4月17日-6
間に合いました。
津波が押し寄せて全く身動きができなくなる。
聞いた知識でしかないが、人間は膝くらいまで水が来たら行動はほぼ不可能になるそうだ。
事実強化外骨格のパワーでも自由自在とは程遠いすり足をするような動きしかできない。
「くっ!!」
「山上ぃ!!」
橘が飛び掛かってくる。
その姿は獣じみている。
抑え込まれたら津波に押し流されてどうなるかわからない。
「こうなったら!!」
鞘で突くようにして叩き落とす。
首尾よくできた。
弾かれた橘は猫のように身をひるがえし四つ足で着地して、水をかき分けるようにして走ってくる。
「そうか!! 重心を低くすれば力任せに行動できるのか」
言葉にすれば単純だが、普通はできない。
着ているからわかるが鎧は可動域が決まっている、つまり立っている状態で着ている鎧は獣のような格好で走り回るようには作られていない。
その上、機械の力で動かしているのだ、人が獣の動きをしようとすするとどこかしら無理がかかる。
つまり鎧に体を破壊される。
「なんでだ!?」
すると控え気味に淡雪が返事をする。
「おそらく痛覚を無視させています」
「は!?」
なんどこの叫びをしたのかもう忘れてしまったが、その言葉は衝撃的だった。
そのことを気にせず淡雪は続ける。
「中の人間ごと変形しています、なんてひどい……」
すると、上空から様子を見ていたブラックスミスが笑いながら――
「あっはっは、そういう淡雪はさぁ、山上君の中身をどうしたのかな? 一度も壊されてない場所なんてないでしょ? そのたびにナニでつないでるのかなぁ」
ここで思い出したように戦車についているような大砲で撃ちおろしてきた。
その砲撃をしのぎながら淡雪の表情が曇る。
少し前なら素直に言えた言葉がなぜか言えない。
調整を受けたときに、色々されたのは何となく理解していたが――
「殺す!! 殺してやる!!」
以前の面影もないほど手を入れられた例を見せられると戸惑いが生じてしまう。
今こうして戦っていることへの疑問が浮かび掛ける。
が、その思いを無理やり抑え込み。
「どうすれば……」
目の前のことに集中する。
その時だ――
「新元号は平成に閣議決定しました」
「最悪だ!!」
思わず叫んでしまう。
起きてほしくないことが起きてしまった。
切り忘れていた電話の向こうで慌てた様子の青木さんが話かけてくる。
「何が起きた!!」
「ノスタルジストの化け物が新たに現れました」
舌打ちが聞こえる。
「津波にさらに追い打ちがかかるとか――」
そこで相手が一つ深呼吸をする。
「状況を整理しようか」
いつもの口調に戻った。
どうやら普段のあれは素ではなく演技をしていたようだ。
ブラックスミスが乱射する砲弾でそこかしこに水しぶきが上がる。
「まず良かった探しは津波の被害は多分大丈夫」
その水しぶきを抜けるようにして橘が大型の肉食獣じみた動きで飛び掛かってくる。
「なぜ?」
余裕がないので言葉少なに返してしまう。
橘の鼻先を抑えるようにして受ける。
「東日本大震災の対策済み、多分受けきれる」
思わずバランスを崩しかける。
「だから対処が必要なのは新しく出た化け物の方だねぇ」
宙に浮きバランスを取ろうとする。
「じゃぁ、目の前の二人を何とか――」
ブラックスミスからの砲撃で出ばなをくじかれる。
「くっ!!」
押し倒された
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膨大な量の水は暴力だ。
為すすべなく押し流され、上下左右すらもわからなくなる。
水量はそれこそ膝を少し超えた程度だが、それでも抵抗することは不可能だ。
と――
「山上さん!!」
不意に引き起こされる。
助けてくれたのは淡雪だ。
金属球を傘のように変形させて砲撃をやり過ごしながら手を伸ばしてくれたらしい。
その表情は心の底から安心したように柔らかくなる。
「預ける」
そんな言葉が口から洩れた。
「え? なんと言いました?」
「俺の心を淡雪に預けるよ」
どんなことをされていたか断定もできないし、どこからどこまでが俺の想いなのかはわからない。
だが、淡雪はいつも俺を助けようとしてくれた。
だから、心を預ける。
そう決めた。
いじくられた可能性は否定できない。
でも俺に精一杯のことをしてくれていたのだ。
何より思い出すのは最初の夜だ。
あの夜俺は――
「一目ぼれだ」
「は――」
一呼吸だけおいて淡雪の顔が朱に染まる。
考えてみればはっきりと言葉や思いを向けたことはなかった。
たしかに作られた恋心かもしれない。
だからなんだ?
「いまさらなんだと言われるが――」
手を引き抱きしめる寸前で止める。
「好きだ、付き合ってくれ、淡雪」
「え、と、その――」
一瞬目線をそらし、
こちらをはっきりと見て。
「はい!!」
といって抱きついてきた。
だから抱きしめた。
するとブラックスミスの声が聞こえる。
「いやぁ、この状況で告白はびっくりしたね」
忘れていたが今は窮地に立たされていたのだった。
なぜか橘もブラックスミスも攻撃を控えていた。
探すと橘はこちらを警戒するように遠巻きに見ていた。
ブラックスミスはこちらを狙っていたが攻撃を仕掛けてこなかった。
明らかに不自然だ。
だが、ブラックスミスは満足げに一つ笑った後。
「これ以上はそろそろ反撃されそうだから帰るね」
「首を洗って待っていろよ、山上!!」
と煙幕らしきものを焚かれて完全に視界がふさがれる。
晴れたら二人はその場にいなかった。
いつの間にか津波は完全に去っていた。
安全そうだと思ったので武装を解く。
「よし、とにかく現れた化け物を何とかしに行こう」
と思考を切り替える。
脇にいる淡雪も確かにうなずいて。
「ええ、急ぎましょう」
ふと気づけばいつも以上に近づいていたことがわかる。
少し照れるが手を差し出す。
それに気づいた淡雪が手を取った。
少しひんやりとして滑らかな感触だ。
そしてなにより握れば壊れそうなほど華奢なことに驚く。
実際はこっちの手が砕けるだろうが。
「山上さんの手って結構大きいですね」
少しだけ嬉しそうに淡雪はつぶやいた。
「じゃあ、行こう」
手をつなぎ、そして武装し淡雪を抱き上げて――
「進路は私が指示します!!」
飛び立った。
明日も頑張ります。




