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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第二章 魔法学園編
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第十七話 全力陳謝

元々の『第十七話 山下智久』冒頭と中盤における、楽曲の歌詞の一部の掲載がガイドライン違反であると警告を受けたため、該当部分を削除しました。

そのため、文脈を無視した謝罪セリフが無理やりねじ込まれておりますことをご了承願うとともに、このワタクシの反省してない感をどうかお許し頂きたいです。


追記──何故か尿道が痛むので今夜のご自愛は控えます。使われるはずだったティッシュを畳みつつ、筆を置きます。


「すみませんでしたー!!」

「おい! おいシェルム!」

「許してくださいー!」

「おいどうした」

「山下智久の『愛、テキサス』を歌ったらガイドラインに抵触して運営様から注意されました! いやほんと申し訳ございませんでしたー!」

「いやそれは……ごめんなさい! ということで第十七話のタイトルは山下智久から、全力陳謝に変更させていただきまして、歌わせるのをやめました許してください!」

「運営うるせー!」

「うるさいのはお前だよ。まじで反省しろ今回は。てか見たか、今のイデアさんの魔法」

「……まぁ。凄いな」

「凄いどころじゃないだろ! あんな必殺技を隠してたなんて……」

「……」



 一瞬、静まり返っていた校庭が、ざわつき出す。試合開始直後にイデアが放った魔法──黒いビームのような何かが、対戦相手のミューラの真横を通り過ぎた。


 攻撃自体は速すぎて目で追えず、ただ魔法の残滓のみが宙に残る。しかし一方で、その魔法が直撃したミューラのツインテールは、片方、ごっそりと消滅してしまった。


 ザイオスがステージに声を落とす。



「イデア選手、今の魔法は……使用禁止です。何の魔法だったのか、先生方も判断できていないので、あなたを反則行為者として退場させることはしませんが──おそらく危険な魔法であったことはわかります。次にその魔法を使用したら、即失格とします」



 突き出していた右手をゆっくりと降ろすイデア。深く息を吸う。


 すっかり怯えてしまっていたミューラだったが、今の魔法がもう来ないのだとわかれば、まだ戦える。


 杖を振りかざす──炎の剣が、イデアを囲う。



「魔剣士科なら……剣で凌いでみせなさい!」



 迫りくる炎剣。イデアは、俯いたままだ。


 案の定、炎剣が突き刺さり、爆炎を巻き起こす。水の膜を作り、爆風から自分を護りつつ、ミューラは攻撃を続ける。


 大砲の弾を想起させる、水の球体が、矢継ぎ早にイデアに衝突し、飛び散っていく。ただの水とはいえ、それがある程度の質量と速さをもってぶつかってくれば、ただではすまない。


 よろめきつつも、イデアはぶつぶつと何かを呟いたままだ──戦意を喪失しているようには見えない。


 ミューラが杖をステージに突き刺す──次の瞬間、石畳のステージが波打ち、盛り上がる。巨大な石の両手がステージから伸び、イデアの身体を握り、締め付けた。



 動きを封じられたイデアに、ミューラが杖を突きつける。風を収束させた魔法の矢が、イデアの眼前──空中で停止している。



「この状況では避けることもできません──降参しなさい」



 圧倒的なまでの魔法知識──ミューラは、すでにさまざまな属性の魔法を操っていた。


 畳みかけて見せられた魔法の数々に、観客も大いに沸く──しかし誰も気づいていない。ミューラも手加減しているとは言えど、イデアが傷一つ負っていないことに。



「…………もっと、弱く。もっと小さく……」

「何? 降参しますって言ってるの? 声が小さくて聴こえないわよ。ちゃんと言わないと試合が終わらないわよ」



 試合開始直後、死を思わせる凶悪な魔法に肝を冷やしたミューラであったが、いざその魔法を封じられれば、あとは自分の独壇場。練習してきた魔法がここまでうまくハマり、観客が自分を見て湧き上がっているのを肌で感じ、かつてない高揚感で胸が満ちていた。


