4月16日-7
何とか間に合いました。
「呆けている時間はありませんよ」
リーパーが一瞬で距離を詰めてきて大きな鎌で斬りかかられる。
軌道はこちらの首を狙ってくる。
そのままノーガードで受けようとして――
「くすっ」
リーパーが軽く笑った。
刹那で思い出すのは以前にウォーモンガーがリーパーの武器は俺向きだと言っていたことだ。
「くっ!!」
嫌な予感がして全力で下に加速する。
完全によけることができない。
このままでは顔の真ん中に切っ先が突き刺さる。
それを避けるために首をひねるようにして倒す。
が――
「がっ!!」
左目が火であぶられたような痛みを感じる。
そして、右目には振りぬかれたリーパーの鎌が映る。
それは赤い血でべっとりと――
「汚れてない!?」
空振りしたように何もついていない。
しかし俺の左目があった部分には激痛が走っている。
強化外骨格の補助によって行動に支障はきたしていないが、装甲を完全に無視した攻撃はやっかいだ。
とリーパーが少し距離をとってきた。
場違いなほど無邪気な悪戯っぽい微笑みを浮かべて、閉じた右手を差し出してくる。
そして――
「これ、なんでしょうね?」
といって開けた手には何かの液体で濡れた白い球体が置かれている。
その球体には根のようなものと、茶色の円が――
「まさか!?」
「ええ、山上さんの眼球です」
防御力無視の武器ではなく、通った空間の物をかすめ取る武器だ。
今は眼球だけで済んだが、もっと重要な臓器をとられてしまえばそれで死ぬ。
丸ごとなくなる攻撃は確かに俺への相性が最適だろう。
今まで俺が異常に頑丈だったのは、装甲の防御力もそうだが致命傷近くでも組織を繋ぐことで活動することができたからだ。
「くすっ、もし首を斬ったら頭と身体どちらをとれるのでしょうね」
「くそっ!!」
吐き捨てて距離を詰める。
大ぶりの鎌の刃は至近距離では振れないからだ。
「なかなかいいセンスですね」
喜びを隠そうとすることなく半身詰めてきた。
すると淡雪から連絡が入る。
「今戻ります!!」
声色は焦りがかなり強い。
と、
「だから行かせねえっての!!」
乱暴ともいえるほど荒い口調のウォーモンガーが淡雪をインターセプトしたようだ。
「一体……どういうことなんだ!?」
淡雪の言葉ではほぼ一方的にこちらが有利のはずなのになぜか押し込まれている。
疑問に思うがそれを一旦頭の片隅に押しやって目の前のリーパーへの対処を進める。
「不思議ですか?」
答える暇があったら少しでも追いつめるために殴りかかる。
硬くて速い拳は十分にリーパーを破壊できるはず。
「ふふ、せっかちですね、えぃっ!!」
「はぁっ!?」
砲弾のような拳に足裏を合わせて跳んだ。
それはバレリーナのように軽やかな動きだ。
着弾に近い衝撃が入るはずの拳の勢いを、足首と膝を使い吸収して、体の軸を合わせて跳ぶ。
それを刹那以下の時間でやってのけた。
「さて、次はどこをいただきましょうか?」
大ぶりの鎌を手に、花屋で花を選ぶような調子で物騒なことを言われた。
まずい。
と思うがこのタイミングでは首を斬られる。
だからイチかバチかで――
「ぉ!!」
叫んで体当たりを敢行する。
「なるほど」
にぃ。
と笑った。
目論見通り刃を避けて柄の部分に当たった。
見た目以上に重いらしくかなりの衝撃が入った。
「よし!!」
そのままつかみに行こうとして――
「えぃっ」
さっきのようにこちらの手に足裏を合わせてくる。
しかし、さっきと違いこちらの後ろには鎌の刃だ。
反射的に柄に左手を伸ばしつかんだ。
「あぶな!!」
「ふふ、惜しかった」
と、軽い口調で言いながら柄を伝うように身を寄せてきた。
不意にその薄い笑みを浮かべている顔がある人間――淡雪と被る。
どこがどうというわけではないが、雰囲気が姉妹のように似通っている。
「――似てる」
ぽつりとそう呟く。
「ふふ、淡雪とは姉妹機なんですよ」
は?
という疑問符が頭の中に浮かぶ、が同時に腑に落ちた。
その意識の隙間が命取りだった。
「さて、その腕もらいます」
静かにそう言って、柄を――鎌を強く引かれた。
その瞬間少しだが柄が細くなりフリーになった。
そして、抵抗なく肩の根元に刃を食いこませ、あっさり通過した。
「ぐ――」
痛みよりも喪失感が先に来た。
リーパーの手元に見慣れた左腕が現れている。
そこでようやく視界を真っ赤に染め上げる激痛が走る。
「ぐぁぁ!!」
強化外骨格は中身がなくても動いてくれる。
血が出ている感覚はないが致命的な欠損を受けたのはわかる。
追撃が来るかと思ったら――
「ふふ、台風は十分発達しました、これで撤退しますよ」
「はぁ!? せっかくいいところなんだぞ」
と、口調や声色こそ変わらないが氷のような雰囲気をまとわせながらウォーモンガーら4人に命令を下す。
「死にたいのですか?」
「っち、しゃーない」
とウォーモンガーは渋々。
残りは疲れを見せながらその場をあとにし始める。
最後にリーパーが優雅に一礼しながら。
「それではまた会いましょう」
「こっちは!! 二度と、会いたくない!!」
くすり。
と小さな笑いを残して離れていった。
その頃にようやく肩の痛みが和らぎ始めた。
「山上さん!!」
満身創痍そのものの淡雪が飛んできた。
俺も手ひどくやられたが、淡雪もだいぶやられたようだ。
「大丈夫か?」
「足止めがメインでしたので、大丈夫です」
そして、顔を青くしながら続けてきた。
「それに怪我の具合は山上さんの方が深いじゃないですか」
「まぁ、生やせるはずだよな?」
今までの淡雪の修復技術等を見れば腕や目の一つや二つは何とかなりそうなので聞くと。
「それは、その、その傷は――」
と続ける前に強烈な叫び声が響く。
音の出どころは天を衝く巨人たち――台風だ。
それは苦悶の叫び声をあげている。
身をよじり、震えながら一つにまとまり始める。
「え? なんでだ?」
「あの五人が何か仕込んでいったのでしょう、強い複数体とりものすごく強い単体の方が対処しにくいのはグレイゴーストが証明しましたし」
げんなりする。
つまり、あのレベルの激闘になる可能性があるわけか。
そしてこちらは二人とも一度ボコボコにされたのだ。
でも――
「やろう!!」
「ええ!!」
まだいける。
それは確かなので一つにまとまりつつある巨人に挑みかかる。
明日も頑張ります。




