第三話 全編台詞
「オッス! オラ悟空! アルド王国の大英雄ニクス・ミストハルトの息子ピカロは5年前に夢に出てきたサキュバスに再会するため魔物ひしめく森へ1人向かった! そこで出会ったのは何と謎の美青年シェルム・リューグナー! 自称超重要キャラのシェルム曰く、今朝産まれた現国王の第一子が“伝説の勇者”らしい! その事実がピカロのサキュバスとの再会という目的とも関わっているというシェルムは最後、“無能貴族”になれとピカロに言った! その言葉が意味することとは!?」
「要約ありがとう、ピカロ。しかしこの要約さえあれば第1話と第2話はいらなかったとも言えてしまうけど……まぁいいや」
「ちなみにアルド王国の他にもいくつか国はあるし、それぞれ複雑な関係性はあるけど、その都度この私がわざとらしく──じゃなくて、わかりやすく解説するから安心してくれ!」
「読者に優しい作品となっておりますヨイショッ」
「ヨイショッ」
「私から読者に対する解説は終わった。次はシェルム、お前が読者と私に説明するターンだ。ドローしやがれ」
「僕のターン、ドロー! 僕がピカロに“無能貴族”になれと言ったのはあくまで結論で、この話を理解するにあたって前提としてわかってもらいたい情報がある! 耳の穴かっぽじって聞き散らかせ陰キャども!」
「作者も陰キャなら読者も陰キャってか? ハッハーッ! 笑えねぇぜッッ!」
「まず、ピカロの父ニクスが英雄と呼ばれるきっかけである10年前の出来事。突如アルド王国を襲った魔界からの刺客による破滅の危機。その中でなんとニクス・ミストハルトは当時の“魔王”を討ち取った!」
「やはり私の父は凄い! 父が言うにはその時の魔王は既に老いていて、噂に聞くほどの実力は残っていなかったらしいけれど、それでも魔王は魔王! それを倒すだなんてお父さん素敵!」
「その日から少しずつ人間界に現れる魔物の数が減っていった。おそらく、王位継承とかで魔界でもゴタゴタしてたんだろう。それでも、理性のない下級魔獣は、魔界の空気さえあれば自然発生するため、今僕たちがいる森のように、何らかの理由で魔界の空気が充満してる場所には未だに魔獣がうじゃうじゃいるぞ!」
「なんと! ここは魔界への入り口だとばかり思っていたが、実際には魔界の空気が漂っているだけの森だったのか!」
「人間界から魔界へ通じる道は1つしかないんだ。しかし魔界から人間界への入り口は確認されているだけでも数十個! 故にいつでもどこからでも現れることのできる魔物に人類は悩まされているということだな!」
「その1つしかない人間界から魔界への入り口ってどこなんだ、シェルム!」
「その話はいずれする。重要なポイントだからな。さて、話を戻すが、その数十個あった魔界からの入り口が、その数をどんどん減らしていっているというのが大問題なんだ」
「いやいや、それは人類にとっては嬉しい誤算じゃないか。私も魔物に怯えて暮らすのは嫌だ」
「しかし、このまま人間界と魔界の繋がりが減っていき、やがて完全に断絶されたら! ピカロ、お前はサキュバスと再会できなくなる」
「たしかに! ……でも、5年前のあのサキュバスが、魔界に帰っていない、つまりまだ人間界にいる可能性はないのか?」
「それはない。他の上級魔族ならまだしも、サキュバスは人間界には出てこれないんだよ。夢の中でなら自由だが、人間界ではその体を保てない。やや特殊な魔族だからな」
「詳しいなやたらと」
「作者のプロット盗んできた」
「やめてやれアイツ泣くぞ」
「ともかく! 物語を進めるために、作者の力によってサキュバスにはそういった体質になってもらった。というわけでサキュバスに会うには魔界に行かねばならないという点を覚えておいてほしい」
「わかった。というか今更だが、どうしてお前は私の夢について知ってるんだ? 初対面なのに」
「それは僕が超重要キャラだから。物語の序盤に伏線張ったって、読者は物語後半には忘れてるだろうから、この辺の話は後半にする。ご都合主義だと罵られても興奮するだけだから無駄だぞ読者諸君」
「……雑すぎる気もするが、確かに世界観とか設定とかを大切にする作品だったらここまでメタ発言が飛び出てこないよな」
「そういうこと。この小説は矛盾とか間違いとか指摘した方が負けという素晴らしく画期的なシステムを採用しております」
「次の質問! さっきまでの話と、伝説の勇者はどんな繋がりがあるんだ?」
「魔界から人間界への入り口が無くなっていき、実際、魔物の数も減っていっている現状を、アルド王国の上層部はこう考えている。“魔界が人間界から手を引いた”のだ、と」
「だったら伝説の勇者なんて必要ないんじゃないのか? 魔界に関する問題は時間が解決すると踏んでるわけだろ?」
