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75. 砂漠の民・テネブリ

 俺はクソ暑い砂漠を、毛の長い馬のような動物の背に揺られながら進んでいた。

 薄着をしたいところだが、俺は全身を覆い隠す服を着込んでいる。

 肌なんか出したら日焼けで死ぬからだ。


 俺の隣にも同じ動物がのっそのっそと歩いていて、そいつの背には乗り馴れた様子のトリスタがいる。

 俺よりは薄着だったが、さすがの彼女もここではきちんと日焼け対策をしていた。


 俺の胸元より少し下から、女児の声が聞こえる。

 全身に布をかぶって、手綱を持つ俺の両手の間で騎乗しているのだ。


「兄様。喉が渇いた」


 俺はため息を噛み殺し、水の入った皮袋をマヤに手渡した。


 ……なんで、魔王陛下がついてきているのだ。


   *    *


 話は十日ほど前に遡る。


 俺とジゼルは城に帰ってきてから、もちろんとりあえずトリスタに話を聞こうとした。

 トリスタを探しながら、ジゼルは言った。


「彼女が私たちの仲間になったのは一番最後だ……何か知っていてもおかしくはない」


「転生の方法を探していて、トリスタを仲間にしたということ?」


「それか逆に、トリスタから転生術のことを聞かされたのか……どちらもありうる」


 そんなことを話しながら城中を二人でうろうろうろうろ探し歩いた。

 だが、どこを見ても彼女はいない。


 だいたい何もないときは、メイド相手にどうでもいい話をくっちゃべっているか、もしくは食堂近くに張り付いてこっそり食べても大丈夫そうな食べ物を見繕っているらしい(ジゼル談)のだが、そういう暇つぶし場所にもいない。


 というかそもそも……転生してきてからこっち、俺はそれほどトリスタと絡みがない。

 いや、もちろん常識レベルの日常会話はするし、彼女自体話しやすい人だから、軽口を叩いたりボケツッコミの応酬ぐらいも普通にはやる。


 だが、それ以上にはいまだに至っていない。

 知り合ってからもうそこそこの日数になるのだが。


「トリスタがどういう人か?」


 探し回りながら、ジゼルに尋ねてみると、怪訝な表情をされた。


「どうって、見た通りの人間だと思うが」


「見た通りというと」


「奔放」


 なるほどわかりやすい。


「出会った最初の頃は合わないかと思って私の方が敬遠していた時期もあったが……別に彼女は真面目な人間を攻撃してくるような性格でもないからな。

 私より歳上だが、私に叱られても文句一つ言わない。飄々としている。今のように困らせられることも多いが、信用できる人間だ」


 確かに、生真面目な人間と自由奔放な人間は、互いが互いを攻撃し合う場合は相容れないだろうが、奔放な方が徹底的に奔放なら、つまり何を言われても気にしない人柄なら、別に一緒にいても問題ないのだろう。


「どういう経緯で仲間になったの? テネブリ族の集落に行ったのか?」


「いや。彼女が一人で旅をしているところで巡り合った。ほとんど浮浪者のような生活を送っているところでな。盗みも平気でやって、食い扶持をつないでいた。その街で起きた事件の犯人扱いされて彼女が追い詰められているところを我々が助けて、それがきっかけだな」


「……」


 俺は少し考えた。


「ちなみに、ジゼルはどうやって仲間になったんだ?」


「え? どうして今、私を訊く。関係ないだろう」


「いや、いいからさ」


「……もうずいぶん前だ。私が成人の儀で一人、魔物のいる山を登っていた時に出会った。そのころは今よりだいぶ若かったから、まあ、なんというか、かなり苦労してな。


 魔物が強いというか、まあ、私が甘ちゃんでその……諦めて儀式自体を投げ出しかけた時にイネルが……ええと、うん。助けてくれた、というか、補助、少しだけ手助けしてくれたおかげで、まあ、うん。

 あ、トリスタがいたぞ」


 照れ臭いのかろくにきちんと話してくれない上に、途中でごまかされた。


 ジゼルがそう言って指差したのは、扉の開け放たれた図書室だった。

 中ではトリスタの他に、意外にもココと、さらに(俺にとって具合の悪いことに)フィオナ姫が机の上に大判の本を置いて何やら話し込んでいた。

 まさか図書室にトリスタがいると思わなかったので、俺たちも全く脚を向けていなかったのだ。


 とはいえ、トリスタは退屈してうつらうつらしている様子で、真剣に会話しているのはココと姫の二人である。

 俺とジゼルは図書室に入っていった。


「姫、何をしておられるのですか」


 俺が尋ねると、姫は嬉しそうに応じた。


「先日見つけた魔術書の解読を、ココさんと行なっているのです。ココさんは魔術に大変お詳しいので、私一人で古語を読み解いていくよりもずっと早くことが進みます」


 姫にそう言われて、ココは貼り付けたような笑顔でにっこりした。

 俺は思わず、横並びの二人から目をそらす。


 改めて整理すると、ココは俺(というか先代勇者イネル)のことを愛しており、さらにイネルが、姫と近い将来婚姻を結びグラントーマの王になるであろうことも知っている。

 その上でのこの満面の笑顔。

 あまりにも重たい。


「このままいけば、そう遠くないうちに転生術の内容を読解してお伝えできますわ」


「本当ですか」


 俺は迷った。勇者の父の行方を追うよりも、こちらを待っていた方がいいだろうか。

 ただそうなると、術の実態がわかるだけで、勇者からの手紙に書かれていた「転生術師」のことが何もわからない。それに……。


 今の俺は、少しでも勇者イネルのことを知りたくて仕方なくなっているのだ。

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