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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第4章 魔族との合戦
58/120

58. 古文書

お知らせです。別作品(ラストまで執筆済み)の連載、はじめました。よければこちらもどうぞ。


https://ncode.syosetu.com/n7435fv/

「姫が……? 姫は、転生術を使えるんですか……?」


 俺は訝しんだ。

 どこから見ても箱入り娘的な人で、ココの里の魔術師すら知らないような秘術を身につけているとは、とても思えなかったからである。


 すると姫は急いで首を振った。


「いえまさか。私はなんの術も使えません。私は、城にあった古文書をイネル様にお渡ししただけでございます。イネル様のためなら、私はなんでもいたします……」


 口を一文字に結んだまま、俺を見つめてくる。

 どうやら見た目のまま、真面目で誠実なお姫様らしい。

 もう少し、詳しく話を聞かなければならないだろう。


「イネル様は、魔王城へ旅立つ一年ほど前に、こちらの城へ一度戻ってこられました。かなりお疲れのご様子で、何かを思い悩んでおられるようでした」


 俺の部屋の椅子に腰掛け、姫は語り始めた。


「私は……将来イネル様と結婚するつもりでおりましたので、何があったのかとても心配で。どうなさったのかを聞こうとしても一向に答えていただけず、私も辛い思いでおりました」


「その時は、もう今の仲間たちと一緒でしたよね、イネルは。彼女たちはそれを心配したりは……」


「もちろんしておられました。普段は自信満々で、堂々とした方なので」


 そういう感じのアホ丸出しなキャラだと聞いている。


「なので、ジゼル様やココ様がご懸念なさっていて、私もそれで、イネル様にお話を伺ったのです。ですがなかなか、何に悩んでおられるのか教えてくださいませんでした。そのまま数日が経ったのですが……ある日、イネル様は城の図書室にいらっしゃいました」


「図書室?」


「はい。西側の一室に、城に昔から伝わる書物が置かれた部屋がございます。そこで一所懸命に何かを探しておられたので、どうなさったのですか、と尋ねたところ……観念したようにお答えになりました。『転生術というものを探している』と」


「……」


 イネルの父親だけでなく、当然イネル自身も転生術を探し、調べていた。

 しかし、その様子からすると、相当探しあぐねた後のように思われる。


 姫は話を続ける。


「私も魔術に詳しいわけではございませんので、その術も存じ上げませんでした。

 ただ、なんとかイネル様のお役に立ちたいと……私にできることなどさしてございませんので。それで城の中を探し続けました。


 そうしてようやく……宝物庫の中に、非常に難解な古い魔術の書があるのを見つけました」


「それを、イネルに?」


「ええ。もちろん、あまりに古く、私には部分部分の言葉しか読むことはできなかったのですが、『転生』といった言葉も見受けられたもので。


 お渡ししてからしばらく、イネル様は古語辞典を片手に、その書を読むのに没頭されていました。

 数日後、イネル様は笑みを浮かべて、私に感謝のお言葉をくださいました。転生の方法が見つかった、と」


「なるほど……」


「その後、私に転生術を調べていた事情を教えてくださいました。魔王を退治したら、この世界で自分のやるべきことは終わる。


 そうなったら自分は、次の世界を救いたいのだ、と。そのために、他の世界に転生して戦いを続けたい、と」


 ご立派なお方です、とうっとりした表情で姫は呟いた。そりゃ確かにご立派なことで。

 俺はため息をつくのを懸命にこらえた。イネルめ、調子のいいことを言ってまた人を騙している。


「転生術を使うと、他の世界の勇者様とイネル様が入れ替わるのだ、というお話でした。悲しく辛いことでしたが……これもイネル様のご決断です」


 他の世界の勇者様!? これは初耳だ。相当イネル様はデタラメの才があったお方なのだろう。全く。


「ていうかその……俺のことは怖くないんですか? 見た目はイネルなのに、中身違うんですよ?」


「イネル様がお選びになった方です。素晴らしいお方に間違いありませんので」


 姫はにっこりと笑った。俺は申し訳なさでいっぱいになった。

 別に選ばれた覚えもない。そしてこの娘、本当にいい子だ。


「実は、イネル様には『転生の事実を知っていると、私の後任者には言ってはいけませんよ。驚かせてしまいますから』と言われていたのですが……今の勇者様を見ていると、イネル様と変わらず素敵なお方だと感じまして、我慢できず、本日こちらに参った次第でございます」


 イネル、隠蔽工作失敗。フィオナ姫は彼の想定以上に純粋でいい子過ぎたようだ。

 あと、「後任者」ってなんだよ。完全に会社の引き継ぎ扱いじゃねえか。


 ともかく……転生術の出どころははっきりした。ということは……。


「姫、その古文書は?」


「もちろん、城の宝物庫に残っております」

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