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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第4章 魔族との合戦
70/120

70. 計画

 せっかく高尚な哲学に想いを馳せていたのに、あっという間に現実に引き戻されてしまった。


「戦士? 今から来るの?」


「そうだ」


 ジゼルは何やらひどく気まずそうな顔をしている。


「だって、攻め込んでくるはずだった軍勢はもういなくなったわけだし」


「いなくなったから帰ってくださいというわけにはいかんだろう。呼びつけてからこっち、あらゆる手を使って駆けつけてくれているんだ。無下に扱うことは私にも流石にできん。そもそも、ずっと移動中だから連絡の取りようがなかった」


 そりゃ確かにそうだ。キャンセルになりましたんで予定バラしで、とケータイで連絡しておしまい、とするわけにはいかない。


「なるほど。じゃあとにかく、来ちゃう、と」


「そういうことだ。そして前も話したかもしれないが……私の生まれた独立都市マルスは、戦士になるのは皆、女性なんだ」


「言ってたっけ?」


 アマゾネス的な戦士の土地なのだろう。ジゼルは心底面倒臭そうな顔をしている。


「男は都市を守り、女は戦う。幼い頃からそうやって育てられる」


「はあ。まあ、いいんじゃないですか」


 別に旧弊な偏見など俺は持っていないので、戦士が男じゃないなんて、とか言って騒ぎ立てるつもりはない。なのにジゼルは妙にグズグズ、俺の前で何か言いたげにしている。


「なんだよ。言いたいことがあるなら言いなよ」


「……ただ、結果的に戦はなくなったわけだろう? 戦の味方としてはすこぶる頼りになるんだが、このままだと到着した百人以上の女戦士たちは、暇を持て余すわけだ」


「戦わずに済むなら結構な話だろう」


「前にも言ったように私は八人姉妹なんだ。そしてその……以前、マルスに帰った時に……今度、婚約者を紹介する、と家族に伝えてしまった」


「了解した」


 おお、此の期に及んでも舞い降りてくるイネルの尻拭い。


   *    *


 独立都市マルスからやってきた麗しい戦士のみなさまが、城に着くなり「戦は終了しました」ということを聞かされ、仕事が消滅したことに騒ぎ出し、やがて三々五々、グラントーマの観光に繰り出していくまでに、それほど時間はかからなかった。


 せっかく来たからには楽しんでおこう、という考えらしい。

 仕事がないことにお怒りになるのではないかと危惧していたが、存外そこは柔軟な戦士ばかりだった。

 皆、もともと何をしにきたのか忘れたような顔で、城の兵士に声をかけたり、街を散策したりしている。


 どしどし押し寄せてきたそっくりな顔立ちのジゼルの姉妹たち七人は、王や大臣への挨拶回りなどそっちのけで俺たちパーティに駆け寄ってくるとジゼルに、婚約者とはどこの誰か、と興味津々で尋ねてくる。

 最強女戦士集団なのだが、戦がないとなったらただの賑やかな女子高生の一団のようにしかならないのだ。


「姉様。婚約者ってどなた?」


「もしかして勇者様か? まさかなあ」


 あくまで嫌味なく、快活に爽やかにジゼルを取り囲んで尋ねている。

 中央でむっつりしているジゼルは椅子に腰掛け、腕組みをしたまま何事か考えている。

 さらに姉妹は尋ねた。


「ねえジゼル」


「婚約者は死んだ」


 ジゼルは目を瞑ったまま言いきった。

 沈黙する一同。


 確かに間違いではない。


「私の死んだ婚約者の話なんかいいから、そこにいる勇者様のことを讃えてやってくれないか? 知恵と勇気で、魔族軍勢の進行をたった一人で未然に防いだのだから」


「え?」


 ジゼルがそう言うと、ジゼルを取り囲んでいた姉妹はたちまち、側でぼさっと突っ立っていた俺の周囲に集まり出した。


「たった一人で!?」


「一体どうやって……後学のために教えてください」


「さすが勇者様……グラントーマの次の王になるって本当ですか?」


 俺はあははと愛想笑いで流しておいたが、あんな偶然を俺の手柄にされてしまうのか?

 かといって、違うよ、と言ったところで、本気にしてくれる人などいるとは思えないし。

 謙遜と見なされるのが落ちだ。


   *    *


 さて。

 どこまでが魔王の計画なのか、どこまでが単なる偶然なのかを判断するのは難しい。


 今回の一件で言えば、俺と姫が地下に行ったのは偶然だし、その後、魔将軍の企みがコメディめいた流れでぶっ潰されたのはもうどうしようもなく彼の運がなかったとしか言いようがない。


 だが、たった今のジゼルの姉妹の言葉からもわかるように、大きな方向としては魔王、マヤの狙い通りに進みつつある。

 俺こと勇者を持ち上げ、英雄扱いし、支配者、権力者の側へと移行させつつある。

 魔王と事実上繋がっている、魔王から逃げられない、魔王の傀儡にしかなれない俺が。


 魔族のナンバー2をああいう人物に据えてきたのは少なくともマヤのやったことだろうし、そいつが引き連れられる軍勢の程度は彼女ならわかっていただろう。


 お膳立てだけなら、いくらでもやりようはある。

 そしてそれが完成したら、魔王はきっと放っておく。何もやらないのだ。筋さえ引けば、水はそれに沿って流れる。


 いろんな可能性を考えてみたが、経緯が多少変わったとしても、あの軍勢を相手に俺たちが戦えば、遅かれ早かれ勝つだろう。

 結果的にはそれもまた、俺の、いや勇者の手柄になる。

 真っ当に人々を守れば、何をやっても手柄になってしまう。


 このままでは、魔王の計画から逃げられない。

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