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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第二章 魔法学園編
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第十五話 本戦開幕

「さぁ今年も始まりました! 生徒会の椅子争奪戦! 新入生トーナメント! 実況はワタクシ、生徒会長のザイオス・アルファルドでございます!」



 いつになく──というか、無理をしているようにも見えるが、やたらテンションの高い生徒会長が、拡声魔法を通して観客を煽る。


 麗しき生徒会長の声が響き渡るのは、広すぎることでお馴染みの魔法学園の校庭。現在、その中心には特設ステージが創設され、そのステージをぐるりと囲む形で観客席が建てられている。


 何千人ものアルド王国民が集まり、新入生トーナメントを今か今かと待ちわびている。


 例年の新入生トーナメントは、若き才能の、花咲く前を見てやろうという物好きが集まっていたのだが、今年の観客は量も質も違う。


 というのも、開催前に王都に知らされていた参加者──つまり新入生名簿に、『ミストハルト』の文字があったから、である。


 魔法学園内ではある程度有名になっていた噂ではあるが、これを機に王都中に広まり、あの大英雄ニクス・ミストハルトの血を継ぐ者が見られるということで、観戦チケットも即完売。

 この物語始まって以来、初めてピカロが持てはやされる展開となった。



「まずはルール説明からさせていただきます!」



 ──参加者は新入生30人。AとBの2ブロックに分かれてトーナメントを行う。それぞれのブロックに1人ずつ、入学式からトーナメント当日までの1ヶ月間の成績最上位者2名をシードとして配置し、第2回戦から参加させる。


 Aブロック第1回戦は、14人による計7試合。勝ち上がった7人とシード1人を合わせた8人で第2回戦を4試合。残った4人で第3回戦を2試合。そして残った2人が第4回戦を行い、最後に勝ち残った1人が、同じようにBブロックを勝ち残ってきた1人と決勝戦となる。

 そして、第4回戦つまりベスト4に残ったものの負けてしまった残り2人が、3位決定戦を行うかたちだ。


 校庭中央の円形ステージ上で1対1で行うこの試合においては、殺傷性の著しく高い攻撃以外は基本何でもあり。もちろん、危険と判断した瞬間に教員が止めに入る上に、最悪、即死でなければ回復魔法でどうにかなるという保険付き。


 円形ステージを覆う防御魔法壁と、観客席を覆う防御魔法壁の二枚体制。


 一方が降参を宣言するか、意識を失うか、あるいは戦意はあっても試合継続が生命の危険に繋がりなねない場合はその中止をもって、試合の決着とする。


 決勝戦に残った2人と、3位決定戦を勝ち上がった1人──計3人が新たに生徒会へ入ることができる。



「さぁさぁそれでは、トーナメントの順番を決めましょう! 魔法学園とは言えど、こういうときは魔法ではなく紙媒体に限ります! クジ持ってきてください!」



 手作りの箱に入った紙を抜き取っていく新入生。学園側はこのドキドキ感を大切にしたいのだろう。

 最後の1枚が引かれ、対戦表が完成する。



「お、私はAブロックだな。シェルムは?」

「Bブロックだ。決勝で会おう」

「ふはは俺はAブロックのシードだ! 当然! このために1ヶ月頑張ったからな!」

「イデアさんは……ってあれ? イデアさんどこだろう?」



 先程、クジを引いている姿は見たのだが、今は見当たらない。今朝の挨拶も無視されたピカロとしては心配の種ではあるが……ともかく今はトーナメントに集中だ。


 ──生徒たちが準備を終え、観客もあらかた席につく。


 いよいよかと興奮を隠しきれない観客たちの鼓膜を、ザイオスの声が叩く。



「大変お待たせいたしました! それではAブロック第1回戦第1試合! 魔剣士科1年──ピカロ・ミストハルトVS魔術師科1年──テテ・ロールアイン!」



 本日の目玉と呼んで差し支えない男──ピカロが初戦を飾る。これを見に来たんだとばかりに盛り上がる観客席。校庭が揺れる。


 異常なまでの盛り上がりに、ピカロの自尊心が満たされまくった結果、一周回って緊張し始めたようだ──白目をむいて震えている。


 対戦相手のテテは、大きな杖を持った小柄な女の子だ。勝気なつり目が可愛らしい──が、その庇護欲を掻き立てる容姿に騙されてはならない。彼女もまた、何千人もの入学希望者の中から選ばれし若き天才の1人である。


 小走りでステージに立つテテ。男性客からの子供扱いのような声援に眉をひそめつつも、深呼吸し精神を整える。ピカロほどではないにせよ、彼女も緊張はしているのだ。


 一方のピカロは、一昔前のロボットのようにぎこちない動きでステージへ上がる。見てる側が緊張しかねないほどのナーバス具合だけれど、それを補って余りあるスター性が観客を喜ばせる──スター性と言っても父の威光だが。


