4月16日-3
間に合いました。
淡雪と一緒に相手が潜伏していると思われる場所に向かうが――
「なに……ここ?」
指定されたのは東京にある入るだけでも気後れしそうなほど立派なタワーマンションだった。
しかも、それの最上階のワンフロア丸ごと占有しているようだ。
「本当に?」
「そのはず、なんですが……」
淡雪も現物を見たら半信半疑のようだ。
すると、向こうから見知った顔の大人が現れる。
「あの、よろしくお願います針山さん」
頭を下げると豪快に笑ってすましてくれた。
相手が東京に潜伏しているので、針山さんに連絡したら踏み込めるよう用意をしてくれたようだ。
そのために必要な情報は淡雪から提供したらしい。
「そうかしこまるなよ、ここまでの相手はなかなかないが、間違いないな」
「はい、確かにここのはずです」
淡雪が確かにうなずくと、針山さんは表情を引き締める。
「よし、じゃあ踏み込むぞ、とりあえず踏み込むのは昨日の広範囲交通障害の重要参考人として任意の事情聴取のためだ、お前らは――まぁ、しれっとついてこい」
いいのかなぁ?
と思いながら針山さんの後ろについて行く。
令状を差し出して入り口を開けさせた、顎で合図をしたので何食わぬ顔で向かう。
建物の中から管理人と思われる人物が出てきて俺たち二人に気付いて何事か言おうとするが――
「なにか問題あるか?」
「え? いやだって子供が二人――」
針山さんはこっちを見て。
「何を言っているかさっぱりだ、これ以上止めるつもりか?」
管理人さんにそう言い切った。
管理人さんは半ばあきらめた目で道を開けた。
十分に離れたことを確認して、エレベータの中で話しかける。
「あんな無茶をしていいんですか?」
すると懐からメモ帳を取り出し、『俺たちは知り合いじゃない、OK?』と書いてきた。
内心無茶をするなぁ。
と思うが話がはやく済んだと納得させることにした。
淡雪がどこかから持ってきた図面ではエレベータから先が丸ごとがそうらしい。
ごく一般的な規模の住宅で育ってきた俺としてはちょっと異次元の話だ。
「警察だ!!――と、フットワークが軽いやつらだ」
乗り込んだ部屋はもぬけの殻だった。
人の気配はなく生活用品らしきものは残されているが、それだけのようだ。
「とりあえず手掛かりを全部持ち出せているはずがないので、漁ってみます」
「……何も聞かなかったからな、いいな!!」
と虚空に言ってどこかに連絡をしている。
警察は大変だ。
と思いながら淡雪のように技能があるわけではないので、荒らさないように慎重に歩く。
家具等をじっくり見ると、昨日今日買ったわけではないがまだ半年も経っていないように見える。
「一体いつからここに居たんだ?」
ぽつりとつぶやくと、
「この部屋? 家? まぁどちらでもいいですが大体2週間と少し前に契約していますね」
と声が飛んできた。
その時期は――
「ちょうど四月からですね」
「ああ、なるほど」
それほど前から暗躍されていたのだ。
そしてようやく本格的な活動を始めた。
「くやしい、というのは傲慢でしょうか?」
いままで全く気付かなかったことにだろう。
でもそれは仕方がないと思い、励まそうとして――
「傲慢だな」
いつの間にか来ていた針山さんが断言する。
だが、ゆっくりと次の言葉を続ける。
「そういう傲慢――悔しさだな、それを積み上げて実力を磨くんだ、もっとできる、できたはずってな」
淡雪の頭に軽く手を置く。
目には何かを懐かしむような光がある。
「大人になると身の程を知ってそういう感覚がなくなってくる、やるだけやった、仕方がないってな」
その口元には自嘲ともいえる笑みがあるが、満足げにも見える。
「だからたっぷり悔しがれ」
それはきっと俺の方にも向けられた言葉だろう。
だからしっかりとうなずいた。
「では気合を入れて調べます!!」
そして、部屋に静かだが確かな熱が増したように感じた。
明日も頑張ります。




