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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第三章 王国軍編
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第三十二話 巨塔攻略



 ダンジョン攻略。


 特に、この世界特有のルールなどは存在せず、そもそもダンジョン自体この一度くらいしか登場させるつもりはないので、2人が足を踏み入れたダンジョンのあり方は、多くの読者が想像する通りのそれである。


 階層を進むごとに敵が強くなり、最終的にボスっぽいモンスターがいる構成。


 諸事情により、下層へ下層へと行き、最下層にボスというダンジョンではなく、上層へと塔を登っていくという特徴はあるが、それ以外はよくあるダンジョン設定。


 『小説家になろう』のファンタジー作品としては、いわゆるステータスという設定が多く、主人公や敵のレベルだったり能力値だったりが公開されるパターンがある──そうすれば、階層ごとに現れた敵のレベルによって、その場所の難易度をわかりやすく伝えることができる。


 しかし残念なことに、そういうのを考えるのが面倒くさいという作者の意向から、この作品においてステータスなどの明確な数字による戦力値比較は行われない。


 一応、保有する魔力量に差があることは何度も書いているが、それも目に見えるわけではないので、どうせ伝わっていないだろう。というかそこまで大切な要素ではないので伝える気もないのだが。


 ──そんなわけで、本来なら、段々と強くなっていく敵を2人が薙ぎ倒していき、やがてボス部屋に辿り着くまでの流れを描写して、ボスと対面したあたりで次回へ……という話の構成にしようと思っていたのだが、その敵が“段々と強くなる”ということをステータス無しに上手く伝えるのが難しいため、割愛する。


 要するに、2人はもう、ダンジョン最上層にいた。



「最近は、展開がやたらと速くないか? 魔法学園編なんて新入生トーナメントに何話も使ってたのに」



 あからさまに禍々しい巨大な扉の前。ボス部屋ですと張り紙をされているようなものだが──そんな塔の頂上で、ピカロは『無能貴族』という作品の生き急ぎ感を嘆いていた。



「もっとこう、私の幼少期とか、成長期のエピソードを長くしてもらえないだろうか」

「お前が無能貴族として大暴れするのは、お前が中年のおじさんになってからだから、本当は、それまでの成長過程を、長々と書いていくつもりだったらしいんだよ。幼少期編や、修行編が長ければ長いほど、物語に厚みがでるからな」



 ナルト疾風伝とかがわかりやすい例だ。主要キャラを幼少期から追っていったからこそ、後半の大人となった主人公への感慨深さが増す──まぁ作者はナルトを読んだことはないのだけれど。


 もっと言えば、主人公たちが少しずつ成長していく様子を、何話もかけて書いていけば、自ずと話数も増える上に、物語の奥行きも深くなっていく。一石二鳥とまでは言わないが、メリットは大きい。


 『小説家になろう』においても、全部で50話くらいしかない作品よりも、ある程度長く続いている作品の方が人気があるのではなかろうか? これもまた作者の偏見ではある──作者はなろう小説を読まない人間だ。


 読者ではないから、読者の気持ちがわからない──なろう小説に求められるのは、緻密に計算された完成度の高い作品ではなく、素人ゆえの荒々しさの目立つ主人公無双作品なのか?


 開幕ちんぽ小説の作者が言うと説得力が失せるが、一応、多くの人に読んでもらいたいとは考えている。

 まぁ、人気が出たいと思わずに小説を投稿している者などいないだろう──本当に自己満足なら、ネットに上げたりしない。


 そんなわけで、本当はこの作品も、長々と若きピカロたちを書いていき、200話とか超えて、人気の出やすい長編にしようと考えていたのだが……冷静に考えてみると、そう言う作戦はこの作品の特徴と相性が悪そうだ。


 メタ発言の乱用、シリアスシーンの少なさ、そもそも既にピカロとシェルムが強すぎるなどなど、じっくりと成長過程を楽しめる作品ではないだろう。


 だったらもう、どれだけ物語を長引かせるかを考えるのはやめようという結論に至った。



「物語の厚みを捨てた結果、前回ようやく突入できたダンジョンなのに、もう最上層にいるのか」

「そもそも、人気作品の正規ルートを通ろうとしていたのが間違いだったんだ。書籍化やアニメ化などに繋がっている極一部の超人気作品は、第1話をちんぽから始めないし、下ネタに埋め尽くされてなどいないはず──ゆえにこの作品は、なるべくして不人気なんだ」

