第十八話 二回射精
「ピカロくん……答えて……」
迫りくる美少女。賢者タイムを謳歌していたピカロが想像していなかったちんぽへの追撃。
場所はアルド王国立魔法学園校舎1階男子トイレ。
Aブロック第1回戦第1試合の対戦相手、テテ・ロールアインを見事な剣技で下着姿にしてみせ、電流を帯びた身体で彼女に触れることにより、下着姿の美少女が痙攣する様を鑑賞できたピカロ。
ピカロの琴線に触れた光景は、ピカロのちんぽに稲妻を迸らせた。
寸止めを繰り返し、休憩時間の1時間を全て使い切り、やがて果てたピカロだったが、直後現れたのはイデア・フィルマー。ピカロの嫁候補である。
プルス・ウルトラ──力尽きたはずのちんぽに再び血液が結集し始めた。
「あなたの力は、私と、同じ?」
「お、同じ?」
おなじというかオ◯ニーしていたのだがそれはともかく。
イデアの質問の意図を汲み取れないピカロ。
「……ピカロくんは、強いよね」
「え、あ、ありがとう」
イデアは、ピカロの瞳を覗き込む。狭い個室の中、いかがわしい体勢になっていることに彼女は気づいていない。
というかそれどころではないのだ。男子トイレになりふり構わず侵入するほどに、彼女は飢えていた。
仮面の男への手掛かりに。
「その力は……誰かから受け継いだもの?」
「受け継いだ……といえば受け継いだかな?」
一応、ピカロの剣技は父親であるニクス・ミストハルトから継承したニクス流剣術の賜物なので、受け継いだといえば受け継いだのだが。
しかしイデアの言うこととニュアンスが異なっていることは薄々わかっている。
「……父親から、受け継いだよ」
「──シェルムくんからは?」
「シェルム? 私の強さにあいつは関係ないけど……」
「……そう」
露骨にがっかりした様子のイデア。ピカロから体を離す。遠のく美少女にピカロが後悔していると、個室の扉を開けつつイデアが振り返る。
「シェルムくんは、一体何者なの?」
「……どうしてそんなこと訊くんだ?」
「教えて、お願い」
「可愛い! ……いやまぁ私もわからないよ、あいつが何者かなんて」
「ならどうして2人はいつも一緒にいるの?」
「世界をひっくり返すため──ってシェルムはいつも言ってるな。そんな感じだよ」
「ふざけないでちゃんと答えて」
「大真面目さ。私たちは、人類側の規格に収まるつもりはない」
「……人間の力には頼らないってこと?」
「いやそんなことは言ってないけど……」
やや恣意的というか、自分の知りたいことのために質問しているので、強引なこじつけの感があるイデア。
少なくともピカロからは情報が得られなさそうだと落胆し、個室を出る。
「……私とここで会ったことは、内緒にしてね」
「もし……バラしちゃったら?」
こんなときでもおちゃらけるピカロに、再び近づき、耳元で囁くイデア。
「お仕置き、だからね」
──限界突破。活動限界を超えたはずのピカロのちんぽは暴発を始める。これはまずい、こんなガチガチの状態で第2試合に臨むなど自殺行為だ。
理性が必死にちんぽを押さえ込もうとするが……しかし。本能は叫ぶ。
──イキなさいちんぽくん! 誰かの為じゃない! あなた自身の願いの為に!
