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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第6章 王位継承の儀
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89. 一世一代のカミングアウト

「ダメだダメだダメだ!」


 ジゼルが、表の兵士に聞こえるのではないかというほどの大声で言った。


「正体を明かすなどと……今更、許されるわけがないだろう! お前のそんな我が儘のために!」


「あ、ああ……」


 俺は腕組みして考え込んだ。

 突飛で大胆すぎるアイディアのようだが、しかしデメリットは何かあるだろうか?


 転生してきた直後は、何が起きているのかわからず、この事実を知られては下手すれば殺されるのではないかという不安があったので、沈黙を貫き徹底して誤魔化し続けた。

 直後に、魔王からも秘密の契約の話をされ、なおのこと俺は逃げ場がないと感じ、自分の正体を誰にも話さないことを心に誓った。


 だが。もう状況は変わっている。


 俺自身、この世界の様相、そしてイネルという人物がどんな人でどう他人と関わってきたのかを把握しつつある。

 多少のことがあってもこの世界で渡り歩いていく自信、そしてジゼルやフィオナ姫のような理解者、味方も得た。完全な孤独ではない。


 それに……ジゼルはまだ何も知らないから俺が個人的な我が儘で主張しているのだと思っているが、実際に一番重要なのは、魔王の策略を潰す、という点にある。


 勇者を盾にし、この世界を実質魔王の支配するものにする、という計画。

 これは当然、勇者の権威が成り立っている場合しか実行できない。


 勇者の中身が平々凡々たるリーマンだと世の人々に伝われば、国王になれないのみならず、勇者としてみなしてもらうことすらできなくなり、魔王の計画は瓦解するはずだ。


 もちろん……それを魔王に知られた時、俺はどんな目に合わされるか、わかったものではない。

 というよりおそらく、殺されるのだろう。利用価値のなくなった、偽勇者。


 しかも今まで、本物のふりをして計画を聞くだけ聞いてきた人間。

 魔王にとっては邪魔以外のなんでもないはずだ。


 この世界のために殺されてもいい、というほどの覚悟ができているか、と問われれば、正直、まだない。

 というか、そんなカッコいい覚悟は俺は永遠に持てないだろう。

 世界を救うために命を捨てる、なんて物語、掃いて捨てるほど読んで観てしてきたけれど、一体どんな精神状態だとそこまで気持ちを持っていくことができるんだろうか?


 世界全体に対してなんて、責任の持ちようがないじゃないか。

 イネルは持ってたのだろうけれども……世界を救えるだけの圧倒的力を持ってしまうと、心も強くなってくれたりするのだろうか? わからない。


 だが、覚悟は持てないけれども、でも俺にだってこの世界で短いとはいえ生きてきて、あちこちの人々と出会い、語らい、その生きる様を観て、愛着も湧いてきている。


 これまではどうやって魔王を止めたらいいのかわからず、諦めることしかできていなかったけれど。

 方法を見出した今、気づかなかったことになどできない。


 そう考え、俺はジゼルに向かって笑いながら言った。


「……わかってるよ。言うわけないだろ、俺の正体なんか」


「……」


 ジゼルはまだ、俺を睨んでいる。


「さっきあんなに、真に迫った様子で王になりたくない、と言っていたではないか」


「なりたくないというか、俺なんかがなるのはよくない、って言ってただけだ。それは事実だよ。でも、向いてない奴が引き受けなきゃいけない時ってのはあるから。俺だって大人だからそれぐらいわかってるよ。ダメで不器用で失敗だらけになるかもしれないけど、できる限りのことはするさ」


 俺がそこまで言うと、ようやくジゼルは納得した様子だった。


 そう。

 ジゼルを巻き込むわけにはいかない。


 魔王の事情を話したら、きっとジゼルはこの一世一代のカミングアウトに協力してくれることだろう。いい人だから。

 だが、そうなると今度は、ジゼルまでも魔王に狙われることになりかねない。


 マヤのあのねちっこい性格からして、俺が反逆を起こしたら、確実に関係者一同ターゲットにしてくるだろう。それではいけない。

 襲われるのは俺一人でたくさんだ。


 俺はジゼルに感謝を言って別れると、再び自室へ戻るため城内をゆっくり歩き出した。

 歩速が遅いのは、部屋に魔王陛下がいるからである。このタイミングではあまり対面したくない。

 すれ違う城内の人々にせいぜい笑顔を振りまきながら、俺は考えていた。


 ……どうやったら、この世界の人々は、俺が本物の勇者でないと信じてくれるだろうか?

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