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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第4章 魔族との合戦
60/120

60. 探索続行

「まずいな……」


 俺は崩壊した現場で、崩れ落ちた天井や壁を撫でながら言った。

 それっぽいことをとりあえず言っておこうと思ったからだ。


 むしろ、それ以外何をやったらいいかわからない。

 端的に言えば途方に暮れていた。


 いったい上で何が起きたのか、事情も全く不明だった。

 地響きは聞こえてきたので、何か異常事態は発生したのだろうが。

 やはり魔族軍の襲来なのか。しかし、にしては城が襲われるのが早すぎる。


 ジゼルは防衛線での戦闘をどうのこうの、と話していたはずだ。

 いきなり本拠を襲撃されるというのは、尋常な事態ではない。


 通路を封じている岩は巨大な岩盤状で、ちょっと頑張ったぐらいで動くとは思えない。

 勇者の力を後先考えずぶっ放せば吹き飛ばすことも可能だろうが、こんなところでそんなことをすれば上の城にどの程度のダメージが行くかしれず、危険すぎてできない。


 やるとしても最終手段だろう。


 姫も流石に不安げな表情で上方を見ていた。

 ジゼルやココ、トリスタもいるとはいえ、王がいるこの本丸にいきなり乗り込まれたのだとすれば、俺がいつまでもこんなところで手を拱いているわけにいかない。


 それに、いずれはこのランプが切れるかもしれないのだ。


「あの……それでしたら勇者様のルークスの呪文をお使いになればよろしいのでは」


 姫に言われ、俺は真顔で振り返った。姫は俺の右肩をつかんでいる。


「前回は勇者様はお使いになっていたので」


「……なんで言ってくれなかったんですか」


「今の勇者様はあまり呪文をご存知ではないのかと思っていたもので」


 あくまで姫君は真面目である。

 俺は頷き、ルークス、と唱えた。俺の右手のひらの中央が眩しすぎない程度に光りだした。


 俺たちは元いた宝物庫へと戻った。

 ざっと見たところ、ここが行き止まりのようだった。

 扉もない。見事に立ち往生してしまった。


 誰かが助けに……は来てくれないに違いない。

 こんなところに勇者と姫が二人きりで閉じ込められているなんて、誰も考えまい。


 すると、姫は果敢にも宝物庫内をあちこち、ランプ片手に調べ始める。

 あっさり諦め掛けていた俺とは大違いである。

 隅々まで、少しでも妙なところ、怪しいところがないか徹底的にチェックしている。


「わずかでも可能性があれば、そこに賭けてみるべきかと思うので」


 姫は真摯な表情で言った。


「それに……イネル様はこうおっしゃっておいででした。『勇者とは最後まで決して、諦めない者のことだ』と」


 ……ん?


 俺はそれを聞いて、違和感を覚えた。


 待て。

 俺もこの世界に来て何度か、その言葉を思い出して勇気付けられていたが……それは、前の世界のRPGの中のセリフだ。


 どうして、イネルがその言葉を知っている?


「ですから諦めず私も……」


「フィオナ姫」


「はい?」


「イネルはその言葉について、何か言っていましたか? その、どこで聞いた言葉だ、とか、出典元を」


「いえ、特には。ご自分の座右の銘だとはおっしゃっておいででした。私はその言葉に、大変勇気付けられたのでよく覚えておりました……そのように考えれば、この世の誰でも、本気で願い望めば勇者になれる、ということですから」


 おっしゃる通り。

 俺も、ゲームの中でその言葉を聞いた時、同じように思った。


 勇者とは血筋なのか、選ばれた者しか勇者になれないのか、と思っていたけれど、そうではないのだ、と正面から突きつけられたのだから。

 深く感動した。俺の座右の銘でもある。


 それはいいのだが、問題は、イネルが知っていることの方なのだ。


 なぜ、俺の前の世界のゲームの中の言葉を、勇者様が知っている?


 いや、もちろん個人的にたどり着いた哲学なのかもしれないので、偶然という可能性はあるのだけれど。しかし引っかかる。


 だいたい、イネル自身はこの哲学に全然準じてないわけだし。

 あっさりこの世界を諦めて、俺にパスしたやつに、こんないいセリフ吐いて欲しくないのだが。


「ございました、勇者様」


 フィオナ姫は唐突に言った。


「この壁、この部分、後から潰したものにございます。この先に封じられた通路があるようです」

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