「万人受けする要素にションベンぶっかけながら、多くの人に読んでもらいたいですと叫んでいたんだな……」

「テンポよく進もう。どうせ人気が出ないなら、せめて読みやすい作品を目指そう」



 そう考えると、人気の出る要素が一つもないこの作品をわざわざ読んでいる方々の異常性が浮き彫りになってくるが……まぁ感謝こそすれ、読者を変人扱いするのはやめておこう。



「じゃあサクッとボスも倒しますか」



 そう言って扉に手をかけるピカロ。視界いっぱいの巨大な扉が、ゆっくりと開かれていく。


 砂埃が舞う。扉の先は暗い。なるほど、雰囲気はあるようだ。



「なろう小説の主人公の力を見せてやる」



 部屋へ踏み入ると、その部屋の入り口──2人の足元に火が灯る。やがて火は部屋のふちを囲うように広がっていき、溶けた暗闇の中から、部屋の全貌が露わになった。


 大部屋の最奥に邪悪な魔力反応。豪奢な玉座に腰掛けるボスが、顔を上げる。



「あー……そういう系か」



 全身が緑色のモンスター。身体は人間の女性のようだが、牙を剥いた悪魔のような恐ろしい顔が、非人間性を強調している。


 ロングヘアーもよく見れば、一本一本が蠢いていて──というか、髪の毛が蛇だ。



「メドゥーサ的なやつだなこれ。もっとオリジナルの敵を登場させたらよかったのに」

「強そうな敵を考えるのが面倒くさいんだろ」



 しゃらくせぇので、もうメドゥーサと呼ぶが、メドゥーサはゆっくりと立ち上がり、2人の侵入者を睨みつけた。


 そして、玉座も勢いよく燃え盛り、大部屋が赤く染まる──メドゥーサは牙を剥いて叫んだ。



「うるさっ! 戦闘開始ってことか」



 次の瞬間、蛇の髪が伸びて2人を襲う。たかが髪の毛だと侮っていたが、激突した地面や壁を砕いていくのを見れば、あの無数の蛇がそれぞれ鉄のように硬い鞭だとわかる。


 縦横無尽に駆け回り、避けきれそうにないものは斬り伏せる。蛇だろうが髪だろうが、あるいは金属だろうが、2人の剣の前には関係ない。



「わざわざ蛇の形をしてるってことは、毒とか注入される可能性もあるな」

「しかもメドゥーサってことは、目を見たら石にされるかもしれないぞ」



 一本一本は脅威ではないが、いかんせん数が多い──そういえば髪の毛の本数平均は約10万本らしいが、それが全て蛇だとしたら、体積がエグいことになりそうだ。


 そういう意味では、ある程度髪型が常識の範囲内に見えるメドゥーサは、その実、数百本ほどしか髪の毛がないのかもしれない。


 その数百本が全て攻撃してくるのだから、一概に少ないとも言えないけれど。



「もういい! 片っ端から斬るぞシェルム!」

「はいよ」



 避けていてはキリがない。せっかく2人とも剣を持っているのだから、散髪タイムだ。


 うねる鉄の鞭を斬り、メドゥーサ本体へ近づいていく──すっかりショートカットとなったメドゥーサが、再び叫び散らす。崩れる天井、揺れるダンジョン。


 反響する轟音に耳を塞ぐピカロの、真横。



「危なっ!?」



 いつの間にか肉薄していたメドゥーサの凶悪な爪が横切る──間一髪で仰反ったピカロの鼻先をかすった。


 なるほど、本体が強いパターンらしい。


