4月5日
そろそろ毎回ギリギリで書き上げるのを何とかしたいです。
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幸次さんが倒れた後、部屋のベッドに寝かせて、何をしても手がつかず。
とりあえず夕食と入浴まですませたが手持無沙汰だ。
流されるニュースをとりとめなく眺めている。
その中には様々な国家間で軍事的な緊張が高まり、小さな国の間とはいえ紛争が頻発しているという物騒なニュースが増えているように思える。
「変な具合だな」
ポツリと言ってふと時計を見ると、もう零時を過ぎていた。
すっかり夜型になってきていることに苦い笑いを得る。
「幸次さんには悪いことをしてしまっているな……」
すっかり心配をかけさせてしまった。という後悔がやってくる。
謝ればいいのかもしれないが、それでも淡雪を手伝いたいと思っているのは確かなために口先だけで謝るような形になるのは不誠実だ。
と、悩んでいると誰かが居間に入ってきた。
幸次さんだ。
「あれから少しだけ考えた」
「……はい」
じぃっと、こちらの目を見て話しかけてくる。
あくまでその声は低く静かだ。
「おれには理由は話せず、しかし出歩くのはやめられない、そうだな?」
うなずくことで答えとする。
「一つだけ、いや二つになるが聞かせてくれ、それは奥谷にとってやりたいことか? そして、奥谷自身は自信をもつことができることか?」
少しだけ悩む。
好奇心等があったのは否定できない。
しかし、安逹が受けた惨状を見たらできる限りのことはしたい。
そう思っている。
「はい」
だから、幸次さんの目をしっかりと見て言い切った。
「やり遂げたいこと、です」
「そう、か」
幸次さんの中で何かが崩れたのを感じる。
どこがどう、というわけではないがやらかしてしまった感覚を得た。
しかし、そんなものとは無関係に幸次さんは一つの通帳と印鑑を差し出す。
「中にお前の両親が残した金がはいっている、額面だけなら大学を出る程度までは持つはずだ、そろそろこの家を出ろ」
「それは、」
言いながらてきぱきと俺が家を出る準備をし始める。
「しばらくはこの家にいてもいいが部屋を借りたらそこに荷物は送る、部屋を借りるときの保証人の名前と判はは出す」
「……はい」
頭を下げる。
口調は変わっていないが明らかに口数が増えている。
「いつかはくることだそれが少し早まっただけだ、だからこれでおれの役目も終わりだ、そういうわけでそろそろ寝る」
そして、幸次さんは通帳と印鑑を置いて去っていた。
終わりだ。
という言葉が変に耳残ってしまう。
だから思わず――
「幸次さん!!」
「なんだ? わざわざ呼び止めて、何か言うことでもあるのか?」
なにか言いたいことがあったから呼び止めたわけではない。
だから言葉に詰まってしまい、とっさにでた言葉が、
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
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なにか大切な関係が変わってしまったような寂しさを感じながら、何とはなしに通帳を眺めていると。
スマートホンに着信が入る。
電話番号は見覚えがないものだが受けると淡雪の声がした。
「起きているのがわかったので電話をしたのですが、大丈夫でした?」
「色々あった、わけではないけどこの家を近いうちに出ることになった」
向こうで息をのむのがわかる。
だから努めて声を張り。
「まぁ、いつか出るというのはわかっていたし」
「でも、今ではなかった、そうですよね?」
見えていないだろうけど、ばつのわるい表情をしてしまう。
「わかってしまうか」
「ええ、互いに大切にしたいのに、どうしようもなさというのは何となく言葉の端々からわかりましたから」
「ふぅ」
ばれなければいい。
そんな考えで動いていたから罰が当たってしまったのだろう。
「少し、離れた方がいいかもな」
俺が狙われて、それに巻き込まれたら悔やんでも悔やみきれない。
だからそこについて相談することにした。
「ノスタルジストのクリーチャーだっけ? 奴らに直で狙われることがないようにしたいんだが、いい案はあるか?」
「原理的には無理ですね、事故みたいなものです、ただ見守る目を割いておけば昨日のようなとらわれて殺されるのはすぐ助けに行けますね」