「綾波を……返せ!」
ズボンの中が大惨事になってしまったピカロが顔を上げると、そこにイデアはいなかった。
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「えー、残り1分を切りました! あと1分以内にピカロ選手が現れない場合は棄権として──ってああっ! きましたピカロ選手!」
のそのそとステージに上がるピカロ。なぜか体操服に着替えていた。
「ギリギリ、滑り込みセーフのピカロ選手……中腰なのはなぜでしょうか? お腹でも痛いんですかね。まぁともかく、改めまして。Aブロック第2回戦第1試合、魔剣士科1年ピカロ・ミストハルトVS騎士科1年セクト・ミッドレイズ!」
セクトはピカロを睨みつけたまま、今一度、頭に巻いた赤い鉢巻を強く締め直す。
対するピカロは、中腰のままだ。モジモジしている。
「──試合開始ッ!」
ザイオスの声を皮切りに、セクトが突貫。鋭い眼光がピカロを捉えた。
──“神速の刃”。
セクト・ミッドレイズはそう呼ばれている。
セクトはおそらく、今年の新入生で唯一の実戦経験者だ。実戦──つまりは、魔族を殺したことがある、ということ。
齢13歳にして、その圧倒的な戦闘能力を買われ、アルド王国軍に所属。子供を戦地に赴かせることの危険性から、軍部にも批判が集まり、セクト自身にも心配する声がかけられた。
それら全てを、彼は剣一本でねじ伏せた。外野を、無責任な大人たちを、黙らせたのだ。
年功序列の風潮が抜けきらない王国軍ゆえに、昇進することはできなかったものの、その活躍ぶりはアルド王国中に知れ渡り、誰もが思い知った──若き天才の台頭を。
驚くべきは初陣──周囲の軍人にも侮られていたセクトは、作戦中に突如現れたイレギュラー──中級魔族を斬り伏せてみせた。
下級魔族や魔獣ならば、大人の男が集まれば討伐も不可能とはいえないが、中級以上は格が違う。内包する魔力量が桁違いの中級魔族たちは、力任せに暴れるだけで人間を殺して回ることができる。
当たり前のように高難度の魔法を使いこなし、人間を遥かに凌駕した強靭すぎる肉体で弱者を屠る──軍人というだけでは、相手にならない。
そもそも、郊外に現れた魔獣の小規模な群れを退治しに行くというだけの、簡単な作戦にも関わらず、突然中級魔族が現れれば、その衝撃は計り知れない。死ぬ覚悟などせずに訪れた地で、一生を終える可能性──軍人たちは萎縮した。
13歳のセクトが同行を許された、という時点で、その作戦自体、新人教育といったきらいがあり、セクトに限らず実戦経験の少ない軍人も多かった。
誰もが上官の到着を切望しながら逃げ惑う中、たった1人──セクト・ミッドレイズのみが、剣を抜いたのだ。
目にも留まらぬ速さ──という言葉を体現したかのような剣捌き。
セクトの射程圏内に入ってから──2秒、である。中級魔族は、四肢を切断され、喉に剣を突き立てられた。
衝撃のデビューから2年、15歳になり、今年魔法学園に入学するまで、セクトは数多くの伝説を残してきた。王国軍上層部の提案により、入学を決めたが、その実力は王国軍のお墨付きかつ折り紙付き。
尊敬と畏怖を込めて、神速の刃と呼ばれた彼は、まさしく、優勝候補筆頭である。
「うおっ……速っ!」
「……ほう、よく見えてるな。さすがは大英雄の息子といったところか」
抜剣の音を置き去りにしたセクトの一閃を、ギリギリで受け止めるピカロ。開幕の一撃で倒されることは防いだが、危機は脱していない。
なぜならば、ピカロは未だに中腰である。
テテ・ロールアインで1回、その直後のイデア・フィルマーで1回。既に2回絶頂を潜り抜けたピカロだったが、あまりに興奮しすぎて、賢者モードが訪れないのだ。
あのイデアが男子トイレに忍び込んだという事実。光を失ったような、虚な眼。耳元での囁き。
バッキバキに猛り狂う股間が、ピカロの動きを制御する。
「たしか、ニクス流剣術、だったか。見せてもらおう、伝説の剣技を──!」
口角を上げたセクト。ギラリと目が光る──神速!
まるで踊っているかのごとく、上下左右に移動するステップ。緩急でリズムを崩しつつ、その一撃は目では追えない速度。
篠突く斬撃がピカロを襲う。回転し、いなし、ねじり、猛攻に対処する。
「姿勢が低いな……それがニクス流の真髄か?」
勃起が治らないだけである。
中腰という体勢が災いし、うまく体を使えない。腕の力のみで剣を振るい、なんとか凌ぐピカロ。
微塵ほども隙を許さぬセクトの刃が、振り下ろされる。自分の額の寸前に刀身を滑り込ませ、危機一髪。
「……力、強いな」
「当たり前だ。俺は“速い”が、“速いだけ”じゃない」
刀身を押し合う。下半身の不調からうまく力の入らないピカロは、だんだんと押さえつけられはじめ、やがて片膝をついた。
──せめて、せめて勃起が治れば……!
