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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第3章 魔術の里にて
40/120

40. 叩き出された俺たちは

 ココは食堂の椅子に腰掛けて落ち込んでいる。

 無理もない。世界中の人に褒められ、感謝されるはずの成果を上げて帰ってきたのに、父ちゃんと母ちゃんに家から叩き出されたのだから。


「はい、勇者様御一行。里の人間からの気持ちだね。受け取ってくださいね」


 そう言って店主が机に美味そうな食事と、酒を並べてくれる。

 城で出してもらったものとは正反対のいかにも田舎の里で出されそうな素材のままの品々だったが、むしろ食欲をそそった。

 あまり遠慮するのも無礼なので、素直に感謝して受け取ることにした。


 ココの実家の木から叩き出された、というかダイナミックに叩き落とされた俺たちだったが、ココの魔法によって幸いにも地面に叩きつけられることはなく、紐なしバンジー気分を一瞬味わうだけで済んだ(ちびりそうなほど怖かったが)。


 すっかり落ち込んでしまったココを慰めるために、俺たちは里の中央にある食堂にやってきたわけだ。

 里の人々が気軽に立ち寄る店のようで、大勢の魔術師たちが遠巻きに俺たちを見ていた。特にトリスタの方を。


 屋内で魔法の力の暖房がよく効いているせいもあり、あっという間に上着を脱ぎ散らかしたトリスタは、おそらくこの地方の女性がまず絶対しないような格好で、人目を気にせず飯を食っている。

 魔術師といえど人の子、というより、所詮は一男性、ということか。


 どうもトリスタ自身は大胆、というか、昔からこういう格好で日々を過ごしてきており、他人に自分の身体を見られることに何の不服もないらしいので、問題はないのかもしれないが。


「あの、すみません……もしかして、勇者イネル様ですかねぃ」


「あはい、そうです」


 食べている途中で突然里のおじさんに話しかけられ、俺は気軽に返事してしまう。

 言ってから、しまった、イネルはこういう感じじゃなくてもっと尊大かつ自分を演出したがるタイプだった、と思い出すがすでに遅い。


 まあ、好感度高めるためなら話しかけやすい人柄の方がいいだろう。


「里長が申し訳ありませんねぇ。またみなさんを家から追い出したとか……いい加減、これだけの傑物だとわかったのだから許していいと思うのですがねぃ。なにせ魔王を退治なさったのですからねぃ」


「ああ、はあ……」


「もちろん、はじめにお越しになった時はね、えらく強引な人だなと驚いたもんですがねえ。しかしそれも今となっては昔のこと。やり遂げたことの方が大切だし、ココ様だって結果として、人を見る目があったわけですからねぇ」


 里のおじさんは腕組みをして訳知り顔で首を振っている。

 なるほど。先代勇者はどうやらこの里でも何か暴挙を働いたらしい。


 背中のあたりを何かがツンツン突ついているので振り返ると、それはジゼルだった。

 彼女はそっと俺の耳に口を寄せると囁いた。


「お前は……いや、イネルは初めてこの里にやってきた時、里長、つまりココの親の許可を一切取らず、ココを連れて去った」


「はぁ!? 犯罪じゃん」


 俺は普通に驚いて普通に大声を出し、周囲の耳目を集め、里のおじさんは驚愕して俺からそっと退いていき、そしてジゼルには厳しく睨みつけられた。

「被害者」のココも、暗い顔を上げて何事かと俺を見ている。ごめんなさい何でもないです、と急いで俺はごまかした。


 ジゼルは最近デフォルト状態になっている呆れ顔で、話を続けた。


「罪かどうかは知らないが……里長の娘を連れて行ってもう二年近い。家に上げてくれなくても無理はないだろう」


「いやでも、その頃ってココは十二歳くらいか? 完全に犯罪だろ……」


 俺はイネルの所業にすっかり引いていた。

 魔王と結託していたのも最悪級の振る舞いだが、この件はベクトルが全く違う。何というか、キモい。


「その時ジゼルはもう仲間だったのか?」


「ああ。言っただろう。私がいちばんの古株だと」


「よく許したな……嫌じゃなかったのか?」


「まあ……当初は随分怪しんだが。しかし、こんな小さな子供に嫉妬するのも恥ずかしく思えてきてな。その後はすっかり仲間として打ち解けたから、何も思わなくなった」


 小さな子供、と言ってもジゼルとココの年の差はせいぜい四、五歳だと思うが。

 とはいえ、そう考えるのが普通だろう。十二歳の女の子を連れ去って、数年後には結婚の約束をしている勇者様。はぁ。フォローのしようがない。


「あの……勇者様。ちょっと二人でお話しさせていただいてもよろしいですか?」


 その時、ココが席を立つと俺に言った。やけに思いつめた表情でいる。

 断るわけにはいかないが、しかしどうにも、何か不穏なことが始まる気配があった。

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