53. 来たれ、戦士たち
俺の部屋に入ってきたジゼルは、こちらを見るなり一瞬ぎょっとした。
ベッドに腰掛けた俺、そして俺の膝の上に乗っかっているマヤを見て、何か思ったらしい。
俺はジゼルを睨んだ。
「……なんだよ」
「いや。私の心が汚れていた。マヤ殿。お姉さんはお兄さんと大切なお話があるから、少しの間お部屋を出ていなさい」
マヤは素直に頷くと、黙ったまま膝から飛び降りて、部屋を出て行った。
ドアが閉まるとすぐに、不快そうな顔でジゼルは俺の方を見た。
「気持ち悪いぞ」
「何がだ。妹を膝に載せていてナニが悪い」
「勇者イネルの妹ではあるがお前の妹ではないだろう。まさか、あんな幼い子を相手に劣情を抱いているわけではないだろうな」
汚物を見る目で俺を見てくるジゼルに、冗談じゃないと強めに返した。
ロリコンではないし、プラス、魔王に間違ってもそんな感情は抱かない。まあ、ジゼルはマヤが魔王だと知らないけれども。
「そんなことより……魔族軍とやらとの戦についてだが。とりあえず、お前は黙っていればいい」
「え?」
俺が間の抜けた声を上げると、ジゼルは当たり前だろうが、と口を尖らせた。
「お前はろくすっぽ戦闘の経験もない素人だろう。イネルならともかく、素人が大規模な戦闘のやり方について口出しされても困るだけだ。
お前は黙って、適宜私が言ったとおりに指示を出したり、威勢よく号令を掛ければそれでいい」
「お、おう……」
「不服なのか」
「いや……ラク出来てありがたいんだけど、なんか典型的な、無能力なのに上に担ぎ上げられた人気しかない独裁者みたいになってきたなあって……」
「その通りだろう」
ジゼルは腕組みして鼻を鳴らした。
「独裁者にするつもりはさらさらないが。しかしこの難局はなんとか乗り切らねばなるまい。
だからこの戦だけ援護してやる、というだけだ」
うーん。案外、現実の独裁者もこんな流れで引くに引けなくなっていくのではあるまいか。
「私の故郷、マルスは戦士を多く育てる独立都市だ。私の姉妹も皆戦士をやっている」
「姉妹いるの?」
「私は八人姉妹の三女だ。なんだその顔は」
「いえ……」
全員キツめなんだろうなぁ、と不安を覚えただけだ。
「敵軍の勢力がどの程度かは見てみないことにはわからんが……相手が魔族である以上、グラントーマの軍は戦力としてさして期待できまい。
マルス軍と我々ができうる限り敵軍を近寄らせないよう防衛線を決め、そこを突破させないよう全力を費やす。我々も前線に向かう」
「はい」
「お前は戦い方もわからんだろうから、それも私が忠言してやる。言われたら言われたとおり剣を振り、言われたとおり魔法を使え」
「俺は人間兵器として動けということですか」
「察しがいいじゃないか。中身は変わっても、イネルの身体の力は強大だからな……」
さすが、戦の話題になると、生き生きとして弁も立つ。むしろご機嫌なぐらいと言ってもいい。
……このタイミングなら、ワンチャン聞けるんじゃないか。
「その……イネルの身体の話なんだけれども」
なんだ、とジゼルは振り返る。俺はかつてなく勇気を振り絞って尋ねた。
「その……ジゼルは、イネルと……どこまでいったの? 男女的な意味合いで」




