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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第4章 魔族との合戦
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69. 諦めた人

 地下牢から階上へ戻り、俺は城内をふらふら歩きながら考え事をしていた。

 頭の中を渦巻いていたのは、もちろんイネルの父、オルレのことだった。


 最初に彼のことを聞いたのは、イネルの生まれ故郷に行った時だった。

 その時は、「既に亡くなっている」以上の情報は誰も与えてくれなかった。

 あの時は自分がてんやわんやだったので気づけなかったが、考えてみれば妙なのだ。


 息子が魔王を討伐するなんていう素晴らしい成果を上げてきたというのだから、父親の霊前に報告を、とかそういう話になるのが普通のはずだ。

 しかし、そんな話は誰からも一言も出なかった。


 だとすれば、母親や村の人々は、父が死んでいないことを知っているのかもしれない。


 次にオルレの名が出たのは、ココの里でのことだった。

 老魔術師の元にここ半年くらいの間にやってきて、「帰りたい」と漏らした、という。


 最初これを聞いた時、俺はてっきり、オルレは何かをやらかして村を追い出され、死んだことにされたのだろうか、と想像していた。

 まあ、どこの親戚筋にも一人ぐらいその手の人はいるものだろう。

 放浪の生活ばかりしていて好きなことしかせず、まともに働かないので絶縁されてしまう人。


 しかし、先ほどの魔将軍の話とつなぎ合わせると、事態は変わってくる。

 オルレはどうやら、俺と同じ世界からやってきた転生者なのだ。


 あのRPGのセリフを覚えていたことからも、それはおそらく間違いない。

 だとすれば。


「帰りたい」というのはもしかすると、「元の世界へ」帰りたい、ということなのではないか?


 わからない。確信はない。

 前の世界で色々読んだり観たりした異世界転生モノでも、「元の世界に帰りたい」奴というのはほぼ出てこなかった気がする。


 しかしそれは、彼ら主人公たちがまだまだ若いからか、もしくは何事かで成功していたからだろう。

 世界を救ったり、隣にいる女の子を救ったり、なんか色々して。


 異世界転生して、勇者になろうとしたのになれなくて。

 諦めて。

 そして、老いたら。

 元の世界に帰りたい、と思ってもおかしくないんじゃないだろうか。


 若いうちは尖ってた人が年取ると丸くなって地元にUターンしたくなりがち、みたいな話は聞いたことがあるからその類なのかもしれないけれど。


 勇者になるお話の主人公は、だいたい勇者になる。

 当たり前だ。文字通りお話にならない。

 だが、現実で考えれば、勇者になれない、魔王を倒せない「勇者志望」の方がはるかに、数え切れないほど多いはずだ。


 話は変わるけれど。


 あのRPGのセリフを観て、俺は深く感動した。けれど、同時にこうも思った。


 勇者とは、最後まで決して諦めない者。

 この言葉は、呪いじゃないだろうか、と。


 現実には、全ての人間が諦めないわけにはいかない。

 確かに、諦めなければいずれ願いは叶う。

 しかし、本当に願いが叶うまで続けられる人間はごく一部だ。


 大半は挫折し、断念し、去って行かざるを得ない。

 そんな人間は、「勇者」にはなれないのだろうか?


 俺の脳裏を、疑問がよぎったのを今も覚えている。

 その答えはまだ、出ていない。


 なんにせよ、イネルに「勇者とは」の言葉を教えたのがオルレであることは間違いない。

 イネルが何を考えて、俺との中身入れ替え転生を実行に移したのか、そのヒントぐらいはオルレは抱えていることだろう。きっと。


「何を大真面目に考え込んでいるのだ」


 突然背後から話しかけられて飛び上がる。声の主はジゼルだった。


「なんだよ……」


 すると彼女は、心底面倒臭そうな表情になって続けた。


「いや……今夜には私の里の戦士たちが、この城に到着してしまうから……予め、注意しておきたいことが色々とあってな」

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