47. 後始末への絶望感
およそ永遠とも思える時間が過ぎた。
ココはやりきった顔でしっかりと両親を見つめ、俺は驚きと動揺と感嘆とその他諸々の感情に揺さぶられて何も考えられず、横にいるジゼルは唖然とし、トリスタはニンマリと口元を緩めるばかりだった。
そしてココのご両親は、あいも変わらず冷淡な無表情のままだった。
「そう」
母親の方が、ようやく告げた。
「それは良かったですね」
それだけを言うと、二人は部屋を去っていった。
両親がいなくなったことを確認するや、ココはがくんと膝の力が抜けたように椅子に座り込み、深々とため息をついた。
それから顔を上げると、またいつものココの顔に戻って言った。
「帰りましょう」
俺たちがココの実家を出て、地面に降り立つと、ドラゴンの遺骸をバラしていた人たちや、彼らを手伝う人々がにこやかに手を振ってくれた。
少なくとも、彼らはココにわだかまりは覚えていない様子だった。
他人の故郷に来て、その背後にどんな事情があるか、俺たちには何もわからない。踏み込んでも仕方ないだろう。
ココは十二分にやりきった表情でいるし……彼女の人生にとっては、大切な瞬間だっただろう、と思った。
いつまでも親の視線を意識して生き続ける訳には行かない。誰だって。
さて、未だに不安で戦々恐々としているのは、ジゼルのリアクションである。
まだ、言葉を聞いて愕然としたままで、何も話しかけてこない。
彼女の中では、「勇者イネルと付き合っていたのは自分だった」という認識のまま当然変わっていないので、ココの突然の愛の告白をどう解釈していいのか、ピンときていない様子だった。
ただ、ココはココで「愛しています」と言っただけで、付き合っていますとも結婚しますとも言っていないので、とりあえずは問題ないといえば問題ない。
だが、ココはそう遠くないうち「本当のこと」を話すのは間違いないだろうし。そうなったが最後、ジゼルは……。
いや。それは違うか。ジゼルはすでに俺の正体を知っている。
ということは、仮に二股をかけていたことが判明したとしても、今この「俺」の責任ではない、と理解してくれる……はずだ(先代勇者にブチギレて大変なことになる可能性はあるが)。
そうだ、問題は別のところにある。
俺は姫様と結婚しなければならないのだ。
妹にして魔王であるマヤ様の指令により、俺はグラントーマのフィオナ姫と結婚して王になって偉くなって五大陸を統治してどうのこうの、という大役をこなさなければならない。
だから、ココの気持ちに応えることはできない。
つまり、ココを振らなければならない。
今日こういう状況になる前からそれ自体は変わっていないのだが、今日のあの告白でより一層、それが辛く厳しいことになったように感じる。
ココにとっても勇者との関係は、遊びや若気の至りではない、大切なものになったのだから。
ドラゴンと戦う前、ココに真実を洗いざらいぶちまけようかと考えたが、少なくとも今は、そんな無茶をやったら彼女がパニックに陥るだけだろう。
もし打ち明けるにしても、適切なタイミングを見計らわなくてはならない。
果たしてそんなタイミング、くるのだろうか……。
「勇者様」
ココにいきなり話しかけられ、俺は「はい!」と思わず返事してしまう。
ココはすっかり緊張も解けたようで、クスクス笑っていた。
「……まだ先ほどの告白へのお返事を求めたりはしませんので、ご安心なさってください」
え?と俺はアホみたいな顔でぽかんとしてしまうが、すぐに彼女の意図を汲んだ。
なるほど、今までも付き合っていた事実はジゼルやトリスタに伏せて、今さっきの告白で初めて、俺はココの気持ちを知った……というていにしましょう、ということか。
正直それは、大変ありがたい。いろんな軋轢をかなり軽減することができるだろう。
俺が内心胸をなで下ろしていると、ココは続けてこう言った。
「お話ししたかったのは……『転生術師』という人について、以前お尋ねになってましたよね。里長である私の両親にはもう訊けませんが……里には他にも、歳を重ねた魔術師が幾人もおります。
その誰かなら、『転生術』のことももしかすると知っているかもしれません。調べてみますか?」




