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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第3章 魔術の里にて
38/120

38. ルートが複雑すぎる

 魔王にして現・俺の妹でもあるマヤの要請では、俺はグラントーマの王に就任し、この世界で実権を握らなければならない……らしい。

 何年計画なのかはわからないが。


 今の所、彼女のこの計画から脱する方法は見つけられていない。

 先代勇者が確約してしまった以上、このルートに一旦は乗っからざるを得ないだろう。


 だが、そのためには当然、グラントーマの姫・フィオナと婚姻を結ばなければならない。RPGの王道、お姫様との結婚。夢のあることだ。


 にも関わらず。この先代勇者・イネル君は、手近な女性に手当たり次第に手を出しておられたため、先にも言ったようにみんながみんな、「責任を取ってください」的モードに入っている。


 はっきり言って……収集がつかない。


 魔術師・ココは本気で「イネル様は姫との婚約を断って自分を選んでくれるはず」と信じている。

 その、なんというか、俺としてもココは大変可愛らしい女性なのでこのお話そのものはやぶさかではない。むしろ大いに歓迎。


 だが、それをOKしてしまうと今度は姫様と結婚できず、そうなると魔王が何をしでかすかわからない。


 この状況に追い込まれて、改めて先代勇者が何を考えていたのか、より一層わからなくなった。

 こうなることはとっくの昔にわかっていたはずなのだ。


 マヤの言葉通りなら、一年前には魔王と契約を結んで、昵懇の仲になっていたはず。

 だとすればその時点で、先のことを考えて他の女の子とはうまいこと手を切っておけば……。


 あ。


 考えながら気づいた。多分、そうなのだ。


 手を切っていったのだろう。

 そして、残ったのがこの三人なのだ。


 おそらくだが、この調子だと勇者(こいつ)、世界各地に元カノがいる。

 複数人に手を出すことに何の疑問も感じないタイプのようなので、それは多少、すでに予想はしていた。


 ただ、そういう娘達とはきっともう、お別れしているのだ。

 魔王との契約をし、フィオナ姫と一緒にならなければならないことが確定した時点で。


 しかし、パーティのメンツとはそうはいかない。


 彼女たちとは、冒険の最後までちゃんと付き合ってもらわなければならないし、プラス、魔王討伐の目撃者になってもらう必要がある。

 もちろん、突然仲間と別れ出したら世間体もよろしくないから、という理由もあるだろう。


 最後まで関係を整理するわけにいかなかったのが、ココ、ジゼル、トリスタだったのだ、たぶん……酷い言い方だけれども。


 ともかく。

 勇者の旺盛な欲望のおかげで、俺はこれから頭を悩ませなければならない。


   *    *


 ココを先頭に、俺たちは魔術の里の奥、もっとも大きな木の前までやってきた。

 樹齢千年では利かないような、太く節くれだった暗い色合いの大樹である。


「……前回、勇者様とここに来た時は、私の力不足もあって、この上にご案内することができませんでした。でも、今なら……」


 ココはブツブツと呪文をつぶやく。

 すると、身体が腹の底からふわっと軽くなる感覚が生まれ、俺たち全員は宙に浮かび上がっていた。


 3メートル、4メートルと俺らは大樹の上、ココの実家へと昇っていく。


 さっきから、というか城で相談していた時もしきりに、ココは「前回は両親にお目通しできなかった」みたいなことを言っていた。

 俺はてっきり、スケジュールの都合が合わなかった的な意味合いだと思っていたのだが、今彼女は「私の力不足」と言った。


 どういうことなのだろうか。

 単純に四人全員の身体を浮かせるだけの魔力が身についていなかった、ということか?


 でもそんなの、誰かに協力してもらえば何とかなるのではないだろうか。

 むしろ、ご両親の方が下に降りてきてくれればもっと簡単に済むし。

 よくわからない。


 この世界の雰囲気はぼんやりわかってきつつあるけれど、勇者の身辺の人々の事情などは、判然としないままだ。

 俺はココのうなじを背後から何となく眺めながら、いまだに数え切れないほどある「よくわからないこと」リストを脳内に思い浮かべていた。


 そう、実は俺がずっと気になっていながら、まだ確かめていなかった「わからないこと」がある。


 ……先代イネルは、その……。

 どこまで、彼女たちと、関係していたのか、ということである。

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