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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第二章 魔法学園編
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第十一話 補足謝罪

「おいピカロ」

「なんだよ。……というか、このセリフの応酬から始まるスタイル多いな」

「うるせぇ。それはともかく、この作品を後々から改訂したことで、めんどくさいことになってしまったんだよ」

「まぁ、素人の書く小説なんぞ低クオリティのバーゲンセールだからな」

「ということで改めてまずは、そもそもの僕たちの目的などを簡潔に振り返っていきたいんだ」

「いや、そんな面倒なことしなくて良くないか?」

「ところがどっこい、その基本中の基本に関わることについての改訂だったんだ。まぁ大雑把にいくから大丈夫」

「……でもまた冒頭からセリフばっかりなのもどうかと思うから、作者に振り返らせろよ」

「まぁそれもそうだな。じゃあ、よろしく」



 ──始まりは現時点から5年前、当時10歳のピカロは、魔界の空気が満ちた森へ迷い込み、そこで一晩過ごした。その夜、夢に出てきたのが、この物語の最終目標──サキュバスである。

 5年後、そのサキュバスとの再会を目指し再び森へ足を踏み入れたピカロが出会ったのは、サキュバスではなくシェルムだった。


 シェルムいわく、近年、人間界に現れる魔物の数が減っているらしい。そしてこの傾向はやがて、魔界と人間界の繋がりを無くすことになる。


 それを察知したアルド王国含む各国は、この日、世界に同時に生まれた“伝説の勇者”たちを利用し、勝手に人間界から離れていく魔界を『我が国の伝説の勇者が追い払った』ことにして、『人類を救った国』となるシナリオを考えた。各国がその栄誉を狙っている。


 過去と未来の歴史を示す『世界の書』で予言された魔族との大戦を最後に、人類対魔族の戦いを終わらせるのだ。


 ピカロがサキュバスと再会するには、人間界では生きられないサキュバスの体質上、魔界に行くしかない。この魔界に行くということと、伝説の勇者たちから魔界を守ること、これら2つの条件を同時に満たす方法はただ一つ──魔界送りの刑だ。


 数十年後、魔族との大戦において、ピカロは魔界を滅ぼさんとするアルド王国軍の指揮をとり、そしてそれに盛大に失敗することで──無能貴族となることで、史上最悪の犯罪者として魔界送りにされることを目指す。


 そのためにはまず、アルド王国軍を任されるほどの実力を持ち、そしてそれをアルド王国中に──果ては軍部に知れ渡らせ、実際に指揮を任せられる必要がある。その第一歩としてピカロはシェルムと共にアルド王国立魔法学園へ入学し、数々の伝説を残してスタートダッシュを決めようと目論んだのだった。



「……読者も忘れてたろこの設定。現に私も忘れてたし」

「僕は忘れてなかった。ピカロ、お前が黒ギャルのけつの穴舐めたい教の信者だとか、女のうんこを喰えるだとか言って、ふざけてる間も僕は定期的に読み返してたんだ!」

「悪かったよ。で、この設定のどこに問題点があるわけさ」

「実はもともと、魔族との大戦が起こるっていう『世界の書』による予言──この設定はなかったんだ」

「え?」

「これ、序盤を大幅に改訂して無理やり追加した設定なんだよ」

「えー、じゃあもうすでに読み進めてくれている読者は、なぜ魔族との大戦起こるのかを知らないのか」

「ああ。だから今更ここで謝罪しても意味はない」

「致命的だな」

「無理やり改訂してねじ込んだ設定だからこそ、読者にはちゃんと覚えててもらいたいんだよ。だから改めてここで説明した」

「なぜか人類から手を引き始めてる魔族と、わざわざ戦争をする理由は、それが予言されていたからです! はいここテストでます!」

「やっぱりね、素人がプロットも書かずに即興で小説書いてると、どうしても矛盾したり違和感が出ちゃうんだよなぁ」

「言い訳はいらねぇ」

「ちなみに今実際に読者が読んでるこの部分も、元々は違う話をしていたのを改訂してるから、文字数が無茶苦茶減ってる」

「……まぁ、サクサク進んでると思おう。ポジティブに行こうぜ」



 作者の実力不足で、無駄な会話を強いられる可哀想な2人だった。

 ──今いる場所は、王国立魔法学園。装飾の施された講堂、である。

 そう、試験合格から一週間後の今日は、入学式だ。保護者は参加しないので、少人数での開催となるが、選ばれし魔法学園の生徒として、初めて制服に腕を通すこの機会は、新入生たちを大いに昂らせた。


 講堂奥の舞台を正面に、並べられた椅子に座る新入生──その数30人。アルド王国中から集まった入学希望者の大群を思い返せば、最終的に残った彼ら彼女らの価値もわかろうというものだ。


 彼ら以外に、在校生が全員集合しているということもなく、入学式に参加しているのは、新入生30人と、舞台上にスノウ・アネイビス学園長、教員が数人腰掛けている、そして──。



「では、生徒会長からのご挨拶です」



 舞台の端で、司会を務める在校生がそう言うと、新入生の後ろに並んでいた6人の在校生がゆっくりと舞台へ上がって行く。

 生徒会長が呼ばれたのに、6人も出てきているということは、おそらくは生徒会に所属する在校生全員が一応はついて行くのだろう。6人とも右腕に腕章をつけていることからも彼らが特別な集団なのだとわかる。