「あぁ。だが、『世界の書』で予言された魔族との大戦と、伝説の勇者の誕生……これで国の上層部は閃いたんだよ。とあるストーリーを」
「予想もつかないので正解をくれ」
「つまり、どうせ魔界側から離れていってくれるならば、最後に伝説の勇者に魔族をボッコボコにしてもらって、あたかも“アルド王国の勇者が魔界を滅ぼした”という風に大衆に見せかけようという魂胆だ」
「大衆は、魔界側から離れていっている現状を知らないのか?」
「アルド王国が情報を規制している。だから王国民は、魔界との繋がりが薄れつつあることも、それにより魔物が減少していることも知らないんだ」
「……だとしても、他の国の国民はどうだ? 魔物が世界的に減ってるなら、他の国もそれには気がついてるんだろ?」
「もちろん。だがな、面白いことが今、世界では起こっている。……聞いて驚け。なんと今朝、アルド王国の第一子が産まれたのと時を同じくして、他の大国でも伝説の勇者と噂される子供達が産まれたんだ」
「おいおい伝説の勇者は1人で十分だぞ……。ストーリーがややこしくなるだけだ」
「東のアルド王国、西のテイラス共和国、南のジンラ大帝国、北のネーヴェ王国……この世界の四大国それぞれの国の王様の子供が今朝同時に産まれ、全員が凄まじい魔力を宿していた。んで、アルド王国と全く同じシナリオを、各国も考えてるわけだ。つまりはまぁ、予言された大戦で、勇者たちが成果を競い合うことになる。理想は、魔王を倒すことだろうな」
「魔王なら10年前に私の父が倒したぞ?」
「新しい魔王が即位してるに決まってるだろ。そいつを倒して実質的に魔界を滅ぼしたぞーって宣言するのが各国の目標だ。んで、遠回りになったけどようやく問題点が見えてきたか?」
「ああ、そもそも魔界との関わりが無くなる上に、それを伝説の勇者によって積極的に早めようとする動きが世界で起こってる……つまりサキュバスとの再会が絶望的になったってことだな」
「でも1つだけ。たった1つだけ道がある。いいかよく聞けよ。世界で唯一、刑罰の最高刑が死刑ではないのがアルド王国だ。では重大な犯罪を犯した者に、この国は何をする?」
「──魔界送り」
「そうだ。世界で唯一、人間を魔界に落とすことを刑罰としているのがここアルド王国だ。ならやることは1つだろ? ピカロ」
「だが魔界送りにされるほどの大犯罪なんて、何をすればいい?」
「ちょうどお誂え向きのイベントがあるだろ。──伝説の勇者による魔族討伐だよ。お前はそれを何とか邪魔しまくるんだ」
「そんなことしたら確かに魔界送り確定だな……人類の敵そのものだ」
「だがやるしかない。安心しろ、この小説ではモブキャラは死なない設定になってるから、魔族との戦闘で人類を邪魔しても誰も死なない。ご都合主義バンザイだ」
「そりゃ安心だな。とはいえ、現実的ではないだろ。もし仮に私とお前だけで伝説の勇者を止められたとしても、アルド王国軍は止められないし、何より他国の伝説の勇者たちはどうするつもりだ?」
「それも考えがある。ピカロ、お前は都合のいいことに、大英雄の息子だ。その親のスネをかじりまくって、どうにかこうにかアルド王国軍の指揮を執ればいい」
「魔族を滅ぼす作戦の指揮を私が? アルド王国軍が負けるように指示を下すってめちゃくちゃ難しいだろ」
「いいや、ことごとく作戦失敗を重ねればいいだけだ。とにかく魔界側が負けないように上手くやるしかないな」
「……それでアルド王国軍及びアルド王国の伝説の勇者を止められたとして、他国の軍や伝説の勇者たちはどうするんだ?」
「アルド王国にとっての大犯罪者になればいいのであって、他国にまで迷惑かける必要はない。アルド王国なら魔界送りだが他国なら死刑にされちまうよ」
「あくまで、アルド王国軍を止めるんだな」
「というわけで結論言います! 読者の皆さん、ここだけ覚えて!」
「言ったれシェルム!」
「大英雄の息子という立場を利用し、予言された魔族との大戦においてピカロは作戦指揮を執る。それで何とかアルド王国が負けるよう、死ぬほど失敗を重ねる。そんな、権力だけはある分厄介な無能貴族となって、最終的に魔界送りの刑にて魔界へ行こう! ということだ」
「ファンタジー作品、特に戦記モノとかに出てくる無能な指揮官、“無能貴族”になってやろうということだな!」
「そういうことだ!」
「……今時、同じ設定の作品とか沢山転がってんじゃね? 設定カブってるかもよ」
「まぁ、この設定は正直そこまで大切じゃないからな。作者は僕とピカロの適当なやり取りを書きたいだけだから」
「あ、はい」
「そんなわけでようやく読み終わった皆さん、お腹を冷やさぬよう、シャツインして寝てくださいね」
「……てか第3話セリフだけやないか」
「指摘遅すぎだろ。まぁとりあえず……」
「「第4話でお会いしましょう!」」