表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第3章 魔術の里にて
45/120

45. 両親

「勇者様。ようこそ我が家へお越しくださいました。娘がお世話になっております」


 夫、つまりココの父親が丁重に頭を下げて俺に礼を示した。


 歳は五十くらいだろうか。

 二人とも、厚い魔導着、とでもいうのか、魔法使いの服を身につけていて体つきは判然としない。

 どちらも共通して無表情で、歓迎の言葉とは全く見合わない。


「先ほどのご活躍は、こちらから拝見させていただきました。流石の見事な立ち居振る舞い、恐れ入ります。我が里を守ってくださり、里長として感謝いたします」


「はぁ……」


 なんとなくだが俺は、この二人ならあの程度のドラゴンは簡単に駆逐できるのだろうな、と思った。

 この口先だけの感謝からも、その余裕が伝わってくる。


 お母さんの方が、ココを斜め見ながら言う。


「娘は日頃から、勇者様にご迷惑をおかけしていることでしょう」


「いえいえ、そんな。大変お世話になっており……」


 ついサラリーマン時代の癖でペコペコしながら社交辞令を口にしそうになるが、隣にいるココの様子がおかしいことに気づいた。


 膝の上に両手を握りこぶしにして置き、床を見つめたまま、彼女は微動だにしない。

 恐怖に震えているとかでもなく、なんだろう、諦めたような表情のままだった。


 ここに来るまではあんなに一生懸命で、一刻も早く俺、というか勇者を両親に合わせたい、なんならもう、結婚の許諾を得たい、ぐらいの勢いがあったのに。


 俺はてっきり、ご両親にあったが最後、秒速で結婚の話になって即刻結納、式場予約ぐらいまで行くのかと思っていた。


 だが、彼女は……例えて言うなら死を覚悟した人みたいな顔をしていた。いや、そんな人今までの人生で見たことないけど。

 でも、本物の諦念というのはこういうのを指すのだろう、と感じた。


 自分にはどうにもならないことがあるんだ。

 どれだけ頑張っても、何も変わらないこともあるんだ。

 もうあとは受け入れるしかないんだ。

 という感情、とでもいうのか。


 父親は、口元をニッコリと微笑ませて言った。


「私も、しばらくぶりに娘に会えて、嬉しいですよ」


「ココ、何か言ったらどうなの?」


 母親にそう言われて、ココは力なく顔を上げると、笑みを浮かべ、


「はい、私も魔王を退治し、ようやくお父様お母様とお会いできて幸せです」


 と言った。

 いや、言わされたのか。

 父親は感慨深そうに言葉を継いだ。


「……娘は、この地を出るまでは、全くもって魔術を使えない子でした。里長の家に生まれながら、果たしてこれから、どうやって教育していったものかと。私共も力足らずで、日々悩んでおりました。そんな時に勇者様が、この娘を連れ出して、世界で修行させてくださり、おかげさまでこれほどまでに成長いたしました」


 母親も、感慨深そうに頷いている。感慨深「そう」に。

 ちなみにご両親はまだ、席に座ってすらいない。


 父親は穏やかに話を続ける。


「本当でしたら、我々も家をあげての祝宴を開くべきなのでしょうが、あいにくと支度もできておらず。申し訳ありません。また次の機会にでも、ご一緒できれば」


「……ええ」


 俺は、小さくうなずきながら言った。


「ぜひ、この里でごゆるりとお過ごしください。それでは我々は、これにて」


 ご両親は同時に微笑み、そのまま、部屋から立ち去ろうと俺たちに背を向けた。

 ジゼルは俯いたまま、トリスタは天井あたりをぼんやりと眺めたまま、口を開くこともない。


 俺も、何も言えないままだった。


「お……お父様! お母様!」


 唐突に、ココが大声を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