5. エンディング中の凱旋的なシーンみたいな
「おめでとうございます! 勇者様!」
女賢者は涙を流し、笑みをこぼしながらそう言った。
俺は激しい風に煽られながら、あ、うん、と頷いた。
俺たちは今、高い空の上にいる。
巨大なフクロウに乗って飛んでいるからだ。
物凄い高空をバッサバッサと飛んでいるので非常に怖い。
フクロウも体長が三階建てのビルぐらいあるのでめちゃくちゃ怖い。
怖いのだが、俺は勇者だし、その上どうやらこのフクロウは俺の盟友らしいので怖がるわけにはいかない。
「おうおう、ネルバも嬉しそうな顔してるよ。魔王がいなくなって幸せだってね」
と女遊び人は肩を揺らしながら言った。
フクロウに表情があるとはとても思えないのだが、時折ほぅほぅと鳴くのはご機嫌の証拠らしい。
「ネ……ネルバもよくやってくれたな」
俺は恐る恐る怪鳥の首あたりを撫でる。動物の勘的なやつで、ご主人の中身が変わっていることがバレるのでは、と内心ヒヤヒヤものだったが、案外どうにかなるものだった。
振り返ると、すっかり穏やかな表情になった仲間たちが談笑していた。話の内容を横から聞きつつ、ようやくざっくりと三人のパーソナリティがわかってきた。
女剣士はさっきの話にも出たように、名前はジゼル。兄弟が大勢いるらしく、生まれは農村なのだが珍しい経緯で剣術を身につけたとのことだ。
武器を使わずとも、格闘技でも相当な腕前を有しているらしい。
そして、自分には心に決めた人がいる、と頰を赤らめながら話していた。
女賢者の名はココ。森の奥の魔法使いの村出身で、一人っ子。
年齢は若いが性格はしっかりしていて、頭が良い。
回復魔法や防御魔法が得意で、呪いの類はあまり詳しくない。
後、なんでも大切な許嫁がいるらしい。
最後に、女遊び人はトリスタ。
砂漠の地方の出身で、踊り子やら盗賊やら吟遊詩人やらを経て(ハープも弾けるらしい)、現職。見ての通りのちゃらんぽらんな性質。
さらに、付かず離れずの腐れ縁の恋人がいる、という話だった。
なんだよ。全員彼氏、てかダンナ持ちじゃん。
俺はあからさまにがっくりきた。
いや、もちろん前世ではこれっぽっちもモテなかったわけだが、ワンチャンこの冒険が終わった後で勇者様と付き合ってくれる子が一人くらいいるんじゃないか、いやいるに違いないと思っていただけに、この世に希望なんてないことを思い知らされた。
俺の背後で朗らかにそんな夢のないガールズトークを続けていた三人だったが、不意にココが話を振ってきた。
「勇者様、姫様とはこの後どうなさるおつもりなのですか?」
「え?」
俺が振り返ると、三人はじーっと俺のことを見つめていた。
姫様? 姫様……おお。
ジゼルが首を振ってたしなめる。
「ココ。そのようなことを尋ねるものではないぞ」
「で、でも気になるじゃないですか!」
「ふふ。ココちゃんの年頃だとそういうのが気になるだろうねぇ」
トリスタは歯を見せてニヤニヤ笑っている。
姫……確かにそうだ!
勇者が最後に結ばれるのは当たり前だが姫に決まっている。むしろその可能性を考えてなかった俺の方がどうかしてるくらいだ。
美人だろうか。頼むから美人であってほしい。なんならこの三人よりも(それならこの三人をすんなり諦められるので)。
でもこの三人はレベル恐ろしく高いから難しいだろう……。
ココは口を尖らせながら言い訳のように言った。
「だって、姫様を助け出されたのは勇者様なのですから。魔王城に旅立つ前の夜、ご一緒におられた時にどんなお約束をなさったのか……知りたかったのです」
艱難辛苦を共にした縁深いお姫様。ただし、初対面。
一体そんな人と、これから会って何を話せば良いのか。
「さあ勇者殿。ようやくグラントーマ城が見えてきたぞ。王と姫様に、魔王との戦いを報告に参ろう!」
また、頭が痛くなってきた。