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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第7章 決して諦めぬ者
108/120

108. 疑問

 思い出せない、と言っても、別に十五歳より前のことが、とかそういう話ではない。

 昔のことが思い出せないくらいなら、普通のことだろう。


 そうではなく、どんな話題についても、手繰り寄せて思い出せるのがかなり限定された部分までなのだ。


 例えば、大学でのこと。サークルに参加したけれど友達ができずぼっちだったとか、バイトでも不器用で叱られてばかりだったとか、そういうことは思い出せるのだが。

 では具体的にサークルでどんな活動をしていたかとか、バイトの業務内容はどんなだったかを思い出そうとしても、モヤがかかったように頭に浮かんでこない。


 会社がブラック企業だったこととか、毎日疲れ果てていたことは思い出せるのだが、では実際どんな仕事が辛かったのかとか、同僚の名前とか、取引先と会食に行った店の名前とかは全く思い出せない。

 そこで糸が途切れているように、記憶が途絶えている。


 なぜだ?


「なんだよぅ。全然前世のこと覚えてないじゃん」


 トリスタは口を尖らせるが、俺は言葉を返せなかった。おかしい。


 いざ尋ねられないと、わざわざそんな微に入り細を穿ち思い出すことなどない。

 前の世界はうんざりするような世界だったなーとか、漠然とした印象までしか思考に上らない。そのせいで、今までは気づかなかったのだが。


「ああそうだ、聞きたかったことあった」


 目の前の褐色女子は、その辺の木から摘んできた木の実をもぐもぐ齧りながら、想像以上の好奇心でさらにこう尋ねてくる。

 俺としては不安を増幅されるから、ここらでやめてもらいたかったのだけれど。


「よく、あんたが言ってた『勇者とは』って言葉が出てくる物語。あれって、どんなお話なの?」


「ああ……」


 あのゲームの話か。


 忘れられないあのセリフ。俺の記憶に強烈に刻み込まれた名作。

 の、はずだったのだが。


「……あれ……?」


 一生懸命思い出そうとするのだが。

 具体的なストーリーが出てこない。


 いや、断片的なことは覚えているのだ。

 シリーズ十一作目だとか、水の滴みたいな形をした魔物が出てくるとか、これこれこういう呪文があるとか、伝説の勇者がいてだとか、パーツパーツは思い出せるのだが。

 肝心のストーリーラインが説明できない。


「生涯でそう何本もないくらい、とても感動した名作ゲーム」ということははっきり覚えているのに。


 なんでだ。

 おかしい。


 また、アマクサと話していた時と同じ気分に襲われる。

 自分の足元がぐずぐずに崩れ、土の中に飲み込まれていくような不安感。

 自分を支える大前提が見えなくなる恐怖。


 なんだ。記憶が細工されているのか?

 もしかしたら、封印でもされているのだろうか?


 気づけば、トリスタはまだ木の実を齧ってはいるものの、真面目な顔をして俺の方を見ていた。

 俺は言葉が出てこない。


「まー、私だって昔のことなんかろくに覚えてない方だけどねー」


 彼女はニッコリ笑ってそう言った。それぐらいのことならあるかもしれない。

 でも、俺の記憶には明らかに、作為的な違和感がある。


 彼女はもう一度、ゆっくりと口を開いた。


「あのさー。ちょっと思ったんだけど……」


「イネル! トリスタ!」


 すると、空から聞き覚えのある鋭い声が響いてきた。


 見上げると、魔族の若者たちに抱き抱えられている二人の姿があった。

 それはココと、そして、ジゼルだった。

 声を発したジゼルは、頭から血を流している。


 驚いた俺は、飛んでいる彼女らの元へと駆け寄った。

 魔族の若者たちは息も絶え絶えになりながら、地上に降り立つ。疲れ切っていた。

 そのうちの一人の青年が首を振りながら喋りだす。


「やばいッスよ! 本当、危ないところだったんスから! 俺らも殺されるかと……」


「何があったんだ!?」


 俺が問うと、ジゼルが頭を押さえながら答える。


「魔王だ。奴が動き出した。グラントーマ城を支配して、全権を掌握しようとしている」


「そんな、どうやって!?」

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