 数分前のミューラとは打って変わって、強気である。


 対するイデアは浅い呼吸を繰り返しながら、何か自分自身に語りかけるように──言いつけるように呟いていた。



「殺しちゃ、ダメ。ちょっとだけ──少しだけ力を入れなきゃ……」



 辛そうな顔を上げたイデア──ミューラと目が合う。


 イデアは、ゆっくりと身体を動かす。イデアを包んでいた石の両手が崩れていく。



「そ、そんな──魔法は完璧なのに! く、来るな!」



 すぐに距離を取り、魔法で迎撃するミューラ。風の矢が、炎の槍が、水の大槌が、イデアを襲う。


 しかし、少し態勢を崩すだけで、イデアの歩みは止まらない──ゆっくりとミューラへ近づいていく。


 ステージが再び波打ち、石畳はドーム状になってイデアを閉じ込めた。しかしすぐに石の壁を砕きながらイデアが歩み出てくる。



「来ないで、このバケモノ!」

「……」



 ミューラの眼前に立ったイデアが、悲しそうな顔をしていた。一瞬、気を取られたがすぐさま距離を取ろうと、杖を振りかざすミューラ。


 その細い身体が、くの字に曲がる。


 下から振り上げられたイデアの拳が、ミューラの腹を穿つ。血を吹き出しながら宙を舞ったミューラは、力の抜けた状態でステージに叩きつけられる。


 白目を剥き、痙攣するミューラを見てザイオスが叫ぶ。



「し、試合終了ー! こらイデア選手! それも反則ギリギリですよ! ちょ、救護班早く!」



 著しく殺傷性の高い攻撃は即失格──このトーナメントの最重要ルールだ。


 とはいえ、騎士科も魔剣士科も剣を振り回すわけだし、魔法だって手加減するにはそれなりの技術が必要だ。

 ゆえに、今回のミューラのように、口から血を吐くくらいならばギリギリセーフで、治癒系魔術師の手にかかれば一瞬で無傷に元通りなのだが──それにしたってミューラが派手にぶっ飛んだものだから、ザイオスが焦るのも仕方がない。


