4月17日-7
間に合いました。
「ににききにきいににんsjsぬjmにっき――」
JR職員の制服によく似た服を着た化け物を斬り捨てる。
場所はたくさんの人が乗った電車の運転席。
前面窓ごと首から上を切り落とした。
「運転手は!!」
「かろうじて生きています」
化け物の足元にひどく殴られた運転士が倒れている。
淡雪の話では生きているのようで胸をなでおろす。
化け物は設定された速度を大幅に超えた速度でカーブに突入させて脱線させるつもりだったようだ。
今ブレーキをかけても間に合わない。
視線を淡雪に向けると深くうなずいた。
「ナビ頼む!!」
「はい」
外に飛び出した。
同時にブレーキがかけられた。
視界に示されたマーカーに従って急いで配置につく。
急激にスピードが落ちるがそれでも早すぎて、片輪が浮かんだ。
「さすがピッタリ!!」
浮いたなら接地させればいい。
全力で車体を押す。
脳筋過ぎる方法だが凝ったことなどできる時間がない。
移動して押さえる必要がある場所が目まぐるしく変わり、化け物を斬るより大変な作業になっている。
「よし!! おわり!!」
あわただしい時間はすぐに過ぎ去って、電車は急カーブを抜けることができた。
降りて休みたいがいつ他の電車が来るかわからないので去って行った電車を追いかけることにした。
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着いたホームで鉄道警察のお世話になっている。
相手からしたら暴走した電車に乗り込んできた不審な人間なので仕方がない。
逃げるつもりがないことを主張しながらだったので比較的穏便に駅員室に連れていかれた。
しばらくすると電話――おそらく青木さんから電話が入って疑いが晴れたみたいで開放された。
解放の手回しをしてくれた青木さんにお礼の電話を入れる。
「いつもすいません青木さん」
「いやぁ、いいよ、化け物との戦い全部投げちゃってるようなものだし」
口調自体は軽薄だが俺たちの事を気にかけてくれているのは確かだと思う。
「さて、早速色々話してもいいかな? 色々出来事重なっちゃったせいで話さなきゃいけないこと話せてないし」
「お願いします」
そこで聞きなれた腹の虫が鳴る。
音の主は――
「すいません」
恥ずかしそうにしている。
「その、ご飯食べに行ってもいいですか?」
しまらない空気に青木さんは苦笑と共に快諾してくれた。
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というわけで軽食を探していたのだが――
「……付き合い始めての最初の料理がこれとはね」
目の前には山盛りまではいかないまでも結構な量のたこ焼き――明石焼きが積まれている。
見た目的には(このあたりの高校の物出ないことに目をつぶれば)制服でデートをしている高校生に見えるだろう。
何気なくたこ焼き呼びで頼んだら店主からキツイ視線を向けられたのは少しだけヒヤッとした。
そのあと中身が入ってない左袖(見せて街中あるくには物々しいので)見たら少しだけいたたまれない顔を向けてくれたので良い人なのだと思う。
「さすが名物ですね、アツアツでトロッとした生地としっかりとしたタコ、それに合わせられたダシがたまらないですね」
ただでさえ目立つ二人なのに、みるみるうちに消費される大量の明石焼きのせいでかなり目を引いてしまっていることに頭を抱える。
が、悩んでも仕方がない事なので改めて青木さんに連絡を取る。
「ようやくひと段落しました」
「はいはい、で話の続きなんだけど、少し前に有った津波あるよね?」
「あ、はい、戦いづらかったですね」
電話の向こうで少し引いたのか少し詰まったように話を続ける。
「膝上まで来た津波の中でその反応は流石にびっくりするね」
ともかく。
とつなぐ言葉を言ってから。
「あの津波の正体はおそらくチリ地震だね」
「チリ地震?」
世界地図をおもい浮かべてチリの場所を思い出す。
と――
「え? 地球のほぼ裏側ですよね?」
「うん、そう」
軽い口調でとんでもないことを続けていった。
「観測史上最大のマグニチュード九.五、エネルギーは阪神淡路大震災の千倍を楽々超える大地震、1960年にチリで起きた地震だよ」
「え? 阪神淡路大震災の千倍以上ですか!?」
「そうだよ、日本が太平洋側ほとんどに津波が来たことなんてそれくらいしかないんだよね、東日本の地震を抜いたら」
思わず言葉に詰まってしまう。
そこで思い出すのは年だ。
「あれ? 1960年って――」
「そう昭和三十五年の地震だね」
ということは――
「昭和も再現されていた」
「そうだね、伊勢湾台風にチリ地震、ここまで来たら疑いようがないね」
何かに殴られたように頭がふらふらする。
そして空を見上げる。
「あー、まずいなぁ」
「だねぇ」
平成だけだと思っていたらまさかの話に頭の中が真っ白になる。
このまま後手に回り続けるとまずいだろう。
「はやく潜伏場所を見つけないと……」
「そっちも警察が本気でやってるから焦るのはよくないねぇ」
言われてそこで一つ深呼吸をする。
「落ち着いたら家に帰りなよ、動きっぱなしでもう疲れたでしょ、パフォーマンスを維持するために休むのも仕事だよ」
「わかりました」
電話の向こうで青木さんが満足げにうなずいた気がする。
「じゃね、ちゃんと休みなよ」
という気軽な返事で電話が切られた。
「さて、頑張ろうか……」
頭の中でやるべきことが大量に浮かぶが、何よりも大切なのは――
「淡雪、そろそろ帰ろうか」
といって手を差し出す。
「あ、そうですね」
と明石焼きを食べ終えた淡雪が俺の手を取り家路についた。
明日も頑張ります。




