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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第6章 王位継承の儀
98/120

98. ゴウガの塔

 初めて見るゴウガの塔は、名前のゴテゴテしいイメージに反して、割と小さい四階建ての塔だった。石積みで建てられ、苔むしている。

 俺は、両開きの重い木製の扉を押し開いて、中に入った。


 中はろくに灯りも窓もなく暗いので、俺は呪文で手元に小さな炎を灯した。

 辺りは魔物もいるようだが、俺、というかイネルに恐れをなしてか現れてこない。


 何気なく、目を瞑る。

 すると、暗い目蓋の裏側には久しぶりにあのステータスが表示されている。


勇者イネル

 レベル:99

 称号:真実を知りし者

 HP:998

 MP:897

 攻撃力:999

 防御力:997

 攻撃魔力:999

 回復魔力:856

 素早さ:970

 魅力:999


 見る必要もないから初めて見て以降、ろくにチェックしてこなかったが。

 やはり他を圧する凄まじい数字、おそらくカンスト……なのだと思う。他の人のステータスを見たことがないから、よくわからない。


 だいたい、ステータスって何なのだろう。RPGじゃないんだから、誰かが客観評価してくれているわけではないのだし。


 ふと、「称号」の欄が目についた。


「真実を知りし者」。


 どういう意味なのだろうか。


 いや、この称号というのがどういう仕組みで誰から与えられて表示されているのかすら知らないけれども。

「真実」とは何の話だ?

 イネルは少なくとも、魔王についての真実は知っていたはずだから、それを指しているのだろうか。


 俺は無事、塔の頂上へとたどり着いた。


 階段を上がるとそこは壁すらろくにないまさに天辺、強い風に吹き曝しにされてしまう。

 顔を手で覆いながらあたりを見渡すと、巨大な人型の岩石が据付けてあり、その胸に異様な形の金属の棒が突き立てられていた。


 何というか、先端に刃がある巨大な鍵、とでも表現したらいいのだろうか。

 ただ、その大きさは両手で抱えてようやく持てるほど巨大だった。

 さらに持ち手に当たる部分は、絡み合った糸を表現しているような不可思議な彫刻が施されている。


 おそらくはこれが「グリンファル」なのだろう。

 確か「普通はこんなに大きくないものなのだが、ココがちょっと削って何とか使えるようにした」とか聞いたが、実物を見てもどう使った何なのかは全くわからない。

 まあ、知る必要もないだろう。


 俺は持ち手の部分を引いて、それを抜き取った。

 幸いにして特に異常事は起こらず、俺はただ重くて持ちづらい金属を手に入れた。

 いくら一般人より遥かに筋力があるとはいえ、こんなものを持ち運ばないといけないのは非常に億劫である。


 俺はその物体を肩に担いで、塔を後にしようと階段を降り始めた。


 その瞬間、稲光が明滅した気がした。


 いや、そんなはずはない。

 今は真昼間、というか午前中なのだ。雲も大して出ていないし。

 なのだが、何かが頭に閃光のように光った。


 それは、記憶のようだった。


 この塔で起きた出来事だ。


 巨大な暴れ回る男がいる。真夜中のようだった。

 ジゼルやココ、トリスタがそいつを取り囲んでいる中、俺、ではない、イネルがこのグリンファルを振りかざす。


 男は襲いかかってくる。

 ジゼルが注意を逸らすために斬りかかる。

 ココは何かの呪文を詠唱し、それと同時に男の動きが遅くなる。


 そんな中でも、異常な眼差しでイネル、いや、俺なのかもしれないが、こちらを見てくる男が何かの呪文を放ってきた。

 グリンファルを何とか操ろうとする俺に避ける余裕はない。


 そんな中で、トリスタはすかさず俺と男の間に入り、身を挺して呪文を受け止め、俺を助けてくれた。

 トリスタは胸元から次第に石化し始める。急がなければ、彼女が危ない。

 俺はこんな時でも笑みを浮かべている褐色娘に感謝してから、力一杯、グリンファルを男の胸に突き立てる。


 というところで我に返った。


 気づけば、また俺は一人になっていて、時刻は昼日中だった。


 今のは何だったのだろう。

 このグリンファルとこのイネルの身体が干渉を起こした……のだろうか。俺の記憶なのか、イネルの記憶なのか混同してしまうほど、生々しい感覚まで呼び起こされた。


 まるで、バグが起きて出てきてはならないデータが表に飛び出してきたかのように。

 だが、だとしても妙だ。イネルの記憶は入れ替わり転生した時に、この身体から消滅しているはずなのに。


 俺は横目で、グリンファルのそのざらついた表面を睨みつけた。

 無骨なその道具からは、もちろん何の返答もなかった。

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