 ともかく、無事に第1回戦突破したイデアだが、無論、浮かない表情のままステージを後にする。

 美少女が血を吹きながら宙を舞う衝撃的な場面だったため、観客も若干引いていたが、勝者のイデアにはそれでも沢山の拍手が送られた。



「──ここでも、変更前は『愛、テキサス』歌ってたんだけどな。歌詞を書いちゃダメらしい。しかし、ちんぽとかは書いていいのか……」

「まぁ権利とか厳しそうだからな、今回は歌ったお前が悪いぞシェルム」

「悪いのは作者だろうが!」

「神に逆らうなボケナス……てかだからそれどころじゃないだろ、イデアさんめちゃくちゃ強くないか?」

「強かったな。このまま勝ち上がると、Bブロックの決勝で僕とイデアさんは戦うことになるかも」

「なんか、ミューラ? ちゃんだっけか。あの子の魔法、ほとんど効いてなかったもんな」

「魔力の多さは、イコールで魔力耐性になるから。イデアさんの方が遥かに魔力が高かったんだろ」

「えー。でも私、主人公だから相当魔力が高いはずなのに、テテ選手の雷魔法で鼓膜破られたぞ」

「一応、テテ選手、魔力にステータス全振りしてますみたいな設定だからな」

「あ、そうだったんだ」

「まぁ、イデアさんがどんなに強くても、僕には勝てないから。決勝はどうせ僕とお前だよ、安心しとけ」



 説得力が桁外れなのはさておき、イデアの異常さは、ピカロだから気がついたわけではない。


 無論、スノウ学園長も既に、イデアが“人ならざる力”を手に入れた可能性に思い至っている。ただ、確証がないため今すぐに対処するわけにもいかないだけだ。



 ──その後も、無事にBブロック第1回戦の第6試合、第7試合が終了した。Aブロックの第2回戦の前に、1時間の休憩が与えられ、生徒たちは各々、次に備え始めた。



「ん、休憩時間どうするんだ、ピカロ」

「私はちょっとシコってくる。テテ選手の下着姿が頭から離れなくてな──金玉が爆発しそうだ」

「そうか。ちゃんと手ぇ洗えよ」

「シェルムは?」

「僕はちょっと……お灸を据えてくるよ」

「?」




────✳︎────✳︎────




 校舎裏。涼しい日陰に、しゃがみ込むイデア。気が休まるほど静かな場所はここしかないため、他の選手の試合も見ずにここで休息している。


 ミューラへのアッパーで、少しだけ手加減の感覚を掴んだ。ほんのちょっと魔力を込めただけで、触れたものを消し去るほどの威力の魔法が放たれてしまったことは、イデアも想定外だったが、そんな危険な魔法を使わずとも──といっても禁止されたのだが──素手でも十分に戦えると分かったことは、第1試合の最大の収穫だった。


 人を殺さずに済んだ安心感、力をコントロールできた達成感。胸を撫で下ろすイデアだったが、それらよりも彼女の心を満たしていたのは、紛れもない全能感だった。


 おそらく、アルド王国の未来を輝かしく彩るであろう大天才ミューラによる一気呵成の攻め立ても、まったくと言っていいほどに効かなかった。


 そしてなによりも。


 “あれだけ力を抜いて、あの威力”──それは自分の底知れぬ強さの証左だった。


 致命傷になり得る、殺傷性の高い攻撃は反則のため、すぐさま教員が割って入って止めに来るはずだったが、イデアの最初の魔法には、魔法学園関係者の誰も反応できていなかった。


 歴代最強の呼び声高い現生徒会長、ザイオス・アルファルドも。アルド王国最強の魔術師の1人、スノウ・アネイビスでさえも。


 誰も自分について来れなかったのだ。


 もしかすると……いや、もしかしなくとも。力を授けてくれたあの仮面の男以外、自分に敵う相手などいないのでは──



「思い上がりも甚だしいな、イデアさん」



 背後からの美声に、肩を跳ねさせるイデア。警戒心が一気に沸騰し、振り向きざま、戦闘態勢。

 鋭い視線を向けた先には、紫紺の美青年が立っていた。



「悪いけど物語の設定上、君はそこまで強くない」



 ──何を言っている? そもそも私は独り言すら……まさか心を読まれて──



「読んでるんじゃない──知ってるんだ」



 ポケットに両手を入れたまま、ゆっくりと接近するシェルム。イデアは、構えを解かない。


 威嚇のため、多少魔力を解放させるイデア──赤黒いオーラが可視化される。


 もはや、力を隠す必要があるだろうか──仮に、心を読まれていたのだとしたら。心を知られていたのだとしたら。この男は──シェルム・リューグナーは。


 ──私の邪魔をする、敵だ。



「へぇ……ちょっとだけ魔力を纏うなんて器用なことできるんだ。でもまだ完全にコントロールできているわけじゃない──14時間といったところか」

「……何が」

「力を貸してもらってから14時間ってこと」

「──!」



 疑念が確信へ。紛れもない、こいつは敵。


 核心に触れられた動揺と、正体不明のおそれ──咄嗟にイデアは、魔法を使ってしまう。


 黒い光線が放たれる。やってしまった、と。殺してしまう──と焦るイデアだが、もう遅い。光線は、刹那を駆ける。



「安心して」



 漆黒の光矢は、シェルムの肩を貫くように見えたが──音もなく、その身体に“吸い込まれた”。



「君が全力を出しても、絶対に僕には辿り着けないから」



 ──全解放。イデアの右目が悲鳴を上げる。赤黒く光る右目から、黒い紋様が肌を伝い、右半身を染めていく。


 ギチギチと軋む身体に力を──魔力を込める。


 ここでやらなければ──()らなければ、私の障害になる。


 身に余る強大な力の渦が、全身を蝕む。酷い頭痛だ。だが、痛み苦しみを遥かに凌駕する全能感。指一本動かさずともわかる──これは、人の領域を逸脱している!



