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先代勇者の名にかけて!〜転生したらクリア直前だったんだが〜  作者: 彩宮菜夏
第7章 決して諦めぬ者
107/120

107. 前世の記憶

 確かに、魔王マヤは勇者の権威を使って、裏側から世界を支配しようとしたわけだが、言われてみればその方法は、表立ったまま活動しづらい事情がある人物がとるもののように思える。

 死を装うのは極端にしても、いったん引退しておいて、後釜に据えた人間を操る、というのは割りとよくある話だろう。


 魔族の若者はさらに続けた。


「魔王陛下って、頭脳も力も圧倒的すぎたんスよ。陛下のお考えについていける奴なんて全然いないし。前にほら、勇者サンが捕まえた魔将軍、あのオッサンが右腕扱いだったんスよ?


 しょーもない奴だったっしょ? 下が所詮その程度だから、孤高の存在すぎて誰も陛下にまともについていけなかったんス。ただペコペコしてるだけ。聞いた話ッスけど、陛下もそういう扱いにうんざりしてたらしいッスよ」


 随分詳しいな、と俺が視線を向けていると、彼は噂、噂ッス、と繰り返した。


「そんなお方だから、とにかく勝つのは無理だと思った方がいいッスよ」


「え?」


「肉体がもう超強靭ッスから。魔力も、本気出したら大陸ごと吹き飛ばすぐらいの事はできるはずッスし。勝とうなんて思わない方が身のためッス。どうやって受け入れて、一緒に生きていくかしか選択肢ないッスよ」


 残念ながら、魔王にすでに不利益を生じさせている俺にその選択肢はない。


   *    *


 トリスタ中心にかなり強引な計画が立てられたのち、魔族の若者たちは揚々と飛び立っていった。

 聞いていた計画の感じだと、順調にいけば数時間中に、悲鳴を上げながらココがやってくるだろう。かわいそうに。


「さて。とりあえずココの話は聞ける状況にしたけど。あとなんかやる事ある?」


「ないよ」


 俺は疲れ切って、近場の木にもたれかかると息をついた。今の俺はとにかく動けない。

 恐ろしくじれったいが……状況に変化が起こるまでは、何もできる事はないだろう。


「んじゃぁ、暇つぶしにあんたの生まれた世界の話聞かせてよぅ」


 トリスタが、またヘラヘラ笑いながら言う。俺も面倒だが、他にすることもないから雑談でも楽しむしかない。

 彼女は俺のすぐそばにあぐらをかくと、子供のようにワクワクした表情で質問してくる。


「まず聞きたいのはぁ……向こうの世界ってどんぐらい広いの? 結構旅した?」


「いや……俺はあんまり。俺が生まれたのは日本っていう小さい島国で、その島の中も全部は廻ったことがなかったよ。広さ自体は……どうなんだろ。この世界もネルバとか呪文で移動してるから、広さの比較のしようがないな」


「どうやって転生してきたの?」


「トラックに轢かれた。よくあるやつだよ」


「とらっく……へえ。あんたは何をして飯食ってたの?」


「サラリーマン……なんて言ったらいいのか、ただただ毎日同じような仕事を続けるばっかりなんだよ。それも、農家とか商人とは違って、なんて言うか……すごく退屈なんだ」


「? 何やってたの? そのさらりなんとかって仕事は」


「ええと……トリスタに説明はできないよ。色々あるんだ。パソコンとか、そういう」


「ぱそ?」


「パソコンっていうのは、ええと……機械だよ。すごくよくできた機械で、なんでもできる」


「なんでも? なんでもって、例えば?」


「え? 例えば……なんだろう。ネットっていうのがあって、それがあると、世界中どことでも繋がれるんだよ」


「繋がる?」


「繋がるって言っても、直接じゃなくって、文字とか絵を送れるっていうか、まあ、ものすごく早い伝令みたいなものだと思ってもらえば……」


「へー。それで仕事してたんだ」


「うん……そうだな」


 しかし、転生後の人間にこんなに前世のことを聞いてくるというのはいかがなものか。

 前の世界で読んだり観たりした異世界転生モノでは、前世のことは基本一切触れてなかったぞ。まるで踏み込んではいけない聖域であるかのように。


「それで、そのさらりなんとかになって働いてたと。一人で働くの? 誰かと一緒?」


「……会社っていう集団になって働くんだよ」


「どういう人と働いてた?」


「どういう……?」


「誰かと働いてたんでしょ?」


「ああ、まあ……」


「どんな人がいた?」


「どんなって……普通の人、だよ。その、あんまりいい思い出がないから、よく覚えてないんだ」


「? でも一緒に仕事してたんでしょ?」


「そういうこともあるんだよ……仕事がすごく忙しくて、辛くて忘れちゃったんだ」


 なんだか……また、足元が揺らぎ出すような感覚を覚えた。砂漠の集落で、アマクサと過去のことを話していた時と同じだ。


 前世のことを思い出そうとしても、あるところから先を明瞭に思い出すことができない。

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