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無能貴族(仮)〜てめぇやっちまうぞコノヤロー!〜  作者: あすく
第二章 魔法学園編
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第九話 理論的糞


「私が『女のうんこを食べることができる理由』を、理論的に説明しよう」

「急にどうしたピカロ」

「シェルム、『死者の占有』という言葉を知ってるか?」

「いや知らないが……というかうんこを食べるとかそんな話するなよ」

「これは日本の刑法学においては、有名な言葉なんだ」

「話を聞けこの野郎」

「ではまず、ここで質問だ。死者の手から指輪を抜き取り、それを持ち帰ったら、それは窃盗罪に当たると思うか?」

「……そりゃ盗んでるワケだから窃盗罪だろ。……ん? でも既に死んでるんだよな。普通に考えて刑法は、生きてる人間から盗んだ場合を想定してるのか?」

「良い線いってるぜシェルム。ちなみに“盗むことを目的に人を殺した場合”は、強盗致死傷罪……つまり強盗殺人になるから話は別だ。今回は、口論などをキッカケに殺してしまった“後”に、窃盗を思い立って指輪を盗んだ場合の話だからな」

「いつの時点で盗もうと思ったかなんて、犯人は嘘つき放題だと思うけど……まぁそこはともかく。いずれにせよ、被害者が生きてるか死んでるかで、何か違うんだ?」

「適用できる罪が変わるんだよ。学者の意見も分かれているが、生きてる人間から物を盗むと窃盗罪。そして死者から物を盗むと、占有せんゆう離脱物りだつぶつ横領おうりょう罪に当たるっていう有力な学説があるんだ」

「有力とはいえ、学説ってことは、最高裁判所の判例とは違って、学者の意見にとどまるってことだろ?」

「しかし一考に値する学説だ。まず、そもそも窃盗罪──刑法第235条を見てみると、『他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。』と書かれてる。ここで言う『他人の財物』と言えるには、満たさないといけない条件があるんだ」

「条件? それこそ指輪なら、指につけてたり、財布ならポケットに入れてたりってことか?」

「その通り。それを法律学では『占有』と呼ぶんだよ。特に、刑法における占有とは“財物に対する事実的支配(管理)”をいう。そして、そのような事実的な支配は、①客観的にその財物を支配している事実と②主観的にその財物を支配する意思という2つの要件からなるんだ」

「難しいな……つまりその物を事実的に支配しつつ、自分が支配しているぞ! という意思を持ってれば、それを『占有』してると言えるんだな」

「ここでようやく出てくるのが『死者の占有』だ。指輪を指にはめていた……つまり客観的に事実として指輪を支配してはいるけど、死んだ奴が「この指輪は俺のものだ!」という意思を持っていると思うか?」

「……死者に意思はないから、『死者の占有』は認められないってことか」

「YESだぜ相棒。ということは、今回盗まれた指輪は、占有が認められない=占有を離脱している物=占有離脱物って言えそうだろ? となると窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪が適用されるべきなんじゃないか、という学説が有力なわけだな」

「さっきも言ったけど、あくまで学説ってことは、実際の裁判ではその学説の通りにはならないってことか? 間違ってる学説には思えないけどな」

「じゃあ、最高裁判所の判例は何と言っているか。最高裁はその学説と同じく『死者の占有』を認めないという立場をとっている上で、さらにこんな考え方をしたんだ──『生前の占有』の継続がされる」

「生前の占有の継続……? 文字通りに解釈していいのか?」

「ああ。つまり、死ぬ直前までは占有していたのに、死んだその瞬間からは意思がないので占有を離脱した、と考えるのは早計だとしたんだ。確かに、1秒前までは自分の物だったのに死んだ1秒後はその人の物じゃないってのはちょっと可哀想だろ。だから、死んだ直後に限り、意思が無かろうと『生前の占有』を継続することで、被害者はギリギリ保護に値するとして、占有への侵害──つまり窃盗罪を認めるってわけだな」

「なるほどな勉強になった……じゃねぇんだよクソデブこら。うんこの話はどこいったんだ」

「わかってるよ、話を戻す。前提として私は、“ただのうんこ”と“女のうんこ”を区別した上で、後者ならば食べることができるということは把握していてくれ」

「そんなこと把握したくねぇよ」

「では、女のケツの穴から出た後の──生まれたてホヤホヤのうんこは、“ただのうんこ”か? それとも“女のうんこ”か?」

「どっちもただのうんこだろ。……まぁ強いて言えば、お前の言う“ただのうんこ”じゃねぇの? 百歩譲っても“女のうんこだったもの”だな」

「しかし私はそこに先ほどの最高裁判所の判例の考え方を当てはめる。すると、ケツの穴から出た直後に限っては、『女のうんこだった状態を継続』するから、ギリギリ“女のうんこ”と呼べるだろう?」

