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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第4章 魔族との合戦
54/120

54. 男女の仲的なアレ

 鎧を脱いでしまっていたことをこんなに後悔することになるとは思わなかった。


 ジゼルからの力強い腹パンは俺のみぞおちに綺麗にヒットし、勇者の鍛え上げた腹筋も呆気なく貫かれて俺は「ふぐぅ」とうめきを上げながらその場にうずくまった。

 こっちの世界にやってきて以来、間違いなく最大のダメージ量だ。


「な、な、何を戯けたことを聞いているのだ貴様!」


 どうしようもなく真っ赤っかになった顔でジゼルは言う。

 表情だけはかわいいのだが、行動がプロボクサーのそれに近いのでなかなか身体が回復してくれず困る。


「た、たわけたと、いわれても……一応、きいて、おきたくて……」


「そんなこと聞いても仕方なかろうが! 大体赤の他人にそんなこと伝える筋合いないわ! 無礼者!」


 ジゼルの憤りは止まらない。


「いや、その、参考として……」


「何の参考になるのだ!」


 なにぶん俺も、女心というヤツは一ミリもわかっていないタイプの人間である。

 ギリギリ許してもらえないだろうか、と思ってしまったのが運の尽きだった。


「少し親しくなったと思って調子に乗ったか! ええ!? 言ってみろ、そんなことを聞いて何の参考になる! お前の助平心が満たされるだけだろう!」


 烈火の如く怒りながら俺にどんどん迫ってくる。


 完全に地雷を踏み抜いてしまった。

 確かにおっしゃるとおり、ココの故郷への旅を通じて、ちょっと距離が縮まったように思っていたのだが、そりゃ確かにパーソナルすぎる話題だよな。


 ただ……このところ起きた出来事を経て、俺は「イネル」の過去、そして人となりに以前以上に興味を持ってしまった。

 ちゃんと知らないままでは、この世界でやっていけないように思える。


 大変申し訳ないのだが……この機会に、お伝えしてしまおう。



   *    *



「つ……つきあ……全員……へ……全員……と?」


 ジゼルの目の焦点が合っていない。

 うん。ホントごめん。

 いや、俺が謝る筋合いのことじゃないんだけど。


「つきあ……浮……気? なん……で……」


 ジゼルがその場に座り込んだ。

 膝の力が抜けたらしい。


 その様子をみて、やっぱり悪いことをした気持ちになる。

 だが、これを伝えないことには、肝心のことが何もわからないのだ。


「貴様……私を……」


 両手を力一杯握り、ジゼルは物凄い形相で俺を睨み付けてきた。

 

 やばい。

 圧倒的にやばい。


「たばかったのかぁ……!?」


「待って待って待って待って! 俺じゃない! 俺がやったんじゃない! イネルだ!」


「どっちでもいい! 許せん!」


 最早思考も支離滅裂になったジゼルは、暴れ牛のように俺に突進してくると、俺の胸ぐらを掴んでベッドに押し倒し、そして……。


 いや。

 暴力の詳細はよそう。

 致し方ないとはいえ、相手の心よりも自分の知りたいことを優先した俺もクズだ。

 全てを自分で引き受けよう。


 とにかく、ベッド上でのしかかられた俺は、とても大変なことになった。



   *    *



 三、四十分ほど経ったろうか。


 この身体じゃなきゃ間違いなく息絶えていたと思うが、俺は辛うじて意識を保っていた。


「……す、すまなか……った……」


 ジゼルは落ち着き、近くにあった椅子に腰掛け、目を擦っている。

 俺はベッドに寝そべったまま、


「いひゃ、きひすふな。おへがもふひょっとはいひょふへひはっは(いや、気にするな。俺がもうちょっと配慮すべきだった)」


 と精一杯格好よさげに言った。


 俺、回復呪文とか使えたろうか。

 ココに頼まなきゃいけないとなるとさすがに言い訳のしようがないのだが。

 後で早急に全回復しておかなければなるまい。


 涙をぬぐい、鼻水を啜りながらジゼルは言う。


「まあ……一言もなくこの世界を去った時点で、イネルには期待など、してはならないのだろうな。


 で……私以外にココ、トリスタ、あとフィオナ姫とも交際していたイネルが、どれほど男女の仲を深めていたかということに答えればいいのか」


「あ、はい……」


 整理してみると、ホント女の子に直接尋ねるような話題ではない。

 実に申し訳ない。


 だが、今それを訊いたのも、ココの故郷での引っかかりが未だに取れていないからなのだ。


 ろくでなし四股クズ野郎だと思っていたイネルは、何の魔法も使えない、親から悲惨なあしらいを受けていたココをわざわざ故郷から連れ出していた。

 かわいいとはいえ当時十二歳の少女だ。得はあまりない。


 どうにも、この俺の身体、「先代勇者イネル」の人柄が一貫しないのだ。


 訊く人によってああいう人だった、こういう人だったという評価がまちまちだし、俺だけが知っている情報から判断して導き出される人柄も、また矛盾する。


 いったい、勇者イネルとは何者だったのか。


 俺はこうした疑問を、ジゼルには伝えていないマヤ(魔王)関係のことだけは伏せて、できるだけわかりやすくジゼルに説明した。


「う……うむ」


 それを聞いたジゼルも、言葉に困っている様子だった。俺は重ねて言う。


「だから……こうした諸々の疑問に答えを出すためにも、その……異性関係についてもうちょっと踏み込んだところまで知りたいんだ。やっぱりこういうことって、人柄が出るものだと思うし」


「……」


 ジゼルは腕組みをして、考え込んでいた。

 それから、ぽつりぽつりと話し出した。


「他の……他の三人に関しては当たり前だが、知らんぞ。

 ただ、私に関してはその……純粋な、ものだったというか、あの……く、くち……口づけ以上のことは、何も……していない……」


 俺の方をジト目で気まずそうに睨みながら、ジゼルはそう、答えてくれた。

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