そこで淡雪に隠ぺい能力の高いドローンを割いてもらい。
淡雪のホテルに転がりこむことにした。
「と、そうだ」
放置されている通帳と印鑑をみて、少し迷うが両方ともポケットに突っ込んで家を飛び出した。
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「家を飛び出して、女子の部屋に転がり込むって、冷静に考えるととんでもない事やらかしている気が……」
「実際そうなんですから、あまり気にしても仕方ないですよ」
確かにそうだが慣れてはいけない気がするのは確かだ。
しかしそんなことはお構いなしで淡雪はお茶を入れてくれた。
「あの後調べたことをお話ししますね」
「頼む」
というと、紙束を渡される。
中身はどうやらここ一連の化け物たちに関する資料らしい。
「もっとこう、未来的なものを想像していたんだが、アナログだな」
「紙ならば実物を手に取られない限り見られることはありませんから、場所を考慮せずに収集・蓄積するだけなら紙媒体が最も堅牢です」
「なるほどな」
言いつつめくるが、量がそれなりに多いので目を通すのに時間がかかりそうだ。
「とりあえず山上さんが気にされているであろう同級生の方から話します」
「たのむ」
すると、資料をめくられ示された。
そこには――
「安逹 佳純。 唯一の生存者で、両親の遺体はひどく損壊しており、先に殺害された姉の遺体は所在不明、一部は――」
少し気分が悪くなったので目を外す。
「これは、ひどいな、でもなぜあんなに衰弱していたんだ? すぐ前日までは授業を受けていたんだぞ」
「わかりません、認識や現実を書き換えているとしか思えません、長期間監禁されひどい暴行を受けたという風に」
「ということは、今まではうまく勝てていただけということか、能力にはまったら終わる」
気を引き締めるために口に出すと淡雪の方も同じ思いらしい。
「ええ、その分純粋な戦闘能力は低いです、サブの武装しかない私でも圧倒できるでしょう」
「逆にいえば雲仙岳のような純粋に戦闘力に割り振ったタイプもいるということか……」
その言葉を淡雪は否定した。
「いいえ、おそらく改変する能力の焦点が違っていただけで、使っていました、私が負けたのはあの個体だけ圧倒的に上位種だったのだと思います。 調べたところあの時点で撃破してなかったら雲仙岳が噴火して恐ろしい被害が出ていたでしょう、本来ならありえない期間での噴火です」
ですが。
とつなげて、
「後ほど調べたら、噴火の危機は去っていました」
「それって火山を対象に現実を書き換えた!?」
淡雪はうなずいた。
どこか事務的な様子で幾つかの事実を上げる。
「雲仙岳が噴火し、多くの被害が出たのは平成3年、でも小規模な噴火は2年にあった」
言いたいことがわかるだからその言葉を俺の方でつなげる。
「そして、今年の4月2日に現れて、本格的な噴火が起きる可能性が高かったのが3日だ」
体の芯から冷やされていくような悪寒が走る。
「そして平成は『30』年続いてで、4月は『30』日間経ったら元号が正式に令和に移行する」
「正しくは平成は31年間ですが、5月1日の正式な発表までと考えるなら31日間です」
「そのたった一か月間に平成の間に受けた大災害などが一気に襲ってくる可能性があるのか」
災害を受けた場合、無事だった場所から援助を行ったり負担を肩代わりすることで被害の深刻化と長期化を避けることができる。
もし、再度短い期間に被害が集中したらどうなるか、想像もできない。
「しかも力が弱いクリーチャーは恣意的に書き換えている節がありました、それが災害を引き起こすタイプにも適用されるなら?」
「基準が変わったり、再度来ても大丈夫なように対策を打ったはずなのに、それが機能しなかった当時に書き換えることもできるし、人口が多くなっていたら当時の人口に合わせずに今の人口で大災害を起こすことが可能になる」
淡雪の真剣な目は事態の深刻さを物語る。
「おそらく平成最期に悲劇を集中させることで未来への不安を高めることがノスタルジストの目的だと思います」
「なぜわざわざ平成から選んだんだろうか? それこそ恐竜が絶滅した巨大隕石落下などを再現させれば、ってそうか!! 人類を滅亡させるわけにはいかないからか」
そう、おそらくノスタルジストは未来の人間なのだから人類が滅亡したら自分たちが居なくなるから自殺をするようなことはできないのだ。
