Apr. 19 2019-1
間に合いました。
「まぁ、こんなものですね」
少し埃っぽい空気が満ちた空間――もう使われていない倉庫に最低限度の備品を設置し終わり一息つく。
メインはトレーラーを改造したスペースだが、いささかというにはあまりに手狭なのである程度は倉庫内に広げる。
“ブラックスミス”はトレーラー内で橘君の調整と“ディープスロート”“ウォーモンガー”の義手を作成しているのでここにはおらず、“ナード”には別の事を頼んでいたので整理は一人でやらなければならずそれなりに苦労した。
“ナード”は真っ先に設置したメインフレームにかじりつき、クリーチャーがSNSを荒らしまわるのを助けている。
お茶でも飲もうかと考えていると、“ナード”がこちらを見上げて。
「報告 発見された 続々対処済み」
「ならこの場所をつかまれないうちに早めに手を引いてください、いつかはばれるでしょうがあんまり早いと困ります」
すると“ナード”が不思議そうな顔で聞いてきました。
「何故?」
「せっかく配置したので、すぐここを立たなきゃならないと悲しくなるじゃないですか」
“ナード”に半目で見られるが気のせいだということにして、お茶を用意しに席を離れる。
「あ、“ナード”もお茶はいりますか?」
「コーラ 所望」
「わかりました、紅茶を入れてきますね」
「しょぼん」
私たちに生活習慣病どころかスタイルの変化はありえませんが、それはそうとしてジュースばかり飲むのも良くないので紅茶をいれることにする。
本当になにか不都合が出るわけではないですが、私の趣味レベルですが。
と言いながら簡単なコンロでお湯を沸かし始める。
「質問 何故 混乱を助長?」
「山上君と淡雪ちゃんが解決する必要があるのです、助けないと次々凍結と摘発で二人が動かなくても何とかできた可能性もありましたので」
「了解」
そんな話をしているうちにお湯が沸いたのでポットとカップにお湯を注ぎ温める。
「ティーバックでもいいのに」
「手間をかけないといけない時もあるんですよ」
ポットからお湯を捨てて、茶葉を投入する。
“ウォーモンガー”ほどでないですが“ナード”もせっかちな気質なのでその様子に苦笑を浮かべる。
普段はスナック菓子やエナジードリンクで済ましているのでそこが心配になってくる。
「む 面倒」
「まぁ“ナード”は速さを求めるところがありますしね」
しっかり沸騰したお湯を注いで蓋をしてしばしまつ。
「こうして話す 久しぶり」
「そうでしたね、ここ最近はあわただしいので」
中の様子をエコーなので確認などもできるがあえてしない。
そういうのがきっと贅沢なのだ。
比較的ゆったりとした時間が流れ、タイミングを見計らってお茶を注ぐ。
注ぐ量はきっかり半分にできるのは作られた存在ならではの特技だと思う。
そのお茶を“ナード”が一口含み。
「不思議 少し甘い」
「こういう微かな甘みが好きなんですよね」
カップに注がれた澄んだ赤みがかった黄色を眺めて、ゆっくりと香りを楽しむ。
微かに花のような甘い香りが紅茶独特の深い香りに包まれる。
「ん」
ゆっくりと口に含み、砂糖ともはちみつとも違う舌をくすぐるような甘みと、喉に抜けるような渋みを感じる。
「そこそこね」
「いつも そういうね」
その言葉に“ナード”は苦笑を浮かべている。
「まぁ、私は余分な箇所が多いので」
「……」
私の言葉に“ナード”がデフォルトの表情している。
“ナード”が特に顕著なのだが複雑な感情を表現することができず、まれにデフォルトの感情が抜け落ちた顔をすることがある。
私を除けば表情が豊かなのは“ディープスロート”で逆にそのような感情があまり浮かばないように制限が欠けられたのが“ウォーモンガー”だ。
「できるようになる、ということは幸いですよ」
「本当?」
「ええ、成長を実感できますので」
その頃には“ナード”もお茶を飲み終えていたので片付けを始める。
すると“ナード”が――
「次 なにすればいい?」
「いつものように情報収集をお願い致します。」
「了解」
その返事を聞き届けて洗い物を始めようとすると――
「“リーパー”ちょっといいかい?」
と調整が終わった“ウォーモンガー”が来た。
その両手は鈍く光る赤い金属で作られており、手の平の真ん中あたりに何かを発射するような穴が開いている。
「なんですか? “ウォーモンガー”」
まぁ、内容は何となく予想がつきますがあえて先を促す。
するとどこか頼み込むような調子で――
「あたしをもっと強くしてくれ」
「稽古をつけろ、と?」
その言葉に“ウォーモンガー”ははっきりとうなずいた。
「あそこまでおぜん立てされて押しきれなかった、となるとあたしはもうあいつらに勝てない――」
だが。
と悔しそうに漏らしながら。
「勝ちたい、勝つことをあきらめたくねーんだ」
とはっきりと望みを口に出した。
その言葉に思わず口角が上がる。
「その言葉を待っていました」
「はぁ?」
困惑する“ウォーモンガー”に向き直りはっきりと伝える。
「勝ちたい、その欲求がなかったので言わなかったですが、“ウォーモンガー”あなたはもっと強くなれます、改造も挟まずにね」
「本当か?」
「ええ、あなたはまだ自身のポテンシャルをすべて発揮できていません」
その言葉に“ウォーモンガー”は無邪気ともいえるほどの笑顔を浮かべていました。
明日も頑張ります。