 虎の威を借る狐……とまでは言わずとも、ミストハルトという家名のブランド力は荷が過ぎる。彼はニクスではないのだから。



「さぁ早速登場いたしました! 彼についての噂を耳にして今日ここに集まっていただいた方々も多いことでしょう──断言します! 彼は、ピカロ・ミストハルトは、アルド王国を魔王から救ったあの大英雄、ニクス・ミストハルトの本当の息子です!」



 やや芝居じみてはいるが、わかりやすく客を煽るザイオス。彼は彼で楽しんでいるのだろう。


 燃え盛るボルテージ。跳ね上がる期待値。身長も低く、怠惰の権化のようなだらしない肉体ではあるが、ピカロが“本物”だとわかればそんなことは気にならなくなる。



「両者、ステージ中央に立ってください。それでは──試合、開始ッ!」

「先手必勝!」



 開幕、テテが杖を振り下ろす。


 ピカロのはるか頭上で魔力反応──いかずちがピカロを貫いた。稲妻が空気を裂く轟音、砂煙が収まると、そこには膝を抱え丸くなるピカロがいた。


 ぶつぶつと何かを言っているようだ──つまりまだ勝敗は決していない。それを確信した瞬間に、再び杖を振り下ろすテテ。


 叩きつける雷の雨。ピカロ側のステージが割れるほどの衝撃──その余波におののく観客席。


 光の速さの攻撃ゆえに、避けようもない。うずくまるピカロは怒涛の雷雨の最中にいる。



「おおーっといきなり雷魔法です! 使える生徒はかなり少ない、難易度の高い魔法ですが、驚くべきことに入学してからたった1ヶ月の新入生が使いこなしています! さすがのピカロ・ミストハルトもこれにはお手上げのように思えますが……しかし気がついている人もいるかもしれません、ピカロ・ミストハルトにも大きな魔力反応!」



 先ほどまで、情けなくうずくまるピカロに野次を飛ばしていた観客も、ザイオスの言葉に思わず目を剥く。防戦一方どころか良いサンドバックにされているようにしか見えないピカロが、魔法を使用していた──。


 そしてそれはテテも気がついていた──何より、対人戦ゆえに威力を抑えてはいるものの、これだけの雷の直撃を喰らっておきながら意識を失わないピカロに違和感を感じていた。


 とはいえ、うずくまる相手を恐れて何もしないのでは意味がない。ピカロが何を企んでいようと、今のこの瞬間に試合を終わらせればいいのだ。



「これで終わりです!」



 畳み掛けるテテ。黄金の雷が収束し、巨大な剣を形作る──魔力で無理やり束ねられた稲妻が叫び、轟音が校庭を揺らす。


 ピカロの頭上、切っ先を脳天に向けた雷の刃が、ピカロを貫かんと光速で墜落する──よりも、遥かに速く。



「……咲き誇れエロスの薔薇よ!」



 光の速さで突き刺さるはずだった雷の刃は、誰もいないステージを破壊して霧散する。その轟音と砂煙の中にさえ、ピカロはいない。


 突如、背筋を襲ったおぞましい寒気にテテが振り返ると、悪魔の様な顔をしたピカロがいた。



「テテちゃん、だっけ? エッチな下着付けてるね。勝負下着?」



 そう呟かれて自分の体を見下ろすと、誇り高き魔法学園の制服が粉々にされ、下着姿になっていることに気がつく。顔を真っ赤にし、腕で身体を隠そうとするテテの首筋に、ピカロが触れる。



「えいっ」

「きゃあああ──ッ!」



 帯電状態のピカロから流れ込む電流がテテを襲う。下着姿の小柄な少女が、手足を痺れさせピクピクと跳ねる様子を堪能するピカロ。


 気を失い倒れたテテを見下ろすピカロのズボンが膨らみ始めたのを見かねてザイオスが叫ぶ。



「し、試合終了ーッ! 勝者ピカロ・ミストハルト! 直ちにテテ選手から離れて下さい! おい、覆いかぶさるな! 誰か止めろあの馬鹿野郎を!」



 直後、目にも留まらぬ速さで飛び出てきたシェルムの膝蹴りをまともに喰らい、1発KO。両足で引き摺られるピカロに、遅ればせながら拍手が送られた。


 何が起きたのか理解できず、ざわつく観客席を見て、ザイオスが改めて説明する。


 ステージの上部──空中に浮かぶ魔法のスクリーンに試合のリプレイが流れた。



「いやぁ凄い試合でした。テテ選手の攻撃は雷でしたから、全然見えませんでしたけど、最後のピカロ選手はもっと速かったですね」



 スクリーンではスローモーションで戦闘映像が流れているが、やはりいきなりピカロが消失し、次の瞬間にはテテの背後にいる。



「えー、まずピカロ選手の使っていた魔法は、身体強化魔法ですね! それも何度も何度も重ねて使用していました。おそらく1番最初の雷魔法はちゃんと効いたのでしょうが、そこから先は無傷と言って差し支えないでしょう。……あれだけ身体強化を繰り返せば、最終的には光の速さを超えて移動できますし、その速度に耐えられるだけの身体になる」