そんな、下唇を噛むピカロの耳に飛び込んできたのは──
「ピカロ選手! 頑張って下さい! 私に勝ったんだから、優勝しなきゃ怒りますよー!」
魔法幼女テテが、ステージ外でぴょんぴょん跳ねている。
刹那、ピカロの脳が回転を始める──思い出す、この1ヶ月間。その間、授業で習った魔法知識は、イマイチ理解しきれなかったピカロ。
魔力量は桁違いだが、コツが掴めない。結局、自分が強くなるイメージの身体強化魔法しか習得できなかった。
そんな、苦手だった魔法の授業の中で、一際難易度が高く、ピカロ含め新入生たちを悩ませたのが、重力制御魔法の授業。
理屈さえ難解──ゆえに明確なイメージがないと実現しえない魔法を行使する上で、重力制御は諦める者も多かった。ピカロもその一人である。
しかし今、絶対絶命の大ピンチ。視界には飛び跳ねるテテ。めくれるスカート。顔を出すパンティー。
「──エロ・グラビティ!」
覚醒──才能の扉をちんぽが開ける。
ピカロの重力制御魔法は、ピンポイントでテテのパンティーを捉えた。それに気づかず、ジャンプするテテ。身体は宙に浮くが、パンティーは、その場に留まる。
ひらめいたスカートの隙間──ほんの一瞬、だがしかしピカロからすれば永遠──露わになるテテの蕾!
それだけで。ただそれだけで、十分だった。
「うぁあああッッ──!」
膝を震わせ、叫ぶピカロ。突然の奇行に警戒心を撫でられ、飛び退るセクト。
恍惚の表情を浮かべるピカロの視界の端。顔を真っ赤にしたテテがパンティーをギュッと掴みながら走り去っていく。
「──サイッテー!」
「うっ……ふぅ」
ダメ押しの罵倒で残りを出し切り、空っぽ。
せっかく着替えたのに、また下着が大変なことになってしまった──しかし。
──ちんぽッ! 萎むッ!
ゆっくりと立ち上がるピカロ──もう、中腰ではない。
「……雰囲気が変わったな。ピカロ・ミストハルト」
「あぁ。今の私は──賢者モードだッ!」
中腰の呪いから解かれ、かつ冷静さを極めた賢者モード。
もう、セクトの剣は、届かない。
牙を剥く“神速の刃”──そのことごとくが通用しない。ピカロは、先ほどまでとはレベルが違う、速さも、力強さも。
剣を弾かれただけで、セクトは体勢を崩す。ピカロは一歩も動かない──否、動けない。ぐちょ濡れの下着が気持ち悪すぎて上手く動く自信がない。
「かかってこい」
煽って、セクトに攻めさせる戦法──単純かつ効果的。男は、プライドを燃やし生きているのだから。
──唸る、金属音。トップスピードを保ち続けるセクトの乱剣。ピカロは、ひたすらに受ける、受ける、受ける。
ギアを上げたセクトに対し、防戦一方──のように見える。しかし当の本人は自覚し始めている。
俺の剣は──届かない。
「……あと2回」
ピカロの声。一瞬、警戒し力んだセクトだったが、惑わされるなと自らに言い聞かせ、ただ振るう。
大振りの一閃──弾かれる。弾かれた勢いを利用し回転、斜め上から振り下ろす、二撃目。
刀身が衝突した瞬間、剣が死んだ音がした。
「終わりだ」
刀身の半ばから真っ二つに折れた剣──振り切って気がつく。宙を舞った“折れた側”が、石畳に突き刺さる音が、セクトに敗北を告げた。
「降参……します」
「試合終了ー! Aブロック第2回戦第1試合、勝者は、魔剣士科1年ピカロ・ミストハルトー!」
ザイオスの声につられて盛り上がる観客。歓声で揺れるステージを下りるピカロの背を、セクトはただ見つめていた。
「──いやぁ凄かったですね。大英雄の息子VS神速の刃! 剣筋が速すぎて見えませんでしたよ。途中まではセクト選手が押してたと思ったんですけどね、テテ選手の応援あたりから、ピカロ選手の様子が変わりましたね。賢者モード、とか言ってましたか? どういう意味かはわかりませんが、あれですかね、愛の力!」
リプレイ映像を見ながら、隠しきれない興奮を声に乗せるザイオス。
