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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第二章 魔法学園編
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第十二話 女房候補

 入学式後、講堂に残された新入生30人の前には、3人の教員が立っていた。中央の1人が一歩前へ──腰に剣を携えたその男は、ぐるりと全員を見回してから口を開く。



「それでは、明日から授業が始まるわけですが、君たちには専攻する学科を選んでもらいます」



 入学試験合格の日、試験後に集められた合格者に対して、スノウ・アネイビス学園長が直々に説明していたことを思い返す。

 魔法専攻の魔術師科、剣術研鑽の騎士科、新進気鋭の魔剣士科。


 スノウ学園長からの説明がなくとも、この魔法学園を目指す若者からしたら既に知っている情報であり、故に入学試験に挑戦する前から、どの学科に入りたいか決まっている者が多い。


 しかしながら試験当日の朝にシェルムに誘われ、魔法学園を目指すことが決定したピカロにとっては、別段この魔法学園に憧れていたわけでもないので、事前に学園の情報を調べていたなんてことはなかった。

 故に、試験合格から入学式までの一週間しか考える時間がなかったこともあり、正直に言ってまだ迷っているピカロである。


 そんな様子など知る由もない教員が説明を続ける。



「私たちはそれぞれ、魔術師科、騎士科、魔剣士科の専門の教員です」



 魔術師科、として指差されたのは、小柄な女性教員。ザ・魔女といった風貌の彼女は、一瞬、視線が集中したことに戸惑い、顔を赤らめ、魔女帽子をグイッと下げて目元を隠す。

 騎士科、として指差された屈強な男性教員は、対照的に堂々としていた。というか腕を組み目を閉じている。

 ということは消去法で、中央に立ち、説明をしているこの男性教員が、魔剣士科を担当するのだろう。



「実戦訓練の際などにはさらに、今も現場で活躍している現役の魔術師、騎士、魔剣士の方々が来てくださり、多くの学びを与えて下さりますが、基本的には私たち3人が君たちの3年間を担当します。今から1分、時間をあげるので、自分が専攻したい学科の教員の前に並んで下さい。転科は1年に1回なので、慎重に選ぶように!」



 ざわつく新入生。とはいえ、そのほとんどはそもそも特定の学科に憧れて、それを目指して試験に挑んできたわけであるから、やがて騒がしさも収まり、ぞろぞろと列を成していく。

 うーむ、と考え込むピカロの肩にシェルムが手を置く。



「……僕はお前と同じ学科にいくつもりだから、正直どこでもいいんだけど……そんな悩むことか?」

「いや、それが迷うんだよ。魔法への憧れもあるから、魔術師科にいって魔法を極めてみたいし、剣術の頂点に立つ大英雄の息子としては騎士科で剣の腕を磨きたいとも思う。んで、ハイブリッドの魔剣士科も主人公っぽくてカッコイイだろ……どうしようかな」



 とはいえ、与えられた時間は1分。規律正しい魔法学園の生活において、足踏みという選択肢はない。既に並び終えた28人と3人の教員が、未だ悩み続け唸っている金髪チビデブと、その隣でボーッとしている紫紺しこんの美青年を、急かすように見ていた。

 試験合格後の集まりに遅刻して行った2人なので、またアイツらかよ……といった見下され方をされる中、シェルムがとあることに気がついた。



「おいピカロ。見ろよ、魔術師科が10人、騎士科が10人、魔剣士科が8人並んでるぞ」

「……え?」

「これはもう魔剣士科に行けという作者の意思だろ」

「露骨だぞ余りにも」

「30人に所属する学科を自由に決めさせて、10人ずつになるとは思えないから、これはもうご都合主義の強い力が働いてるな。逆らうと酷い目に遭うかも」

「……ええ、もうちょい悩むパートだろ。一度王都を散策とかして、そこで新キャラに出会ったりとかしてさ、色々な展開の末にどの学科に行くか決めるのでもよかったはずなのに」

「知らないのかピカロ。作者はな、とりあえず物語を進めようと焦ってるんだよ。無駄な会話ばかりで物語に進展が無いから人気が出ないのではないかと考えてるわけだ」

「今更だなぁ」

「まぁでも、僕らも早く魔界に行きたいし、ここは乗っておこう」



 シェルムに腕を引かれ、ピカロは魔剣士科の最後尾に並ぶ。



「……では、それぞれ教室に向かいます。とりあえず今日は、今年、その学科ではどのようなことをしていきたいか、何を学んで欲しいかなどの話だけします。明日から本番、というわけです」



 そう言って歩き出した男。いそいそとついて行く10人。階段を上り、一つの教室へ。適当に座るよう促されたので、ピカロとシェルムは最前列の中央に堂々と座った。



「えーっと。ようこそ魔剣士科へ。現役の魔剣士は、アルド王国には数えるほどしかいないんですけど、一応私もその1人です。足を怪我してしまいましてね、魔族と戦うとなると足手まといになりそうなので、リハビリも兼ねて教員として過ごすことになりました。日常生活に支障はありませんから」