「じゃあ目的は特に変わっていないけど、あえて口に出すなら――」
「被害を最小限にする、ですね」
二人で覚悟を込めてうなずきあう。
「そして直近の大災害は平成7年――」
「阪神淡路大震災」
どちらからともなくつばを飲み込む音がする。
いや、おそらく両方だろう。
災害の軽重を語るのはよくない。
ある一家族にとってみれば、事故で全員なくなるのも大震災に匹敵するかもしれないほどの衝撃を与えかねないのだ。
しかし、災害を起こす怪物は強力だったという淡雪の言葉から考えると、平成屈指の大災害の一つが阪神淡路大震災だ。
「勝つしかない、な」
「ええ、頑張りましょう」
といっても今まで一日に一体は必ず化け物が出てきて被害を発生させている。
今日もまたどこかで現れている可能性が高い。
そちらの方をおろそかにするわけにはいかないが――
「後手に回っているんだよなぁ、被害が出てからようやく駆けつける」
「そう、ですね……」
若干気分が沈み込みながらつぶやく。
特に安逹だ。
俺は偶然淡雪に助けてもらい、致命傷まで受けたらしいのに生きている。
対して安逹はここ数日で家族全員をひどい失い方をしている。
しかも姉の方と俺は同じ化け物に襲われているのに、だ。
「安逹は、大丈夫なのだろうか?」
「それは、なんとも……」
そろそろ眠るには遅すぎるが、徹夜を避けるにはぎりぎりの時間だ。
だからゆっくりと立ち上がって。
「悩むのもいいが、そろそろ寝ることにする、どこか隅の床かソファーを……」
と言っている間にいつかのように膝枕を行う格好で淡雪が手招きしている。
「家主を置いてベッドを使うわけには――」
「私は基本的には睡眠がいらないですし、使った道具はメンテナンスを行わないと」
「なら遠慮なく」
他意はない、というのに安堵と落胆を半分ずつ感じながら膝を借りることにした。
意識が薄れていくのがわかる。
眠りに落ちる直前、嬉しそうな口調で、
「それに好きですしね」
という声を聞いた気がする。
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起きたらそこには淡雪はおらず。
調査に向かいます。
という書置きが残されていた。
なので用意されていた軽食をとり、学校につくとどこか全体的に活気がないように見える。
と、肩をたたきながら能天気な声であいさつをしてくる橘と合流した。
「よぅ!! 山上、一日ぶりだな!!」
「ん、あぁ、そうだな」
言いつつ、ここ数日が濃かったのでまだそれだけしか経っていないことに驚く。
「どうした? 浮かない顔をして?」
「いや、なんでも」
首を振って様々な思いを振り払う。
ノスタルジストの事もそうだが、幸次さんとのこともそうだ。
完全に喧嘩別れに近いのだ。
「ところで知ってるか? 安逹なんだが――」
まさか現場にいたなんて言えないので黙りこむことにした。
「失踪したらしい」
「は!?」
完全に予想外の言葉に思わず驚いた。
その様子に橘は何かを察したようにつなげる。
「女子の話題でそんな声をだすって、そーかそーか、山上は安逹がねぇ、たしかに安逹はかわいいもんな」
と勝手にうなづいている。
が、大切なのはその誤解を解くことではない。
安逹は二度もノスタルジストに関わったのだ。
何かがあったに違いない。
「なにか他に知らんな――」
と、急に周りの車がクラクションを鳴らしだす。
その不協和音は段々と整っていき、最後には、
「ああっ!! くっそ、なんだこれうるせー!!」
という橘の文句も塗りつぶされ聞こえるのは――
「新元号は平成に閣議決定しました」
思わず駆け出し、スマートホンを取り出したまさにその時、淡雪からの連絡が入る。
「いま、出たのか!?」
「ええ、探知できました」
「すぐに行きたい!!」
と、何かがつながる温かな感覚がする。
だから多少の気恥ずかしさを考えながら、変身ヒーローのように口に出す。
「起動、展開!!」
同時に全身が装甲で包まれるのがわかる。
ついでに、視界に光る線が記される。
ガイドらしいと直感でわかるのでそれに従うようにして全力で走る。
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向かった先はなんと――
「学校!?」
誰もこちらを見ることはないなか、自動車の速さで駆け抜けていく。
[学校の体育館脇用具室です!! 相手はかなり多いみたいです、私も急ぎます!!]
