4月7日-1
すいません。
明日も4月7日を投稿することにします。
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静かな空気の中、目を伏せてただじっと待っている。
今日は激戦になるというのが理解できるからだ。
昨夜のうちに二人とも神戸市に移動済みだ。
「今日はおそらく今までのクリーチャーとは次元が違うでしょう」
「ああ、航空機事故を起こそうとした奴には相性が良かったから勝てたようなものだ」
そして理解できたことはそれほど多くはないが大切なことは――
「俺、頑丈すぎだろ」
「ふっふっふ、感謝してくださいよ、次の手も打ってありますからね」
若干自慢げな顔で淡雪が答えてくる。
そのことに少し肩の力が抜ける。
「で、その次の手は?」
「攻撃が全く通らなかったので、少し調整しました」
と言いながらレンズが現れ、そこに一本の剣が映る。
大きな変化はないように見えるが――
「まず中途半端な火力は意味がないことが分かりましたので、絶対ダメージを与えられるようにしました」
「具体的には?」
「内蔵型の遠隔武器は外しました、代わりに近接武器を強化しました」
見たところと大きな変化はない。
そのことに不信感を持って淡雪を見ると――
「外見に大きな差はありませんが、今まではあくまで頑丈な材質で作られた剣でしたが、こちらはそれとは次元が違います」
「例えば?」
「なんでも切れるようにありえないほど鋭くなってます」
「? 鋭くなったからなんでも斬れるわけじゃないだろう?」
なんでも切れるといったらそれこそレーザーなどを思い浮かべる。
が、それを否定してくる。
「レーザーは相手を蒸発させたり焼き切ることで切断しています、つまり相手の物質によって通用しない場合があります、ですがそれこそ相手の原子間の結合を切れるほど鋭いならば原理上は相手の材質にかかわらず切断できます」
「えらく脳筋の武器だな」
「シンプルなものほど修理も楽ですし」
いまいち釈然としないが、そういうものかと納得する。
「切断力が上がった代わりに、使用可能な時間が激減しました、具体的には三秒です」
「え? なぜだ?」
「簡単にいえば酸化――つまり錆ですね、それが発生して切れ味は急激に落ちてそれで物を切断しようとするなら割れてしまいます」
「防止方法は?」
そこでお手上げ、とでも言いそうなポーズをとって。
「難しいですね、コーティングをすればその厚みがネックに、材質に手を加えたら物性に問題が出ます」
そこで。
と淡雪は言葉をつなげてくる。
レンズに映る映像に鞘のようなものが追加されている。
「錆は研げば落ちます、なので自動で研ぎなおす機能を付けた鞘を追加します」
「つまり一回斬るごとに鞘に納める、と」
「そうなります、同時に刀身の結晶構造の再構成を行います、普通に斬っただけなら五秒で研ぎなおします」
「根元から折れたら?」
「一分は覚悟してください」
あっさり言うが一分一切何の武器もないというのは割と致命的――
「じゃないな、ものすごく頑丈だからしのぐだけなら難しくない、気がする」
そうと決まれば、覚悟を決めるだけだ。
と、それを読んだようにどこからともなく何度も聞いたあの声が聞こえる。
「新元号は平成に閣議決定しました」
と、淡雪の顔色がおかしい。
まさかと思い問いかける。
「場所は――二か所です、一つは私たちが昨日までいた街、もう一つは……首都圏です」
「は!? なんだってそんな……」
「……あの街は立て続けにクリーチャーが狙ってきていました、災害クラスの大物も狙ってきたのでしょうね」
悪態をつきながら視線を向ける。
「山上さんは地元に行ってください、確実に大物はそっちにいます、首都圏のほうは――私が当たります」
「たのむ」
祈るような気持ちで空へ飛びあがった。
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どれほどのスピードを出したかもわからないくらい急いで街に戻ってきた。
胸中では、裏をかかれたという苦い思いが満ちている。