 ザイオスの言う通り、ピカロは最初の一撃で鼓膜を破られている。その瞬間パニックになったピカロはうずくまりとりあえず防御のために身体強化魔法を使った。


 しかし耳が聞こえないことと重度の混乱から、果たして思い通りに身体強化できているのか不安になり、結果、何度も何度も魔法を重ねていたら、いつしか雷によるダメージを感じなくなった。


 飽きるほど雷に打たれた体は電流を帯びていたため、この体で女の子に触ったらどうなるのかという好奇心が、最後、ピカロを動かしたのだ。

 ゆえにあれは、テテの必殺技を避けつつの反撃ではない。そもそも音は聞こえていないし、うずくまっていて視界に入ってすらいなかった。あの雷の剣は、たまたまタイミングよく回避できただけである。


 無論、直撃していたところで、あの状態のピカロにはかすり傷さえ与えることは叶わなかっただろうが。


 しかし最も驚くべきは──評価されるべきは、その後の剣技。光速を超えた世界の中、テテの身体を一切傷つけることなく、制服のみを粉々に斬り刻んでみせた姿は、速すぎてスローモーションのリプレイ映像にも映ってはいない。


 常日頃、情けない醜態を晒すことばかりであるし、最強キャラのシェルムの影に隠れがちではあるが──ピカロ・ミストハルトは、大英雄の血を色濃く受け継いだ、本物の天才である。




────✳︎─────✳︎────




 校舎裏──濃い影の中、右目を押さえ、壁に寄りかかる1人の少女。



「はぁ……はぁっ……」



 汗が止まらない。彼女の小さな身体の中に収まるには、あまりに強大すぎる力が、鼓動を速める。

 彼は──仮面の男は、その痛みにもいずれ慣れる、と。力が身体に定着すると言っていた。


 定着していない状態がこんなにも辛いのならば、トーナメント前日ではなく、もっと前に力を貰えばよかった。


 そう思ってから、自分がどれだけ勝手なことを言っているか思い知り、自嘲する。


 この力を与えられるにあたって、人が──知り合いが、3人も死んでいるのだ。いくら自分を虐めていたとはいえ──いずれ自分自身で復讐してやろうと思っていたとはいえ、3人の死のタイミングが悪かったなどと考えるのは、不謹慎極まりない。


 しかしもう遅い。彼女は──イデアはもうすでに理解している。この力が、この右目に宿る灯火が、悪しき奔流であることを。


 もう、両親にも、ピカロたちにも顔向けはできない。祝福される類の力ではないのだ──そもそも与えられただけである時点で、イデアが強くなったのだとも言えない。


 強くしてもらった──仮面の男に。そんな小さな罪悪感も無きにしも非ずではあるが。


 少なくとも今のイデアにとっては、憧れの対象はピカロではなくあの仮面の男だった。


 もう後戻りはできない。この力をコントロールし、邪悪だろうと何だろうと、誰にも負けない強さを手に入れる。


 つまるところ今はまだコントロールできていないわけであるが、しかし。イデアは自覚している。



「──これは、人を殺してしまう力だ」



 体内を駆け巡る膨大な魔力を感じつつ、呟く。この力をコントロールできないままトーナメントに参加すれば、最悪、対戦相手を殺してしまうかもしれない。


 今更、誰かの死を厭うのも身勝手ではあるが、しかし誰彼構わず殺して回りたいわけでもない。そのために力が欲しかったわけではないのだ。


 イデアはただ、忘れたかった。己の中の罪悪感、劣等感、焦燥感を。目蓋の裏を蠢くどす黒い感情を。


 そして今は、この力を手放したくないという衝動に駆られている。


 力を解放し、全力を出せば、その異常さゆえに、少なくともスノウ学園長には、自分がマトモでは無いと──悪しき色に染まったのだと見破られてしまうかもしれない。


 ようやく満たされそうな自尊心を、堕天のレッテルのせいで奪われるかもしれない。


 力を手放したくないし、誰かを殺したくもない。



「私なら……今の私なら、できる──やってみせる」



 有り余る力を隠し、ただの天才を──30人の中の普通の1人を装い、このトーナメントを勝ち上がる。


 ──正しさなど、とうに見失ったイデアにとって、これだけが目指すべき正義だった。



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