 次々と襲い来る爪を剣で防ぐも、あまりの力強さに剣が弾かれる。見た目は細身だが、とんでもない豪腕なのかあるいは膨大な魔力の持ち主か。


 ギリギリで避け切るピカロだったが、瓦礫に足を取られ転倒。見上げるとメドゥーサが腕を振り上げていて──



「……え?」



 回避を試みる様子のないピカロを見かねてシェルムがメドゥーサに横薙ぎの一閃。吹っ飛ばされたメドゥーサ。激突した壁が音を立てて崩れていく中、ピカロが呟く。



「メドゥーサ……乳首あったぞ」

「は?」

「ボロい布切れを胸と腰に巻いてる時点で、おかしいと思ってたんだ。モンスターなら、全裸を恥ずかしがる必要ないはずだろ? それなのにあのメドゥーサは胸と股間を布で隠してる……お洒落を気にしているとは思えないし」

「何が言いたいんだお前は」

「彼女は衣服で裸を隠していて、その布の下には乳首があった──つまり、腰の布の下には女性器があるはずだ」

「……まぁ、うーん。どうかな」

「こんなダンジョンの奥深く、最上層に棲みつくモンスターなのに……セックスするんだぁ……」

「セックスするんだぁじゃねぇよ」

「あんなモンスターでも、エロい格好させられて、アンアン言わされてるんだと思ったら──ちんぽが石化しちまった……メドゥーサめ」

「いやメドゥーサの目を見たら全身が石化するはずだからな。そんな局所的な石化はない」

「なぁ、シェルム」



 シェルムの一撃によるダメージが大きかったらしく、よろけながら立ち上がる壁際のメドゥーサを見つめて、ピカロが言う──悪魔のような顔をしながら。



「モンスターを犯すのって犯罪かな」

「おいおいおいおい」



 かつてないほどバキバキの目をしたピカロの両肩を掴みグワングワン揺らす。しかしキマりきった顔は治らない。


 ついに性犯罪に手を染めようとする相棒の腹や顔をぶん殴るも、瞬きすらしない──今のピカロは魔王より強いのでは?



「魔族を殺すのは犯罪ではない──それどころか褒められることだ。つまり、人類の敵である魔族は、苦しんで然るべきってことだろ? 多分魔族を生捕りにして生態実験なんかもたくさん行われてきたはずだ。……それなら、性的に苦痛を与えるのだって許されるに違いない……天才だ私は」

「天才じゃねぇよ性犯罪者」

「考えてみれば、この物語の最終目標は、主人公ピカロ・ミストハルトと魔族サキュバスのセックス……つまり根本的に魔族との性交渉を念頭に置いた作品なわけだ」

「そんな言い方するな。否定はできないけど」

「だったら今メドゥーサを2人がかりで押さえ込んで……」

「僕を巻き込むな!」



 まさか自分を性的に痛めつけようと企てているとは考えていないだろうが、メドゥーサが座り込む隙だらけのピカロに飛びかかる。


 今度は腰に巻いている布の下を見ようと、目を凝らすピカロと、低姿勢で地面を蹴るメドゥーサの目が、合った。



「あぺ!?」



 眼球から石化していくピカロ。あっという間に全身が石となり、スカートを覗こうとした極悪人のオブジェが出来上がった。


 足を引っ張るどころではない。そろそろ本気で頭のおかしいピカロにうんざりのシェルムが、仕方なくメドゥーサの首を飛ばした──ピカロに強くなって欲しいシェルムとしては望まない結果だが、当の本人が石になっていては仕方がない。


