4月17日-5
何とか間に合いました。
「山上ぃ!!」
仇を見つけたように怨嗟に満ちた雄たけびを上げながら強化外骨格を着た橘が襲い掛かってくる。
両腕の先から三本ずつかぎ爪がいつの間にか伸びている。
「くっ!!」
こちらも武装して剣を抜こうとして、思いとどまりそのまま受ける。
受けた場所から金属をひっかくような甲高い音が連続して聞こえる。
しかしこちらには一切傷がつかない。
「この!! この!!」
しかし橘は何度も何度も殴りかかってくる。
色々あったがここまで恨まれていた覚えはないし、敵としか思われず攻撃され続けるのは流石にうろたえてしまう。
「な、んでだ!?」
叫んで両手をつかみとめる。
が、腕力は向こうの方がわずかに上なのかそのままジリジリと押し込まれる。
「なんでだと!! 安逹を殺しただろ!!」
「それは……」
言葉に詰まってしまう。
安逹、という人物が誰なのかは全く思い出せない。
しかしそれとは別に橘の大切な人間に一太刀浴びせた記憶はある。
たしかにそれはこれくらい恨まれるかもしれないが一つ疑問がある。
「じゃあ、なんでその連中と一緒にいるんだ!! 殺したのはそっちの連中だぞ!!」
叫んだ。
記憶が正しいなら首を斬り落とし殺したのはノスタルジストの方のはずなのだ。
「はぁ!! お前が殺したんだろ」
話が通じない。
違和感を覚えるがそれを整理する時間はない。
「く!!」
蹴って距離を取る。
するとキリスト教での祈りを行うように両手を合わせる。
そこを中心に強い光が集まり。
「しねぇぇ!!」
発射された。
とっさに切り捨てた。
すると二つに分かれた光る球体が爆発した。
「淡雪!!」
「いま、ハッキングしてますが、なんでこんなに防壁が多い」
と言いつつせわしなく操作をしている。
が、かなり周到に用意されていたようでハッキングがなかなか進んでいない様子だ。
「殺してやる!!」
元の面影なないほど殺意に満ちた口調で橘が襲い掛かってくる。
そこでふとあることに思い当たる。
「洗脳……」
「ご名答、頭の中身をちょっとね」
ブラックスミスは軽い口調でとんでもないことを言い出した。
「おまえら、なんてことを……」
二の句がr告げずにいると、相変わらずの様子でブラックスミスが話を続ける。
「あれ? 君がそれいうんだ、君も頭の中身いじられてるのに」
「嘘だ!!」
叫んで体当たりをして橘を弾き飛ばす。
その隙にブラックスミスに肉薄し襟首をつかもうとして――
「ううん、うそじゃないって」
言いながらどこからともなく人の背丈ほどもある銃器を取り出して撃ってきた。
装甲で簡単にはじけたが、撃った反動でブラックスミスが距離を取った。
追いかけようとしてまた橘に捕まった。
「山上君だっけ? 君はどうして戦闘技術を持ってるのかな?」
「淡雪にダウンロードしてもらったんだよ!!」
思い出すのはもう二週間ほど前の話だ。
この強化外骨格に調整してもらい、その時ついでに色々ダウンロードしてもらった。
「でさー、命のやり取りで怯んでないよね、なんで?」
「なんでって、そりゃ必死だか――」
そこで思わずという様子でブラックスミスは吹きだした。
[あははは!! 君さぁ少し前まで一般人だよね肝が据わりすぎだよ、いったいどれだけの一般人が命のやり取りをすぐに納得できるのかな?」
「そ、れは……」
言うべき言葉が思い当たらない。
考えてみれば確かにおかしい。
視線は淡雪に向いてしまい――
「正直言っちゃえば? 面倒なことが起きないように頭の中をいじりましたって」
淡雪は言葉を吟味するようにしばらく押し黙り。
はっきり頷いた。
「言い訳はしません、恐怖を中心に調整をしました」
「ぁ……」
なんて言葉をかければいいかわからずに途方に暮れる。
するとブラックスミスがさらにたたみかけてくる。
「さて、山上君、君の想いは本物?」
「そ、れは……」
淡雪に向けていた好きだという感情の土台が崩されたような感覚がする。
足から力が抜けて崩れ落ちそうになる。
淡雪のために何かをしたいという感情は――
「手伝わせるために作った感情かもしれないね」
淡雪が反論する。
「私は、そんなこと――」
「ああ、言えないからね、好意を抱かせているから自分の言葉を信じると踏んでね」
いきなりすぎる話に頭がなかなか回らない。
頭がくらくらして誰をどう信じて、声をかければいいのかがわからない。
思いは淡雪を擁護したいが、そのように判断する恋心も淡雪がそのように仕向けたかもしれないというのだ。
だから思わず口から出た言葉は――
「淡雪……」
「なんでしょうか、山上さん」
俺の視線はブレて力ないだろうというのはわかるし、淡雪もまた視線を少しそらしている。
「否定してくれ、信じるから」
自分でも驚くほど力がこもっていないすがるような声だった。
「できません」
それに対する淡雪の言葉は否定だった。
そしてそこでブラックスミスが言葉を発する。
「そろそろかな」
と言いながら宙に浮かんだ。
同時に一本の電話が入る。
ほとんど条件反射で電話を取ると相手は青木さんだ。
「二人とも今どこさ!? まさか海岸じゃないよね!?」
「海岸ですけど――」
と、一層慌てて張り詰めた声で続ける。
「太平洋側!?」
「はい、太平洋側で――」
と今まで聞いたことがないほど真剣な声で叫んだ。
「今すぐ逃げろ!!」
同時に海から地鳴りのような重低音が聞こえる。
そちらを見ると水平線ずっとに白い線が見える。
普通の波とは明らかにちがい本能的にとてつもなく危険な現象だと思う。
飛び上がろうとしたら橘が組み付いてきた。
淡雪の方は空にいるブラックスミスが牽制の銃弾を浴びせている。
白い線は猛スピードで近づいてきて、ある程度まで近づいたら判明した。
水平線いっぱいの超幅広の波。
――津波だ。
「な、んで!?」
立て続けに出来事が発生し、目まぐるしく現状が変わっていきいら立つようなつぶやきが漏れてしまう。
津波が海岸に到達しみるみる水かさを増したちまち身動きが取れなくなる。
その状態で上空から爆撃でもするようにブラックスミスが攻撃を仕掛けてくる。
「一体なにが、どうなってるんだ!?」
明日も頑張ります。




