……まじか」

「SS級が2人、S級が10人、A級は30人ほどでしょうか。別段人数に制限はないので狭き門というわけでもありませんけれど、普通にクエストを消化して生活できるくらいの冒険者でもB級が限界ですね」

「生活できるレベルの冒険者でもB級か……」

「まぁお2人なら大丈夫でしょう! 現に、お2人の同級生が既にS級になってますし!」

「ど、同級生? 魔法学園の?」

「はい! 黄金世代と呼ばれてますからね!」



 実際、ピカロとシェルムが在籍していたのは1か月ちょっとなので、11年も経過した今、ほとんど顔も名前も覚えていないのだが……。


 ザンドルド盗賊団に所属してはじめての任務の際、セクト・ミッドレイズとは遭遇したけれど、それが最初で最後だった。同級生たちは主にアルド王国内で活躍していたらしく、国外追放されていた2人には情報が入ってきていない。



「先日、ミューラ・クラシュさんと、サイデス・ノルドさんがS級に昇級しました」

「……あー、あいつらね。あれね。ミューラ・クラシュとあれね。サイデス・ノルドね」

「ピカロお前忘れてるだろ」



 読者も覚えていないだろうから補足すると、ミューラ・クラシュとサイデス・ノルドは、どちらも新入生トーナメントにて、闇堕ちしたイデア・フィルマーに素手でボコられて敗退した生徒だ。


 魔術師科ミューラ・クラシュと、騎士科サイデス・ノルド。どんな繋がりかは不明だが、基本的に2人組で活動している。


 ミューラは化け物レベルの美女で、サイデスはシンプルに化け物みたいな巨漢だ。



「しかし黄金世代って呼ばれてたのは知らなかったな」

「粒揃いですからね! 有名な人でいうと、先程言いましたS級の2人。“万能魔女”ミューラ・クラシュ、“拳闘剣士”サイデス・ノルド。近年台頭してきているのが“神速の刃”セクト・ミッドレイズ、“雷剛らいごう”テテ・ロールアイン、“山脈砕き”ファンブ・リーゲルト、“至剣”リード・リフィルゲルあたりでしょうか」

「へぇー、テテちゃんは覚えてるぞ。魔法幼女だろ。……今は“雷剛”って呼ばれてるのか」

「まぁでもやっぱり1番の有力株はお2人ですとも!」

「ったりめぇよ」

「“次世代の大英雄”ピカロ・ミストハルトと、“紫紺しこんのファンタジスタ”シェルム・リューグナー!」

「いやファンタジスタて。ダサいな」

「誉れ高きアルド王国立魔法学園の新入生トーナメントを1位、2位で通過してかの有名な魔法学園生徒会に所属。その後はアルド王国軍に引き抜かれ1年で10体の中級魔族を討伐! 16歳という若さで、11体ずつの中級魔族を討伐しているという驚異の成績です。ちなみに11体というのは中級魔族討伐数トップ30には食い込めますね」



 実際には、この11年間、飽きるほど懸賞金目当ての魔族が2人のもとに押し寄せていたので、2人ともそれぞれ100体は余裕で殺してきたのだが、これを言っても受付嬢は信じてくれないだろうし、公式に記録されていないので自慢もできない。



「さらにさらに、16歳にしてS級ダンジョン『メドゥーサの塔』をたった2人で攻略! これは前代未聞ですね。ネーヴェ王国との外交問題に発展しかけたそうですが……。そしてその直後、歴代最速かつ最年少でアルド王国軍大将に! これも信じられません!」



 これまた実際には、特別任務(国外追放)をよりスムーズに進めるためにカノンが便宜をはかってくれただけで、2人の功績が評価されて順当に昇格したわけではない。


 現にあれは特別任務中のみの措置だったため、どの道あの任務が終わればただの軍人に戻っていたはずだ。



「それからは空白の10年ですね……何らかの任務で国外へと旅立ったお2人の噂はほとんど聞きませんでした。何なら死亡説まで出てきたくらいです。しかし10年後私たちは再び驚かされます! なんとあの世界最高額賞金首ザンドルド・ディズゴルドの討伐と古代の遺産(アーティファクト)の1つ黄金殻おうごんかくの鎧の回収! それに伴った実質的なザンドルド盗賊団の壊滅! こんな偉業をまたもやたった2人で成し遂げてしまいました! このニュースを聞いて、むしろたった10年で幻の人物ザンドルド・ディズゴルドの背中に手が届いたのかと驚きました。なにせ、世界中の軍事組織が何百年も追い続けていたわけですからね。それを10年で実現してしまうとは……」

「く、詳しいな」

「当たり前です! 今最も注目されている若手最強の2人組ですからね!」



 おそらく、この受付嬢がミーハーなだけだろうが、そうでなくとも2人はそこそこ有名らしい。まぁ確かにこうして振り返ると、主人公さながらの大活躍ではある。



「噂によると、あの世界樹の杖も持ち帰ったのではないかと言われてます……これはテイラス共和国との外交問題なのであまり大きな声では言えませんけど。実際、どうなんですか?」