 瑞々しい音を立ててメドゥーサの死体が地に伏すと同時に、ピカロの石化が解け、ど変態は再び動き出した。



「あれ死んでる」

「お前が石にされたから──というより、これ以上お前がメドゥーサに欲情しないように、さっさと殺しておいた」

「……この死体って、絶対に抵抗しない女体、とも言えるよな」

「言えません殺すぞ」

「せめて腰の布の下だけでも覗いて帰ろう」

「全身緑色で、髪の毛が蛇で、牙剥き出しのバケモンに興奮してるだけで主人公失格なのに、死体までそういう目で見始めたら終わりだぞ」

「うるせぇ! お前みたいなイケメンには童貞の気持ちなんてわからないんだ!」

「お前個人の異常性癖を童貞の気持ちと呼ぶな」



 切断された首から血を噴き出すメドゥーサの死体にエッチなイタズラをするつもりだったピカロの想いも虚しく、ラスボスを倒されたダンジョンが崩壊を始めた。


 塔が崩れる……何百メートル上空かはわからないが、安全に着地できる高さにいないことは確かだ。


 崩れる瓦礫の隙間に落ちていくメドゥーサの死体を名残惜しそうに見つめるピカロの襟を掴んでシェルムは跳躍──塔の外に飛び出した。



「ピカロ、重力制御魔法使って着地するぞ」

「せめてシコらせてくれ!」

「まだ興奮してんのか!」

「金玉が爆発しちまいそうだ!」

「しちまえよ。諸悪の根源だろ」



 崩れ去る巨塔。地上の見張り兵たちが慌てて逃げていくのを見下ろしながら、2人にかかる重力を減らし、ゆっくりと降下していく。


 轟音と砂煙。荒れ果てた丘の上に舞い降りた2人の姿を、見張り兵たちはしっかりと確認していた──これでもう、貴重な高難度ダンジョンを横取りしたのがピカロとシェルムだという事実が確定し、言い逃れはできない。


 後に、人類を脅かす凶悪なダンジョンを攻略したという栄誉の反面、アルド王国とネーヴェ王国の勇者候補の伝説作りの一環を横取りしたと罵られるのだが……何はともあれ2人はダンジョンを無事に制覇したのだった。



 ──任務を終え、アルド王国王都、王国軍本部に帰った2人を待ち受けていたのは、事前に知らされた通りの対応。



「このカノンが命令したこととはいえ、貴方たちは2つの大国が重要視していたダンジョンを勝手に攻略してしまった……そんなわけで、国王陛下や軍の外交部門の人たちが激怒してるから、予定通り2人には国を出て行ってもらうわね」



 王国軍元帥カノン・リオネイラは、葉巻を咥えながらそう言った。



「軍部では、貴方たちを犯罪者として国外追放すべきだって意見もあるけれど……命令したカノンからすればそれはちょっと可哀想だからね、こういう形にしたわ」



 カノンは机の引き出しから取り出した何かを2人に投げつけた。


 ピカロはキャッチできず床に落としたが、ちゃんとキャッチできたシェルムが手の中を見下ろすと。



「それは階級章って言ってね、軍部での階級を示すものよ」



 星と翼のバッチ──やけに豪華なそれだった。



「あのダンジョンは放置しておけば更なる脅威になりかねなかった。横取りとはいえ、危険を取り除いてくれた2人を犯罪者扱いするのは、市民からの反発を招くかもしれないでしょう? だから貴方たちには、むしろ昇格してもらって、その上で任務として国外へ行ってもらうわ」

「昇格して、国外ですか?」

「ええ。ようするに、国外任務という形をとった事実上の国外追放。世間からは、貴方たち2人は昇格した上に特別な任務まで与えられたという風に見えるでしょうが、軍部からみればテイのいい厄介払い。なにせ、貴方たちに課される任務は、『勇者様の為に伝説の武器や鎧を世界中から探し集めて来い』っていうものだもの」



 厄介払いどころではない。そんなの、伝説の武器を持ち帰っても「これは勇者様に相応しくない」などと言われてしまえばまたやり直しにもできてしまう。


 それに、古代の遺産(アーティファクト)と呼ばれるような伝説の武具は入手が非常に困難──そもそも持ち帰るのが不可能に近い。


 世界中の冒険者や研究家が追い求めているという意味で、早い者勝ちでもあるし、何より今回のダンジョンのような非常に危険な場所の奥深くにあったりするのだから。



「だから貴方たちには世界中を旅してもらうわけだけれど、ただのアルド王国の軍人ってだけじゃあ、色々と制限されるでしょ? 入国の度に身分証明やら入国審査やらが必要になるし、ただの軍人では立ち入り禁止の場所も多い」

「それゆえの昇格……ですか。で、このギラギラのカッコイイ階級章は、どの階級のものなんですか?」

「その階級章を胸につけていれば、貴方たちは立派な──」



 ──アルド王国軍大将よ。


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