37. ご両親にご挨拶
話が前後するが、なぜココの生まれ故郷に来てしまったのか。
もちろん、ココ本人の強い要望からだった。
* *
「今度こそ、私の両親にご紹介させてください!……その、勇者様を」
グラントーマ城の会議スペースみたいな場所(円卓?)を借り、俺、ジゼル、トリスタとココだけで集まり、今後の予定を相談しているときに、彼女がそんなことを言い出したのだ。
当然、ジゼルは「え?」という表情になる。
まあ、ジゼルはもう俺の正体を知って、俺に興味を失っているだろうが、俺(というか勇者)がココと結婚の約束までしていたことは知らないわけだし。
トリスタは妙にニヤニヤしているだけで、何も言わなかった。
眉間にしわを寄せたジゼルが口を開く。
「なんのためだ。これから我々が行うべきなのは、祝宴に呼べなかった世界中の人々に感謝を伝えたり、今だからこそ助けに行ける人々に手を差し伸べたり……」
「もちろん! それが大切なのはわかります。私もわかっているのですが……ですが、ジゼルさんも、トリスタさんも、ご自分の生まれ故郷に行ったとき、ご自分のご家族に勇者様をご紹介なさっていたではないですか。まだなのは私だけです」
そう言うと、彼女はむっつり口をつぐんで、じっと俺たちを見据えた。「まだなのは私だけなのでズルイです」と言わんばかりの表情で。
ていうか、そんなみんな紹介済んでるんだ。
トリスタはニヤニヤしたまま言った。
「へぇ。そんなに勇者様をご両親に紹介したいんだ」
すると、ココはわずかに目を泳がせながら、いえそういう話ではなく、私もこれだけお世話になっている勇者様に家族と会ってもらいたく、とつぶやくように応じた。
「……うちの両親の都合で、前はせっかく来ていただいたのにご挨拶ができませんでしたから。このままではよくありません」
気づけば、この俺含めて四名の関係は微妙にややこしくなっている。
元々は、全員が俺(というか勇者)のこと好き、ということさえ把握していればよかったのだが。現状だと、
ジゼル→勇者……勇者の中身が以前のイネルから俺に変わっていることを知ってしまっている。ただ、イネルがココやトリスタにも手を出していたことは知らない。
ココ→勇者……以前と変わらず、勇者の中身はイネルのままだと信じている。さらに、ジゼルやトリスタに手を出していたことも知らない。つまり何も知らない。
トリスタ→勇者……こちらも勇者の中身入れ替わりは知らない。ただし、勇者が他の娘に手を出していることは知っていて、にも関わらず自分も「二番目」として付き合い続けようと思っている。
……三者三様。全員把握していることが違う。
この状況で、何も知らないココが「どうしても両親に勇者を会わせたい」と言っている、ということは。その動機はお察しである。
無事魔王退治も完了した状況で、満を持して勇者、という彼氏を家族に紹介したい、のだろう。
そりゃココも一生懸命に、でも他の二人に怪しまれないようになんとか言い訳つけて、実家へ帰省しようとするわけだ。
それは結構なのだが。
……俺としては、先日マヤこと魔王陛下から命じられた一件が、さらに重くのしかかってきている。