「……うーん。まぁ、呼べなくもないけど。てかピカロ、お前の言う“女のうんこ”って、女の体内にある状態のうんこのことなんだな」

「当たり前だろ。以前の私はな、ケツの穴から直に食べるならOKだが、一度、床に落ちたうんこは食べれなかったんだよ」

「知らねぇよ」

「女の腸の中にある状態──つまり肛門の内側の状態を“女のうんこ”と呼び、そのうんこのみ食べれると思っていた私にとって、一度腸の外に出た“ただのうんこ”でも、出た直後なら腸の中にある状態を継続するという考え方はまさしく革命だったんだ」

「……ん? よく考えてみると、『女のうんこを食べることができる理由』は説明できてないじゃないか」

「は? できてるだろ転がし散らかすぞボケナス」

「怖いな。……いやだってさ、お前の話は、『“ただのうんこ”を“女のうんこ”だと認識する理由』だろ? そもそも僕の『なんでうんこなんか汚いもん食べられるんだ』っていう疑問には対応できてないぞ」

「そんなのお前言うまでもないだろ。男の主食は女のうんこだろうが」

「おいおい嘘だろピカロ。理論的に説明するって1行目で啖呵を切ってるくせに」

「うるせぇ死ね」

「なんだこいつマジで」

「消えろばーか」

「……そもそもお前童貞のくせに、女のうんこ食べたことあるみたいな前提で話してんじゃねぇよ。お前が女のうんこを食える未来は来ないからな」

「この『無能貴族(仮)』の最終話は私がサキュバスのうんこを食べるシーンで終わる」

「絶対にやめろ。衝撃のラストにも程がある」

「この伏線だけは意地でも回収してやる」

「伏線でも何でもないけどな……。てかそろそろセリフ終わろう、2,500文字以上書いてるのにストーリーが1ミリも進んでないんだよ」

「え、あ、うん。じゃあセリフ終わりっ」



 2人が長々と話し込んでいたのは、アルド王国のまさしく中心部に位置するアルド王国城──その正門前である。城壁に囲まれた鉄壁の王国城への入り口はこの正門のみだ。

 何故このような場所にいるのかと言えば、数時間前、無事に魔法学園へ合格した2人が、学園の受付嬢に言われたこの一言がきっかけである。



「ご実家から通う生徒さんもいらっしゃいますけれど、大抵の生徒さんは校舎横の学生寮で寝泊りしています。ご両親の許可さえいただければ、あなた方も入寮できますよ」



 第五話限定の長距離移動魔法のせいで、現在2人のいる王都からピカロの実家まで帰る方法がなくなってしまったので、どこか学生向けの安い宿屋はないかと受付嬢に尋ねたところ、このように言われたのだった。

 身分証明も兼ねた入学届は、試験時に現れた王国立騎士団長ヴァーン・ブロッサムのおかげで提出せずに済んだものの、本格的に入学するとなると父親であるニクス・ミストハルトにはいずれ知らせないといけないとは考えていた。

 そもそも昨日、実家を出て王都に来るまでに、シェルムと2人で魔法学園へ入学しようと考えていることについて、父には手紙を出すつもりでいたピカロだったが、それもいつのまにか忘れていた。故にどうせなら合格したこのタイミングで、魔法学園へ通うことになったことと、そして学生寮に入寮したい旨を伝えてしまおうと考えたのだ。


 昨日──ピカロの15歳の誕生日には、ニクスは家に帰らなかった。それは、国王陛下から直々に呼び出しをくらい、王都へ向かったからだ。その次の日である今なら、まだアルド王国城にニクスがいるのではないかと考え、2人は学園から王国城へ直接向かった。


 しかし、シェルムの設定がイマイチ定まっていないことから、ニクスとの対面は避けようと考えていた2人にとって、一体どうすべきなのかは重要な問題であり、それについて熱く口論していたら気がつけば女のうんこの話になっていたのである。



「……というか、ピカロ。お前が父親に会うのは、実の親から許可をもらって学生寮に入るためだろ? でも赤の他人の僕がニクス・ミストハルトと会う必要はあるのか?」

「そこで思いついたんだ。シェルム、お前にはミストハルト家の養子になってもらう!」

「ふざけるな何でお前なんかと兄弟にならねばならんのだ」

「義理だから良いだろう別に」

「うぇえ……」



 シェルムの両親の設定は1ミリも考えていないので、親から許可をもらわないと学生寮に入れないという状況は、これくらい無理をしないと打破できない。

 しぶしぶ同意したシェルムを連れ、ピカロは門番に話しかけた。



「父が城の中にいるんだ。私たちは城内に入らなくてもいいから、父を呼んできてもらいたいんだが……」

「なるほど、了解した。では、その者の名前と、その者の親族であるという証明をしてくれ」

「ほら、このスーツの胸のところ。ミストハルト家の紋章が施してあるだろ?」

「……? ミストハルト家の紋章? ニクス・ミストハルト様が1代で貴族になられたのは知っているが、別段、家紋が有名なわけではないぞ」

「そりゃあんたが知識不足なだけだよ。ブロッサムは知ってたんだから」

「騎士団長が? まぁ騎士団長はニクス様の大ファンだからな、それくらい詳しくてもおかしくはないが。うーむ、とはいえ真偽のほどは判断できないな……君たちが嘘をついている可能性がある」