──生徒用の席に戻らず、校舎へと消えるピカロ。制服のズボンは、男子トイレでイデアに囁かれた時に台無しになり、せっかく着替えた体操服のズボンも、テテの花園を目撃したことで台無しになってしまった。
替えの下着もズボンもない。誰か先生に言って貸してもらおうと、校舎に入るピカロの肩を、大きな手が掴んだ。
「ピカロ・ミストハルトくん、だよね」
「は、はい」
「第3回戦進出おめでとう。凄かったよ」
「あ、あなたは?」
ピカロの倍ほどの身長があるのではないかと思わせる巨躯。見下ろす眼光が怒りに燃えていた。
「私はね、テテの父親だよ」
「ひっ」
校舎内へ連れて行かれる──無論、お説教である。
数十分後、当然の帰結として土下座をしてきたピカロが、先生に体操服を新たに借りて帰ってきた。
シェルムの隣に腰掛ける。
「よう、ボコボコにされたか?」
「いいや、ひたすら怒鳴られた。反省しました」
「あ、さっき椅子の下にカブトムシいたぞ」
「まじで?」
「嘘」
「なんだお前」
先生に隠れながらポテチを貪るシェルムを睨み付ける。
2人の近くには、誰も座らない。既に彼らが別世界の魔剣士であることを感じている1年生たちは、遠目に見遣るのみだ。
「てかさ、ピカロ。今回やばくないか?」
「何がやばいんだよ」
「いや、確かに最近はストーリー重視で、ギャグが少なくなってたけどさ。それにしたっていきなり下ネタ放出し過ぎだろ」
「いや下ネタっていうほどでは……」
「ちんぽとか勃起とか言ってただろ。それに今回だけで2回射精してるじゃねぇか」
「おい射精とか言うな。本格的に読者が減る!」
「あと、女性器でちゃったから。完全にアウトな」
「いやいや。ちゃんと蕾とか花園とか言って誤魔化したから」
「余計気持ち悪いんだよ。テテ・ロールアインはモブキャラだから。モブキャラの性器は描写しちゃダメ」
「大丈夫だよ、ほぼ幼女だから」
「1番ダメなパターン!」
閲覧数が伸びないストレスで奇行に走ったピカロと作者を戒めるシェルム。
そんな、言い合う2人のもとに駆け寄る男。
「おい君たち! そろそろ俺の試合だからな! ちゃんと見とけよ!」
「誰だっけ」
「リード・リフィルゲルだ!」
「あぁ。生徒会長を目指してる真面目くんね。七三分けの黒髪キャラね」
Aブロックのシード枠だったリードは、第2回戦の第4試合から参加だ。ゆえにこれから初戦である。
既に登場から何度も名前が上がっているキャラなので、彼の試合も深掘りしていきたいところではあるが──
「よし、とりあえず大幅カットで」
「何の話だ」
「試合数が多すぎて、お前の試合まで描写してたら進まないんだよ」
──時は進み、40分後。
ザイオスの声が終わりを告げる。
「試合終了です! Aブロック第2回戦最終第4試合、勝者は騎士科1年リード・リフィルゲル選手!」
魔法で映し出された大スクリーン上に、リプレイ映像が流れる。リードと対戦相手が剣でわちゃわちゃしている映像を眺めながら解説を加えていた。
続いては、Bブロック第2回戦第1試合──そして第2試合がシェルムの出番だ。
「リードも勝ち上がったし、Aブロック決勝は私とリードだろうな。んで多分、Bブロック決勝はお前とイデアさんだろ」
「……さぁね」
「しかし作者は面倒臭がりなのか適当なのかわからないけど、主要なキャラ以外はトーナメント前に登場させないんだな。ベスト4以外で私らと絡みあるやついないだろ」
「まぁ一応、剣道極くらいだな」
「あいつだけ世界観おかしいからな。私たち含め、みんなカタカナでそれっぽい名前なのに、あいつ漢字だし」
「登場させたことを後悔しているキャラだけど、今更消滅させられないから」
「おいシェルム」
「どうした」
「終わらせ方がわからないらしいぞ、作者」
「こう、次の話を読みたくなるような、引きのある展開にすればいいだろ」
「思いつかないってさ」
「じゃあ……終わろうか」
「……また次回お会いしましょう」
──毎話毎話、続きが気になる終わり方なんてできません。できる天才は死……転べ。