 全員がただならぬ雰囲気を醸し出していることで、新入生も思わず背筋を改めて伸ばしたが、なにより先頭を歩く青年──おそらく生徒会長であろうその人は、別格と言わざるを得ない。



「おいおい、素人の私でもわかるぞ……アイツ絶対ヤバイだろ。多分この学園で一番強いんだろうな」

「………強いというか、アレはもう──いや、まぁいい。……面倒なことになりそうだ」



 生徒会長というくらいだから、真面目そうな見た目を──それこそリード・リフィルゲルのような人物を想像していたピカロにとっては意外にも、壇上に上がったのは爽やかさにステータスを全振りしたかのような好青年だった。

 結局、舞台上に上がったのは生徒会長だけで、残りの5人は舞台下に横一列に並んだ。彼らの全員がガタイの良いわけではないが、その威圧感たるや……。


 ピカロたち新入生を見下ろす優しい瞳とは裏腹に、隠し切れていない圧倒的存在感。こほん、とわざとらしく咳払いをしてみせてから、口を開いた。



「この春の良き日に──前置きはいいか。皆さん、入学おめでとう。私はこのアルド王国立魔法学園2年生……一応、生徒会長をさせてもらってるザイオスだ。ザイオス・アルファルド……まぁ覚えてもらわなくて結構。会う機会も中々ないしね」



 彼の声はよく響いた。別段、マイクを使っているわけでも、声を大きくする魔法などを使っているわけでもない。そこまで広い部屋ではないため、そういった類のものが必要ないということなどは関係なく、爽やかなその声には力強さが籠っているように思えた。


 藍色あいいろの髪を揺らし、整ったその顔を笑みで崩すザイオスに視線が集中する。



「この後、クラス分けがあって、担任の教師が決まったら説明を受けると思うんだけど……一ヶ月後、君たちにとって大きなチャンスが訪れる。というのも、先月、3年生の先輩たちが卒業したため、私たち生徒会も人数が減ってしまってね。本来は、各学年から3人ずつ……計9人で生徒会なんだけど。そこで、一ヶ月後、君たち1年生の中から、最も優秀だった3人の生徒を、新たに生徒会に迎え入れようと思う」



 アルド王国立魔法学園生徒会──それは、ただ真面目で、意欲的で、人の上に立つのが好きな生徒が務める集まりなどでは決してない。アルド王国中の若き才能を掻き集めたこの学園で、たった9人のみがその資格を得られるということは、つまり最も将来の活躍を期待される9人が集まるということ。


 そもそも、アルド王国が運営するこの魔法学園の卒業生というだけで、その戦闘技術、魔法の知識はアルド王国からのお墨付きだ。卒業生の就職先は引く手数多である。

 ただし、その中でも生徒会に所属していた者は、格が違う。それは戦闘技術、魔法の知識だけでなく、アルド王国のトップを走り続ける新たな時代のリーダー候補としての側面が評価される。


 現に、アルド王国立騎士団はその団員の多くが魔法学園の卒業生であり、団長のヴァーン・ブロッサムも、過去に生徒会長を務めていた。

 アルド王国軍の幹部もそのほとんどが魔法学園で生徒会に所属していた。


 その他にも、有力な冒険者としてその名を轟かせている者たちも、大抵は魔法学園の卒業生だったりする。


 それほどに魔法学園のブランド力は凄まじく、とりわけ生徒会は頭ひとつ抜けた注目度である。



「君たちは、この魔法学園に入学できて、すでに満足しているかもしれない──いや、それも悪いことではないけどね。ただ、王国中から憧れの目を向けられる君たちの中にも、優劣はある。競い合わなければ進歩しない以上、実力で上下関係を作ることになる──」



 一瞬、ザイオスとピカロの目が合う。そんな一瞥いちべつは無かったかのように、すぐに正面に向き直ったザイオス──ニヤリと笑う。



「新入生30人、全員強制参加にて、一ヶ月後、トーナメント戦を行う! 剣と魔法をその手に──答えは単純明快、最も強い3人を我らが生徒会に迎え入れる!」



 こんな小さな規模で頂点を取れない奴が、この王国を引っ張って行けると思うなよ──と。低い声でそう言ったザイオスは、新入生、そして学園長と教員らに頭を下げ、舞台を降りる。


 舞台下に並んでいた5人の生徒会役員がザイオスの後ろについて席へ戻って行く。


 アルド王国で最も栄誉ある学園への入学を果たし、大いに自尊心を満たされていたであろう新入生たちだったが、入学早々、ここはこの王国のどこよりも実力主義なのだと痛感させられる。

 もう将来は安泰だと余裕を持っていた彼らの気が引き締まっていくのを肌で感じつつ、ピカロはシェルムに視線を送る。ニヤケづらのシェルムが口を開いた。



「……トーナメントだってよ、どうする?」

「決まってるだろ──ぶっちぎりの一位とって、無能貴族への──いや、サキュバスとの再会への第一歩にするぞ」



 ピカロ・ミストハルトに課せられた最低条件は──比類なき優勝、ただ一つである。

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