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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第1章 まずは何が起きているのか把握を
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2. 中古ゲームのセーブデータ

 ハッと周囲を見渡すと、三人の女性……というか女の子が、俺を真摯な眼差しで見つめていた。


 一人はザ・女剣士としか言いようのない、ビキニアーマーの金髪少女。年齢はせいぜい、高校生ぐらいだろうか。

 前の世界ならバスケ部またはバレー部あたりにいそうだが、視線で人を殺せそうなくらい険しい顔立ちをしている。


 次の一人は深いブルーのローブを着た小柄な少女。こちらは中学生くらいに見える。

 黒髪に黒い瞳、クラスに一人はいる委員長、ないしは図書委員タイプだ。


 いかにもな、水晶付きの杖を握りしめていた。

 魔法使い、僧侶かあるいは賢者っぽい。


 最後の一人はセクシーな体つきがくっきり見える薄布を身にまとった女性。彼女だけはハタチ過ぎぐらいだろうか。


 褐色肌で、壁にもたれかかるポーズが場違いにエロい。踊り子、盗賊、もしかしたら遊び人だろうか。

 前世の俺よりは年下だと思うが、なんとなく「お姉さん」と呼びたくなる。


「えーと……どうも」


 俺はつい癖で、うだつの上がらないサラリーマンらしい会釈をしてから後悔する。勇者と呼ばれた以上、勇者らしい振る舞いをするべきだった。


 案の定、踊り子っぽいお姉さんが胡散臭げな目をしている。


「どうしたんだい勇者さん。あれだけ決死の演説打っといて、今更寝ぼけてるのかい。あんたに命預ける覚悟決めた方の身にもなっておくれよ」


「そうです。勇者様」


 今度は賢者少女が生真面目そうに口を開いた。


「勇者様のお導き通りに、今日、ここまでたどり着いたのです。あとはただ、最後の仕上げをするのみ。この世を魔道に落とした悪しき魔王を、打ち砕く時です」


 ……。

 ええと。


 いろいろと、確認したいところがある。


 まあ百歩譲って、来るなり速攻で魔王戦、というのはいいとしよう。

 それぞれの世界で抱えている問題は異なるものだ。早急に最重要課題に着手しなければならない状態なら仕方ない。


 気になるのは、彼女たちの言い方だ。


()()()()()決死の演説」

「勇者様の()()()通り」


 言うまでもないが、先程この世界に到着したばかりの俺は、演説を展開した覚えもないし、何かしらのお導きをした記憶もない。


「俺の……言葉通りに」

 探り探り、俺は慎重に言葉を選んだ。


 三人は深く頷く。賢者女子がまっすぐな目でこちらを見ながら言う。


「『世界は我々の手に握られている。私たちは、希望を生み出すためにここまで来たのだ』……忘れるはずもございません」


 あ、そのポエムめいた言葉、俺が言ったことになってるんだ。

 続いて、女剣士、女遊び人もぽつりぽつりと言葉を紡いだ。


「……『お前の太刀は、ただ目先の魔物を切るのではない。悪を斬ることで、道を切り開くのだ』……剣技の意義に悩む私を、わずかな言葉で救ってくれたな」


「『賭け事は、人生を生きるだけで十分事足りているのではないか?』なんて、あんた以外に言われたって聞く気は持たなかったろうけどねぇ」


 三人ともなんだかしみじみした雰囲気に浸っている。俺は心の動揺を顔に出さないので精一杯だった。


 なるほど。わかってきた。


 これ、アレだ。


 ()()()()なんだ。


 今ここに、勇者としての俺が突如来臨したんじゃない。


 さっきまで「勇者」をやっていた奴のこの身体を、どういう魔法の力でだか知らないが、なんらかの事情で引き継いだんだ。


 中古ゲーム屋で古いRPGのカートリッジを買ってくると、前の持ち主のセーブデータが残っていることがある。


 知らない名前、知らない進行状況。そのデータを選んでみれば、ストーリーの途中から遊ぶことができる。もちろん、その時点でどういう状況なのかさっぱりわからないから、楽しむ余裕なんてないけど。


 今、俺が置かれている状況は、それだ。


 冷や汗がたらりと流れた。

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