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34. 最も悪しき考え

「……俺を、王に?」


 結構意外な命令に、俺は戸惑いを隠せなかった。

 いや、何を命じられるかなんてほとんど何も考えられないくらい、思考は停止状態だったのだが。


「どうして」


「どうしてもこうしてもない。五王国の中でも中心的位置にあるグラントーマをお前が支配すれば、五大陸の中でのこの国の権威は一挙に上がる。これまでは対等だった五王国の関係に大きな変化が起きる」


 確かに、あの祝宴の様子からすると、「俺」が王にでもなったらそれくらいのことは起こりうるだろう。

 何せ、「俺」こと勇者は社会的な信用も絶大、一般の民草からも慕われ、おまけに戦闘力も最強。


 今までやってきたRPGでは、魔王を倒した後の世界のことなんて大して描かれていなかった。

 せいぜい、お城にみんなを集めてダンスパーティをやっておしまい、という程度だった。


 しかしその後も、「めでたしめでたし」で世界が消滅するわけではないのだ。勇者の人生も続くし、世界も続行する。

 世界を救った勇者には、どうしたってそれ相応のポストが用意されるだろう。


 魔王少女は話し続けた。


「現グラントーマ王は見ての通りの武人だ。民に慕われてはいるが、権謀術数を駆使して他国を支配下に置くような器用な真似はできなかった。

 残り四国の王の中には中心的立場に立とうと長年努力してきた者もいたが、誰一人成功してはいなかった。祝宴でも四人ともと挨拶しただろう?」


 したかもしれない。

 だが、よく知らない大勢いる「偉い人」の中の誰か、という程度の認識しかあいにくなかったので、まともに記憶には残っていなかった。


「力関係はここ百年以上拮抗している。そんな中に、お前が投入されるわけだ。一気にグラントーマの存在感は増す。

 まあ、あの筋肉馬鹿の現王は複雑な政治のことなど考えてはおらず、娘が愛していると言うからお前を婿に迎えよう、というだけの話なのだろうが。他国の王たちは戦々恐々としているぞ」


 四股どうしよう、などと頭を抱えていられた頃が懐かしい(気づけばジゼルはそこから外れているのだから、現在は三股状態だがそれはともかく)。

 愛がどうとか人間関係がどうとか、もはやそんな簡単な話ではないのだ。


「お前がグラントーマの王になること自体は簡単だ。フィオナ姫の元に婿入りすれば済む。できれば王を殺してでも早く王位を継いでもらいたいが……ここまで来て数年焦ったところで意味はない。

 順当に時期が来るのを待てばいいだろう。現王はたいそうお前のことを気に入っているから、もしかすると自らの死を待たずして王位を退こうとするかもしれないが」


 ありえそうな話だ。豪快で人のいい、目の前のことしか見ていない体育会系の王様。そして決して若くもない。

 あっさり隠居を申し出る可能性もある。


「そうなれば、お前が王だ。その次に目指すべきは、五大陸の統一と支配だ」


 どんどんきな臭い話になってきている。


「これができるのも、世界を救った勇者くらいのものだろう。ただし、無理に名乗り出て自分が支配者になろうとするべきではない。

 自然と、不可抗力で、皆の総意とともに、お前が五大陸を統べる存在になれ」


「な、なれってそんな簡単そうに」


「簡単ではないがそう難しくもならない。なぜならお前には、私がついているからだ。

 さっきも言ったろう。何かを統一するためには、適切な敵が存在しているべきである、と。


 程よい魔族の再襲来くらいならいつでも、どんな形でも手配できる。お前は、それを程よく倒せばいい。

 そして、人間が一致団結する必要を説けばいい。民草を操る最も簡単な術は、不安を煽ることだ」


 聞いているだけでも、だんだん気分が悪くなってきた。


「お前が五大陸の支配者になれば、あとは我にとって、理想郷のような人間界が出来上がる。

 人間を力任せに押さえつけたり滅ぼしたりするより、遥かに価値のある世界だ。


 魔界に必要なものがあれば、人間界で作らせて奪い取ればいい。

 なんなら人の集団ごとさらわせて、魔界で奴隷にしたっていい。


 そして程よく、人間対魔族の戦いを演出し、人間側の鬱憤が溜まりすぎるようなら、程よく魔族に負けさせたっていい。

 我にとって重要なのは、永遠に続く収奪の仕組みの方だ。王座に腰掛けて配下を抱え、偉そうに高笑いなどしていたところで、いずれ失われる権勢など何も面白くはない。


 愚かな人間が誰一人気づかず、無限に魔族に支配されている状態がいつまでも続くのが、我にとっては最も面白い。そのために、我はお前と手を組んだのだ」


 夢を見るように、魔王少女は目を細めていた。

 俺は、本格的に気分が悪くなっていた。

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