Apr. 17 2019-3
何とか間に合いました。
「戻りました」
一時的な拠点に戻りました。
すると先に帰ってきていた“ブラックスミス”がリビングで橘君の調整をしています。
「その様子ですよ首尾よくいけたようですね」
「まーねー」
ぐったりとうなだれている橘君は体中傷だらけだ。
特に四肢の損傷がひどい、何度も破壊と結合を行ったため黒ずんでいる。
「片棒をかついだ私が言うのもなんですが、大丈夫なんですか? 彼?」
「あれ? 今さら心配するの?」
不思議そうな顔で聞かれたので、小さく首を横に振り。
「いえ、五月までもつかどうかという意味ですが」
「ああ、それなら大丈夫、もたせるから」
と言いつつ力なく投げ出されている足に触り何かを診断しながら――
「これ膝から先を交換した方が良いね、折って直してってやってるから結構ボロボロ、あとこれ」
といいながら立ち上がり、情報端末を放ってくる。
受け取って中身を見ると――
「脳の働きが大分落ちていますね、大急ぎで手を加えたのはまずかったのでしょうか?」
「あー、どっちかというとさっきの交換の話なんだけど、折れた痛みをごまかすために色々やったんだけどそのせいで脳の劣化が早くてさ」
「あー、なるほどじゃあ変形する足に交換するのです?」
顎に手を当ててしばらく思案していますが――
「どうせなら色々入れ替えたいかなー、山上君の装甲対策した武器とか今の状態だと持てないしなー」
「取り合えず計画だけ出しておいてもらえますか? “ディープスロート”に掛け合わないとどうしよもない部分もありますし」
ですがとりあえず四肢の交換はすすめた方が後ほど良いだろうと思うので――
「手足の交換はすすめてしまってもいいですよ」
「あれ? 腕もいいんだ」
「肩から先も交換した方がいいでしょう?」
そこで相手はうなずいて。
「オッケー、早めにやっておく」
特にすることもないので夕食を作ることにする。
実は昼前から準備をしていたので少しだけワクワクしている。
髪をアップにして、青と白のチェックのエプロンを着る。
「“ナード”と“ディープスロート”は機能を上限まで使った反動でスリープ中、“ウォーモンガー”は普通に寝てますし、三人分ですね」
冷蔵庫からベーコン、玉ねぎ、そして地元で取れた竹の子を取り出す。
竹の子はすでに下準備が終わっているので後はカットするだけだ。
「ところで“リーパー”?」
玉ねぎを軽くすすいで皮をむき、カットしやすい状態に持っていく。
「なんですか? “ブラックスミス”?」
玉ねぎは少し厚めにスライスし、オリーブオイルを加えたフライパンでいため始める。
隙を見てベーコンは大きめに角切りにしていく。
「昼の戦いなんだけどさ……」
軽く塩コショウを振り、ベーコンもフライパンに投入する。
パチパチと軽く油がはじける音と香ばしい香りが湧きたつ。
「うまくいったのでしょう?」
下ごしらえ済みの竹の子を薄めにスライスしていく。
厚いと竹の子独特の食感が面白いがその分熱の伝わり方が悪くなるので、気持ち薄めだ。
「うまくいきすぎってこと」
「はい?」
炒めながら予熱したオーブンにパイ生地を敷いたパイ皿を入れて軽く加熱する。
「津波で足を止めて襲撃する、ここまではわかる、でも――」
“ブラックスミス”は少し興奮しながら話をしてくる。
返事をしたいが結構料理で手いっぱいなのでうまい返しができない。
“ブラックスミス”の話を聞きながら、冷蔵庫から生クリームと卵を合わせたキッシュのフィリングを取り出す。
「告白まで当てた」
一旦取り出したパイ皿に炒めた玉ねぎ・ベーコン・竹の子を投入し、フィリングを注ぎ込む。
最後にチーズを気持ち多目にのせてオーブンで本格的に焼き始める。
「未来でも見えていたみたいに……」
「未来は見えていないですね、でも私は色々知っていますから」
クスリと笑って、エプロンを外す。
「あと、なんで最後は攻撃を緩めるよう指示を出していたの?」
不信の色が強い目を向けてくる。
だからまずは訂正をする。
「私はみなさんを裏切ることはないです、そのことは理解していますね?」
「うん」
素直にうなずいてくれたので続ける。
「いまこの時に二人のうちどちらかを殺すわけにはいかなかった」
口の端に残酷とも取れるような笑みが浮かんでいるのが自分でもわかる。
「絆は深ければ深いほど、断たれた時の絶望は深いのです」
「……」
“ブラックスミス”は押し黙っている。
私の状況に引いているのと、観察しているの半分ずつ程だろう。
「そして、障害――この場合は不信の種をばらまいた敵である“ブラックスミス”と、もしかしたらそうなったかもしれない結果である橘君ですね」
「反発したってこと?」
うなずく。
「ええ、元々思いは向けあっていた、あとはきっかけです」
ここでオーブンから焼きあがったことを示す音が鳴る。
「ああ、そうです、今さらですけど山上君と淡雪はちゃんとクリーチャーの方に行きましたか?」
「最後までは見ていないけど、急いで飛び立ったから行ったと思う、それにしてもそこまで観察させなかった理由ってなに?」
「結果なんて見なくてもわかりますから、そもそも呼び出した場所も“ブラックスミス”が撤退した後大急ぎで向かえばギリギリ間に合う距離を選んだので」
オーブンから取り出して、鍋敷きの上に一旦置いた。
「一体どんな目的でそうやったのかは知らないけど――」
視線は焼きあがったばかりのキッシュからそらしていないので、苦笑しながら一切れ分カットして用意していた紙ナプキンでつかみブラックスミスに差し出す。
私の意図に気付いたのか少しだけ恥ずかしそうに口を開けて――
「はい、あーん」
観念したのか一口食べた。
「これは……おいしい!!」
言いかけていたことが吹き飛んだ様子に苦笑が強くなる。
ついで私もキッシュを食べる。
まず感じたのは玉ねぎとベーコンの油の甘みだ。
そして舌を塩コショウが刺激する。
ついでまろやかなフィリングの味わいが来た。
噛むと竹の子とパイのぞれぞれ違う食感がうれしい。
「まぁ、それなりですね」
その言葉に“ブラックスミス”は呆れたような目を向けてきた。
「向上心が旺盛だね」
「ふふ、料理の腕やればやるほど上がりますからね」
「おいしいものを食べさせてもらってる僕からはもう何もないね」
とキッチンから手ごろな食器類を取りに向かったようだ。
冷蔵庫の野菜類を使ったサラダのレシピを考えながら、思い出すのは“ブラックスミス”が最後まで言わなかった質問への答えだ。
「山上君と淡雪の関係が我々の目的にとても大切な要素になっていますから」
クスリ。
と小さく笑い。
「頼みましたよ、私の妹、命短し恋せよ乙女の言葉通りにね」
明日も頑張ります。