「じゃあとりあえず父を呼んできてくれよ。息子なら一目でわかるはずだし」

「嘘だった場合、罰されるのは俺だからな。間違った情報に踊らされてニクス様を呼び出したなんていったら減給じゃあ済まないかもしれん」

「めちゃくちゃ渋ってくるなこの門番」



 確信が持てるまでピカロの要求を飲みそうにない頭の固い門番に苦戦していると、2人の背後から音もなく現れた男が門番の肩を叩いた。



「この子は正真正銘、ニクスの子だよ。私が保証しよう」

「す、スノウ・アネイビス様!? いつの間に!?」

「お、こんにちは学園長」

「君たちは何故ここに?」

「学生寮に入りたいから、父さんに許可を貰おうと思ったんです。そもそも魔法学園に入学するということ自体もまだ知らせてませんでしたし。……学園長こそ、何をしにきたんですか?」

「私もニクスと話そうと思ってな。私に相談もせずに息子を入学させるとは思えなかったのだ。……なるほどな、ニクスに黙って勝手に試験を受けたわけか」



 常に無表情なので、怒っているように見えたが、別段語気を強めるわけでも嗜めるような雰囲気でもないため、機嫌が悪いわけではないらしい。

 とにかく、自分たちの身分を証明してくれるスノウ学園長が、同じくニクスに会いに訪れたのならば都合がいいということで、2人はスノウ学園長と同行し城内へ。


 無駄に感じるほど広々とした廊下。ちらほら人は見かけるものの、これだけ広大な空間にしては人が少ない。土地の無駄遣いと言えなくもないが、ここが王の住まう城だと思うと、これくらいでちょうど良いのかもしれない。


 スノウ学園長はニクスのいる部屋を知っているようで、迷いなく進み、一つの部屋の前で立ち止まる。扉を叩こうとしたが、手を下ろしピカロを一瞥いちべつする。スノウ学園長が一歩下がったので、ピカロは扉の前へ。

 緊張の面持ちで扉をノックすると、部屋の中から声が聞こえた。



「今開けます」



 ゆっくりと引かれた扉の先には、もちろん、ニクス・ミストハルトが立っていた。

 金髪金眼という点はピカロと同じだが、チビデブのピカロとはむしろ正反対で、スラっとした高身長で、大英雄という仰々しい呼ばれ方にしては細身に見える。

 無論、引き締まった筋肉というだけで、痩せているわけではない。ただ、筋骨隆々の体現者、王国立騎士団長ヴァーン・ブロッサムが尊敬して止まない大英雄にしては、見た目による威圧感はない。


 ピカロというよりかは、むしろシェルムに似ているくらいの端正な顔立ちが、今は驚愕の色に染められていた。



「な、ピカロ!? どうしてここに……それにスノウさんまで」

「久しぶりだなニクス。私のことはとりあえずいいから、息子の話を聞いてやりなさい」

「……父さん、私は、王国立魔法学園に入学することになったんだ」



 突然のことに混乱を隠しきれないニクスが、チラリとシェルムを見てからピカロに向き直る。



「魔法学園に受かったのか? 本当ですかスノウさん」

「あぁ。2人とも合格だ」

「そんなわけで、入学することになったという報告と、ついでに学生寮に入る許可をもらいにきたんだ」

「まぁ俺の領地は王都からは遠いから、入寮するのは構わないが……アンシーには言ってあるのか?」

「うん。今ウチにはアンシー1人で暮らさせてる」

「……まぁそのあたりは俺が謝っておこう。……それより、この子は?」



 いずれは、ピカロが魔法学園に入学したいと言ったならば、挑戦させる気はあったニクスからすればこの報告は驚きはするものの、一応嬉しい報せではあった。しかし、今明らかに不自然なのは、ピカロの隣に立つ美青年の存在。

 紫紺しこんの髪を揺らし、妖しい笑みを浮かべるシェルムを見ながら、ニクスが問うた。

 無論、想定内の質問だ。ピカロは唾を飲み込み、努めて明るく振舞う。



「ああ、こいつは私と一緒に魔法学園に入学することになったんだ。まぁ、その……相棒ってやつ。これからは2人で行動を共にしようと思っていて……あ、そうだ。実はもう一つお願いが──」

「そんなことを聞いてるんじゃない──この子は一体、何者なんだ」

「あー、えっとね……」

「いいよピカロ、僕のことだからね。僕から自己紹介させてもらうよ」



 世界を救った大英雄の前で、これほどまでに堂々としていられる若者はいないだろう。ポケットに手を突っ込みながらピカロの横に並んだシェルムは、自分と同じくらいの身長のニクスの目を見て、口角をあげる。

 背後に立つスノウ学園長も、ニクスと同様、訝しむように見つめている。



「──僕の名前はイヴァンカ・トランプ。ピカロと共に世界をひっくり返す男だ」



 睨みつけると形容してもよいほどの視線を送るニクスとスノウ学園長。緊張感が肌をひりつかせる空間──ピカロだけが、それはドナルド・トランプの長女の名前じゃねぇかというツッコミを無理やり飲み込んでいた。


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