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31. 魔王の狙い

 ジゼルのレクチャーから二日後。

 俺は、「妹」と二人きりで、城内の庭園を散策していた。


 本当なら城外に散策にでも行きたかったが、流石にこの近郊だと俺の顔を知った人間が多すぎるので、召使いたちに止められてしまったのだ。


 ジゼルの話の後、俺は「勇者」の芝居を若干修正した。

 どうやら俺の素の振る舞いだとバカっぽさがやや足りていないようなので(別に俺も頭がいいわけではないのだが、勇者が想定以上にド天然キャラだった)、「いかにも勇者」という感じのテンプレ丸出しなポーズや発言を要所要所挟み込むように気をつけるようにした。


 ジゼルからは「だいぶイネルらしい」と褒められてるのかバカにされてるのかわからない評価をいただいている。

 こんなんでいいのか。


 まあ、少々キャラ変があったとしても、魔王戦終了後の安堵からの緩み、と捉えてもらえるだろうし、長期的には俺自身の人物像に寄せていけば、誰からも怪しまれることはないだろうと思う。


 それに、これから先は何かあれば随時ジゼルに訊けるので、かなり気が楽になった。

 彼女に正体がバレたのは、結果的には良かっただろう。

 誠実で真面目、秘密は守れるタイプで、おまけに面倒見もいいのだから。


 城内は祝宴の後片付けも終わり、日常を取り戻しつつあるようだった。

 すっかり城内で働く人々とも顔なじみになったので、気軽に挨拶をしたり言葉を交わしたりもできるようになった。


 これはもう、前の世界での俺からすると驚異のコミュ力と言える。

 家族以外のよく知らない人と普通に会話するなんて、都会に暮らしている限りそうそうあることじゃない。少なくとも俺にとっては。


 それを今、余裕でできているのもやはり、「勇者」という肩書きの強さが大きかった。

 誰に話しかけても「おお、勇者様!」と尊敬の眼差しを向けられるのは、ぶっちゃけ、すこぶる、気持ちいい。

 この気持ち良さだけを味わいながら、余生を過ごしたいものだとかなり、思う。


 しかし、逃げてばかりもいられない。


「なんだ、話とは」


 魔王少女こと妹・マヤは、相変わらずの仏頂面で俺と手を繋ぎながら歩いている。

 他人からは仲のいい兄妹の睦まじい姿にしか見えないだろう。

 まさか勇者と魔王が手を取り合っているなどとは、世界中の誰一人思うまい。


 マヤは俺を見上げる。あたりには人が行き来しているが、俺たちが何を話していたところで、疑われることはまず、ない。


 俺は緊張していることを悟られないよう、懸命にごまかしながら口を開いた。


「今後の策を、君の口から聞きたくて」


「策?」


 魔王は若干怪訝な表情になった。


「何を話す必要がある」


「いや……俺と君の間で、齟齬があるといけないと思うんだ」


「何を言っているのかよくわからん」


 流石に魔王は手強い。

 曖昧に言葉を濁しても、都合よく受け取って聞きたい話を喋ってはくれなかった。

 そりゃそうだろう。事前にきちんと相談をしていたはずの「悪事の相方」であるはずなのだから、俺は。


 本来なら一番知りたかった「魔王の狙い」、「魔王が勇者と組んでやろうとしていること」なのだが、ずっと聞くに聞けなかったのはこれが理由だった。

 迂闊に聞き出そうとしすぎると疑われる可能性が高い。

 かといって、相手が納得するような合理的、論理的な聞き出す理由も、何も思いつかなかった。


 だが、それも今となっては事情が異なる。


 俺は精一杯の虚勢を張って腕を組み、笑みを浮かべると、言い放った。


「申し訳ない。実はこのところの慌ただしさで、詳細を少々、失念してしまったのだ。もちろん大筋は覚えているよ。覚えているから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、念には念を入れ、確認しておきたいと思ってね!」


 堂々とそう言い終えた俺のことを、魔王はジトーッとした眼差しで見つめてきた。

 愚か者を見る目だ。芝居でやっているとはいえ、傷つく。


 しかし、魔王はため息をつくと、いいだろう、と言った。


「お前に一度説明しただけで全て飲み込んでもらえるとは我も思っておらん。改めて話してやる」


 よし、「あえて呆れてもらう作戦」、成功。


 勇者の本来の性格を聞いた時点で、これができるだろうと踏んでいたのだ。


 この勇者のような虚勢を張るタイプの人間の場合、本当は何かを忘れていても「忘れていない」と言い張ることが多いし、できないことであっても「できる」と胸を張る者も多い。


 しかし当然、それは側から見るとそういうフリをしているだけにしか見えないし、非常に危なっかしく眼に映る。


 この魔王のような聡い人種は、その手の人間が虚勢を張っているのを見ると、「こいつの言うことを鵜呑みにしているととんでもない事故が起こりかねない。

 面倒臭いがもう一度頭に叩き込んでやるか」と呆れた上で危機回避を考えがちなのだ。


 今回うまくいかなかったとしても、数回同じように聞き返していればいずれ教えてくれるだろうと踏んでいたが、まさか初手で成功するとは。

 勇者がおバカで助かった。それに、今後のことを考えれば、魔王から軽んじられているぐらいの方が何かと動きやすいだろう。


 魔王はうんざりした表情で首を振ると、ようやく、こう言った。


「我々がこれから手を組んでやることは……今更そこから話すのも馬鹿らしいが。無論、この世界を支配することだ」

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