「それは内緒だ」

「まぁそうでしょうね……」



 自分の中では確信しているのか、ニヤニヤしている受付嬢。


 ふと、ピカロは思いついた疑問を口にしてみる。



「そういや、受付嬢さんは私とシェルムのファンなんだよな?」

「は、はい」

「サインを欲しがるくらいには私のことを好きってことだよな?」

「そうなりますね」

「じゃあ、まぁ。つまり、私のことが好きなわけだ」

「……いやあくまでファンとして──」

「好きなわけだ。私のことが」

「……」

「それならさ、ほら。しようよ」

「な、何をですか?」 

「セックス。セックスセックス」

「え」

「え、じゃないよ。セックスしようよ。私のこと好きなんだろ?」

「いやその私はそういう意味で──」

「いやいやいや。もう好きって言っちゃってるから。サインまで貰っちゃってるから。そこまでしておいてセックスはしませんってのは意味がわからないでしょ」

「サイン貰ったからってそういうことするわけじゃないんですけど……」

「……は? お前いい加減にしろよ?」

「ひ、ひぃっ、怖い」

「あのな、この世にはお前より美人でスタイルもいいのに風俗嬢やってたりAV女優やってたりする女がいるんだよ。お前はそのレベルの容姿のくせに自分の体を大切にしようってか? 笑わせるなよ」

「美人が体を売っていることは、私がそういうことをする理由にはなりませんけど……」

「“そういうこと”って何だよ。セックスだろハッキリ言え」

「……ちょ、シェルムさん、助けてください。ピカロさんがおかしくなってしまいました」

「いや、コイツはこれで正常だ」

「じゃあわかったよ! 頭下げるわ! お願いします! どうか私とセックスしてください!」

「え、えぇ……」

「お願いします! この通りです! セックスしてください!」

「いやだから嫌ですって」

「本当にお願いします! 頼む! 一回やらせてくれ! 本気で!」

「……気持ち悪い」

「こんのクソ女ァッ! ぶち殺すぞ!」

「きゃーッ!」

「“次世代の大英雄”が土下座して、床に頭擦り付けて頼んでんだよ! プライドとか世間体とか捨てて、成人男性が本気で頼み込んでるんだよ! それでもまだセックスしないだけの高尚な理由がお前にあるのか!? ねぇだろ股開けアバズレぇ!」

「こ、殺される……!」

「マジで何なの? なんで女ってそこまでしてセックスを嫌がるの? いや例えば“死んでくれ”とか、“1億ゴールドください”とか、取り返しのつかないことを頼まれたんならわかるよ。でもセックスしてくださいってだけだからな? ただセックスするだけ。まるで人生が終わるかのようにセックスを忌避するけど、合理的な理由はないだろ」

「……合理的とか知らないですけど、普通に嫌です」

「だーかーらー! なんで普通に嫌なんだよ! 私は全然いいよ、道端で知らない女にセックスしてくださいって頼まれたらセックスするよ? めちゃめちゃするよ? 人生一回しかないんだから適当に、なんとなく嫌だからって断らないよ?」

「男性と女性では性に対する価値観が違うんです」

「女性の価値観とか知らねぇから。お前個人の価値観の話だよ」

「ですから私は個人的に嫌なんですって!」

「ふざけるなぁッ! おい作者! 今すぐこの女の四肢をもぎ取って肉ダルマ便器女にしてソファーに転がせッ! 私の大剣をその汚ねぇ股ぐらにぶち込んでやる!」

「誰か助けてー! 男の人ー!」

「結局最後は男に頼るのか! そうやってピンチの時は男に助けを求めるくせに、男の股間がピンチの時にはお前ら女は知らんぷりってか!? 乳首引きずり回すぞ!」

「おい、おーい。ピカロ」

「なんだよシェルム邪魔するな。今からこの女を私の精液タンクに──」

「もう第四十話終わりだよ。下らない話してたら終わっちゃった」

「……いやそんなわけないだろ。ストーリーが1ミリも進んでないんだぞ」

「うん。ストーリー進んでないし、ほとんどセリフだけだし。でも終わり」

「そうか」

「いやそうかじゃないだろ。謝れ読者に」

「知らん。読者がブラウザバックした後も私の人生は続くんだ。この女を今から痛めつけるという意味では私の中の第四十一話は既に始まっている」

「ちゃんと『小説家になろう』のガイドラインに触れるぞ」

「文字起こししなければいい。小説として書かれなければ何も無かったのと一緒だ」

「……」

「じゃあな読者。私は忙しいんだ。お前らはどうせコロナで外出自粛中だから暇だろう。ワンピースでも1巻から読み返してなさい。ユースタス・キャプテン・キッドを応援しなさい」

「僕が代わりに謝罪します。すみませんでした本当に。ではまた次回、お会いしましょう」



 ──次回こそは、ストーリーが進むと信じて。



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