 教壇に立った男は、ジャンプしたり、屈伸して見せたりする。

 パーマを当てたような黒髪と、整えられた口髭。胡散臭い顔つきも相まって、若手の美容師のような見た目をしている。ピカロが最も嫌うタイプだ。



「私はヘスタ・ドレッサー。ヘスタ先生と呼んでください」



 何人かの生徒は彼のことを知っているようで、憧れの魔剣士に目を輝かせている。



「これでも天才魔剣士と呼ばれていたので、安心して授業を受けて欲しいと思います。まぁ教えるのは初めてなのですが。とりあえず、本物の魔剣士とはどんなことができるのか、実際に見てもらいましょうか」



 おもむろに剣を抜いたヘスタ。教室に緊張感が走り抜ける。



「例えば……炎」



 銀のつるぎは、たちまち赤い輝きを放ち、刹那、切っ先から根元まで刀身を炎が覆う。それはもう、炎をまとっているというよりかは、まさしく剣が燃えているように見えた。



「……実際、剣に炎を纏わせるくらいなら、普通に炎の槍を飛ばす魔法とかの方が強いんだけど……まぁ、わかりやすいかなと思いまして。こんな風に、剣術と魔法を組み合わせて新しい戦闘スタイルを作り上げて行こうという、未だ発展途上な分野ではありますが、カッコいいでしょう?」



 燃え盛る剣をそのまま鞘に納めるヘスタ。手は熱くないのかとか、鞘は無事なのかとか不思議に思うことも多いが、燃える剣を見せたのはわかりやすくカッコいいパフォーマンスではあった。



「そういう意味では、私たちはまだまだ見下されています。伝統的な剣術流派や、研究に研究を重ねられた魔法に比べれば、魔剣士は手探り状態を逸してはいません。実際、私は魔法も剣も得意なので魔剣士と呼ばれているだけですし。しかし、だからこそ戦術の幅が広く、定まった形のない、それぞれの個性が現れる分野だと思います。強い戦士は沢山いますから、どうせなら代わりのきかない、尖った強さを目指してみませんか?」



 胸を熱くする生徒たち。無論、ピカロとシェルムは真面目に話を聞いていないので、口を開けてボーッとしているのだが、そんな最前列は無視してヘスタは熱を帯びる生徒たちの目を見て訴えかける。



「アルド王国の……いや、世界の最先端を行くのが私たち魔剣士です。誰も見たことのない強さを、誰も知らない強さを、世界中に思い知らせるのが、この10人であることを願っています!」



 ──その後、簡易的に、一年のスケジュールなどの説明を受け、本日は解散となった。ヘスタの言葉が胸に響いたようで、何人かは早速ヘスタの元に集まっていた。憧れの魔剣士に聞きたいことが山ほどあるのだろう。


 チンポジを直しつつ席を立ったピカロは、自ら望んで魔剣士科に来たわけではないことを未だに気にしているようで、テンションの低いまま教室を後にする。


 すると、同じように、静かに教室から出てきた1人の女子生徒が──下を向いて歩いていたからだろう──ピカロにぶつかってしまう。



「あ……す、すみません」

「声が暗いな、どうした。お前も魔剣士がしっくりこないのか?」



 そう言われた女子生徒は、おどおどしつつピカロを見遣みやる。自信の無さが全身から溢れ出るその様子からは、この子が魔法学園の生徒であるという印象は受けない。選ばれし一握りの天才たちという肩書きのおかげで胸を張って歩く生徒も多い中、珍しいタイプだ。


 紺色の髪は、肩にかかる程度で、前髪で目元が隠れている──いや、隠しているといった方が正しそうである。

 少しぶかぶかな制服の裾をギュッと握りしめ、再び下を向く。



「私には……才能がないから」

「才能がないと魔法学園には受からないだろう」

「運が良かっただけ……私の無力さは誰よりも私自身が知ってる」

「ふーん。ま、いいや。精々頑張ってくれたまえ。大英雄の息子は肩で風切って寮に帰るとしますわ」



 偉そうに歩き出すピカロの後をシェルムが追う。下を向く彼女とすれ違う瞬間、シェルムは耳元で囁く。



「──最後まで自分の力で戦い続けることをオススメするよ」

「……え?」



 振り返ると、既にシェルムは背を向けていた。言われたことの意味がわからず、困惑する彼女を置いて、2人は去っていった。


 ──彼女はまだ知らない。“何でも知ってるシェルムくん”の忠告には、従っておくべきだということを。




────✳︎────✳︎────




 ──夕方。学生寮に帰った2人だったが、特にやることもないので、王都を散歩することにした。ピカロからすれば久しぶりの王都ということでテンションがあがるのである。何が流行っているのかなど、知りたいことも見たいものもたくさんあるので、家から持ち出してきていたお小遣いを手に、散策へ。


