4月20日-2
間に合いました。
20190707 最後によけいな文字が入っていたので除きました。
「そう……か」
何が起きたのかを洗いざらい伝えた。
そのあとで、静かに幸次さんはうなずいた。
俺と幸次さんの前に置かれたカップからすでに湯気は立っていない。
それを幸次さんは手に取り一息に飲み干した。
「苦いな」
ポツリとそう漏らした。
そして目は俺の腕をじっと見つめている。
正確には空っぽの左袖と金属に変わった右腕だ。
俺も目の前のコップに口をつける。
冷え切ったコーヒーは――
「ええ、苦いですね」
でも。
と不思議に思うくらい素直に次の言葉が出てきた。
「でも、不味くはないです」
幸次さんは口の端に少しだけ笑みを浮かべ。
「ならいい」
その言葉を聞いて、幸次さんの前にあるコップの取っ手に指を通すようにして回収して――
「俺がかたずけます」
「ああ、なら頼んだ、飯はまぁチンして食ってくれ」
といって冷蔵庫を指さした。
それに軽くうなずくことで幸次さんを見送った。
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用意されていた朝食を食べ終えたあたりで、インターホンが鳴らされる。
以前の事があったので身構えて玄関のドアスコープから除くと――
「あ、淡雪」
早速迎え入れた。
入るときに淡雪はぺこりと頭を下げて。
「お邪魔させてもらいますね」
自然なその笑顔はしばらくぶりの気がしたので俺も思わず顔がほころんだ。
来客用のスリッパを慌てて並べて、居間まで並んで歩く。
「今日はなにかあったのか?」
「いえ、電話でもいいですが、せっかくですから会いに来ました」
その言葉につい胸が弾む。
そこで思い出すのは流しに洗う前の食器が積まれているということだ。
何とかしなければ、と思ったころにはもう居間についてしまい――
「あと手の件で、色々不都合があると思ってきました」
「お見通しだったわけか」
俺のその言葉に苦笑含みでうなずきで返される。
「皿洗いの後に少し相談したいことがあります」
「ん? わかった」
かなり真剣な表情だったので不思議に思うが了解した。
その返事を聞いて表情を緩めて流しに向かっていった。
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さしあたってするべきことが終わるのを待って今のソファーでくつろいでいると、淡雪が少し迷ったようすだが隣に腰かけた。
こぶし一個分の微妙な距離を開けて並んで座る。
花とも違う甘い爽やかな香りがする。
「あの――」
なんと切り出そうか少し迷っている様子だ。
しかし俺には内容が全く予想できないのでただ待つ。
するとゆっくりと話し始めた。
「恋の話です」
「はい?」
なんのことか全くわからずに変な声が出た。
しかし、そのことを気にせず話し続ける。
「ノスタルジスト――いえ“リーパー”の目的が私と山上さんの恋の成就だ、とそれに近い事を言っていました」
「捕まっていた時か……」
その言葉に顔を伏せるようにして頷いた。
そしてかすかだがいつもよりも身をすくめるような姿勢だ。
「しかも、左手だけじゃなくて右手の事もそうです」
話しているうちに思いが煮詰っていくようにうつむきが深くなる。
「もし何かあったらと思うと怖くて、離れた方が良いんじゃないかって思うんです」
でも。
と少しだけおびえるような声で続ける。
「でも、不安だから離れても――」
ゆっくりとだけどはっきりとした声である望みを話した。
「心細いのです」
言うべき言葉を素早く探せるほど経験を積んでいないので、細心の注意を払い淡雪の手を右手で握る。
「だとしたら俺が会いに行くと思う」
「“リーパー”がそれを望んでいるのにですか?」
淡雪の顔を見てはっきりと返事をする。
そして、決意をもって話す。
「ならそれを越えればいい」
「……それはそう――」
そこで淡雪は少し言葉に詰まり。
表情から少し力を抜いて。
「そうですね」
「だろう」
二人で軽くだが笑顔を交わして、覚悟を決める。
リーパーを超える。
明日も頑張ります。