「まだやめておきな。そんなポンポン奥の手を使っちゃうと、作者が困る」



 まったく気がつかなかった──いつの間にか眼前に迫っていたシェルムが、イデアの顎を指で押し上げている。目線が、合う。



「君には忠告したはずだ」

「忠……告」

「うん。第十二話で言ったでしょ“──最後まで自分の力で戦い続けることをオススメするよ”って」

「十二話……?」

「あぁごめんそれは気にしないで。……ともかく。もうその力には頼らない方がいい」



 距離を取ろうとしたが、動けない。紫紺の瞳が、魅了する。



「……シェルムくん、あなたは一体」

「僕のことはどうだっていい──でも、その力を使いこなせず、対戦相手を殺されたら、困るんだよね」

「こ、殺さない!」

「いいや──君の意思は関係ない。やってしまった、じゃあ取り返しがつかないんだよ」

「わかってる……人の命はそれだけ──」

「命なんてどうでもいい。取り返しがつかないってのは、君が目立っちゃうってこと」



 ずっとニヤけづらだったシェルムが、スッと表情を無くす。


 かつて味わったことのないおぞましい寒気が──あの仮面の男と出会った時よりも強烈な死の予感が、イデアを震え上がらせる。



「ピカロが1番目立たなきゃダメなんだよ」

「……え、ピカロ、くん?」

「だから、誰も殺しちゃ、ダメ。ピカロの初めての晴れ舞台なんだ」



 そう言って、ニコリと微笑むシェルム。凍てつくような緊張感が弛緩する。腰が抜け、崩れるイデアに背を向け、去っていってしまう。


 底知れぬ恐怖を孕んだ背中に、思わず、声をかけた。



「ピカロくんは……このことを……私の力のこと、知っているの?」

「いいや、知らない。これから先も言うつもりはない──言ったら、君はピカロの敵になっちゃうだろ? そしたら──君を殺さないといけなくなるじゃないか」

「……なぜ今は私を、殺さないの?」



 半身だけ振り向くシェルム。逆光で表情は見えないが──釣り上がった口角がチラつく表情が、悪魔のように見えた。



「イデアさんは、ピカロのお気に入りだから」




────✳︎────✳︎────




 生徒会役員就任権奪取新入生トーナメント、Aブロック第2回戦。

 第1回戦を勝ち抜いた7名と、シード1名──Aブロックのシードはリード・リフィルゲル──合計8名による計4試合。


 休憩時間も終わり、観客も席に戻ってきていた。敗退した生徒たちも、勝ち残っている生徒たちも在校生用の席についている。


 困った様子でステージを見下ろすザイオスの弱々しい声音が校庭に響き渡った。



「えーっとですね。Aブロック第2回戦第1試合、魔剣士科1年ピカロ・ミストハルトVS騎士科1年セクト・ミッドレイズ……なんですけど」



 ステージには、赤い鉢巻ハチマキを目深に巻いた青年──“神速の刃”セクト・ミッドレイズが仁王立ちしているのだが。


 対するピカロの姿が見当たらなかった。



「こういうケースを想定していなかったのですが……と、とりあえずあと5分! 5分以内にピカロ選手が現れなかったら、棄権扱いとして、自動的にセクト選手の不戦勝とさせていただきます!」



 ──割とピンチな主人公、ピカロ・ミストハルトは、校舎1階の男子トイレの個室にいた



「イ、イデアさん……どうして男子便所こんなところに……!」

「……教えて、ピカロくん」



 仮面の男と同等か、それ以上。常軌を逸した力を持つであろうシェルム・リューグナーが、なぜここまでピカロのために動いているのか。


 ピカロとシェルムの関係はもしかして、イデアと仮面の男の関係と、重なる部分があるのだろうか。


 危険なのは承知している。今更ピカロに関わろうとすれば、シェルムの目に留まる。下手すれば殺されかねない。

 それでも、もしピカロとシェルムが、あのおぞましい力を──イデアの持つ力と同じ力を持っていたとしたら。


 また──あの仮面の男と再会できるきっかけになるかもしれない。憧れの、あの人に。


 シェルムに直接問う勇気はない。ならば、ピカロに。



「──あなたも、“私と同じ”?」



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