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28. ジゼルのレクチャー

 このように紆余曲折を経て、ようやく仲間が一人、手に入った。

 仲間と呼ぶにしてはかなり敵意が優っているようだが、それでもいてくれるだけでかなり心強い。


 何しろ、相談相手が一人もいない状況で嘘をつき続けていたのだ。

 わずかな期間といえど、精神衛生的には実によろしくなかった。


 ジゼルとはその後、祝宴が終わるまでの間にまた軽く話し、ココやトリスタにはこの秘密は明かさない、ということに決めた。

 俺としては、こうなったらパーティ内で共有していた方がいいのでは、と思ったのだが、ジゼルが強硬に反対したのだ。


「ココは、お前にはどう見えているか知らんが、かなり融通が利かない性格だ」


「ジゼルより?」


「やかましい。私は規則に厳格なだけだ。問題解決のためには融通は利かせる。ココの場合、なんというか、思い込みが激しいというか、思いつめやすいというか……言ってもまだ若いからな。その上、世界でも有数の有能な魔法使いでもある。衝撃を受けるとどうなるかしれないから、まだ伝えない方がいいだろう」


 俺の知っているココはバブみ溢れる図書委員タイプ、という印象なのだが。

 まだ何か、俺の見ていない一面でもあるのだろうか。


「トリスタは……融通は利くのだが。逆に利きすぎるかもしれない」


「どういう意味だ?」


「……もともと、彼女は南方の砂漠地方で暗躍していた盗賊だった。それを色々あって、勇者イネルが従えるに至った。つまり、勇者の人柄についてきている人間だ。信用していないわけではないが……中身が変わった、と聞いたら、あっけなく去っていくかもしれない。それは、今は避けたい」


 なるほど。そういう意味では、ジゼルにバレたのは僥倖だったのかもしれない。

 話している限り、なんだかんだで面倒見もいいタイプっぽいし。


「甘えるなよ」


 ギロリと鋭利な眼差しを、剣士は向けてくる。


「私だってとっととお前なんか放り出して去りたい。私の愛した人はもういないのだから。だが……知ってしまったからには責任が生じる。本当なら、世界の人々相手に大嘘をつくなど、私の信条にはそぐわないが。混乱が起こるのはもっと嫌だ。収拾をつける目処がついて、一通り問題が解決したらお前の元なんか一刻も早く出ていくからな」


 悪いことをしたわけでもないのに、俺は首が縮こまる思いだった。


 宴がつつがなく終わり、心身ともに疲れ果てた俺は用意された部屋に戻って朝まで熟睡した。

 翌日、召使いたちが部屋まで持ってきてくれた朝食を食べ終えると、俺は誰にも見つからないよう注意しつつ、ジゼルの部屋を訪ねた。


 ノックすると顔を出した彼女は、俺を見るやものすごく嫌そうな顔をしたが、仕方なさそうに部屋に入れてくれた。


「なんだ」


 ジゼルは、今日ばかりは動きやすそうな普段着を着用していた。

 ただし、男物である。髪も邪魔にならないようまとめているので、胸や尻の出っ張りを無視すれば、精悍な男のようにすら見えた。


 昨日まではそれでも、多少は可愛げのある装身具などを身につけていたような気がするのだが。


「ああ」


 俺はようやく合点がいって声をあげた。


「そうか、可愛こぶる相手がいなくなったから、思い切り男物を……」


 そこまで言ったところで、思い切り右耳を掴まれ引っ張り上げられた。あまりの痛みに悲鳴が出る。

 ジゼルは冷淡に言った。


「勇者とはいえ耳は鍛えていないはずだからな。よく効く。お前、用がないならさっさと出て行け」


「ありますあります。教えて欲しいことが死ぬほどあるんだよ。この世界のこと、俺たちのこと、魔王のこと! 誰にも聞けなかったから!」


 泣き出しそうになったのを懸命にこらえながら俺は言った。

 鼻を鳴らし、ジゼルは手を離してくれる。


「……いいだろう。知っておいてもらわなければ、これから何かと面倒だ。最低限の常識ぐらいは仕込んでやる」

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