[わかった]
そこで見えた、よろよろとなにか呼ばれるように用具室に入ろうとしてる。
だから無理やり引きはがし叫ぶ。
「しっかりしろ!! 安逹!!」
普段は多少不真面目な方向ではあるが生気に満ちた表情をしているその顔からは魂が抜けたかのように呆然としている。
今は何を言っても無駄だと判断し、用具室の相手を掃討するために飛び込む。
[わかっていると思いますが、何かされる前に先手です]
[ああ、何されるかわからないからな]
中には顔の細部がよく見取れないぼんやりとした人影が何十もいる。
そして重そうなボールを入れるための鉄籠・マット・砲丸などが飛び回っている。
どれが当たろうが痛手にはならないが、当たれば死ぬとされる可能性があるので、右掌の射撃を連射する。
飛び回る物がめちゃくちゃに破壊され、様々なゴミが飛び交い一瞬視界が完全にふさがれる。
が、聴覚は邪魔をされていない。
だから――
[測定ありがとうございます!!]
天井を打ち抜いて5つの金属球が現れ、細かな金属球に分裂し飛び回る。
用具室に金属の嵐が巻き起こり、その場にいたすべての化け物を破壊しつくした。
そのことを確認したら、安逹の元へ向かう。
「安逹!! 大丈夫だな」
と、胸の奥から絞り出すような声で、
「死なせてよ!! もう!! なんでなんでなの!?」
殺意に近いような感情をこめてこちらを安逹がにらむ。
「なんで今度は助けたの!? 母さんと父さんは助けてくれなかったくせに!!」
そこで大きくせき込んだ。
だがそれでもこちらを責める声はやまない。
「お姉ちゃんの体をどっかもてちたのもあんたじゃないの!! 答えて!!」
「それは――」
すまん。
と言いそうになって、そこで止まる。
本心から思っていない謝罪は受け取れない。
その言葉が思い出されたからだ。
「俺は、謝れない、絶対に」
何とかしようとこれからも努力はしようとするし、気に病むだろう。
だが、過去に精一杯やったことは確かのはずなのだ。
謝ればもう少し何かができたということになる。
そして謝るのは許してほしいからだ。
だから『謝れない』。
俺の言葉を聞いた安逹は何かが決壊したかのように涙をこぼし始め。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
しゃくり上げ、子供のように泣きじゃくる。
何かをしようと、一歩踏み込み――
[そろそろ戻る]
首を振り、やめる。
だから、何から何まで頼むようで気が引けるがあとのことは淡雪に任せることにした。
[ええ、分かりました。 修理と安逹さんの病院への搬送は私がこっそりしておきますので]
「ありがとう」
と、通信の向こうで笑みを浮かべたのがわかる。
なので、いまだに泣いている安逹を見て。
首を振り立ち去った。
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あのあと、全校集会があり安逹の家で不幸があったことが発表された。
さらにそのあとの教室の方でも半ば腫物を触るようにして安逹への話題がゆっくりと出回った。
その妙な空気以外はおおむね変わった様子はなく、つつがなくその日の授業は終了した。
家路についてある程度歩いたところで思い出す。
その道は幸次さんの家へと帰る道だった。
「あ、ついいつもの癖で」
どこかその言葉が寂しいもののようにとらえられて、肩を落として目立たない道を選び。
淡雪の部屋へと向かうことにした。
耳の奥には安逹の叫びがいまだにこびりついている。
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明日もまた頑張ります。