 シェルムは、これから使うことになる自分の剣を探すことにした。ピカロは誕生日にニクスからプレゼントとして魔王を倒したときの剣をもらっていたが、シェルムは手ぶらである。せっかく魔剣士科に所属するのだから、剣の一つや二つ、持っておきたい。


 ピカロの買い物に付き合った後、2人は武器屋へ。大通りの武器屋はギラついた、装飾の多い剣ばかりを売り出していたので、路地裏のひっそりとした店を訪れた。



「こんちわ〜……って、お前! 剣道極けんどうきわめじゃないか!」

「お前ら、入学試験の時の……! チビデブと……血飛沫崎ちしぶきざき首斬丸くびきりまる!」

「そういえばちゃんと名乗ってなかったなこいつに」

「どうしてこんな所に! というかその制服! まさか合格したのか!?」

「そのまさかだよ。……お前こそなんで武器屋に?」



 あの時は薄汚れたボロい服を着ていた剣道極だが、今は作業服らしきものを見に纏っていて、あの時の異常なまでの可哀想な男オーラが消え去っていた。



「俺にソードofギラファノコギリクワガタを渡して、魔法学園の入学試験に挑めと言っていたやばめのおじさんに、不合格だったことと、ソードofギラファノコギリクワガタが粉々になったことを伝えたら、見捨てられちまったんだよ」

「いたな、そんなおじさん。そのおじさんにお金もらって生活してたんだっけ?」

「ああ。定期的にちんぽを見せたら小銭を投げてくれたんだ」

「どうしようもない男とつるんでたんだなお前……」

「それで稼ぎ口を失って露頭に迷っていた俺を、ここの店主が拾ってくれて……今は店番という立派な仕事を貰えてる。就職だ就職」



 それを就職と呼ぶかはともかく、今度はいおじさんとつるんでいるようだ。


 話を聞くと、剣道極は店番と万引き防止しか頼まれていないらしく、売り物の武器については知識がないため、一人でシェルムに剣を売ることはできないらしい。

 とことん役に立たない奴だなと呆れつつ、シェルムが店主はどこにいるのかを訊くと、剣道極は険しい顔付きに変わった。



「それが、店主の娘さんが買い物に行ったっきり帰ってこないらしいんだ。もうそろそろ日も落ちる。こんな時間に女の子を1人にするのは不安だからって、探しにいったんだよ」

「じゃあ剣も買えないのかよ……別の店をあたるか」

「いやまてシェルム」



 ピカロは、制服の襟を正しながら言う。



「我が家のメイド、アンシー以来の女キャラの登場だ……メインヒロインの可能性がある」

「いや女は結構いただろ。学生寮の受付嬢とか、魔術師科の先生とか、女子生徒とか」

「うるさい黙れ!」

「気持ち悪いなぁ……」

「助けに行くぞ」

「助けるって、まだ何かの被害に遭ってるとも限らないだろ」

「いいから行くぞ」



 そう言って店を出て、路地裏に立つピカロ。路地裏を駆け回ること数分、角を曲がると、そこには数人の男に囲まれる女の子がいた。


 ピカロの予想通り、何らかのトラブルの渦中にいるようだ。



「なんでお前みたいな弱っちい女が魔法学園に受かってんだよ!」

「本当は実力があったのに隠して、弱々しい女を演じて、俺たちを騙してたのか!?」

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい」



 その震える声は聞き覚えがあった。


 壁に追いやられ、下を向いている彼女は、まさしく今日、教室を後にした時にピカロにぶつかった女子生徒だった。

 肩にかかる長さの紺色の髪を、1人の男が引っ張り、無理やり顔を上げさせる。涙に濡れた瞳を見て──恐怖に震える口元を見て、ピカロは走り出す。



「ビンゴだぜシェルム!」

「何が?」

「メインヒロイン、ちゃんと美人だ! 助けるぞ、ジョン・シナの入場曲を流してくれ!」

「『My time is now』知ってる人いるのかな……」



 飛び跳ねて喜ぶピカロは、勢いそのままに、彼女の髪を引っ張っている男の頬に拳を叩き込む。

 格闘技の経験があるわけでも、喧嘩慣れしているわけでもないため、そこまでの威力はなかった。殴られた男が吹っ飛ぶこともなく、2、3歩後ずさっただけだ。

 突然のことに硬直している男共にピカロが言い放つ。



「私の未来の嫁に何をしてやがる腐れちんぽ共ッ! ぶち殺してやろうかッ!」



 ピカロいわくメインヒロイン候補の女子生徒──イデア・フィルマーは、潤んだ目でピカロを見上げていた。

 この時の視線が、今作品唯一、ピカロに向けられた好意的なそれであったことを、ここで補足しておこう。

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