見慣れた町は横揺れを受けてグラグラと揺れている。
が、大きな被害はまだ出ていないように見える。
記憶が正しいなら地震は横揺れと縦揺れの二種類があり。
強烈な揺れは縦揺れであり、そちらの方が遅い。
「いたっ!!」
街の中心部あたりに見覚えのない何らかの実が鈴なりになっている大きな木が生えている。
ビルと肩を並べるほどの大きさだ、明らかにあれだろう。
「先手必勝!!」
そのまま加速して、全力でキックする。
動けない相手ならば全身全霊のキックが大きな効果を発揮したのだ。
「よし!!」
幹半分を粉砕するように大穴を開けることができた。
そこで地響きのような音を立てて幹に醜悪な顔が浮かび、叫んだ。
「ォォオオオオ!!」
と、何事かしようとするが――
「させない!!」
新しい武装の柄に手をかけ、飛び込み。
居合を行うように抜き打ち、一閃させる。
と、抵抗を感じるようなことなくあっさり両断された。
「これでおわり、あっけな――」
といったところで顔が笑みを浮かべた気がする。
両断され地面に倒れるその瞬間、果実のようなものがばらまかれる。
そのうちいくつかが目の前にふってきて。
「かじあいいかかじあじじゃいきあいあじゃいああ!!」
「あちちいああいhりrひあいりりりあいあいあいあちちちち!!」
と意味の分からないことを喚く燃える人型になった。
そこで思い出す。
地震の被害は建物の倒壊による死亡より、火事によって死んだ人間の方が多いということを思い出す。
「これは、まずいかな」
つかみかかってくるので全力で殴ったら消し炭を踏むように簡単に砕くことができた。
強くはない。
しかし数が数だ。
「それも街中にばらまかれている」
手が足りない。
このままではばらまかれたかなりの数の人型の火によってたくさんの人が殺される。
「やるしかないか」
つぶやいて、大本の木が崩れていくのを確認して空へと飛び出した。
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まずは空を飛んでいる発火する種――火種を破壊するために近づいたところで。
「あちゃあやっややたやちゃ!!」
「いたたたたいあたたたちいいいいい!!」
二つが割れて、くっついた。
大きさは変わった様子はないので、いやな予感がするが殴る。
案の定それでは破壊できなかった。
心の中で舌打ちし、鞘から抜き打ちで切り払った。
視界の隅でカウントダウンが始まる。
それを眺めながら、全力で飛び込む。
「二つ!! 三つ!!」
雑に振ると割れる。
という警告は受けていたのでそこで限度だった。
「くっ!!」
ゼロになる前に鞘に納める。
ほとんど破壊することができずに地面に落ちてしまった。
しかし、あきらめず目の前の火種に上空から踏み潰すようにして破壊する。
「さて、どうしよ――と、これはいいな」
飛んで行った火種の方向と高さからどのあたりに落ちたのかを示したマップが映される。
そして、最短ルートを割りだして次々線を引いていく。
「よし!! やるだけやろう」
今は余計なことを考えず目の前のことに集中することにした。
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マップの指示に従って火をつけている化け物を破壊し、延焼部分を物理的に破壊することでそれ以上の被害を防ぐ。
もうすでに火傷を負っている人もいるが、命に別状はない。と思う。
「消防も出動できていない、と」
見ると道路は異様なほど破壊されている。
何らかの悪意が働いていると思えるほどだ。
「あと少し!!」
火事を気にせず火事現場に飛び込めるというのは人命救助を行う要員としてはかなりありがたい能力だ。
あと建材ならそれこそ横壁を抜くのは一撃で済むし、センサー類のおかげで要救助者の取りこぼしも、破壊して抜ける場所も迷う必要がない。
幸いなことに、火種たちは直接抱き着くようなことして焼死させるのは行っていない。
火事で焼き殺すことを行うつもりなのだろう。
「ここは――」
