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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第4章 魔族との合戦
62/120

62. 一瞬の戦い

 そこからの俺の動きは、自己評価してもなかなかに早かった、と思う。


 まず、迷わず姫を守るために完全防御魔法を姫を囲むようにして展開する(以下、初出の魔法はいろいろ出てくるが、目をつむればいつでも見られるステータス画面をチェックして、少し前から使い方を妄想していただけなのでまともに使うのは今が初めてである)。


 青い光の球体に姫は包み込まれ、これで五分間は一切のダメージを受けなくなっている。ここまでで1.5秒。


 続いて、ずらりと揃った魔族の中でも獣人らしい外見の一群が一番反応が素早かった。

 膝を立てて俺に向かって、駆け出そうとしている。


 強力な炎系の呪文を使って全体を焼き払うこともできたが、そのあとに並ぶ焼死体の数々を個人的に見たくない。

 というわけで、一旦俺はジャンプして天井の突起に片腕でしがみつく。ここまでで2秒。


 天井から眺めると、揃いもそろった異形たちがまだほぼ起きたことに対応できていない。

 目標としては無駄な死者を出さない、というあたりに絞り込んだ俺は、


「ソーナム」


 と唱えた。

 睡眠魔法。

 ただし、こいつが一度に眠らせられる人数には限りがあるので、俺は敵軍の一団の、周縁部に位置している奴らだけをピンポイントで眠りにつかせた。


 動こうとしていた獣人たちも、目の前の奴らが突然活動停止したので、満足に行動ができない。さらに重ねて、


「タルダチェレリタス」


 と低速呪文も唱えた。

 これで中心部分にいる魔族も恐ろしく低速度でしか活動できない。


 さて、どうやって拘束するか。

 ちなみに指導者っぽい奴はまだ椅子から動く気配もない。ここまでで4.5秒。


 とりあえず、ゆっくりと動いている魔族の集団のど真ん中に、俺は降り立った。

 まるでスローモーションの動画の中に放り込まれたようでなかなか気味が悪い。


 とにかく、個人的にもこの辺の連中が死に絶えているところを見たくないので、殺害せずにすむ方法を考えてみる。


 凍りつかせても死ぬだろうし、電気で麻痺させても死ぬ奴は出るだろうし。

 漫画やアニメのようにビリビリ震えながら動かなくなるなんて都合のいい症状は出ないだろう。


 一体、俺の呪文に懸命に抗って、背後から俺を羽交い締めにしてくる奴が現れた。

 直立姿勢のゴリラのような魔族だったが、俺の方は幸いにしてビクともしない。


 自分で意識せず、身体の方が勝手にやっているようだったが、全身の重心の位置を上手く操ることで、相手が力を加えても持ち上がらないようにできているらしい。

 多分合気道のようなものなのだろう。ここまでで7秒。


 肘鉄の一発で背後のそいつを沈めると、俺は思いついた作戦を実行に移す。


 かがみこみ、地面に片手を当てた。

 それから、結果起きることのイメージを出来るだけ具体的に想像してから目を瞑ると、思い切り、風属性の魔法を地面に発射した。


 風、というより送り込まれた空気が地面の土砂の隙間に瞬間的に入り込む。

 粉塵も飛び散り、周囲の魔族の目にも入って途端に苦しみだす。


 とはいえ狙いはもちろんそこではない。

 俺は先手を打って、再度飛び上がると今度は周囲の魔族たちの背中に乗っかって、そこからジャンプし、天井に移動した。


 以前、確かテレビで見たのだ。

 砂地に空気を送り込むと、砂と砂の間に空気が入り込み、一種の液状化現象を起こす、と。


 期待通り、魔族たちがずらりと並んだ地面は送り込んだ空気の力で摩擦が弱まり、泥水のような状態になった。

 魔族の巨体はたちまち地面に沈み込む。


 だが、俺が流した空気が抜けてしまうと、今度は液状化が終了して地面はただの土へと戻る。

 すると、どうなるか。


 魔族たちは下半身だけが地面に埋まり込んだ状態で、一切動けなくなってしまった。

 まして低速呪文もかかっているのだから、抵抗などできようはずもない。


 無血開城、完了。

 トータル10秒かからなかった。


 俺は天井から降り立つと、指導者っぽい椅子に腰掛けた一見老獪、しかしその実無能であることがはっきりした偉そうな魔族の前へと歩いていく。


 そいつは座っていた椅子だけが埋まって、本人は動ける状態なのだが、如何せん老年だからなのか、慌ててしまってヒィヒィ言うばかり、俺からなかなか逃げることができない。


 面倒臭くなった俺は、指先に炎を浮かび上がらせると、ピッとそいつに向かって振った。

 炎がものすごい勢いで飛んで、その魔族の肩を掠って壁面に激突、爆発した。


 魔族は腰を抜かして、再び椅子に腰を下ろした。


 とりあえず……「勇者」の身体は伊達ではないことが確かめられて、よかった。

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