65. 果たして勝者は
光は、洞穴の出口からのものだった。
魔将軍も姫も湿っぽいこの場所にうんざりしていたらしく、ようやく外に出られるとわかってかホッと一息ついていた。
しかし俺は、その場で脚が固まっていた。
「勇者様? どうなさいました?」
姫にそう尋ねられても俺は答えられない。
どういうことだ……?
イネルの父、オルレ・ヤンソン。
俺が知っているあの「勇者の定義」の出所となったRPGを、彼は知っていた……?
とすると、その理由は一つしかない。
彼も、転生してきたということだ。
それも、俺と同じ、あの世界から。
これは一体、どういうことなんだ……?
「行きましょう、勇者様」
姫にそう言われ、俺は、あ、ああ、と頷いてなんとか歩みだした。
意味はまだわからない。
しかし、確かに俺が転生してきている以上、他にも転生者がこの世界にいたっておかしくはない。
おかしくはないが、こんな狭い人間関係の範囲内に二人もいるものなのだろうか……?
それにもう一つ、大切なことがある。
ココの里の魔術師によれば、死んだと思われていたオルレは、少なくとも半年ほど前までは生きていて、里を訪問していた、ということだ。ということは。
こんな身近な転生者が今も生きていてどこかにいる、ということだ。
なんとかして、彼と会わなければならない。
息子、イネルの転生についても、無関係とはとても思えないのだ。
俺たちは洞穴を出た。
屋外の強い光に照らされ、一瞬目がくらむ。
時間はまだ昼を過ぎたぐらいのはずである。城の地下から多少の距離は歩いているので、もしかするとかなり離れた場所に出るかもしれない。
目が慣れてくると、どうやらここは城の近くの森の中らしかった。崖の合間の切れ目のような所に出た。
鳥の鳴き声、木々の揺れる音が聞こえる。
そして、洞穴から出たばかりの俺たちを取り囲むようにして、魔族の軍勢がずらりと並んでいた。
軍勢の中の一人が言った。
「魔将軍様、よくぞご無事で」
全員がなんらかの武器や、魔法の道具らしいものを俺たちの方へ向けている。
俺はまだ、ベルトで後ろ手に縛った魔将軍を引き連れたままで、姫は俺の背後に隠れている。
俺は面倒くささにため息をついた。
魔将軍はクククククハハハハハ、とわかりやすい悪者笑いを漏らした。
いやそれ、どう考えても負けフラグだから。
「残念でしたね、勇者よ。地下で圧勝した気になっていたのかもしれませんが、所詮は単なる奇襲。我々の周到な策には及ばなかったというわけです。計画通りに私が地下から城の内部へ現れなかった時は、こちらの出口へ軍勢を集結させるように予め伝えてありました……」
力技で我々を押さえ込もうとしても無駄です、と笑みを浮かべたままの魔将軍は演説を続ける。
「私を捕らえて勝利だと思い込んでいるやもしれませんが……私を殺したところで、第二第三の魔将軍が現れ、人間を打ち倒そうと立ち上がります。魔王陛下がおられなくなったからといって、人間は安泰ではないのです……諦めて我々に屈した方が」
「ええと……」
俺は聞いていてじれったくなってきたので、話を遮った。
「ちょっと途中で申し訳ないんだけど」
「なんですか、いいところで」
「その、あんたが地下から現れなかった時は、この地下道の脱出口に軍勢を集める、という予定だったわけだよね。つまり、それは地下で控えていたあんたになんらかの窮地が訪れたということだから」
「まさしく。ここまで読んで計画しているのが策謀家というものなのですよ。まあ、この仮定は最悪の場合に近い、ほぼ起こりないものと考えていましたが、それでも万一に備えて私は」
「あの。それはいいんだけど。まずさっきわかった通り、俺も姫もあんた達からの攻撃にはダメージ受けないよ」
「はは。だとしても勇者と姫を捕らえ人質にさえすれば、我々は勝利したも同然……」
「それと。さっき言ってたけど、城を空中から攻めてたわけだよね。で、その軍勢もこの異常事態に気づき、ここに集結してきている、と」
「ええ」
確かに、翼の生えた連中が空中でホバリングして、大勢待機している。
「てことは、あんた達の主力が集結しているここに、城から空を飛んでやってきたわけだ。戦闘の途中で」
「……」
魔将軍は次第に真顔になった。
「ということは……普通に考えれば、城でまだ作戦会議をしていた段階の、グラントーマ王国の軍勢や、俺の仲間達は、あとを追って一緒にここにやってきているはずだよな」
「その通りだ」
俺たちのいる洞穴出口の真上、崖の先端から、凛々しい女性の声がした。