記された最後の場所、そこは幸次さんの家だった。
かなり燃え始めている。
慌てて中に飛び込むと、そこは今の椅子にただ座っている幸次さんがいた。
よく見るとやつれており、直感で気づく。
「あれ以来ほとんど何も食べてない!?」
そこまで色つやの良かった人ではないが、明らかに憔悴している。
思わず声をかけてしまう。
「こ、幸次さん!!」
力なく揺れるような動きで幸次さんはこちらを見る。
するといつものように――周りが燃えているのなんて気にもせず。
「奥谷か、どうした、何か困ったことでもあったのか?」
と話しかけてきた。
そのあまりにも異様な様子に幸次さんの手を取り。
「いいから外へ!!」
「ああ、いいよ、どうせおれは死んでもいいような男だし」
抵抗することもないが、積極的に助かろうともしていない。
明らかにおかしい。
「それにおれが死ねばお前に保険金が下りるように手配してるから心配するな」
どこかで何かが絶対におかしい理論を口にしている。
だから、外に連れ出して一方的に告げる。
きっと今言わねばならないことだ。
「何があったのか、今までの幸次さんの人生は詳しくは知らない、でも俺は幸次さんに感謝してる、生きてほしいって思ってる」
「いいや、俺は奥谷のためなら死んでもいい人間なんだよ」
「なぜ!?」
ボロボロと涙をこぼしながら、語り始める。
「おれは昔はできることはそこそこあったが、やりたいことが全くなかった」
だから、
とつないで心が抜け落ちた口調で続ける。
「ただ無為に時間をつぶしていた、義務教育終了後、そのあとどんな仕事をやっても手につかずいつの間にかやめていた」
自嘲気味に吐き出した。
「いつしか仕事をやることもなくなっていたよ、いてもいなくてもいい人間だった」
その後とても尊いものを見つけたように声を絞り出した。
「そうした後、姉に子供が生まれた、奥谷お前だよ」
「俺が生まれた……」
「引きこもっていたおれの部屋に戸をぶち破るようにして乗り込んできて、奥谷を見せてきた」
何かを抱き上げるような仕草をする。
「何をしてもいいかわからないおれに笑ってくれてな」
そこでいったん言葉を切り。
「生きよう、できることをやって生きよう、とそう思えた」
「じゃあなんで、こんな……」
ゆっくりとこちらろ見ながら。
「本当は俺が死ぬはずだったんだよ」
「え?」
「奥谷、お前の両親が事故で死んだのは知っているな」
「その、祖父母を迎えに行ってその帰りでいきなりブレーキが壊れてそのまま……」
何かを思い出すようにゆっくりと話す。
ゆっくりうなずく。
あまり触れられたくない話題だが、幸次さんも関係者だ。
「その車に乗るはずだったのは俺だった」
「え?」
「俺が迎えに行くはずだったが、その日は姉夫婦が迎えに行った」
「それは……」
幸次さんの肩に手を置いて。
「でも、俺は幸次さんに育ててもらった」
「罪滅ぼしだよ、俺の生きる目的はお前のためだ、そして……もうおまえは離れるのだろう? だったら俺の生きる理由なんて――」
そこで今まで言えなかった言葉が噴出する。
「俺はまだ出てくって決めてない!!」
「それは……」
そこで今までとはレベルが違う大きさの燃える大きさの化け物が現れた。
三階建ての建物くらいの大きさだ。
「帰ってから、たっぷり話をしよう」
「そう、だな」
鞘に納められたまま、居合のように構える。
燃えたまま、ニィと笑った気がする。
が、一歩踏み込む。
それを挑発と受け取ったのか、何事か喚いて手を叩きつけてくる。
「っははいひいひあひいひひひひいいいいいあいあいぃぃ!!」
ゲラゲラ笑っているのが聞こえる。
それを無視して、剣を抜いて斬り飛ばす。
「あつあいいつおいぃぃぃぁいいいいいい!!」
そのまま大きく飛んで、頭から真っ二つにする。
幸次さんの方に向いて。
「少し早いけど、ただいま、幸次さん」
少しバツが悪い響きが入っていたのかもしれない。
それに対する幸次さんも少し恥ずかしそうに。
「おかえり、奥谷」
といって互いに握手をした。
なんとか実際の日に追い付けるよう頑張ります。